【第一巻 完結】一閃断空のバーサーカーナイト

七種時雨

第3話 ミレア=フォード

 目的地につくまでに四分の三が集まったかれらは、目的の場所――RRライドロボットEXecuteエクスキュート後身こうしんである初代ReXレックスの二分の一スケールの銅像が立つ場所に着くと、ユリウスは最後の集合メンバーを見つける。

「なにあれ? 大丈夫だいじょうぶ?」
 白いワンピースに、スラウチハットと呼ばれるつばの広い帽子ぼうしかぶった金髪の少女――ミレア=フォードはいかつい男に見事にナンパされていた

「いいじゃないかよ。おれらの仲間がつくったいい店があるんだぜ」
 かたに無理やり手をばし、ナンパ男はミレアを引き寄せようとする。

「やめてください!」
 激しい拒否きょひで身体をのけぞらせるが、それをあっさりとさばき切り、ゆるんだすきを付いてさらに引き寄せる。

「あんた、なにしてんだ!」
「あぁ? 何だお前。彼氏かれしか?」
「……」
「そうだ。そしていやがってるだろ、はなしてやれよ」

 いさみ足で文句を言いに行きながらも、彼氏かれしか問われて口籠くちごもるユリウスに代わり、ラスターが口をはさむ。

「こんなやつが好みか? 趣味しゅみ悪いっておれが遊んでやるよ」
「ふざけないでください」

 ベタベタと触ろうとするナンパ野郎にしびれを切らし、嫌悪感けんおかんをあらわにするが、相変わらずどこく風……に見える様子にかげを落とす。

「ほら、おれたち……もうすぐあれだろ? ちょっとぐらい良い思い出もしいんだよ」
「「……」」
「そうか、では今すぐこの場からはなれるといい、これ以上不快な思いをしなくて済むぞ」

 同情をさそおうとする粗暴そぼうな男の願いに、心やさしい二人ふたりは胸を痛めて沈黙ちんもくするが、ラスターはせせら笑いながら言い返す。

「てめぇな、おれたちは命かけてやってんだよ! なんだその言い方は! おかしいだろがよぉ! あぁ?」
「いつも最前線に立ち、命をかけてワームビーストに立ち向かっておられるのは、心の底から感謝しております。またそのような場合におきまして最大限の言葉使いを目指しております――が、なんの命もかかってないこのタイミングでわざわざ敬語を使えと?」

 やれやれとため息をつくと、いかりに顔を赤く染め始めた男に。ラスターは居住まいを正してさらに話し続ける。

「ですが、ご要望とあらば応じるべきでしょう。ぜひ、回れ右してこの場から立ち去っていただきたく存じます。どうぞよろしくお願いします」

 深々と頭を下げたお願い……が、なんでも通るわけでは決してない。
 頭を上げた先で、男が立ち去っているはずがなく。こぶしにぎりしめて今にも殴り殺さんといった様子でにらみつけているのだが、ラスターは不思議な顔をして聞く。

「ちゃんと敬語で言えてなければすみません。生憎あいにく浅学せんがくな者で、とっととせろをどのように言えばいいのかわからなくて申し訳ない」

 あおり以外の何物でもない謙遜けんそんをしながら、再度、頭を下げる。

「てっめぇ……」

 あまりの苛立いらだちに口すら回らない男が、地をみしめなぐりかかる準備をする中、顔を上げたラスターは首をかしげる。

「あれ? なんでまだいるんだ?」

 とっくに回れ右してるはずの男が、いまだ目の前にいることに対して疑問にかべる。
 相手としては、むしろこれまでよく持った方であろう。あまりの挑発ちょうはつの数々にいかりを爆発ばくはつさせて、えながらなぐりにかかる。

「てめぇ、ぶっ殺してやる!」
武術科ぶじゅつか所属しょぞくする人間が、学術科がくじゅつか相手に暴力をるつもりか?」

 ラスターの疑問に、相手は答えない――答えるはずもない。
 我慢がまんの限界に来たナンパ男は、きたげた全身の肉体を使い切り、いかりに任せて全力でこぶしるう。
 ラスターはとっさに両腕りょううでたてにしてガードするも、簡単にばされて3mほどゴロゴロと転がされる。

「あんまりめた口聞いてんじゃーねーぞ。てめぇらもわかったな!」

 周りをにらんでおどすと、ナンパ男はミレアに手をばすが――すげなくはたかれる。

「てめぇ、どういうつもりだ?」
「いやよ!」

 ある意味当然の拒絶きょぜつだが、すでに相手側のいかりも限界ギリギリである。

「じゃぁ、そこの彼氏かれしくんが許可をくれたら来てくれるか?」
「――っ!?」

 どのように許可を取るのか――それはラスターへの行動を見ればわかる。
 もしユリウスがなぐられたら、それこそくだけ散りかねない。はかなげであって、決してはかないわけではないが、それでもやはり頑丈がんじょうとはいいがたいのだ。

「調子に乗るのも、そこまでにしとけよ」

 なぐばされたラスターは立ち上がると、横暴おうぼうひろげようとするナンパ男へくぎす。

「へ~、まだボコボコにされりないってか?」
「まさか、やりすぎってことだよ。武術科の人間が手を出していいと思ってるのか?」

 そう言うと、ラスターはポケットからスマートフォンと呼ばれる板状いたじょう携帯けいたい――それに付いたカメラで相手をとらえながら、言葉を続ける。

「一回目は特別に見逃みのがしてやる! 次、なぐったらお前――退学だぞ?」
「相変わらず、めた口をきいてくれるじゃねーか! あぁん!」

 一度なぐばした相手は、その痛みにおびえて従順じゅうじゅんになる。
 それがナンパ男の人生じんせい経験論けいけんろんであるが、いくらにらみつけた所で、ラスターは毛ほどの恐怖きょうふも見せない。

「キャンキャンとよくえる。そのうるさい口を閉じて行動であらわしてみたらどうだ? さっさと回れ右して失――」

 携帯をきつけていたラスターは、唐突とうとつに気をそらす。
 どこかくうを見つめたラスターは、なにかかれたかのように不用意に歩き出す。不審ふしんな行動に、ナンパ男も警戒けいかいをしながらラスターの視線の先をさぐてる。
 より大きく――とはいえ機敏きびんな動きは、見失うのも容易たやすいぐらいのちっぽけ存在感。

 そんなちんけな虫に向かって、ラスターは引き寄せられるように歩き出し、飛んでいる虫もどこかへげるわけでもなく、ぶんぶん飛び回りながら二人ふたりの間をウロウロした後、ミレアの元へと飛んでいく。

げろ!」
 ラスターの指示に困惑こんわくしながらも、ミレアはおそおそるとげていく。

「おい、待て!」
 もっとも、ナンパ男は一番の目的であるミレアをがせるはずもなく、伸ばした手の先にまとわりついた虫に苛立いらだちを見せる。

「ったく、なんだ? こいつ」
 ぶんぶんとわずらわしい虫をはらおうとする男にラスターは制止をかける。

さわるな!」
「痛っ」
 言われた所でほいほい聞くわけもなければ、タイミング的に聞けるはずもなく……はらったはずの虫が手のこうにへばりつくと――虫は一気にふくがる。

「ぎゃああああああああ」

 右手に走るあまりの痛みに、ナンパ男は絶叫ぜっきょうを上げる。そして、虫がふくがるのに反比例して、男の右手はおそろしい勢いでからびていくのであった。

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