EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

088 標本の街・夏のハレの日

「見えてきたデスね」

 オネットの言葉で眠りから覚めたマグは体を起こし、閉じていた目を開いた。
 そうして視界に映った光景は……。

「え……と、昔の日本の田舎?」

 何となく懐かしく、しかし、惑星ティアフロントにいる事実を考えれば違和感しかないもので、マグは一瞬目を疑って何度か瞬きをした。
 当然ながら目に映るものは変化せず、数世代前の家屋がまばらに確認できる。

「城壁がないです?」
「無防備にも程があるわね」

 フィアとドリィもまた、それを見て不思議そうに首を傾げた。
 オネットから情報を得ていただろうアテラは疑問を抱いていないようだが……。

「ちゃんと防衛システムはあるデスよ。緊急時には、しっかりと城壁が展開されるはずデス。普段は景観を大事にしているだけなのデス」
「安全より景観なのか?」
「まあ、あそこの街には普段人間さんはいないデスからね」

 その返答に対し、一体どういうことかと視線を向ける。
 しかし、オネットはそれに答えることなく、彼女をその身に宿すアテラもまた顔のディスプレイに【Zzz...】と表示させた。
 ここから先は自分の目で確かめてくれ、と言わんばかりだ。
 マグ第一のアテラがそうするからには、危険性がないのは間違いない。
 ネタバレすると楽しみが奪われて不利益になると配慮しているのだろう。

「おっと、第一村人デス」

 いつの間にか少し古めのアスファルトの道路になり、更にしばらく進むと人影が現れてオネットが再び口を開く。
 見ると、何故かヘルメットに法被という出で立ちの男の姿が道路脇にあった。
 しかも複数人。
 その傍には何かを射出するような筒がいくつも並べられている。
 用途はともかく意味が全く分からず困惑していると、装甲車が近くで停車した。

「ん? おや、人間じゃないか」

 その内の一人がマグに気づき、人のいい笑顔を浮かべながら近寄ってきた。
 口振りからして彼は人間ではない、即ち機人だろうと予測できる。
 しかし、割と容姿が若く美化される傾向のあるそれに反し、日焼けと作業の汚れで肌が黒くなった如何にも職人のような初老の男性という風貌だった。

「あの、何をされてるんですか?」

 アテラはディスプレイを暗転させ、オネットはだんまりモード。
 フィアとドリィは戸惑ったままなので、マグが代表して問いかける。

「今日は夏のハレの日だからな」
「ええと……」

 恐らく彼は真正直に答えてくれているのだろうが、今一要領が掴めない。
 本来はそれで十分なのか、アンドロイドの男も補足を入れてくれない。
 困っていると、彼のカメラアイの奥が点滅し出した。

「おや、稀人だったのか。なら、その説明だけだと不十分だな」

 どうやら、どこからかマグについて情報が入ったらしい。
 納得したように頷いた彼は言葉を続ける。

「ここ標本の街・機械都市ジアムは人間の文化を保存するための街だ。観光地でもあるな。そして俺達は人間の生活を、文化を後の世に残すための存在だ」
「この区域は西暦二千年前後の日本を担当している。そして、今日はその中でも夏のハレの日。つまり夏祭りのような特別な日を再現している訳だ」
「そんで俺達は、夜にやる花火の準備をしているのさ」

 今度は連携して説明をしてくれる男達。
 文化を後世に残す。
 成程それで標本の街なのかとマグは納得した。

「ちなみに明日からは秋のケの日になる。環境コントロールシステムと立体映像の合わせ技で、一転秋の景色になるぞ」
「まあ、ケの日だから、再現されるのは秋の日の何てことない日常風景だがな」

 春夏秋冬。普通の日も特別な日も。
 未来の技術を総動員して文化の保存に努めているようだ。
 合理性を突き詰めると無駄だろうが、人間が人間のまま未来を歩んでいくには何だかんだ必要な街に違いない。そうマグは思った。

「そろそろ迎えが来るぞ」
「……え? 何がですか?」
「何がって依頼を受けて来たんだろう? 街の管理者であるロットの出迎えさ」

 今回はオネットの捏造だったはずではとアテラを見る。
 すると彼女は問題ないと頷いた。
 どうやら想定外の事態という訳ではないらしい。
 空発注だとバレかねないから裏で手を回したのかもしれない。
 そう頭の中で納得していると、住宅地の奥から車が一台走ってきた。
 長方形を重ねたような昔の高級車といった外観だ。
 それは装甲車の前で滑らかにとまり、後部座席のドアが自動的に開く。
 中から出てきたのは、パリッとしたスーツを着た姿勢のいい老紳士だった。
 右手にステッキ、頭にはシルクハット。更に時代が古い雰囲気がある。

「ようこそ。標本の街・機械都市ジアムへ。私がロット。この街の管理者だ」

 その彼は姿勢よくマグ達の前に来ると渋い声で自己紹介をし、優雅に礼をした。

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