天地の落とし穴~異世界たちが覚醒し、人類は激動の時代へ~

天地新生

第18話 ナラクの橋で再び

 俺はハクアに妖力で作ってもらった狐の仮面を被り、妖力を額の辺りに集中させた。


 ナラクの橋を渡るための下準備、普通の人間では渡ることができないと言われる所以だ。


 これ以外に、ハクアに言われたことは二つ。


 何があっても橋を渡り切るまで決して振り返らないことと、できるだけ真っ直ぐに一定の速度で進むこと。


 俺は駆け足で進むことにして、橋を渡り始めた。


 しばらく進むと完全に霧に覆われて周囲が見えづらくなるが、平坦な道が続く。


 このまま簡単に渡ることができそうだな、と思っていると、突然特殊な声がした。


『お前、人間か?』


 頭まで響き渡る声で、少し驚いたが、俺はスピードを変えずに進み続ける。


 しばらく進むと、少女が座り込んで泣いていた。


 それでも俺は、気にせず進む。


 さらに、大きな像が立っていたり、いろんな色の火の玉が浮かんでいたり、突然地面が揺れたりしたが、俺は気にせず進み続けた。


 確かに普通の人間ならかなり渡りづらいだろう。


 しかし、振り返らなければこれ以上のことは起こらないようで、俺はナラクの橋の感覚が掴めてきた。


 その時、聞き覚えのある声が、目の前からした。


「よう、待ってたぜ、人間」


 武器を持った、巨大な影二つ。


 ベニカガとアオカガが待ち伏せていたようだ。


 一か月間もここで待っていたのだろうか。


 ナラクの橋という場所は不利だろうが、ここは意を決するしかない。


 俺は同じ速度のまま進み続けた。


「無視してんじゃねえ!」


 ベニカガが右手で棍棒を振り下ろす。


 俺が左に避けそのまま通過しようとした時、ベニカガは棍棒を能力で左手に持ち替えた。


 しかし、俺は霊視しているので、その能力の発動を予知できていた。


 霊視は、妖力による特殊な気配、妖術の発動を事前に察知することができる。


 俺は横に振られた棍棒の上に足を乗せ、二段ジャンプして飛び越えた。


 アオカガが空中にいる俺を狙って斧を投げてきた。


 俺は腰に差していた剣を抜き、後ろを向いたまま剣で斧を弾いた。


 アオカガは続けて斧を投げてくるが、妖力を纏った武器であるために、すべて霊視で気配を察知できる。


 俺はスピードを落とさないように、極力少ない動きで斧を避け、無理であれば剣で弾いた。


「待ちやがれ!」


 ベニカガが追ってくるが俺の駆け足の方が速いようだ。


 俺は、無視して駆け抜けた。


 いつか、鬼たちと分かり合える日が来るだろうか。

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