EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

124 最奥の間

 現地で得られた地形データを基に範囲が絞られた目的地の方向を目指し、機獣スライムを蹴散らしながら迷宮遺跡を進んでいくことしばらく。

「あそこの端末から、一先ず迷宮遺跡の機能を支配してしまうデス」

 襲撃が落ち着いたタイミングでオネットが告げた。
 装甲車でも移動可能な広い廊下から、別の通路へと移る扉の前。
 ロックを解除するためと思われる端末が見て取れる。
 そこから迷宮遺跡の中枢へとアクセスしようと言うのだろう。
 こちらはこちらで迷宮遺跡の天敵のような存在だ。
 統率の断片フラグメントの力によって、迷宮遺跡の機能を掌握することができるのだから。

「あっ!」

 しかし、何ごとにも例外というものは存在するらしい。
 オネットが端末に触れた瞬間、彼女は突然驚いたような声を上げた。
 それから何ともバツが悪そうな表情を浮かべて口を開く。

「ちゅ、中枢がネットワークから切り離されてしまったデス」
「【アクセラレーター】は使ってたんだよな?」
「勿論デス。……デスが、少しだけアクセスに手間取ってしまった一瞬の間に、セキュリティが働いてしまったようデス」

 肩を落としながら答えるオネット。
 メタがそうだったように、処理速度を上げれば【アクセラレーター】によって超加速された時間を認識することは可能ではある。
 しかし、その状態を認識するだけに留まらず更に対処することまで彼女ができたのは、こちらの手の内を知っていて備えていたからに他ならない。
 たとえ不正なアクセスに即応するプログラムがあったとしても、【アクセラレーター】を併用した不意打ち染みたクラッキングへの対応は困難なはずだ。
 だが、結果は失敗。そうなってしまった理由は――。

「何故だか、接続の仕方が普通じゃなかったデス」

 オネット曰く、そういうことらしい。
 グロテスクな何かに触れたかのような、酷く気持ちが悪そうな顔をしている。
 一体どんな感覚だったのか……。

「多分、あの機獣スライムの体と神経みたいな接続部が介在してる」

 そこへ、補足を入れるようにククラが言った。
 機械そのものではないゲル状の体。
 導電性はあるだろうが、操作の感覚が全く異なるのは想像に容易い。
 そんなものが間に介在しているとなれば、オネットが戸惑うのも無理もない。
 一瞬手間取ったことで、セキュリティが作動する隙が生じてしまったのだろう。
 彼女の能力は機械装置を操るものであるだけに、こればかりは仕方がない。

「けど、おかげで迷宮遺跡の内部構造とコアユニットの正確な位置は分かった」

 と、更にフォローをするようにククラが続ける。
 であれば、オネットは十分役目を果たしたと言っていいだろう。
 後はそこに向かい、直接操作すれば中枢を掌握することはできる。
 末端から一足飛びでチェックメイトまで至ることはできずとも、ひたすら正しい道を選んで進んでいけば済む話だ。

「ここからは徒歩」

 そうしてマグ達は全員装甲車から降り、迷宮遺跡の最奥を目指して歩き出した。
 機獣スライムは変わらず襲いかかってくるが、ドリィがいれば容易く倒せる。
 不意打ちは【エコーロケイト】で防ぐことができるし、単なる機獣にはアテラとフィアの二人による二重シールドを突破することは不可能だ。
 順調に奥へ奥へと突き進み、やがてマグ達は最後の扉の前に到達した。

「この奥にコアユニットがある」

 淡々と告げるククラとは対照的に、マグは意識して表情を引き締めた。
 時空間転移システムの暴走をとめるために不可欠なもの。
 この惑星ティアフロントの誰もが探し求めていたものがそこにあるのだ。

「……行こう」

 互いに頷き合い、オネットの操作で開いた扉をくぐって最深部の部屋に入る。
 完全に掌握し切れていない迷宮遺跡の最奥。
 そこには当然のように機獣スライムが待ち構えていた。
 よくよく見ると他のスライム達とは異なり、何やらいくつものパーツがゲル状の体内に散らばるように浮かんでいる。
 最後の敵だけあって特別な個体のようだ。

「宝を守る番人ってとこね」

 その巨体を前にして、即座にドリィがスライムの体を維持する核となっている機械装置を撃ち抜こうとレーザービームライトの射出口を向ける。
 一撃の下に滅ぼし尽くすために。
 しかし――。

「リィ、駄目!」

 光の軌跡が描かれる前に、ククラが酷く慌てた様子でオネットをとめた。
 珍しいぐらいに声を大きく張り上げて。

「ど、どうしたの? ククラ」

 対してドリィが目を丸くしながら尋ねる。
 彼女も驚いたようだ。

「あれがコアユニット。破壊しちゃ駄目」
「え……え?」

 ククラが理解の断片フラグメントの力によって理屈を超えて理解した事実。
 それだけに、ドリィは一瞬理解することができなかったようだ。
 彼女の動揺を示すように射出口の照準が揺れる。

「コアユニットがバラバラのまま、スライムの体を介して稼働してる」
「しかも、ネットワークから独立したスタンドアロン状態デス。あれでは遠隔で制御するのも、直接操作するのも無理デスよ……」

 ククラに続き、困り果てたようにオネットが告げる。
 どうやら宇宙崩壊の危機を回避する最後の関門は、思った以上に厄介な状態にあるようだった。

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