天地の落とし穴~異世界たちが覚醒し、人類は激動の時代へ~

天地新生

第27話 釣り竿を見た者は

 王都ネスピアの中は、どこまでも白い綺麗な街並みが続いていた。


 道行く人々の中には、刀を腰に差した人も見受けられる。


 俺がすれ違う人々を観察していると、ガルクが小さな声で話しかけてきた。


「おい、シン。あそこの呉服屋の店主を見てみろ」


 呉服屋の方を見ると、年老いた男の店主が椅子に座っていた。


 呉服屋なのに妙に汚い恰好をしており、なんとなく妙な気配を感じる。


 俺は、試しに霊視してその男を見てみた。


 すると、背中には妖力によって作り出された釣り竿が見えた。


 だがそこで、ガルクから注意を受ける。


「バカ、安易に霊視を使うな。相手にも気づかれるぞ」


 俺は、ハクアにも注意されていたことを忘れていたわけではなかったが、初めて来る王都で霊視を試してみたい気持ちになっていた。


 呉服屋の店主もこちらを見てくる。


 その瞬間、呉服屋の男が背中に背負っている釣り竿の糸が急にこちらと繋がった。


 そして、俺の体が釣り糸に引かれて引っ張られる。


 俺が動くよりも先に、ガルクが動いていた。


 ガルクは呉服屋の店主の元まで駆け寄り、深く礼をしている。


 俺はというと、そのまま釣り糸に引っ張られて店主の目の前までやってきた。


「この度の非礼、本当にすみません。こいつはまだ新入りで、ネスピアに来たばかりなんです。どうか許してやってください」


 ガルクが謝っているので俺も一緒にお辞儀をした。


「儂は構わんが、その少年からは妙な自信を感じたのう。妖力について簡単に考えすぎとる。こりゃ近いうちに、足元をすくわれるぞい」


「ご忠告感謝します。俺もまだ自分の力に関しては疑問を感じています。妖力の扱いについてもこれから学んでいくつもりです」


「お主がどんな力を隠しているのか知らんが、上には上がいることをよく理解した方がいいぞい」


 この老人がなぜ俺の力を察したのかは分からないが、老人の忠告には妙に考えさせられる。


「それじゃあ、オレたちはこれで」


「王都では慎重に行動することじゃのう、ホッホッホ」


 なかなか得体の知れない老人だった。


 しばらく歩くと、ガルクがさっきの老人について教えてくれた。


「気づいたか?さっきの爺さんは妖怪だぜ」


「そうだったんですか、確かに常人でない気配を感じたのですが」


「妖怪は妖力で作り出した武器を持っていることが多い。それと、霊視は開戦の合図になってしまうから気をつけろ」


「そうだったんですね。迂闊なことをしました。これからは気を付けます」


 どうやら結構危ない行為をしてしまったらしい。


 ハクアが、「妖力を習得するとはそれ即ち、見なくてもよかったものをみてしまう、戦わなくてもよかった争いに巻き込まれてしまうということ。それなりの覚悟を伴うぞ」と言っていたのを思い出した。


 妖力を扱えるようになることにはリスクもあるということだ。

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