【第一巻 完結】一閃断空のバーサーカーナイト

七種時雨

第13話 始まった訓練

 学術科としての授業を終えた後、ラスターは武術科の訓練室へと向かう。
 訓練前の挨拶としてシズハラ隊長のありがたいお言葉をもらい、十番隊の後ろのついて指示を待っていると、別の場所へと行かされる。

 大規模作戦まで残り一週間、ほかの武術科生徒が作戦に向けての最終調整を行う中、学術科から集められた予備兵は体力作りが行われる。
 ReXレックスに乗るには想像をはるかに超えて体力が必要になるのは確かであるが――それを一週間前にやった所で、どれだけ身になるかは疑問に思いながらも、命令された二キロを走り終え、地面に寝っ転がる。

「コラ貴様! 何してる」
 パイロットスーツではなく、教官服を着たシズハラがラスターを怒鳴り散らしにくる。

「……パンツを見せようとされている?」
「見せとらんわ!」
 シズハラ大隊長は怒りに身を任せて、大胆に足を上げると、セクハラまがいの発言をするラスターの顔面を踏みつける。

「暴力を振るわない――とは? それとも踏み付けは暴力でないのか?」
「言っていいことと悪いことがあるわ!」
「悪いことを言えば、あらゆる暴力が許されるのか……」

 しみじみと言った口調で目を開けられない――開けたところで靴底しか見れないラスターがつぶやく。

「そんなわけないだろ……お前どんな感性してるんだ」
 武術科嫌いも相まってラスターの武術科相手の行動は、気分を損ねてきた相手にこそ限定するがかなり悪い。あおり、殴らせ、最後に報告してブタ箱に行ってもらおうというのがラスターの考え方である。

 暴力をどれだけ振るっても相手の言い分が気に食わなければ正当化されるとは、思いもよらない感性をしている――今回悪いのは言い分ではなく相手であるが。

「ごく一般的な感性ですよ――そもそも、そんな服着て寝転がる男の近くに立ってパンツの中が見えないと思ったのですか? ――もしかして、履いてないから見えない!?」
「はいとるわ馬鹿者! それ以上ふざけたら次はタダじゃ済まさんぞ!」

 羞恥で顔をに染めて怒鳴ると、こほんと咳払せきばらいをして、落ち着いた声で話す。

「周りを見ろ。走り終わったからと言って誰も倒れていないだろ。敵と戦う時は作戦が終わったからといって油断してはならない。それに、走り終えてもゴロゴロているものはいないだろ……えっ?」
「ギャグかな?」

 ゼイゼイと息を切らして、二キロを走り終えた学術科の生徒――九割男で構成された予備兵は、ゴールを切ると多くは座り込み、ほんの数名だがラスターと同じように寝込んでいる者もいる。

「なっ!? コラ! 君達! 今は別に休憩時間じゃないぞ」
 きゃんきゃんとえるシズハラ大隊長を見ながらラスターは天を仰ぐ。

「単に怒鳴りたいだけじゃねーのか? ――やっぱ武術科の人間は嫌いだわ」
 ちなみに積極的にかかわりに行くわけではないので、ラスターは別に武術科から嫌われてはいない――存在を知られてもいないだけだが。



「撃ち方準備……撃て!」

 パァンとなる多数の音が演習場に響き渡る。
 ちなみに号令をかけたのは、シズハラ大隊長ではなくリーフ隊長である。
 ラスターも号令の後に打ち続け、的に穴を開けていく。

「筋がいいな」
「どうもです」

 後ろに立ったリーフ隊長は、何発中、何発が的に当たり、その中で的のどこに当たったのかを見ると、ラスターを褒める。

「実戦でも、そうやって当たるといいな」
下手へたなんで普通に無理ですよ」
 動き回るワームビーストに当てるのと、動かない的に当てるのとでは難易度が全く違う。

「あーでも最近の射撃補正なら大丈夫ですかね?」

 昨日のゲーム――戦闘シュミレーターでは、AIの自動制御による射撃補正のおかげで、思っていた以上に当たった。
 あのレベルの機体に乗せてもらえたのなら、射撃の力量などあまり問題にならない。
 それ以上に、ここに居るのはほとんどヘタクソだらけであることを考えれば、射撃補正がかかる機体に乗せなければ役に立たないし、乗せてもらえるとしたのなら今、おこなっている訓練は一体なんなのかという疑問にぶち当たるが――気にしないことにした。

「君の事はほんの少しだが聞いた。災難さいなんだったな」
「はは……いや、ほんと……」

 笑い飛ばそうとするが、冷静に考えると笑えない。どうしてこうなった?

「穏やかで平穏な日々を過ごしたいだけなのに……」
 パァンと音を鳴らし、的に向かって撃った弾は、当たることなく奥の壁へとぶち当たる。

 その結果に、ラスターは顔をひそめると、息を吐いて集中する。
 パァンとなる次弾は、的の中央からほんの少し右にずれた場所にヒットする。

「締まらねーな」
 最後の弾ぐらいビシッと真ん中に当てて終わりたかったのに、うまくいかなかったラスターは不満そうにする。

「……君、武術科に居てたことあるよね」
「俺は、ここではずっと学術科ですよ」
 成績は悪いですけど――とつまらない補足情報を加える。

「ザファールでの乗り方、銃の打ち方、その他行動の含めて――これまで何してきたかは案外わかるものだ」

 ザファールとは――ワームビーストとの擬似戦闘を行うシミュレーター、学術科ではゲームとして遊ばれている昨日ラスターが無様に負けた筐体きょうたいの名前である。
「そうですか、まぁお遊びでReXに乗っていたことはありましたよ。それに、一時期頑張って、射撃練習をしてたことはありましたね」

 反応を伺ってリーフの方を見ると、じっと穏やかな目つきで――いわゆる上手じょうずを思わせる優しい視線でこちらを見ている。
 ――周りが射撃練習でうるさい中振る話か? と思うが、それでもペラペラと話しそうになるのは多分この隊長のにじ人徳じんとくであろうとさっする。

「でも昔の話ですよ。武術科の連中とめて以来、そう言うことはやめたし、もうやる気は――あーいや、今後に関してはありませんが、所属しょぞくしている間はぜひ、頑張ります」
 本音オンリーではいけないと気付いたラスターは慌てて取りつくろう。

 リーフ隊長は優しげな笑みをクスリと笑って崩し、気合を入れるようにラスターの肩に手を置く。

「君ならこれからも武術科でやっていけると思うんだがな」
「無理ですよ」
 出来る出来ないの問題ではなく――やらない。

「そうか――でも、今回の作戦は危険だが……だからこそ、平穏な生活のためにも力を貸してくれ!」
「……よろこんで」
 目の前に差し出された手を、これからのためにとラスターもつかむのであった。

 残り三日目からは学術科も、これからの長いシェルター生活の可能性を考えての準備もあり、戦闘希望の学術科――及び、不運な巡り合わせで戦いに駆り出された学術科の生徒は朝から武術科のしごきを受ける羽目となった。

 ちなみに学術科がわざわざ大規模作戦に参加する理由は様々あり、毎日きたえるのは嫌だけど、ReXには乗ってみたいというのが多く、次点じてんでは俺たちでも出来ることがあるなら頑張ろうという義侠心ぎきょうしん
 あとは、今回の大規模作戦の参加に際して用意された報酬――単位の優遇のために参加した人で、最後に金が必要な人。

 ラスターは単位と金のためである――別に不運な巡り合わせがなければ、出る必要はないのだが。
 つまるところ、普段より簡単にReXに乗れる中で、十番隊のメンバーとして入ったラスターは、その中でも更に早くReXに乗った演習が始める。

「テンション上がるな!」
「静かにしろ」
「でもわかる~」

 感涙まる男が喜び、リーフ隊長はたしなめようとするが、久しぶりに宇宙を飛んだ別メンバーの女子も同意する。
 一番隊から十二番隊のすべてを合わせて大隊、三分の一で中隊、一つ一つを小隊と呼ぶ。

 そして各小隊は十人前後の人がおり、現在十番隊にはラスターを含め十一人いる。
 その中で現在の演習メンバーは六人――十番隊での演習時間を前半と後半で分け、隊長が二回、ほかのメンバーが一回ずつの予定となっている。

 現在の飛行メンバーは隊長のリーフ=アルビデを筆頭に、
 今回の騒動に巻き込まれた学術科――ラスター=ブレイズ。
 おちゃらけた雰囲気だが天才肌の男――ケネス=モールトン。
 快活でぐな女性――フラン=ディーシア
 熱血で猪突猛進ちょとつもうしんの男――ペイル=レヒナー
 優しいが臆病な男――タハラ=ユイネ
 この六人である。

「ラスター、緊張してないか?」
「問題ありません」
「よし、それならいい」
 静かにしているラスターに、リーフ隊長が様子を聞く。

ほかのみんなもいいな」
「問題ありません! 早くやろうぜ!」「問題なし!」「行けるぜ!」「はい」
「では、これより演習を始める」

 通常の宇宙飛行モードから、演習の模擬戦闘用モードへと移行すると、疑似ワームビーストを探知した検知器がワーム接近を告げる音を鳴らす。

「ワームの侵攻が始まった! 全員、位置につけ」
「了解」

 ボヤァッと光り、迫り来る疑似ワームビーストに、一同気合を入れる。

「間違ってもデブリには当たるなよ!」
 そして、彼らの演習が始まった。

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