俺【死神】になりました ~喧嘩もしたことない俺の、選べる職業が【死神】だった!?~

伝説の孫の手

第60話 朝

 次の日、俺は朝起きて朝食を食べた後、警備隊が集まるビルまでやってきていた。

 今日は報告にもあった魔物の軍勢へ攻撃を仕掛ける日だ。なので今からここで作戦会議が行われる。

 俺がビルに入ったころにはもうほとんどの人が集まっていた。これから大規模な討伐が行われるからか、皆ピリついている。

 そんな中を進んでいき、昨日叔父さんに指定されていた会議室までやってきたところ、そこには叔父さんをはじめ青山さんや田中さん、そして清水さんといった見知った顔がそろっていた。

「おはようございます」

 そんな知り合いたちに挨拶をすると、青山さんと田中さんはこちらに微笑みながら会釈してくれたが、清水さんは相変わらずクールな表情で、目線だけで返事をくれた。

 そんな中、俺に気づいた叔父さんが、話しかけてきた。

「お! 来たな色人。これで大体のメンバーはそろったと思うから、これより本日の作戦会議を始める」

 俺に対してのフランクな挨拶から一変して、威厳のある表情になった叔父さんの号令で、会議が始まる。

 それまでは談笑していたほかの人も、一瞬にして表情を強張らせ、皆真剣な面持ちだ。

「今回の作戦は、朧台駅に大量発生していた魔物どもの殲滅作戦だ。色人の情報から、駅の地下鉄が魔界とつながっている可能性があり、今後駅から魔物たちが出てくるという可能性がある。
 調査を行うためにも、朧台駅を制圧し、対策をとる必要がある。
 今回はその第一歩として朧台駅の駅前広場に大量発生している魔物の殲滅を行う」

 叔父さんが話し出した瞬間に、端に控えていた部下の方が、会議室のホワイトボードに朧台駅の地図を張り、もう一人が会議の内容をホワイトボードに書き出した。

 さすが皆警察官の方たちだ。その動きはしっかりとしており、緊張感が高まる。

「亜門、作戦の概要と敵の情報の共有をしてくれ」

「は! それでは私から説明させていただきます」

 そういって叔父さんに話を振られ、話しだしたのは【KUROGAMI】のリーダーの役職を持っている、第一警備隊隊長の亜門さんだ。

 亜門さんはいつもの会議でもよく合うのだが、叔父さんの右腕的存在なため、警備部隊のナンバー2であり、破天荒な叔父さんに一番振り回されている人物だ。しかしその実力は本物で、事務的仕事だけではなくかなりの武闘派でもあるそうだ。

「今回の作戦は、第一、第三の二団体合同で行う作戦です。第一、第三の全隊員が赴き、一気に殲滅を図ります。またその時、今の最大戦力でいらっしゃる鷹人警視監と、その甥でもある色人さんの二名も同行されます」

 名前を呼ばれたので、ここにいる皆に向けて軽く会釈をする。
 
 作戦会議といっても、ここで作戦を考えるのではなく、大枠はもうすでに決まっている。俺はその話合いの場には行っておらず、ここで指示を受ける側としてきている。

 叔父さんの甥っ子であり、この【KUROGAMI】ギルドのマスターでもある父さんの息子だとしても、ここではただの一兵士であるということだ。

 そこに不満はあるはずもない。俺は固有職を持っているし、いわゆるお坊ちゃんだが、ただの高校生だった俺が特別扱いされる方が気持ち悪い。

 少し話がそれたが、尚も亜門さんの話は続く。

「また今回は、第一、第三のほかにも強力な助っ人として、黒神桃子氏の秘書でもある清水さんにも来ていただきました。知ってるものも多いと思いますが、彼女は魔法系ジョブの持ち主で、レベルも20を超えています。かなりの戦力アップとなるので、こちらも期待しております。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 亜門さんの紹介にもクールな清水さん、しかしそれも自信の表れなので、皆期待の眼差しを彼女に向けている。

 そうして、あらかた紹介が終わったところで、ついに作戦の説明が始まる。

「今回の作戦は、朧台駅の前の広場に集まっている、推定200体の魔物の群れの討伐です。まず部隊を第一と第三に分けて、左右から挟み込むように攻めます。前列に近接系ジョブ、後列に遠距離系ジョブです。清水さんは遠距離部隊に入っていただきます」

 そういって、ホワイトボードに図を描きながら説明していく。
<i54333736006>

 皆、いつも多くても4人組ぐらいでの戦闘訓練しか行っておらず、大人数での戦闘というものになれていない。

 そこにいきなり複雑な作戦を組み込んでも意味がないので、ここは慣れ親しんだ仲間たちと連携を取りつつ、各々が魔物を倒していくという方法をとる。

 なので作戦は、攻撃と撤退の合図のみしかない。そして第一、第三の隊長が自分の部下を管理する。この方法で行う。

 今後このような大規模戦闘などが増えていくとなると、集団戦闘も訓練する必要がありそうだ、その辺は警察官よりも自衛隊の人や、外国の軍人さんとかの方が詳しいだろう。そういう点で言えば、もしかしたらケビンも詳しいかもしれない。

 その後、贄の石の存在や、今まで戦った魔物たちの戦闘方法や注意点などの共有を行い、最後に物資の確認が行われる。

 今回はこちら側もただでは済まないことが予想されているので、ポーション類などは豊富に配布されている。死人が出ないことが望ましいが、もしかしたらそういった事故も起こるかもしれない。覚悟を決めよう。

 ちなみに、俺が第三部隊に、叔父さんが第一部隊に入り、一緒に攻撃に出ることになっている。しかしどちらも戦力としては頭一つ抜けているので、連携しての戦闘というよりは、単騎で突っ込んでいってかき回す要員だ。

 一対でも多く魔物を倒せば、それだけ仲間の危険は低くなる。それを念頭に置いて、とにかく暴れまわるつもりだ。

 今回作戦会議の中で上がった注意点は、総勢200体が贄の石で合体した場合、その魔物は倒せない可能性が高い。そうなった場合は俺はすぐさま鑑定を行い、皆に情報共有。そしてみんなはいったん距離をとることとなっている。

 またスケルトシャーマンなどが、多くのスケルトンを召喚して、一気に数が増えることなども想定されるが、そこは冷静に一体ずつ倒していくことで対処する。

 すべてに言えることなのだが、こういった大規模討伐のような緊急事態などでは、冷静な判断ができなくなったものから命を落としていく。その点には十分注意が必要だろう。

 一通り作戦の概要などが説明し終わり、皆自分の装備の点検などを始めだしたとき。叔父さんが立ち上がって話し出した。

「諸君には、期待している! 
 今回敵はかなりの大群であり、誰かが命を落とすことも考えられる。
 しかし、ここ数日。諸君はいきなりの世界の変化に対応し、多くの国民の命を救ってきた。
 そんな諸君の力を私は信じている。
 この作戦を成功して帰還するときは、一人の脱落者も出していないことを私は確信している。
 皆で、この脅威を打ち砕き、より安全な世界を作り出そう。
 今日は、その第一歩になるだろう。
 そして、ここからは警視監としてではなく、黒神鷹人として一言。
 お前ら、俺と色人でほとんどの敵は蹴散らしてやる! 
 お前らもそれに負けないように俺の背中についてこい!
 以上! 各自準備を済ませ、十分後に外に集合。解散。」

「「「はっ!」」」

 かつてない大規模な戦闘に、皆どこか怖気づいていたが、叔父さんの鼓舞のお陰で皆の目に力が宿り、活力にあふれている。

 流石は組織のトップ、貫禄が違う。俺も期待されていることもあり、なんだか力がみなぎってくるような錯覚に陥る。

 俺の装備は点検などはいらなく、防具もつけないので、準備はほとんどない。なので少しだけ確認した後、外に向かって歩き出した。

 先ほどまでの心配な空気はそこには全くなく、空はいつもより青く見えた。

 大規模討伐開始だ。

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