EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

122 蠢くもの

 未踏破領域の調査開始をアテラが宣言してから数秒後。

「事前情報の範囲の地形データ、取得完了しました。現在、データ送信中です」

 動き出したかと思えば再び停車してしまった装甲車の中で、その彼女が言った。
 先史兵装PTアーマメント【アクセラレーター】の超加速を利用して指定された領域を一通り走らせることで、地形の起伏や土壌の成分など計測したのだろう。
 人間の脳の処理能力では認識できないせいでマグとしては若干置いてけぼりな感があったが、さすがに三度目ともなれば慣れてくる。

「怪しい場所とかあったか?」

 だから特に戸惑ったりすることなく、とりあえず集めた情報から何か手がかりが得られなかったか尋ねた。

「地下に構造物が埋まっている反応はありました」
「入口の場所は?」
「そこまでは特定できませんでした。申し訳ありません」
「迷宮遺跡からの電磁波と多種多様な金属のせいで地中探査が妨害されてる」

 頭を下げたアテラをフォローするようにククラが告げる。
 そういうことであれば仕方がないだろう。

「成程。……じゃあ、大体の当たりをつけて強引に抉じ開けるしかない、か?」
「ドリィちゃんの出番です!」
「そうね。けど、コアユニットの大まかな場所ぐらいは把握して狙いをしっかり定めないと、下手をするとコアユニットに影響が出る可能性があるわ」
「……危険」
「そうデスね。宇宙崩壊の最後の一押しを私達がすることになるかもデス」

 皆の返答に対し、マグは同意と共に頷いた。
 時空間転移システムの停止は決して失敗が許されない。
 それだけに慎重に慎重を重ねて行動する必要があるだろう。
 勿論、それで時間切れになってしまっては本末転倒にも程があるが、強行策は最後の手段としておいた方がいい。

「一先ずは、向学の街・学園都市メイアでの分析待ちか」
「そうですね。ですが、少し移動しましょう」
「ん? どうしてだ?」
「幻想獣です」

 アテラが理由を答える間に装甲車が走り出した。
 シールドがあれば大概の障害は問題ないのではないか、と疑問の目を向ける。

「旦那様。あそこを御覧下さい」

 すると、彼女は促すようにある方向を指差した。
 マグがそちらに視線を移すと、何かゲル状のものが蠢いていた。

「何だ、あれ。スライムみたいな……」
「はい。名をつけるならアシッドスライムとでも呼ぶべきでしょう」
「いやいや……ってか、幻想獣なんだろ? 元は何だったんだ?」

 以前、討伐したトレントもそうだったが、またぞろファンタジー感が強いのが出てきたものだと思いながら問いかける。
 あれはそのまま、木が転移の再構成によって運動機能を得たものだったが……。

「元々はクラゲ。それが陸上に適応してスライムみたくなった」
「更に、この雨に対応して強酸や強アルカリのボディになった訳デスね」
「成程……」

 もし普通に生身で相対するのならば、恐るべき敵となっていたことだろう。
 狩猟者がこの酸の雨の中で討伐するのは困難極まりない。
 まあ、見た感じ倒すメリットらしいメリットはなさそうだが。

「と言うか、移動する意味あるのか? シールドで中への侵入は防げるだろ?」
「数が恐ろしいことになっていますので」
「もし纏わりつかれたら身動きできなくなるかもしれない」

 アテラとククラの返答を受け、改めて遠くに蠢くそれらを見る。
 周りが荒れ地であるせいで遠近感が狂ってしまっていたようだが、改めて距離から大きさを判断すると全長数百メートルはありそうだ。
 恐らく無数のスライムが寄り集まっているのだろう。

「確かに。あんなものに飲み込まれたら、身動きが取れなくなるかもしれないな」

 たとえ装甲車の内部は無事だったとしても、それでは意味がない。
 そう考えると、接触しないように距離を取るのは正しい選択と言える。
【アクセラレーター】を使って移動しないのは、幻想獣の動きが遅いのと分析が終わるまでの主観時間が延びるのをアテラ達も厭ったからだろう。
 そうして群体スライムから距離を取り続けること数分。

「旦那様、連絡が来ました」

 ディスプレイを少し点滅させた後、アテラが告げる。
 向学の街・学園都市メイアから分析の結果が来たらしい。

「位置が分かったのか?」
「いえ、更に範囲が絞られたという程度です。ですが、これならコアユニットに影響が出ない位置から迷宮遺跡に押し入ることが可能です」
「最善の突入地点は、ここ」

 アテラの答えに続き、ククラが端末に示した地図のある点を指差して言う。

「じゃあ、アタシの出番ね」

 それを受けて、準備運動をするようにレーザービームライトの射出口を動かしながら気合いを入れるドリィ。

「よし。行こう」

 そんな彼女に頷き、マグ達はククラが示した場所へと向かったのだった。

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