EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門

075 出立

「襲撃の影響はありませんでしたか?」
「ああ。我のところは全く問題なかった。と言うよりも、あれらは我々に危害を加えようという意思が皆無だったように感じたな」

 店に入って挨拶もそこそこに尋ねたマグに、クリルは普段通りの様子で答える。
 機獣達の動き方から、彼女はオネットの意図を薄っすらと理解していたようだ。

「汝らこそ、迷宮遺跡探索のさ中に呼び戻された挙句に機獣の対処をさせられたのだろう? 大変だったな」
「いえ、まあ、特に危ないことはなかったので」

 オネットに種明かしをされるまでは緊張の連続だったが、それも裏側の事実を知った衝撃によって完全に霧散してしまった。
 実際、本当に大変なのはむしろこれからだ。
 表向き何も知らない顔をしながら、オネットと共に向学の街・学園都市メイアに向かわなければならないのだから。
 もっとも、彼女とあの時あの場で相対することになった時点で、ここに至る流れには抗えなかっただろうから是非もないことだが。
 更に遡れば、そのオネットがマグ達を足どめしようとしたのはフィアとドリィの存在が大きい訳で……過去の選択の積み重ねが生んだ状況としか言いようがない。
 受けとめて、次にどうするかを考える方が有益だ。

「ところで、クリルさん。直近で復元しないといけない出土品PTデバイスってありますか?」
「む? いや、この前で粗方片づいたが……何故そんなことを聞く?」
「実はその、依頼の指名を受けて別の街に行くことになりまして」

 クリルの問いに答えたマグは、端末に改めて入力された依頼内容を続けて告げた。
 共生の街・自然都市ティフィカ近郊で発見された迷宮遺跡の攻略。
 疑わしい部分がある依頼だが、捏造で騙すよりは格段に説明が気楽なのは助かる。

「しばらく街を離れることになりそうなんですが、ちょっと日程が読めなくて」
「ふむ。だが、別に二度と帰ってこない訳ではあるまい?」
「ええ。それは勿論」

 いずれ必ずメタと対峙することになるのは間違いないし、そうでなくとも決定的な疑念を持たれないように必要とあらば適度に戻らなければならない。
 一度の行程で最終目的地まで一気に辿り着くことができる可能性も低い。

「ならば、構わん。契約の上でも問題あるまい」
「すみません。ありがとうございます」
「うむ。だが……戻ってきた時のために仕事を貯めておいてやろう」

 頭を下げたマグに一つ頷いてから、冗談っぽく悪い笑顔を作って告げるクリル。
 割と珍しい反応の彼女に、思わず苦笑を返す。
 もしかすると、何か雰囲気の違いを感じ取っているのかもしれない。

「もう出発するのか?」
「ええ。すぐにでも、ということなので」
「そうか。気をつけていけ。……色々とな」

 意味深長につけ加えるクリル。
 状況が状況だけに、そんな彼女の言動には強い引っかかりを覚える。
 どういう意味か聞こうと口を開きかけるが……。

「はい。旦那様は私達が必ずお守りしますので」

 しかし、それを制するようにアテラが応じ、マグは言葉を飲み込んだ。
 察しのいいクリルだ。
 余り長々と話をしていると、裏の事情にも勘づいてしまう可能性もある。
 と言うより、むしろ既に何かを掴んでいるのかもしれない。
 だが、ある意味で敵地とも言えなくないこの街の中では、余り踏み込み過ぎるべきではないだろう。お互いに。だから――。

「では、失礼します」
「……うむ。またな」

 マグ達はそこで話を切り上げ、クリルに別れを告げて店を離れた。
 一旦荷物を取りに宿に向かい、それから来た道を戻って再び城壁に入る。

「よし……行こう」

 先程返却したばかりの装甲車をまた借り受け、全員手早く乗り込んで街の外へ。
 しばらく自動走行に任せ、黙って移り行く景色を眺める。
 やがて十分に城壁が遠くなったところで。

「ふう。息苦しかったデスね」

 まるで長く息をとめていたかのような口振りと共に、オネットが告げた。
 ここからは自由に話をしても問題ないようだ。
 アテラの方を向き、彼女の中にいる彼女に口を開く。

「オネットは共生の街・自然都市ティフィカがどんなところか知ってるか?」
「いえ、私は行ったことがないので分からないデス。デスが、街はそれぞれの管理者の特色が強く出ているので、余りの雰囲気の違いに驚くかもしれないデスよ」

 字面から街路樹が沢山ある緑溢れる街並みをイメージしていたが、何やら全く異なったものが飛び出してきそうで不安が募る。
 加えて、この道行きには不自然な依頼やメタの危険な思想などの懸念もある。
 しかし――。

「どのような場所でも、私は旦那様と共にあります」
「おとー様はフィアが守ります!」
「ま、敵がいたらアタシが排除してあげるわ」
「ああ……ありがとな、皆」

 彼女達と一緒ならば、きっと何とかやっていくことができるだろう。
 三者三様の反応に、そう思いながら表情を和らげる。

「あ、私も可能な限りサポートするデスよ」
「うん。頼んだ」
「はいデス。まずは自動運転の制御から――」

 こうして秩序の街・多迷宮都市ラヴィリアを出たマグ達は、安全装置を外されて加速していく装甲車で新たな地を目指したのだった。

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