勇者として神からもらった武器が傘だった俺は一人追い出された。えっ?なにこの傘軽く見積もって最高じゃん

ノベルバユーザー521142

【閑話】 その後の村では…ギルマスざまぁ

 テルとイブキが村をでてから数日後。
 私は前と同じように猫を抱っこして日向ぼっこしながら雑貨屋の店番をしていた。
 店番といってもそんなに人なんかきやしないんだけどね。

 暇だから店を開けてるって感じだよ。
 今じゃ昔が懐かしいよ。
 腰を痛める前は世界を股にかける冒険者だった。

 色々な国へ行って魔物を狩ったり、自称魔王軍の残党を潰したりしたもんだ。
 だけど、腰を痛めてからは思うように剣を振れなくなった。
 医者からはこの腰はもう治らないから痛みと付き合っていくしかないと言われていた。

 私はふざけるなって思ったよ。
 腰の痛みくらいで冒険者を引退してたまるかって。

 でも気が付けば腰の痛みは悪化し、それをかばうために腰は曲がり背筋を伸ばして歩くこともできなくなっていた。
 本当年は取りたくないって思ったよ。
 情けなくて何度人知れず泣いたことか。

 だから私はできるだけ人目につかない村を選んで隠居した。
 ずっとここで静かに暮らすはずだった。

 でも、テルがこの村にやってきて私の人生は変わった。
 テルの作った風呂は私から腰の痛みをとってしまった。
 それは奇跡かっていうくらい驚いたよ。

 どんな名医も治し方がわからないって言われたんだからね。
 テルには感謝してもしきれない。

 それとイブキだよ。
 イブキには本当に辛い運命が待ち受けているかも知れないね。
 あんな仕打ちを受けてるなかでテルに出会ったのは奇跡だろうね。
 今後は静かに幸せに暮らしてもらいたいものだよ。

 でも、そうもいかないだろうね。
 イブキには解決しなければいけない問題が沢山ありすぎる。

 それにニクス……まったく不思議な縁もあったもんだよ。
 この事実を知ったらどれだけの人間があいつらを追いかけることになるのか。

 このまま誰もあいつらの関係に気がつかなければいいけどね。
 私は物思いにふけながら猫をなでる。
 今日も平和だねー。

「大変だ! ニコバア! 上級ポーション置いてないか! ナッツが怪我をして死にそうなんだ」

 いきなり飛び込んできたのはたまに雑貨を買いにくる冒険者のキーナだった。

「いったいどうしたんだい? 上級ポーションはギルドに備えがあるはずだろ」
「それがギルドマスターがポーションを使わせてくれないっていうんだよ」

「なんでさ? あれは怪我をした時ようだろ?」
「わかんないよ! それより上級ポーションは?」

「キーナ知ってるだろ。うちは雑貨屋で薬は専門外だよ。あるのは……素人が作った下級ポーションしかないよ」
「ニコバアそれでもいい! 私に売ってくれ」

「なにがどうしたってんだい。とりあえずナッツのところへ行くよ」
 私とキーナはナッツのところへ走った。

 腰が曲がっていた時はあれほど遠く感じたギルドが今では距離を感じない。
 ナッツはギルド本部にいた。

 ナッツの身体には胸から腹部にかけて大きな裂傷ができていた。
 誰が見ても上級ポーションを使わなければ長くはもたない。

 呼吸も荒々しく、顔色が白くなっている。
「ギルマスはどこにいるんだい? なんで怪我人を放置しているのか説明してもらおうか。こういう時こそ上級ポーションを使うべきだろ」
「ニコバアか……」

 ギルドマスターのサブルクは部屋の奥から顔をだす。
 あきらかにうるさそうな奴がきたといった感じだ。

「ギルドになら上級ポーションが準備されているはずだろ。それが冒険者ギルドの役割じゃないか。なんで使ってやらないんだよ」

「ばっ……バカなことを言うな。上級ポーションをそんな駆け出し冒険者に使わせるわけないだろ。冒険者は基本自己責任なはずだ」
 サブルクは何を慌てているのか必死にポーションをだそうとはしなかった。

 おかしい。普通ならギルドとしてはここで恩を売っておいた方がいい。
 特にナッツは他の冒険者からの信頼も厚かったはずだ。

 彼を助けるだけのメリットがこの田舎のギルドにはあるはずなのに。

「お金ならいくらでもだすから。頼むからこいつを助けてくれ」
 キーナは泣きながらサブルクの足にしがみつく。

「じゃあ、いくらなら売るんだい? キーナはいくらでも出すって言っているじゃないか。なら買わせてやればいいだろ」

「いっ……1000万ペトなら売ってやる」
 1000万  
 これはあきらかにおかしい。
 戦争中ならまだしも今は平時で通常は100万ペトだ。
 どんなに高くてもその倍くらいだろう。

 命の値段とはいえ上級ポーションはまったく出回らないわけではない。
 それにいくら高いとはいえギルドでの販売価格としてはありえない。
「物を見せてくれるかい? 本物なら私がこいつらに1000万貸そうじゃないか」
「何を言ってるんだニコバア。コイツに1000万なんて価値があるわけないだろ」

「あんたも知ってるだろ? 私は昔それなりの冒険者だったんだから。将来に期待できるかどうかは生き残ってみなければわからないんだよ。いいから早く持ってきな」

 サブルクは目をそむけたまま何も言わない。

「どうしたんだい? もしかして物がないのかい?」

 サブルクのかわりに反応したのは受付の女性だった。

「ギルドマスター鍵を貸してください。私がとってきます。これは正式なギルドへの依頼です。ギルドマスターが拒否なんておかしいです」

「黙れ! クビにするぞ」
 全員の目がギルドマスターにむかう。

「俺は知らない。関係ない。前のギルドマスターがきっとどうにかしたんだ」
「ギルドを引継ぐときにギルドマスター同士で物品の在庫は目視で確認するのは誰もが知っていることだろ。それをあんたが知らないってのはおかしいんだよ」

 ギルドマスターが膝から崩れ落ち、俺は知らないとブツブツ独り言のように言っている。どうやらギルマスが上級のポーションをどこかへやってしまったようだ。

 探してもこの村にはないだろう。
 あれば今なんとかしているはずだ。
 冒険者の一人が急に騒ぎ出しはじめた。

「そう言えば、こないだ隣街で上級ポーションが安く流れてきたっていう噂があったぞ」
「あれか、貴族が買ったっていう」

「そうそれ! でどころがはっきりしてなかったが、こいつが売ったのか?
「あっ! 隣町の女がキャンディを舐めた男に言い寄られてるって。その男が気持ち悪いから法外な値段をふっかけたらその金額を持ってきたって」

 どうやら隣町の女に貢ぐために上級ポーションを闇市にでも売り払ってしまったのだろう。

「ギルマスを追及するのは後だ。誰かを助けてやれる奴はいないのか」
「最近きた冒険者の風呂屋はどうなんだ。傷が治ったとかっていう噂があるじゃないか」
「テルの風呂はギルドマスターから高額の家賃をふっかけられて追い出されたよ」
「なんてこった。あいつは誰もやりたがらない薬草採取とか雑用をこなしてくれるいいい奴だったのに」

「俺は毎日風呂通ってたのに」
「そっ! そんなに風呂に入りたいなら、ふっ風呂は俺が経営を続けてやる。とにかく誰かその男をなおす方法をさがせ。治せば報酬は弾むぞ」

 サブルクは風呂屋の話題になった途端また慌てだした。

「サブルクあんた金に困って、上級ポーションを売りはらい、その上テルたちまでまで追い出して繁盛している風呂屋を奪ったんだな。だから規約違反だとかいちゃもんつけて」

「そっそんなわけないだろ。俺はギルドのためを思ってだな……」
 サブルクの顔はナッツ並みに白くなり、最後の声はもう聞こえないほど小さくなっていた。

「そいつの処罰はおいとけ。もうどうあがこうがこいつに未来はない。それよりもどうする? 下級ポーションでも買い集めてくるか?」

「一応私も下級ポーションを持ってきたよ。素人の試作品だから効果はどうかわからないけどね」

 なぜかここでテルの名前を言わない方がいいと思った。
 余計な騒ぎはテルたちを危険にさらす。

「お願いニコバア。下級ポーションでも使ってくれれば少しでも持つかもしれない。私はその間に隣町までいき上級ポーションを買ってくる」

 確かに使わないよりは使った方が少しはましだろう。
 でもこの傷では……。

 ナッツの身体からでてくる血の量が私がきた頃よりも減ってきている。
 そう長く考えている暇はなさそうだ。

「素人が作ったものだから、正直効果はわからないし回復しない可能性もあるがいいかい?」
「もちろんそれでもいい。ここで待っているだけじゃ助からない」
「しゃーないね。冒険者は元々自己責任だからね」

 下級ポーションの瓶のふたをあけ、飲ませてやる。
 出血している部分から流れ出る量がかなり減っていく。
 もしかして遅かったのか……!?

 いや……違う!

「かなり……効果が高い……!?」
「効果が高いってほどじゃない。完全に傷が消えているじゃないか」
 先ほどまであったナッツの胸部から腹部への裂傷が徐々に消えていく。

 あれだけひどい怪我だったのに今では峠はこしたように呼吸が徐々に穏やかになり顔にも血の気が戻ってくる。

「ニコバア全然下級ポーションじゃないじゃないか。これだけの回復力なら上級ポーションだって……ニコバア?」
「あぁ……私が一番ビックリしているよ」

「ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいよ。私ももらいものだし」
 テルの馬鹿野郎はいったいどんな腹痛の薬を置いていったんだい。

 それからギルドマスターの不正があばかれ、ギルドマスターはクビになった。
 ギルドマスターの弟モッサも今までの行いが悪すぎたせいでギルドにはいられなくなり二人して村からでていった。

 結局風呂屋はまた営業できる人がいなくなったので、そのまま空き家になっている。
 それにしても、あの子はいったいなんだったのだろう。
 上級ポーションを下級ポーションだと言って渡したり、イブキやニックを普通に連れている。

 私の腰も今では腰痛があったのが嘘のようにまったく痛みがなく身体の調子もいい。
 もしかしたら風呂の水の中にも上級ポーションを入れていたのかもしれないなんてことを考えてしまう。

 でも、誰がそんなことを信じる?
 ポーションでお風呂を作ったなんて言ったら頭がおかしいと思われて終わりだ。

 今はあいつらが幸せな生活を送ってくれるようにと願う。
 一時でも幸せな時間が長くなるようにと。

 今日も私はこの平和な村で猫をなでながら無事を祈るのだった。

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