天地の落とし穴~異世界たちが覚醒し、人類は激動の時代へ~

天地新生

第1話 アイルスでの出会い

 この世界の名はアイルス。魔法が一般的に使われる世界。


 この世界では近年、天地の落とし穴という現象が発生している。


 天地の落とし穴とは、突然誰かの足元に大穴が発生し、降下するとともに穴は閉じ、別の場所の空からその人物が降ってくるという不可解な現象のことだ。


 この現象に見舞われた人物は、ごく稀に特殊能力に目覚める場合もあるが、病気を患ってしまう場合もある。


 発生原因や効果などはある組織によって調査されており、その結果は一般市民には公開されていない。


 そんな現象、“天地の落とし穴”によって、降下してくる人物がまた一人、名前は アマノ・シン という。







-シン視点-


 俺は今、空を降下している。


 その上、寝起きのような夢を見た後の状態で、頭も回らない。


 しかし、何も慌ててはいない。


 この世界のことは全く分からないけど、俺の体には、この世界を生きた人物の魂の記憶とやらが刻み込まれているらしいから、生きていく上では心配することなど何もないだろう。


「夜空がきれいだな」


 そんなことを思う余裕があるほど、俺は落ち着いていた。


 向上している身体能力と高い位置からの落下を経験したかもしれない魂の記憶を使って無事に着地することができた俺は、辺りを見回した。


 どうやら森の中のようで、足元には草が生い茂っている。


 少し離れた位置には草が生えていない道があるようだから、そこを通っていくことにする。


「どちらの方向に進もうか。こういうのは気分で決めていこう」


 俺は適当に木の棒を倒して方向を決めるとそちらに向かうことにした。



「それにしても……」


 俺は記憶を辿ろうとするが寝ている間に見た夢を思い出せないかのように、記憶がぼやけてしまう。


 覚えているのは俺は元いた世界とは異なる世界にいるということと、世界の精霊という存在のためにこの世界の情報を集めなければならないということ。


 今までの記憶を失うというのは寂しいものだけれど、二つ目の人生としてこれから経験を積むしかないと前向きに考えることにした。


 暗い夜道を歩いていると余計に悲しくなってくるなと思っていた矢先、森の中に女の叫び声が響いた。


「キャァーーーーーーーー!」


 俺は喜びのあまり叫び声のする方に走って向かった。



 その現場に駆け付けるとランプを持った少女に角の生えた狼のような見た目の生物が3体。


 俺は自分の身体能力を試すべく1匹目の狼の顔に殴り掛かった。


 鈍い感触と共に狼は宙に舞い、衝撃で角も折れた。


 凄まじい手応えだった。


 俺が感動していると、被害者らしき少女が突然手を前にかざし、炎を放った。


 しかし、炎は弱く、仕留め切れていない。


 俺はなぜか自分にもできるような気がして手をかざし炎を出すイメージをすると、同じように炎が出てきた。


 俺は異世界に来たということを明確に理解する。


 炎を出すことはできたが飛ばそうとしても手から一定の距離を保ったまま動かない。


 俺は仕方なくそのまま掌ごと狼に叩きつけた。


 2匹目も倒れたところを見て、3匹目の狼は逃げ去って行った。


「大丈夫か?」


 俺はローブを羽織った黄緑色の髪をした少女に声をかけた。


 聞きたいことは山ほどある。


「助けていただきありがとうございます。しかし魔法の使い方はご存じないようですが、どこの出身の方ですか?どうやってこの森までやってきたのですか?」


 どうやら質問攻めにされるのは俺のようだった。




-少女視点-


 かかったかかった。


 探知魔法で自分に近づいてくるターゲットを確認しながら、私は目の前の魔物と適度な距離を保ちつつ後退した。


 そこに登場した黒髪の少年はいきなりダークウルフに殴り掛かり、一撃で倒した。


 低級な魔物とは言え、一撃で倒してしまうのだから、この少年は意外にも強いのかもしれない。


 私はその少年に見えやすいようにファイアボールを無詠唱で威力を抑えて放った。


 そして少年も何か思いついたのか同じように炎を手に宿すが放つことができない。


 その様子はあまりにも滑稽であったが、少年の意外すぎる行動に驚く他なかった。


 魔法の使い方を知らないという彼の意外性によって訳あって私は期待を寄せる。


 少年が2匹目のダークウルフを無理やり倒すと、3匹目は逃げていった。


「助けていただきありがとうございます。しかし魔法の使い方はご存じないようですが、どこの出身の方ですか?どうやってこの森までやってきたのですか?」


 私は窮地を救ってもらった少女として満面の笑みで質問を始めたのだった。

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