【第一巻 完結】一閃断空のバーサーカーナイト

七種時雨

第10話 冤罪と罰

「あなたも知っているのよね? マイクロワームビーストの扱いについて」
「まぁ……」

 ラスターはチラリと隣を見ると……三人とも曖昧あいまいな顔をしている。
 聞いたことがないのだろう――普通にしていたらまず聞く必要のない俗称ぞくしょうである。

「……扱い?」

 シズハラ会長が燃え尽きたおかげか、恐怖心が減ったルーナはキョトンとした顔で質問する。

「えぇ、あなた達も少なからず見たんでしょ? マイクロ――と言うにはとても大きいけど、それでもあんな小さな虫でも、一匹いるだけで我々人類を滅ぼしかねない存在を」

 ツインテールをぴょんぴょんさせながらルーナはコクコクとうなずく。

「だからこそ、扱いは厳重にしないとならない――武術科は間違ってもコロニー内に広げないように、そしてわたしたち、学術科には余計な不安を抱かせないために隠されているのよ」
「そんな!?」
 ユリウスが驚きを見せるが、カンザキ副会長はすぐに補足する。

「と言っても、知りたければそこそこ簡単に見つけられるわ。あくまで教育現場やメディアを通じて教えないと言うだけで」
「ネットがあるのに、意外と隠せてるのはすごいよなぁ」
たゆまぬ努力のおかげよ」

 なんとなくでぼやくラスターに、カンザキがにっこり微笑ほほえんでいう。
 努力というより――住民はそこまで関心を持っていないと言ったところだが。

「だからね――」
 言葉を切るとカンザキはラスターをじっくりと見据えて口を開く。

「議事録にマイクロワームビーストが腕を食べたから切りました……とは書きづらいの。幸いなことに、奇跡的に死者もいないお陰で隠すのも容易だし、それでなくても武術科には余計な失態しったいを背負ってもらっているのに、それをほじくり返してまで正当性を主張するのもあまり望ましくないわ」
「つまり――どうしろと?」

 やはり……逃げるのが正解ではなかったのだろうか?

「強引すぎるナンパによる事故の結果にしたいわ」
「ひどい捏造ねつぞうだ……」

 そもそも不快ナンパの対処にラスターは体を張って暴力沙汰の被害者になるという、とても穏やかな――と、あくまでラスターが思っている行為にしたと言うのに、こちらが加害者にさせられるのは納得がいかない。
 ――腕を切ったのは、確かに自分であるが。

「それで、今後気をつけましょうね。と言う念押しで解放してくれるんだよな!」

 これ以上厄介ごとを押し付けるなと、念を込めて言ってみるが、カンザキ副会長はどこ吹く風……どころかラスターの悪寒おかん通りに事を進める。

「もちろん前科ぜんかは付けさせないわ。だけど、何もせず解放とはいかないのよ」

「なんでですか!」
 クラクラとし始めるラスターに変わって、ルーナが問い詰めるが、相変わらず涼しい顔をしたまま――少しばかり申し訳なさそうな顔に変えてカンザキ副会長が答える。

「これから、大規模作戦があるのは知ってるわよね?」
「大規模作戦?」
「……あなた掲示板とか見ないの?」
「先生も言ってたろ」
「ルーナちゃん……」

 カンザキ、ラスター、ミレアの三人に責められたルーナは、顔をにして立ち上がる。

「し、知ってるもん! 大規模な作戦でしょ」
「そうよ。正解ね」
 カンザキ副会長が優しく微笑ほほえむとお馬鹿を褒めるようにいつくしむ――あざけりとあまり大差ないのは気のせいだろうか?

「武術科はこれから約一週間以内に攻めてくる大量のワームビーストに対抗しなければならないのだけど……その為に学術科の生徒からも人員をつのっているぐらいには今は人手不足なのよ――例え人間性になんがあっても四番隊のメンバーが欠けるのは非常に大きいわ」
「それで、俺にどうしろと」
「例え冤罪えんざいであっても、罪と認められたからには、罰が必要――あなたには一旦、武術科に行ってもらい人材不足の予備兵……つまりは保険になってもらいます」

「そんな!」
 カンザキ副会長のお願いに、ルーナが悲鳴をあげる。

「なんで、何も悪くないのに、どうしてそんなことしなくちゃならないんですか!」
「危険が嫌で学術科へと行く生徒も多い。それが悪いことだなんてもちろん言わないけど、誰かが戦わなきゃいけない。安全面には全力で配慮はいりょするけど、それでもシェルターの中に皆が入れば――結局待つのは死よ」
「そんなぁ……でも」
「それに、こちらとしてもそれなりの補填ほてんはつけるわ」
「補填?」

 一体何がもらえるのか楽しみ――すでに面倒事を貰っている事から目をらしながらラスターが聞く。

「今回の作戦の報酬――普通は武術科だけから出すのだけど、あなたには同額こちらからも渡させてもらいます」
「……それって下っ端のガヤ担当が二倍もらった所で大した額になるのか?」
 そもそもこんなことを目の前で言われたら、まず間違いなく武術科が半額しかださない気しかしない――あいつらケチでクソだし、会長シズハラだし。

「一応、部隊に所属してもらうつもりで考えているわ」
「はぁ!? なんで?」
 ラスターは混乱しながら驚く。

 部隊に所属するとはつまり、それなりの力量を買われたか、そうでなければ厄介払いの棺桶かんおけを前線に出す言い訳にしか聞こえない。

「ガヤ担当って言い方はどうかと思うけど……端的に言えば部隊に所属する方が安全だからよ。それに報酬も明確になるからよ! 不正に減らさせたりしないわ」
「……安全なのか?」
 カンザキの説明に、ラスターはそこらへんでしなびているシズハラに聞く。

「あっ……うん、まぁ人による部分もあるが、事実かもしれんな。あまりいい気持ちはせんが」
「結局どういうことだよ」

 安全らしいのは分かっても根拠がわからない。

「一番安全なのは後方ではなくエースパイロットの隣って格言があるわ」
「殺しにきそう」
「誰が殺すか! と言うかわたしの隣なんぞ百万年早いわ!」

 流石さすがに許されない罵倒ばとうに、シズハラが元気よく怒ると、不愉快そうな表情が維持されたままになる。

「流石に一番隊の最前線では、エース様の隣であっても危険だけどね」
「うるさい! 足手纏あしでまといなぞしるか!」

 皮肉げに言うカンザキに、シズハラは不快度と一緒に、しなびていた元気を取り戻り始める。

「一応聞くが……嫌だと言ったらどうなる?」
「まぁ……どうしても嫌なら、何かしらのボランティアになるけど、多分かなりきついよ? 命の危険はないかもだけど……」

 冤罪えんざいあがなわなければならない状況には嫌気がさすが、これ以上、足掻あがくべきではないだろう。
 本気で駄々をこねて生徒会ににらまれる方がよほど面倒になることは間違いない――長い物には巻かれろ、先人の知恵に従うことにする。

「まぁ、四番隊所属の片腕を切り落として退けたんだ。ワームビーストの眉間みけんぶち抜くぐらいなら……大丈夫だよな……」

 胸に宿る不安が消えないが――ラスター=ブレイズは大規模作戦への参加が決まった。

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