EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
最終話 少し先の未来で
惑星ティアフロントとは異なる銀河に属する小惑星。
人工天体であるそれは時空間転移システムを運用するためだけに作り出されたものであり、中心部に全てのコアユニットを統括する装置本体が存在している。
オペレーションからメンテナンスに至るまでオート―メーション化され、暴走に伴って正常な運用がなされなくなった後も施設全体が新品同然の状態だ。
もっとも、暴走は経年劣化によるものではなく仕様上の欠陥によるものであるため、新品であろうとなかろうと危険性に変わりはないが……。
中枢部分は完全にシャットダウンされた状態で維持されており、転移を使用することが不可能となった代わりに宇宙崩壊の危機は去っていた。
その事実を示すように。
「あー、暇ねえ」
何ともだらけたようなドリィの声が部屋の中に響く。
場所は施設の重要区画の一つ。全ての機能を統括するコントロールルームだ。
彼女は今、ラウンジから引っぺがしてきた座り心地のいい長椅子を二つ並べて作った簡単なベッドに寝っ転がりながら、ぼんやりと天井を見詰めていた。
「ドリィちゃん、はしたないですよ」
それを、お姉ちゃん風を吹かせてフィアが窘める。
彼女はドリィとは対照的に行儀よくオフィスチェアに座って待機していた。
同じガイノイドながら性格の違いというものが透けて見える。
「軍の広報用が随分緩んでしまったものデスね」
「アタシはとっくの昔から単なるフィア姉さんの妹で、お父さんとお母さんの娘だもの。軍だの広報だのなんて、もう関係ないわ」
呆れ気味のオネットに対し、ドリィは適当に答えてからジト目を向けた。
「って言うか、オネットも大概じゃない。時空間転移システムを管理するコンピューターを使ってゲームをするなんて」
「いやあ、暇なんだから仕方がないじゃないデスか。それに今は管理対象が停止してますし、別のことに使っても問題ないデスよ」
誤魔化すような笑みを浮かべながら空中ディスプレイに向き直るオネット。
直接接続して操作できるにもかかわらず、手でコンソールを叩いて操っている。
ククラに作って貰った暇潰し用のゲーム。
長く楽しめるように縛りプレイのような形で遊んでいるようだ。
「……それにしても、あれから何年経ったのかしら」
そんなオネットから再び天井に視線を戻してドリィが問いかける。
「リィ、分かってて聞くのは感心しない」
対してククラが嘆息気味に言った。
この施設のメンテナンス設備を利用して自分達の状態についても最善を保っているため、それぞれの体内時計が狂うことはない。
質問したドリィ自身もまた、惑星ティアフロントのあの迷宮遺跡でマグ達と別れてから経過した時間を秒単位で把握している。
それでも、彼女は他の者の口から聞きたいのだろう。
「千三十五年四十五日と六時間二十五分」
ククラもそれを理解し、ワンクッション苦言を挟みながらも答えを返す。
「千年以上……人間が生きてるはずもない時間が過ぎ去った訳デスね」
続けてしみじみと告げるオネットだったが、これは既に何千、何万回と繰り返してきた会話のパターンだ。
高度過ぎる人格が長き停滞の中で破綻したりしないようにと続けている、一種のテンプレートに過ぎない。
もっとも、機械人形たる彼女達。スリープモードでいれば人格の問題はない。
だが、万が一時空間転移システムを狙う不届きな輩が現れ、攻撃を仕かけてきた時に対処が遅れてしまう可能性がないとは言えない。
そういった理由もあり、誰も休眠状態で過ごすような真似はしていなかった。
「おとー様……おかー様……」
三人の会話を横で聞きながら、小さく寂しそうに呟くフィア。
勿論、マグが機械の体を手に入れ、いつか迎えに来てくれると信じている。
しかし、それと今遠く離れ離れでいることを寂しく思う気持ちは別の話だ。
「フィ。僕達は、全員揃って一緒にいられる未来を選んだ」
「……うん。分かってますよ、ククラちゃん」
フィアは改めて自分達の選択を心に刻み直すように瞑目し、頷きながら応じる。
それから彼女は気持ちを引き締めすように背筋を伸ばした。
「僕達はここで待ち続ける。パパとママが迎えに来てくれる日を。いつまでも、いつまでも。何千年でも、何万年でも」
そうして今日も。四体の機械人形は変化のない一日を過ごしていく。
いつの日か、約束が果たされることを信じながら。
…………そんなモノローグをつけ加え、テンプレートを終えようとした瞬間。
突如として人工小惑星の防衛システムがアラートを発し始めた。
「な、何が起きたの!?」
「接近する機影あり! デス!」
千年で初めての事態に少し浮足立ったドリィの鋭い問いかけに、オネットが同じぐらい大きな声で答えて警戒を促す。
「もしかして敵です?」
「……違う。あれは!」
「あ、ククラ!」
珍しくハッキリとした表情を浮かべて駆け出したククラ。
短距離通信で情報を共有せずとも、その意味は彼女の態度から理解できる。
だから、フィアもドリィもオネットも。
ククラの後に続いて宇宙船の発着場へと走り出したのだった。
人工天体であるそれは時空間転移システムを運用するためだけに作り出されたものであり、中心部に全てのコアユニットを統括する装置本体が存在している。
オペレーションからメンテナンスに至るまでオート―メーション化され、暴走に伴って正常な運用がなされなくなった後も施設全体が新品同然の状態だ。
もっとも、暴走は経年劣化によるものではなく仕様上の欠陥によるものであるため、新品であろうとなかろうと危険性に変わりはないが……。
中枢部分は完全にシャットダウンされた状態で維持されており、転移を使用することが不可能となった代わりに宇宙崩壊の危機は去っていた。
その事実を示すように。
「あー、暇ねえ」
何ともだらけたようなドリィの声が部屋の中に響く。
場所は施設の重要区画の一つ。全ての機能を統括するコントロールルームだ。
彼女は今、ラウンジから引っぺがしてきた座り心地のいい長椅子を二つ並べて作った簡単なベッドに寝っ転がりながら、ぼんやりと天井を見詰めていた。
「ドリィちゃん、はしたないですよ」
それを、お姉ちゃん風を吹かせてフィアが窘める。
彼女はドリィとは対照的に行儀よくオフィスチェアに座って待機していた。
同じガイノイドながら性格の違いというものが透けて見える。
「軍の広報用が随分緩んでしまったものデスね」
「アタシはとっくの昔から単なるフィア姉さんの妹で、お父さんとお母さんの娘だもの。軍だの広報だのなんて、もう関係ないわ」
呆れ気味のオネットに対し、ドリィは適当に答えてからジト目を向けた。
「って言うか、オネットも大概じゃない。時空間転移システムを管理するコンピューターを使ってゲームをするなんて」
「いやあ、暇なんだから仕方がないじゃないデスか。それに今は管理対象が停止してますし、別のことに使っても問題ないデスよ」
誤魔化すような笑みを浮かべながら空中ディスプレイに向き直るオネット。
直接接続して操作できるにもかかわらず、手でコンソールを叩いて操っている。
ククラに作って貰った暇潰し用のゲーム。
長く楽しめるように縛りプレイのような形で遊んでいるようだ。
「……それにしても、あれから何年経ったのかしら」
そんなオネットから再び天井に視線を戻してドリィが問いかける。
「リィ、分かってて聞くのは感心しない」
対してククラが嘆息気味に言った。
この施設のメンテナンス設備を利用して自分達の状態についても最善を保っているため、それぞれの体内時計が狂うことはない。
質問したドリィ自身もまた、惑星ティアフロントのあの迷宮遺跡でマグ達と別れてから経過した時間を秒単位で把握している。
それでも、彼女は他の者の口から聞きたいのだろう。
「千三十五年四十五日と六時間二十五分」
ククラもそれを理解し、ワンクッション苦言を挟みながらも答えを返す。
「千年以上……人間が生きてるはずもない時間が過ぎ去った訳デスね」
続けてしみじみと告げるオネットだったが、これは既に何千、何万回と繰り返してきた会話のパターンだ。
高度過ぎる人格が長き停滞の中で破綻したりしないようにと続けている、一種のテンプレートに過ぎない。
もっとも、機械人形たる彼女達。スリープモードでいれば人格の問題はない。
だが、万が一時空間転移システムを狙う不届きな輩が現れ、攻撃を仕かけてきた時に対処が遅れてしまう可能性がないとは言えない。
そういった理由もあり、誰も休眠状態で過ごすような真似はしていなかった。
「おとー様……おかー様……」
三人の会話を横で聞きながら、小さく寂しそうに呟くフィア。
勿論、マグが機械の体を手に入れ、いつか迎えに来てくれると信じている。
しかし、それと今遠く離れ離れでいることを寂しく思う気持ちは別の話だ。
「フィ。僕達は、全員揃って一緒にいられる未来を選んだ」
「……うん。分かってますよ、ククラちゃん」
フィアは改めて自分達の選択を心に刻み直すように瞑目し、頷きながら応じる。
それから彼女は気持ちを引き締めすように背筋を伸ばした。
「僕達はここで待ち続ける。パパとママが迎えに来てくれる日を。いつまでも、いつまでも。何千年でも、何万年でも」
そうして今日も。四体の機械人形は変化のない一日を過ごしていく。
いつの日か、約束が果たされることを信じながら。
…………そんなモノローグをつけ加え、テンプレートを終えようとした瞬間。
突如として人工小惑星の防衛システムがアラートを発し始めた。
「な、何が起きたの!?」
「接近する機影あり! デス!」
千年で初めての事態に少し浮足立ったドリィの鋭い問いかけに、オネットが同じぐらい大きな声で答えて警戒を促す。
「もしかして敵です?」
「……違う。あれは!」
「あ、ククラ!」
珍しくハッキリとした表情を浮かべて駆け出したククラ。
短距離通信で情報を共有せずとも、その意味は彼女の態度から理解できる。
だから、フィアもドリィもオネットも。
ククラの後に続いて宇宙船の発着場へと走り出したのだった。
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