天地の落とし穴~異世界たちが覚醒し、人類は激動の時代へ~

天地新生

第62話 安易な相殺

 俺の左腕にできた傷の氷は、徐々に広がり続けていた。


 腕が凍り、動かしにくくなってくる。


 敵の方を見ると、同じく左腕に傷ができていて赤く光っているが、それ以上の効果はない。


 どうやら妖怪なだけあってあちらの方が妖力の性質が強いようだ。


 このままでは、体中が凍るか冷えによって体力が奪われて負けてしまうだろう。


 氷は今も広がり続けており、悩んでいる暇はない。


 俺は、敵に向けてヘルファイアを放った。


 直後敵が避けるのを想定してすぐさま俺は妖火刀で左腕の傷口をなぞる。


 痛みによって、俺の意識が冴える。


 俺の傷口からは煙が出て、氷の侵攻は止まるのだった。


 敵はその様子を見て、すぐさま距離を詰めてくる。


 俺も魂の記憶を発動させて応戦する。


 俺は傷をつけられないよう、魂の記憶の動きから微妙に調節しながら動いているために、徐々に押されてしまう。


 俺は攻撃を受けるぎりぎりのところで魔力を消費し、妖火刀から妖炎斬を発動させて無理やり敵を後退させた。


 このままでは、確実に魔力を切らすのが先だな。


 かつて闘技大会でゼンと戦った時のように、魂の記憶に限界を感じる。


 しかし今はあの時とは違って妖力の使い方に慣れてきている。


 俺は魂の記憶の動きに合わせて、少しずつ手にも足にも刀にも妖力を込めていった。


 それでも、敵は霊眼解放によって全身に妖力が込められているため、なかなか押すことはできない。


 俺は攻防の中で、なんとか敵の左腕の傷口に刀を掠めることができた。


 だが、同時に敵の刀も俺の左腕の傷を襲う。


 お互いに刀の作用によってダメージを負うが、敵は俺にさっきのような左腕の処置をさせないため、続けて攻撃を仕掛けてくる。


 敵の猛攻を防ぐ中で、俺は魂の記憶と妖力を込めることに集中するので手一杯だった。


 しかし、そんな中でも俺の左腕は徐々に凍り始める。


 俺は左腕をなんとかすべく、また妖火刀に魔力を込めて妖炎斬を放った。


 敵は一度距離をとることになるが、俺のしたいことは分かっているため容赦せずすぐにこちらに飛んできた。


 何度も同じ手は通用しないようだ。


 敵の刀による攻撃を俺は妖火刀で受け止める。


 その時、敵の左腕からは確かに血が噴き出した。


 敵もダメージがあるのを必死で堪えているに違いない。


 これはもう体力勝負になるかもしれない。


 俺がそう思っていた時、聞き慣れた声がした。


「シンさん、もう一度距離をとってください!」


 俺は妖火刀に魔力を込め、妖炎斬を放った。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品