【第一巻 完結】一閃断空のバーサーカーナイト

七種時雨

第33話 デメリット?

 ガチャリと音が響き、中のモーターが景気良く回る。
 ReX越しにランチャーの振動と音が一緒に伝わり、そして浮遊感が訪れる。
 バレルの内部はまぶしく輝き、五股に分かれた間から、だんだんと黒いモヤが発生する。
 重力じゅうりょく力場りきばによってとらわれた光は、外からは見えることができず、ぼんやりとした黒になって現れる。

「距離2キロ……あの1キロになってしまうと、どうなるんですか?」
「あまり効果がないか――それとも巻き込まれるかのどちらかですかね?」
 オペレーターの質問に、研究員が答える。

 当てて殺すビームではなく、相手を死に至らしめる空間を作るといった装置である。
 場所が遠ければ効果がなく、近ければ自分たちも巻き添えになる。

「そんな……」

 オペレーターの心配をよそに、ブラックホールランチャーの中にある黒いモヤは形を作り始め――そして、射線上をぐに、黒の軌跡を描きながら球が飛んでいく。

「心配ない……照準は2.5キロに合わせているから、巻き込まれる事はない」

 ラスターがそう言うと同時に、黒の軌跡が太くなり、まるで天井にはりつけにされたような浮遊感が、ラスターだけでなくコロニー内部にもおそいかかる。
 そして、発射から重力発生までの間に、なんとか緊急用のシートベルトを間に合ってかけていた。

「ワームの数が減っています!」
 レーダーを見たオペレーターが、ワームビーストの生体反応が消えていることに気づく。

 ブラックホールランチャーから撃ち続けられる黒色の太い線は、敵よりも更に後ろで黒い球を作っていた。
 線の近くにいるワームビーストは、そのまま黒い闇に飲まれてグチャリと潰れ、ほかの個体は、黒の球に引き寄せられる様に後退を始めていき、その場所へと到達とうたつしたワームビーストはあえなくグシャリとひしゃげていく。

「数40、30――どんどん減っていきます!」
 観測するたびに数が減っていく様子に、オペレーターたちは興奮気味に報告する。

 第二生徒会メンバーも、圧倒的な威力に感心したように様子を見る。

「こんなのがあるなん、うわぁ」
 コロニーそのものにかかる衝撃に、感想を口にしていたシズハラが驚きを上げる。

「これ、なんか引き寄せられていない?」
「まさに、引寄せられているわね」
 ヒヤマの質問に、カンザキは深くうなずいて答える。

 ブラックホールランチャーによって出現した疑似ブラックホール――それによって、コロニー自体が引き寄せられている。
 ブラックホールランチャー量産計画がご破算はさんになる理由が、この遠方で発生した重力によって受ける影響である。
 大量討伐を可能にするのだが、代わりとばかりに討ち損ねた敵に対して、自ら率先して近づく自殺行為を繰り広げてしまうこと。そしてビームで対処しようにも、発生したブラックホールの影響をモロに受けるせいで、まず当たらないといった不具合が起きている。

「じゃあ、行ってくる」

 ラスターは通信機に報告を残すと、コロニーへの固定器具を外す。
 重力に引かれて、ヴォルフコルデーはワームビーストの元へと飛んでいく。

「おい! あれ、大丈夫なのか?」
 なんだかんだで、心配をするガレスであるが、カンザキが――研究員ではなく、なぜかカンザキが満面のドヤ顔で披露する。

「えぇ、全く! 問題がないわ」
「でも、武器ってアレ以外に持っているのか?」

 通常だと付けているよろいも、両手に持つはずのビームライフルすら持ち合わせていない。
 シズハラ会長とガレス副会長が一緒になって聞くのだが、相変わらずの得意満面のうれしそうな笑み――なんともなしに見れば、美女の人をきつける魅力的な笑顔なのだが、女のシズハラだけでなく、男のガレスも、底に秘めたる愉悦に溺れた喜びの顔にドン引きしている。

 そして、ヒヤマもどこかあきがおという――カンザキは自身の欲と、必要な義務その両方を妥協しない。
 現実を見るリアリストだが、決してロマンを忘れたわけではなく――白馬の王子様に来て欲しければ、王子の地位と白馬と好きな男の三つを用意して、迎えに来させる方法を考える類の女性である。

「あれって……まさか連射が!?」
「そんなわけないですよ」
 対処法の謎当てゲーム化している自覚がないまま、シズハラが聞いてみるが、研究員にやんわりと否定される。

「じゃあ?」
「夜明けの騎士にプレゼントするものなんて一つしかないじゃない」
「空気読んで、このままにしてたけどもういいか?」

 答え合わせが始まりそうな中、ラスターが口を挟む。ワームビーストと戦っている最中であるというのに、完全にお遊び気分である――そもそも五十体いた敵が、たった一撃で残り十五体まで減っている。
 ブラックホールによって、一般的にはむしろピンチであるが、ラスターからすれば、しょうもないお遊びであり、緊張感を持つ方が難しい。

「えぇ、見せなさい! これの真の姿よ!」
「なぁ、確かお前がこれを作ったんだっけ?」
「あっ、はい!」
 ラスターに話しかけられた研究員がガクガクと頷く。

「お隣さん止めなくていいのか? 真の姿って、それはむしろこっちだろ?」
「それは確かに……」
「はよやれー」
 距離があるとはいえ、ワームビーストに突っ込んでいくなか、呑気のんきに突っ込みをするラスターに、カンザキがしびれを切らす。

「これからの姿がその場しのぎの姿だろうに――まぁいいや」
 十五M級以上のReXには、急拵きゅうごしらえの設備に対応するために備え付けられた、キーボードが内蔵されている。

 ラスターはそれを取り出すと、事前に聞いていた入力コマンドを打ち込みエンターボタンを押す。

「明らかに馬鹿の類だよなぁ」
 絶対に聞こえないように小声で――でも隠しきれない本音が漏れる。

 キーボードに入力が終わると、五股に分かれたバレル部分の内、四本がガチャンと音を立てながら真ん中に集まり、残りの一つはスライドして手元へと降りてくる。そして、グリップが――銃の持ち手部分が90度開く。

 四本のバレル部分が剣身になり、残り一本とグリップ部分が柄に――
 これが、ブラックホールランチャーのもう一つの姿――剣身20mの長剣である。
 数々のデメリット――ビームが当たらず、近づいてしまうといった問題に対応すべく考えられた措置であった。

 またを――2in1ツーインワン大好き症候群しょうこうぐん
 剣の新造をしようと思わないのは、世界情勢として妥当だが、メンテナンスの難易度を一切かえりみない物作りの精神はなんと言えるのだろうか? 若さ故の過ちか?

「あれは――剣だったのか?」
「剣というより、剣の形を取れる銃ですね」
 そもそも銃か? といった突っ込みは起きぬまま、シズハラは感心したように驚き、研究員がうれしそうに答える。

「だからって、あれだけで対処できるのか?」
「ふっ、まだまだコレだけじゃないのよ!」
 ガレスは水を差すように聞くのだが、カンザキは重力によって乱された髪を整えながら、誇らしげに自慢する。

「なんでお前が偉そうなんだ?」
わたしが提案しました!」

 ドヤァ!

 満面の笑みでドヤ顔決めるカンザキに、ガレスはあきれ返った表情になる。
 特に使い道がない武器に、合理性を求めて、まさかの使い道がない武器への変形ギミックをドヤ顔で語れるのは、なかなかの神経である。

 そしてそんな提案した、馬鹿で天才のカンザキと、その子飼こがいの研究員達に彼らはあきてて言葉が出ない。

「きょ、距離2キロから、どんどん近づいていきます」

 ブラックホールに引きずられて、後ろへと下がっていったものの、それから逃れようとするワームビーストと、それに吸われるように接近するヴォルフコルデーは急速に近づいていく。

「そういや、これ作ったお前、名前はなんていうんだ?」
「グラガム=アルセイです」
 すでに名乗っていたのだが、覚えきれるはずのないラスターは、口の中で名前を繰り返す。

「グラガム=アルセイね。覚えた……残り十五体、一瞬で片付けてやるよ」
「わっ、はい……一瞬で?」
「あぁ、もう一つのギミックも面白いと思うよ。まぁ絶対、もっと普遍的な武器にできただろうに……」
 あきれた様子のラスターに、カンザキはプンプンと怒る。

「なんでよ! むしろ、シュバルツクロスを参考にしたのよ!」
「……だろうな」

 シュバルツクロス――第十世代型の夜明けの騎士が乗っていたReX。
 もっともこの場合は、そのシュバルツクロスが持っていたギャランレイズ――つまりは剣の作りを意識したのであろう。

「当時はあんまり思わなかったけど、今思えば、実体剣にビームソードで覆うって謎だよなぁ」
 言うと同時に、手元のスイッチを入れる。

 当時の事情とすれば、ビームを飛ばすのではなく、収束して維持し続けるには、その核とでもいうべきものが必要であった。
 そして――ビームソードの利点は、その長さである。

「俺はあんまり、剣技とかは持ってないんだが――まぁ、せっかく良いものを作ったんだ! 一個だけだが見せてやるよ!」
「剣技が少ない?」
 ラスターの発言に、カンザキは首をかしげる。

 しかし、そんなことは気にせずにブーストを吹かして、ヴォルフコルデーはワームビーストの元へと近づいていく。

「距離1キロを切りました!」
「了解」
 全長約20mのヴォルフコルデーが持つビームソードの長さは――さすがギャランレイズを意識しているだけのことはあり、100mの長さとなっている。

 剣とは、長ければ長いほど使いやすいわけではない――らしいが、それはただの一般論であり、ラスターの知ったことではない。
 大きさはまちまちだが、大型級を含めて、平均して約20m程の大きさのワームビースト十五体相手に突っ込んでいく。

「距離500!」
 先程撃ったブラックホールの重力が徐々に消えていき、加速が弱まる機体のレバーを倒して、更に近づいていく。

 近づいてくるワームビーストにラスターは確かに心が震えるのを感じる。
 つい先程も戦ってはいたのだが、やはり直接戦い続けていた相手である。

 だからこそ――

(もう、戦いたくはないんだがなぁ……)

 これが終わった後、平和に学園生活を過ごせるのか――正直自信はない。
 それでも今は、やるしかない。

「距離200!」

 嫌よ嫌よであるが、ラスターはワームビーストと戦うことが嫌いなわけではない。獰猛どうもうに気を高めながら、剣を構えて近づいていく。
「これは、俺の持つ数少ない名ありの技だ!」
「距離100メートル!」

ら――

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