海の街

トキン

休み時間(2)

 三限も無事に終わり、もう一度みんなで集まった。
 あまり同じ話をしたくなかったけど、私が違う話を振る前に、香澄が切り出した。
「さっきは急にどうしたのさ、海のことなんか聞いて。」
 私が聞いたのは海のことではなく、駅方面のことだったけど、記憶に残ったのは海のほうだったんだろう。
「昨日ちょっと長く散歩して、そっちのほう行ったからなんとなくだよ。」
 こともなげに返すけど、納得はしないだろう。
「それでもそんなこと考える?なんもなかったらあっちのほうなんて行かないし、考えないでしょ。」
「暇な時って何するかわからないよねー。」
「あんたならありそう。」
 ひかりには何故か諦められた。早く話を切り替えたいから都合がいい。
「そういえば海って近くにあるのに普段考えないねー。大きいのに存在感ないよね。なんでだろ?」
 みーちゃんは食いついた。
「ていうか、海ってちゃんと見たことある?」
 香澄は私と同じことを考え出した。
「ないから気になりだしたんだよねー。」
 もう簡単にごまかそうかな。
「五十嵐ー、あんた小学校のころ別の街だったよね。海とか見たことあんの?」
 偶然近くにいた五十嵐達也に香澄が声をかけた。
 もういいや。
「ねえよ。普通に考えてこの町にずっといるお前らのほうが見る機会があるだろ。」
「それもそうだよね。」
 至極当然。だからこそ疑問に思ったけど。
「そういえば家族で旅行行ったとき、見たことあったよ。」
 五十嵐と話していた、上林も会話に参加してきた。
「えー、ホント?どうだった?」
「別に普通だよ、思ってた通りって感じ。」
 まあそんなものか。
「だろうね、ただ水がいっぱいあるってだけだし。」
 昨日からいろいろあったけど、オチはこんなものかな。
「それより結局なんで海なのさ。」
「あれ、さっき言わなかったっけ。暇だったからだよ。」
 あー、そうかー。とその場はお開きになった。
 一週間もすれば忘れるだろう。
 こじつけのような遊びだったし。

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