【第一巻 完結】一閃断空のバーサーカーナイト
第12話 月曜日の放課後
ラスターは学校から遠い自宅へ……ではなく、ユリウスの家にお邪魔させて貰う。
「リンゴパーティーだ!」「リンゴー!」
ラスターとルーナは他人の家ではしゃぎながら、人の家のリビングで自室のごとくダラダラする。
「なにが食べたい?」
「今すぐ何かを――」
「はいはい」
ダラダラというより、グッタリとしたラスターがミレアに頼む。
「あたしもー」
元気いっぱいダラダラしながら、ルーナもおねだりする。
「あなた達は……」
やれやれと言った様子でミレアが料理を始める。
ちなみに全員一人暮らしである関係上、一応全員とも料理は出来る。とは言え、料理の腕はミレアが一番、他はあまり大差ない――強いて挙げれば、ユリウス、ルーナ、ラスターの順だろうか?
ユリウスもミレアの料理を手伝い、仲良く料理する二人の背中を見ながら、ゴロゴロとしていると、食べやすく切られたリンゴが差し出される。
「これでも、食べときなさい」
「ありがと」
二人はお礼を言うと、リンゴを口の中に放り込んでいき、ミレアは料理に取り掛かり始める。
「ねぇ、ラスタァ……」
「ん?」
シャクシャクとリンゴを頬張りながら、どこか辛そうなルーナを見る。
「大規模作戦って……大丈夫なんだよね?」
「大丈夫だろ」
あっさりと答えるラスターにルーナは微妙そうな顔を向ける。
不安だ! と言われても困るが、あっけらかんと大丈夫と言われても、それはそれで――それで納得できるのならば、そもそも聞いたりしないのである。
「でも、ワームビーストが五百体なんでしょ?」
ちなみにコロニーは、百体ほどのワームビーストに襲われたら陥落すると言われている。
つまるところ、四百体より多く倒せれば、万が一ReXが全滅したとしても、まぁ大丈夫ということである――流石に暴論ではあるが。
「どちらかと言うと、マイクロワームビーストが、実は市街地に潜んでいたと言う方がかなり怖いよ。だから大丈夫だ」
だから――と言うのは励ましであって、因果関係としてはなにも正しくないが、気付かれにくいマイクロワームビーストは実際かなりの脅威である。
コロニーに攻めてくるのならともかく、コロニー内であれば母胎を持つワームビーストが十体いれば、そのコロニーは滅びると言われている。
九体倒しても、一体を残せばすぐに増える上に、十体を完璧に倒すつもりで攻撃すれば、その代償はコロニーの損壊によってあらわれる。
施設が壊れたのであれば、誰かが泣くだけで済むのだが、コロニーが壊れれば人は生きていけない。
ワームビーストが倒しきれなければ――人は死ぬ。
「だから、安心しろって」
くりくりっとした目を向けてルーナがラスターをじっと見つめる。
何か言いたげな眼差しをするルーナの頭を優しく撫でると、猫のように顔を擦り寄せ、撫でやすいポジションへと収まっていく。
よしよしと撫でていると、ルーナがいきなりガバッと立ち上がる。
「あたしもなんか作ってあげる!」
「えー、ダラダラしてようぜ!」
ミレアとユリウスの二人の中を慮って――ではなくラスターは、周りみんなが頑張っている中一人だらけるのは良心が痛むという理由により、ルーナを躊躇なく悪の道へと誘う。
「ラスタァは疲れてるだろうから、そこで静かにしてていいよ!」
しかし、なぜか燃え始めたルーナはラスターの誘いを断って、台所へと駆けてゆく。
「たいして疲れてないから、罪悪感がまさるんだよな……」
仲間がいなくなってしまったラスターも、仕方無しに手伝いを始める。
「ごめんね」
料理を手伝い始めたラスターに、殊勝な顔をしてミレアが謝る。
「……あぁ、うん、まぁ、そのなんだ。たっぷり感謝しろよ。謝礼は安くしといてやるよ!」
「うん、ほんとごめんね。食事の準備に言ってるわけじゃないからね」
ケラケラと笑うラスターに、ミレアは呆れながら釘を刺す。
「そうじゃなくて……」
暗い顔をして、ミレアが苦しそうにする。
「私のせいで、大変な目に合わせてごめんね」
「……おう、気にすんな。ちょっとぐらい焦げた所で、美味しくいただいてやるよ」
「うん、ごめん。ちゃんとはっきり言うから、積極的に誤解しに行くのはやめてね」
「えー、誤解を恐れぬ積極性を評価してあげようぜ」
「するか!」
馬鹿な誤解の原因に何を言ってるのかと頭を抱えるが、苦しそうにしていた顔は少し緩んでいく。
「シェルターでね、ちゃんと説明したのよ。マイクロワームビーストってのは知らなかったけど、そういう異常があったから、その……したって」
最初の段階で説明しなかったのは、優先順位の問題である。
あの状況では、すでに手の打ちようがない半死体よりも、自分達のシェルター内での居場所を確保するほうが重要となる。
四人で同じ場所を確保するとしたら、さっさと入って一人一枚貰えるシートを敷いて置かないとバラバラになってしまう。
ラスターはシェルターの中に入った瞬間から、腕を切り落としたモブの他人のことなんて完全に忘れ去っていたが、ミレアはそうではない。
後に参加したボランティアの時に事情説明を行なっていたりする。それでも、完璧な説明が出来るはずもなく、結局、武術科嫌いのラスターがいざこざの責任を負わされ、Rexに乗らされる羽目になったことに責任を感じている。
「まじで、くだらねぇ」
そんな様子のミレアの頭を、ラスターはコツンとグーでつつき、誤解していたほうがマシだったと呆れ返る。
「悪いのはあんなものをコロニーに入れた奴らや、ナンパした奴、あとは処理を投げ捨てた生徒会共だろ……お前は何も悪くないじゃん」
ついでに、自分も悪くない。
腕を切り落としたことについて、ラスターは必要事項であったと割り切っているし、他にも手段はあったかもしれないが……別に、ラスターはその手段を探す理由もなかった。
すぐに忘れたくだらないことで、友達がグジグジと……しかも、本人が悪くもなんともない所で悩まれるのは、非常に歯がゆいものである。
「だけど……」
「そんなくだらないことに悩む暇があったら、明日からの宿題をどう助けてあげるか考えてあげろ……まじでどうすんだよほんと、放課後から訓練だぞ」
記憶する価値もないはずのことで、勉強時間が減ったことをラスターは気にする……当然と補足するまでもないが、訓練がなければ勉強していた訳ではない。
「手伝うわよ……でも、丸写しは駄目よ?」
「えー」
「えー、じゃない!」
「うー、うー」
「ルーナ! そのうーうー言うのをやめなさい!」
いつの間にかやってきたルーナが、宿題を見せてとごねる。
「ったく、ほら、ご飯よ!」
そうして四人のご飯が始まった。
「リンゴパーティーだ!」「リンゴー!」
ラスターとルーナは他人の家ではしゃぎながら、人の家のリビングで自室のごとくダラダラする。
「なにが食べたい?」
「今すぐ何かを――」
「はいはい」
ダラダラというより、グッタリとしたラスターがミレアに頼む。
「あたしもー」
元気いっぱいダラダラしながら、ルーナもおねだりする。
「あなた達は……」
やれやれと言った様子でミレアが料理を始める。
ちなみに全員一人暮らしである関係上、一応全員とも料理は出来る。とは言え、料理の腕はミレアが一番、他はあまり大差ない――強いて挙げれば、ユリウス、ルーナ、ラスターの順だろうか?
ユリウスもミレアの料理を手伝い、仲良く料理する二人の背中を見ながら、ゴロゴロとしていると、食べやすく切られたリンゴが差し出される。
「これでも、食べときなさい」
「ありがと」
二人はお礼を言うと、リンゴを口の中に放り込んでいき、ミレアは料理に取り掛かり始める。
「ねぇ、ラスタァ……」
「ん?」
シャクシャクとリンゴを頬張りながら、どこか辛そうなルーナを見る。
「大規模作戦って……大丈夫なんだよね?」
「大丈夫だろ」
あっさりと答えるラスターにルーナは微妙そうな顔を向ける。
不安だ! と言われても困るが、あっけらかんと大丈夫と言われても、それはそれで――それで納得できるのならば、そもそも聞いたりしないのである。
「でも、ワームビーストが五百体なんでしょ?」
ちなみにコロニーは、百体ほどのワームビーストに襲われたら陥落すると言われている。
つまるところ、四百体より多く倒せれば、万が一ReXが全滅したとしても、まぁ大丈夫ということである――流石に暴論ではあるが。
「どちらかと言うと、マイクロワームビーストが、実は市街地に潜んでいたと言う方がかなり怖いよ。だから大丈夫だ」
だから――と言うのは励ましであって、因果関係としてはなにも正しくないが、気付かれにくいマイクロワームビーストは実際かなりの脅威である。
コロニーに攻めてくるのならともかく、コロニー内であれば母胎を持つワームビーストが十体いれば、そのコロニーは滅びると言われている。
九体倒しても、一体を残せばすぐに増える上に、十体を完璧に倒すつもりで攻撃すれば、その代償はコロニーの損壊によってあらわれる。
施設が壊れたのであれば、誰かが泣くだけで済むのだが、コロニーが壊れれば人は生きていけない。
ワームビーストが倒しきれなければ――人は死ぬ。
「だから、安心しろって」
くりくりっとした目を向けてルーナがラスターをじっと見つめる。
何か言いたげな眼差しをするルーナの頭を優しく撫でると、猫のように顔を擦り寄せ、撫でやすいポジションへと収まっていく。
よしよしと撫でていると、ルーナがいきなりガバッと立ち上がる。
「あたしもなんか作ってあげる!」
「えー、ダラダラしてようぜ!」
ミレアとユリウスの二人の中を慮って――ではなくラスターは、周りみんなが頑張っている中一人だらけるのは良心が痛むという理由により、ルーナを躊躇なく悪の道へと誘う。
「ラスタァは疲れてるだろうから、そこで静かにしてていいよ!」
しかし、なぜか燃え始めたルーナはラスターの誘いを断って、台所へと駆けてゆく。
「たいして疲れてないから、罪悪感がまさるんだよな……」
仲間がいなくなってしまったラスターも、仕方無しに手伝いを始める。
「ごめんね」
料理を手伝い始めたラスターに、殊勝な顔をしてミレアが謝る。
「……あぁ、うん、まぁ、そのなんだ。たっぷり感謝しろよ。謝礼は安くしといてやるよ!」
「うん、ほんとごめんね。食事の準備に言ってるわけじゃないからね」
ケラケラと笑うラスターに、ミレアは呆れながら釘を刺す。
「そうじゃなくて……」
暗い顔をして、ミレアが苦しそうにする。
「私のせいで、大変な目に合わせてごめんね」
「……おう、気にすんな。ちょっとぐらい焦げた所で、美味しくいただいてやるよ」
「うん、ごめん。ちゃんとはっきり言うから、積極的に誤解しに行くのはやめてね」
「えー、誤解を恐れぬ積極性を評価してあげようぜ」
「するか!」
馬鹿な誤解の原因に何を言ってるのかと頭を抱えるが、苦しそうにしていた顔は少し緩んでいく。
「シェルターでね、ちゃんと説明したのよ。マイクロワームビーストってのは知らなかったけど、そういう異常があったから、その……したって」
最初の段階で説明しなかったのは、優先順位の問題である。
あの状況では、すでに手の打ちようがない半死体よりも、自分達のシェルター内での居場所を確保するほうが重要となる。
四人で同じ場所を確保するとしたら、さっさと入って一人一枚貰えるシートを敷いて置かないとバラバラになってしまう。
ラスターはシェルターの中に入った瞬間から、腕を切り落としたモブの他人のことなんて完全に忘れ去っていたが、ミレアはそうではない。
後に参加したボランティアの時に事情説明を行なっていたりする。それでも、完璧な説明が出来るはずもなく、結局、武術科嫌いのラスターがいざこざの責任を負わされ、Rexに乗らされる羽目になったことに責任を感じている。
「まじで、くだらねぇ」
そんな様子のミレアの頭を、ラスターはコツンとグーでつつき、誤解していたほうがマシだったと呆れ返る。
「悪いのはあんなものをコロニーに入れた奴らや、ナンパした奴、あとは処理を投げ捨てた生徒会共だろ……お前は何も悪くないじゃん」
ついでに、自分も悪くない。
腕を切り落としたことについて、ラスターは必要事項であったと割り切っているし、他にも手段はあったかもしれないが……別に、ラスターはその手段を探す理由もなかった。
すぐに忘れたくだらないことで、友達がグジグジと……しかも、本人が悪くもなんともない所で悩まれるのは、非常に歯がゆいものである。
「だけど……」
「そんなくだらないことに悩む暇があったら、明日からの宿題をどう助けてあげるか考えてあげろ……まじでどうすんだよほんと、放課後から訓練だぞ」
記憶する価値もないはずのことで、勉強時間が減ったことをラスターは気にする……当然と補足するまでもないが、訓練がなければ勉強していた訳ではない。
「手伝うわよ……でも、丸写しは駄目よ?」
「えー」
「えー、じゃない!」
「うー、うー」
「ルーナ! そのうーうー言うのをやめなさい!」
いつの間にかやってきたルーナが、宿題を見せてとごねる。
「ったく、ほら、ご飯よ!」
そうして四人のご飯が始まった。
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