第１０１話　決戦の前に

　魔族たちを包み込んだ黒い霧はやがて収束し、蓋の開いている棺桶の中に吸い込まれていった。


　棺桶は中から蓋が開けられたようで、棺桶の外へと黒い手が出てきた。


　そして、中から魔族と思われる存在が出てくる。


　全身に纏った黒い鎧に対して目立つ白い肌、顔には赤い模様が浮き出ている。


　その魔族は立ち上がり、棺桶の傍に立っていた小さな魔族の前に立って口を開いた。


「我は魔王ランダギウスだ。我を復活させたのはお前だな？」


「その通りでございます。ワタクシはイノムント。あなたの復活を計画し、長い間行動してきた者です」


　この魔族は確かに自ら魔王と名乗った。


　今のこの状況はアカリの話と大方一致する。


「イノムント、魔王が復活した今、私には魔王と戦う権利があるはずだ。そして、もし私が勝ったのならば」


「ええ、分かっていますよ。その時はあなたの望み通りワタクシが保護しているレイナさんを解放します」


　ゼスタがイノムントという魔族と具体的な会話をしているが、魔王が復活したという事実を受け止めなければならない。


　ゼスタが魔王と戦うという意思を示しているのであれば、他の二人とまずは戦うべきだろうか。


　どのみち、魔王はここで倒しておかなければならないだろう。


　俺は、ハクアと共に、魔王の方へ歩き始めた。


「あなたと魔王の戦いには、ワタクシも大いに興味があります。というわけで、部外者には一先ず引っ込んでいてもらいましょう」


　イノムントはそう言うと、こちらに向いて、手に持っていた杖を大きく掲げた。


「ギガントウォール！」


　イノムントの杖が一瞬光り、イノムントたちと俺たちの間を阻むように巨大な壁が地面から出てくる。


　俺は妖力を足に込めて壁の方に走ったが、俺が到達するよりも早く壁は洞窟の上部まで塞いでしまった。


　壁が出現した瞬間に壁の厚さを見たが、刀で突破するのは無理があるだろう。


　それに俺は、この壁を破壊できるような技を持っていない。


　魔族の使う魔法には、こんな強力なものもあるのだと納得するしかないようだ。


「刀ではどうしようもなさそうだ。ハクア、何かいい案はあるか？」


「わしの妖術もこういう障害物に対しては無意味じゃな。別の道を探すか？」


　俺たちが決断に迷っていると、洞窟の上部から強烈な気配がした。


　俺が上を見上げると、そこには大きな生き物が翼を羽ばたかせて飛んでいた。


　その生き物は徐々に降下し、俺たちの近くに降りてきた。


　生き物の背中には、三人の影があった。


　三人は生き物から飛び降り、一人が急いで俺たちの元へ走ってくる。


「遅くなりました！状況はどんな感じですか？この壁は一体」


「魔王が復活した。わしらの介入を防ぐために魔法でこの壁を出現させたようじゃ。わしらではどうにもできそうにないから困っておった」


「魔王ですか？やはり私の考えていた通りのことが起きたようですね。しかしそれならば話が早いです。私たちには新たな戦力もいますから」


　アカリの後ろから一人の少女がゆっくりとこちらに歩いてきた。