両親に殺された俺は異世界に転生して覚醒する~未来の俺は世界最強になっていたのでちょっと故郷を滅ぼすことにしました~
手料理
目覚めると既に太陽が高く登っていた。
身体を起こして窓から差し込む日差しに目を細めながらぼんやりと外を見る。
頭をぽりぽりとかき、珍しく寝坊したことを悟った。
分厚い雲の隙間から顔を出した太陽の光が、まるで小言でも言うようにアルテアの顔を照りつけていて、つい寝坊したことを責め立てられているような気分になる。
なんとなくむっとした気持ちになり、ベッドから立ち上がってカーテンを勢いよく閉めた。
シャッ!と高い音をたててレールが動き、差し込んでいた日差しが途切れて部屋が薄暗くなると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。
薄暗い部屋の中で着替えをすませてあくびを噛み殺しながら自室を出る。食事の用意をしているのか、空腹を刺激する良い香りが廊下に漂っていた。
その香りにつられるように階段を降りてリビングへ行くと、玄関の前で大仰な衣装に身を包んだアルゼイドに目が止まった。ティアとターニャと三人でなにやら話しているようだった。
アルテアの気配に気づいたティアがおっとりとした様子で声をかける。
「アルちゃん、おはよう。今日は珍しくお寝坊さんね」
「うん、自分でも驚いてるよ」
階段を降りながら言う。アルテアにしては珍しく、素直な気持ちをそのまま口にして答えつつ父の方にちらと目をやって尋ねた。
「出かけるの?」
「サーショに少し用ができてな。まあ明日の朝には戻ると思う」
「そうなんだ。気をつけてね」
「ああ、ありがとう。留守を頼むぞ」
「うん、わかった。いってらっしゃい」
親子の会話というにはどこかぎこちない。
歯車の隙間に細かい砂粒が紛れ込んでいるような、わずかだが確かな違和感。
その原因をアルテアは自覚している。
いつかの食卓での一件以来アルテアは父とうまく話せないでいた。
元から話すことは得意ではなかったが、いっそうひどい。
わずかにかたくなった空気をほぐすように、ティアがいたずらっぽく割って入った。
「サーショはスイーツがおいしいってとっても有名なのよねぇ。お土産わすれないでね?」
「おいおい、観光に行くわけじゃないんだぞ。そんな軽く言われてもな」
小悪魔的な笑みをたたえるティアにアルゼイドが苦言を呈するが。
「忘れないで…ね?」
「あ、ああ。必ず買ってこよう」
圧力と凄みを増したその天使のような微笑みの奥に何を見たのか、アルゼイドがやれやれとばかりに白旗を振る。
「良かったわね、アルちゃん。パパがおいしいお土産を持って帰ってくてくれるわよ」
「あ、ああ。楽しみだな」
アルテアはどもりながらそう返し、父に若干の憐れみをこめた目を送る。
目が合うと、アルゼイドは少しだけ困ったような顔をして苦笑した。
どんな顔をしていいのかわからず、アルテアは顔を逸らして話題をかえる。
「そういえばいい匂いがするけど、誰が料理を?」
「ああ、それはねぇ」
ティアが言いかけるのと同時に、厨房からトットットッと軽快な足音が近づいてきて少女がひょこりと顔を出した。
「こんな時間にうちで何してるんだ、お前」
小箱を抱えて歩いてくる、白髪の少女にアルテアが目を丸くして問いかける。
予想外の人物に登場になかなか驚いていた。
「……ごはん」
イーリスがぼそりと呟く。
「ごはん?」
「イーちゃんはね、朝ごはんを作りにきてくれたのよね?」
ティアがイーリスの方を見ながら補足するようにそう言うと、少女もこくりと小さな頭を揺らす。
「へえ、料理できたんだな。意外だよ」
「誰かさんのためにがんばって練習したのよね、イーちゃん?今日はお披露目会よ」
「ん。練習した」
「お前、何気にすごいよな」
アルテアは素直に感心した。
文字を書くことも覚束なかった少女が今では料理までできるようになっていることに驚かずにはいられなかった。
少女はその小さな胸を張って鷹揚に頷いた。
「あとで、食べてくれ……る?」
新雪のように白い頬をわずかに赤く染めて上目遣いでそう尋ねるイーリスは、まるで芸術作品みたいにきれいで思わず息を呑んだ。
「あ、ああ……もちろん」
アルテアが言葉を詰まらせながら答えると、少女は安心したように頷いてから、思い出したようにアルゼイドの前までちょこちょこと小走りして、手に持っていた小箱を差し出した。
「余り物だけど……お弁当」
彼女が持っていたのはお弁当箱だったようだ。アルテアはなるほどとひとりで納得する。
「ああ、ありがとう」
お弁当を受け取ったアルゼイドの精悍な顔が、少年のように綻んだ。
そして優しい手つきでイーリスの頭を撫でると、イーリスは照れているのか視線を伏せつつも猫みたいに目を細め、ティアとターニャが微笑ましそうにそれを眺めている。
その様子を見ていたアルテアの胸の内がちくりと痛む。
自分だけがとても遠い世界にいるように感じた。
自分があのように父を喜ばせることがあっただろうかと、そう思った。
きっとなかったに違いないとも。
不意に後ろめたい気持ちに襲われる。
それから逃げるみたいにイーリスに声をかけた。
「父さんにお弁当をつくるために料理の練習してたんだな。俺からも礼を言うよ」
シーン、とその場が静まった。
今まで和やかだった雰囲気が凍りついた。ような気がした。
何かまずいことを言っただろうかと父や母の顔を伺う。
アルゼイドは呆けたように口を開けてぽかんとしており、ティアも目を丸くしている。
ターニャだけは相変わらずの無表情だったが、なんとなく内心では面白がっているような気がした。
「ええと……」
沈黙に耐えかねたアルテアがとりあえず何か言おうと口を開くが言葉が続かない。
救いを求めるようにイーリスの方へ顔を向けるが、ぷいと目を逸らされた。
「えっ……」
アルテアがうめくように呟いた。
そんなオロオロするアルテアが珍しく、アルゼイドが小さく笑い声をこぼした。
「く、くくく……。アルは……もう少し女の子のことを勉強をしたほうがいいな」
「どうやらそうみたいね……」
両親が呆れたように笑っていた。
なんだか気恥ずかしくなって、目を伏せて頭をぽりぽりとかいていると、ちょんと肩を叩かれた。振り返ると、イーリスが顔の前に指をびしっと突き出してきて言った。
「ちゃんと勉強しろ……よ。ぷん、ぷん」
怒っているようだが、相変わらず表情とセリフが一致していない。
まるで大根役者の演技を見ているようだった。
「あ、ああ……すまん」
ひとまず謝ってからふとターニャの方を見ると、普段は固く結ばれた口元がわずかに緩んでいた。それを見て確信する。
「おい、ターニャ。お前またイーリスに何か吹き込んだな」
「さあ、何のことやら……。言いがかりはよくありませんよ」
「ああ、そう……。じゃあ、もういいや……」
諦めたようにアルテアがうなだれて、アルゼイドとティアがくすくすと笑った。
釈然としないけど、たまにはこういうのもいいのかもしれない。
微笑む両親を見てアルテアはつい、そう思ってしまっていた。
身体を起こして窓から差し込む日差しに目を細めながらぼんやりと外を見る。
頭をぽりぽりとかき、珍しく寝坊したことを悟った。
分厚い雲の隙間から顔を出した太陽の光が、まるで小言でも言うようにアルテアの顔を照りつけていて、つい寝坊したことを責め立てられているような気分になる。
なんとなくむっとした気持ちになり、ベッドから立ち上がってカーテンを勢いよく閉めた。
シャッ!と高い音をたててレールが動き、差し込んでいた日差しが途切れて部屋が薄暗くなると、少しだけ気持ちが楽になった気がした。
薄暗い部屋の中で着替えをすませてあくびを噛み殺しながら自室を出る。食事の用意をしているのか、空腹を刺激する良い香りが廊下に漂っていた。
その香りにつられるように階段を降りてリビングへ行くと、玄関の前で大仰な衣装に身を包んだアルゼイドに目が止まった。ティアとターニャと三人でなにやら話しているようだった。
アルテアの気配に気づいたティアがおっとりとした様子で声をかける。
「アルちゃん、おはよう。今日は珍しくお寝坊さんね」
「うん、自分でも驚いてるよ」
階段を降りながら言う。アルテアにしては珍しく、素直な気持ちをそのまま口にして答えつつ父の方にちらと目をやって尋ねた。
「出かけるの?」
「サーショに少し用ができてな。まあ明日の朝には戻ると思う」
「そうなんだ。気をつけてね」
「ああ、ありがとう。留守を頼むぞ」
「うん、わかった。いってらっしゃい」
親子の会話というにはどこかぎこちない。
歯車の隙間に細かい砂粒が紛れ込んでいるような、わずかだが確かな違和感。
その原因をアルテアは自覚している。
いつかの食卓での一件以来アルテアは父とうまく話せないでいた。
元から話すことは得意ではなかったが、いっそうひどい。
わずかにかたくなった空気をほぐすように、ティアがいたずらっぽく割って入った。
「サーショはスイーツがおいしいってとっても有名なのよねぇ。お土産わすれないでね?」
「おいおい、観光に行くわけじゃないんだぞ。そんな軽く言われてもな」
小悪魔的な笑みをたたえるティアにアルゼイドが苦言を呈するが。
「忘れないで…ね?」
「あ、ああ。必ず買ってこよう」
圧力と凄みを増したその天使のような微笑みの奥に何を見たのか、アルゼイドがやれやれとばかりに白旗を振る。
「良かったわね、アルちゃん。パパがおいしいお土産を持って帰ってくてくれるわよ」
「あ、ああ。楽しみだな」
アルテアはどもりながらそう返し、父に若干の憐れみをこめた目を送る。
目が合うと、アルゼイドは少しだけ困ったような顔をして苦笑した。
どんな顔をしていいのかわからず、アルテアは顔を逸らして話題をかえる。
「そういえばいい匂いがするけど、誰が料理を?」
「ああ、それはねぇ」
ティアが言いかけるのと同時に、厨房からトットットッと軽快な足音が近づいてきて少女がひょこりと顔を出した。
「こんな時間にうちで何してるんだ、お前」
小箱を抱えて歩いてくる、白髪の少女にアルテアが目を丸くして問いかける。
予想外の人物に登場になかなか驚いていた。
「……ごはん」
イーリスがぼそりと呟く。
「ごはん?」
「イーちゃんはね、朝ごはんを作りにきてくれたのよね?」
ティアがイーリスの方を見ながら補足するようにそう言うと、少女もこくりと小さな頭を揺らす。
「へえ、料理できたんだな。意外だよ」
「誰かさんのためにがんばって練習したのよね、イーちゃん?今日はお披露目会よ」
「ん。練習した」
「お前、何気にすごいよな」
アルテアは素直に感心した。
文字を書くことも覚束なかった少女が今では料理までできるようになっていることに驚かずにはいられなかった。
少女はその小さな胸を張って鷹揚に頷いた。
「あとで、食べてくれ……る?」
新雪のように白い頬をわずかに赤く染めて上目遣いでそう尋ねるイーリスは、まるで芸術作品みたいにきれいで思わず息を呑んだ。
「あ、ああ……もちろん」
アルテアが言葉を詰まらせながら答えると、少女は安心したように頷いてから、思い出したようにアルゼイドの前までちょこちょこと小走りして、手に持っていた小箱を差し出した。
「余り物だけど……お弁当」
彼女が持っていたのはお弁当箱だったようだ。アルテアはなるほどとひとりで納得する。
「ああ、ありがとう」
お弁当を受け取ったアルゼイドの精悍な顔が、少年のように綻んだ。
そして優しい手つきでイーリスの頭を撫でると、イーリスは照れているのか視線を伏せつつも猫みたいに目を細め、ティアとターニャが微笑ましそうにそれを眺めている。
その様子を見ていたアルテアの胸の内がちくりと痛む。
自分だけがとても遠い世界にいるように感じた。
自分があのように父を喜ばせることがあっただろうかと、そう思った。
きっとなかったに違いないとも。
不意に後ろめたい気持ちに襲われる。
それから逃げるみたいにイーリスに声をかけた。
「父さんにお弁当をつくるために料理の練習してたんだな。俺からも礼を言うよ」
シーン、とその場が静まった。
今まで和やかだった雰囲気が凍りついた。ような気がした。
何かまずいことを言っただろうかと父や母の顔を伺う。
アルゼイドは呆けたように口を開けてぽかんとしており、ティアも目を丸くしている。
ターニャだけは相変わらずの無表情だったが、なんとなく内心では面白がっているような気がした。
「ええと……」
沈黙に耐えかねたアルテアがとりあえず何か言おうと口を開くが言葉が続かない。
救いを求めるようにイーリスの方へ顔を向けるが、ぷいと目を逸らされた。
「えっ……」
アルテアがうめくように呟いた。
そんなオロオロするアルテアが珍しく、アルゼイドが小さく笑い声をこぼした。
「く、くくく……。アルは……もう少し女の子のことを勉強をしたほうがいいな」
「どうやらそうみたいね……」
両親が呆れたように笑っていた。
なんだか気恥ずかしくなって、目を伏せて頭をぽりぽりとかいていると、ちょんと肩を叩かれた。振り返ると、イーリスが顔の前に指をびしっと突き出してきて言った。
「ちゃんと勉強しろ……よ。ぷん、ぷん」
怒っているようだが、相変わらず表情とセリフが一致していない。
まるで大根役者の演技を見ているようだった。
「あ、ああ……すまん」
ひとまず謝ってからふとターニャの方を見ると、普段は固く結ばれた口元がわずかに緩んでいた。それを見て確信する。
「おい、ターニャ。お前またイーリスに何か吹き込んだな」
「さあ、何のことやら……。言いがかりはよくありませんよ」
「ああ、そう……。じゃあ、もういいや……」
諦めたようにアルテアがうなだれて、アルゼイドとティアがくすくすと笑った。
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