EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
076 追跡者
「どうやら出発したようだね」
街の管理者の屋敷。その純白の部屋の中で。
城壁から送られてきた情報を受け、メタは小さな笑みを浮かべながら呟いた。
『……何を、考えているのですか?』
そんな彼女に、眼前の机に置かれたモニターに映し出された機人の少女が人間と変わらない顔をしかめながら問いかける。
「私が考えることは一つさ。それは君も分かっているだろう? コスモス」
『人間の幸せのため、ですか。もっとも、貴方の考える幸せに過ぎませんが』
「それは君達も同じだっただろう? イクス・ユートピアの継嗣として、それぞれがそれぞれの考える最良の世界を作るために活動していたのだから」
本来、この秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの管理者だったコスモスに対し、過去形で煽るような口調で告げるメタ。
画面の中のコスモスは一層不愉快そうな表情になる。
『彼らを泳がせるのも、そのためだと言うのですか?』
「いやいや、そもそも彼らを怪しむ情報は何一つとして存在していないよ」
手続き上も何ら問題はない。
形としてもメタの依頼を受けて街を出ただけだ。
おかしなところはどこにもない。
「オネットはこの街の電磁投射砲によって巨大機獣ごと破壊された。それ以上でも以下でもない。可能性を考えれば切りがないけれど、私は人間を信じるよ」
『ものは言い様ですね』
『……同意』
と、モニターに新たに一人の少女の姿が現れてコスモスに追従した。
新たにここに加わったAI。メタを襲撃したキリだ。
余り感情を表に出さない風の彼女だが、今はハッキリとした色が見て取れる。
コスモスと同じ系統のものだ。
『人間の愚かしさや卑しさを信じているだけでしょうに』
「悪し様に言い過ぎだよ。同じだけに、聡明さも誠実さも信じていると言うのに」
『……胡乱』
「酷いな。キリは」
十中八九。彼らはオネットから何かしらの情報を得て、メタの意に沿わない行動を取ろうとしている。それを隠そうとしている。
証拠はないが、状況からその程度のことは可能性として考慮している。
その上で双方に都合のいい依頼を用意した。それだけのことだ。
『ならば、もう一度聞きます。貴方は何を考えているのですか?』
「いや何。私も少し焦っているんだ。時空間転移システムが暴走するまま、この世界が滅びることは私だって望んでいないからね。余り悠長にはしていられない」
『それには同意しますが……』
『……危急』
「そうだろう? けれど、未だに解決の目途は立っていない。ここらで少しばかりカンフル剤のようなものが必要だと思ったんだ」
この停滞した状況を一変させる刺激が。
『それを彼らに担わせようと言うのですか』
「うん。戦争は必要の母。必要は発明の母とも言うだろう? 人間は伝聞じゃなくて実感できる脅威がないと本当の危機感を持たないものだからね」
かと言って、大々的に行えば無駄に敵を増やすだけになりかねない。
少人数の、適度な能力を有した存在を据えるのがいい。
未踏の迷宮遺跡を踏破することができるだけのポテンシャルも最低限必要だ。
オネット達がメタを討つ障害となり得ると考えてマグ達の前に立ちはだかったことも含め、彼らが最も適している。
運命的な巡り合わせと言ってもいい。
『そんな彼らがもし表立って敵対してきたら、どうするつもりですか?』
「……そうだね。返り討ちにして、享楽の街・遊興都市プレアにでも送るさ。私は別に、人間を傷つけたい訳じゃないからね」
機人はコスモス達同様断片を奪い、人格をこの端末に閉じ込めておけばいい。
『傷はつけずとも、骨抜きの飼い殺しですか』
「いいじゃないか。どの人間も抗うのは最初の最初だけ。一度享楽に沈めば、自分から望んで甘い夢に浸り続けるようになるんだからね」
偽りの世界も気づかなければ、忘れてしまえば本物に他ならない。
そこで得た幸福は真実になる。
所詮、人間の認識というものは脳の中の出来事。
区別などつきようがない。
『……悪辣』
「ふふ。負け犬の遠吠えだね」
睨むキリの罵倒を軽く笑って受け流し、それからメタは視線を画面から移した。
微動だにせず近くに立つ、元々はキリの体だった機械人形へと。
「丁度プログラムのインストールが終わったようだね」
人格を剥ぎ取られてしまったそれは、奪われた排斥の判断軸・隠形の断片を再度付与されると共に完全なる装置として生まれ変わった。
メタの指示を受け、メタの思い通りに動く正に操り人形だ。
与えられた役目はマグ達の動向を調査し、その情報をメタに伝えること。
場合によっては隠形の力で闇討ちすること。
そのために、先史兵装【ヴァイブレートエッジ】も備えている。
破壊の判断軸・切除の断片を宿し、フィアのシールドを切り裂くことも容易い。
「さあ、行っておいで」
野に放たれた、最強の矛を持った隠形の追跡者。
その存在をマグ達が知る時が来るとしたら、それは間違いなく彼らにとって最大の危機の中でのことだろう。
街の管理者の屋敷。その純白の部屋の中で。
城壁から送られてきた情報を受け、メタは小さな笑みを浮かべながら呟いた。
『……何を、考えているのですか?』
そんな彼女に、眼前の机に置かれたモニターに映し出された機人の少女が人間と変わらない顔をしかめながら問いかける。
「私が考えることは一つさ。それは君も分かっているだろう? コスモス」
『人間の幸せのため、ですか。もっとも、貴方の考える幸せに過ぎませんが』
「それは君達も同じだっただろう? イクス・ユートピアの継嗣として、それぞれがそれぞれの考える最良の世界を作るために活動していたのだから」
本来、この秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアの管理者だったコスモスに対し、過去形で煽るような口調で告げるメタ。
画面の中のコスモスは一層不愉快そうな表情になる。
『彼らを泳がせるのも、そのためだと言うのですか?』
「いやいや、そもそも彼らを怪しむ情報は何一つとして存在していないよ」
手続き上も何ら問題はない。
形としてもメタの依頼を受けて街を出ただけだ。
おかしなところはどこにもない。
「オネットはこの街の電磁投射砲によって巨大機獣ごと破壊された。それ以上でも以下でもない。可能性を考えれば切りがないけれど、私は人間を信じるよ」
『ものは言い様ですね』
『……同意』
と、モニターに新たに一人の少女の姿が現れてコスモスに追従した。
新たにここに加わったAI。メタを襲撃したキリだ。
余り感情を表に出さない風の彼女だが、今はハッキリとした色が見て取れる。
コスモスと同じ系統のものだ。
『人間の愚かしさや卑しさを信じているだけでしょうに』
「悪し様に言い過ぎだよ。同じだけに、聡明さも誠実さも信じていると言うのに」
『……胡乱』
「酷いな。キリは」
十中八九。彼らはオネットから何かしらの情報を得て、メタの意に沿わない行動を取ろうとしている。それを隠そうとしている。
証拠はないが、状況からその程度のことは可能性として考慮している。
その上で双方に都合のいい依頼を用意した。それだけのことだ。
『ならば、もう一度聞きます。貴方は何を考えているのですか?』
「いや何。私も少し焦っているんだ。時空間転移システムが暴走するまま、この世界が滅びることは私だって望んでいないからね。余り悠長にはしていられない」
『それには同意しますが……』
『……危急』
「そうだろう? けれど、未だに解決の目途は立っていない。ここらで少しばかりカンフル剤のようなものが必要だと思ったんだ」
この停滞した状況を一変させる刺激が。
『それを彼らに担わせようと言うのですか』
「うん。戦争は必要の母。必要は発明の母とも言うだろう? 人間は伝聞じゃなくて実感できる脅威がないと本当の危機感を持たないものだからね」
かと言って、大々的に行えば無駄に敵を増やすだけになりかねない。
少人数の、適度な能力を有した存在を据えるのがいい。
未踏の迷宮遺跡を踏破することができるだけのポテンシャルも最低限必要だ。
オネット達がメタを討つ障害となり得ると考えてマグ達の前に立ちはだかったことも含め、彼らが最も適している。
運命的な巡り合わせと言ってもいい。
『そんな彼らがもし表立って敵対してきたら、どうするつもりですか?』
「……そうだね。返り討ちにして、享楽の街・遊興都市プレアにでも送るさ。私は別に、人間を傷つけたい訳じゃないからね」
機人はコスモス達同様断片を奪い、人格をこの端末に閉じ込めておけばいい。
『傷はつけずとも、骨抜きの飼い殺しですか』
「いいじゃないか。どの人間も抗うのは最初の最初だけ。一度享楽に沈めば、自分から望んで甘い夢に浸り続けるようになるんだからね」
偽りの世界も気づかなければ、忘れてしまえば本物に他ならない。
そこで得た幸福は真実になる。
所詮、人間の認識というものは脳の中の出来事。
区別などつきようがない。
『……悪辣』
「ふふ。負け犬の遠吠えだね」
睨むキリの罵倒を軽く笑って受け流し、それからメタは視線を画面から移した。
微動だにせず近くに立つ、元々はキリの体だった機械人形へと。
「丁度プログラムのインストールが終わったようだね」
人格を剥ぎ取られてしまったそれは、奪われた排斥の判断軸・隠形の断片を再度付与されると共に完全なる装置として生まれ変わった。
メタの指示を受け、メタの思い通りに動く正に操り人形だ。
与えられた役目はマグ達の動向を調査し、その情報をメタに伝えること。
場合によっては隠形の力で闇討ちすること。
そのために、先史兵装【ヴァイブレートエッジ】も備えている。
破壊の判断軸・切除の断片を宿し、フィアのシールドを切り裂くことも容易い。
「さあ、行っておいで」
野に放たれた、最強の矛を持った隠形の追跡者。
その存在をマグ達が知る時が来るとしたら、それは間違いなく彼らにとって最大の危機の中でのことだろう。
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