幼馴染に異常性癖を暴露(アウティング)されて破滅するけど、◯◯◯希望のかわいい彼女をゲットしたので人生楽しい~幼馴染が後になって後悔しているようだけど、もう遅い

スンダヴ

第53話 共有

私がそれに目覚めたのは、小学3年生の頃。

麻衣含む家族みんなで海に行ったのが、全ての始まり。

「お姉ちゃん、どこへ行くのですか?麻衣と砂浜でちゃぷちゃぷするのです」
「えー、それじゃあつまらない。私と沖まで泳ごうよ!」
「だめなのです!ママとパパに怒られるのです!」
「もう怖がりなんだから。私1人で泳ぐもん」

海に行くのは何度かあったけど、沖まで行くのは初めての体験だった。
子供特有の冒険心に心躍らせ、私は浮き輪につかまりながら岸からどんどん離れていく。



「え…いや!」

浮き輪に穴が空いているのに気づいたのは、周りに誰もいない所まで到達した時だった。
慌てて浮き輪の穴を塞いだり、足をばたつかせて泳ごうとしたけど、どんどん体が海底に沈んでいった。

やがて顔まで海に浸かり、息をするのも難しくなる。

「ママ…助け…ダメっ…」

やがて全身が海中に没し、鼻や口から海流が流れ込んでいった。

(いや!死にたくない!誰か、助けて…!苦しい…)

息が完全にできなくなり、もがけばとがくほど苦しみに苛まれ、パニックに襲われる。
口から泡が飛び出していくほど、意識が遠くなっていった。

(もう…だ、め…)

手足に力が入りなくなり、視界が暗黒に包まれていったその時ー、



私の体を奇妙な感覚が突き抜けた。

全身の力が抜け、ゆらゆらと漂う感覚が心地よい。
ぼーっとしていた思考の一部がクリアになり、異様に研ぎ澄まされる。
死にゆく途上という異常な状況にあるとはっきり知覚した時、私は思った。



(気持ち、いい…)





どこか未知の世界へ誘われようとした時ー、



私はベッドの病院にいた。

「お姉ちゃん!麻衣のせいで、麻衣のせいで…!」
「麻衣のせいじゃ、ないよ。私が馬鹿だった」
「うわああああ…」
「ごめんね。もう、危ないことしないから」

号泣する麻衣と抱き合いながら、少しだけ罪悪感を感じる。



その危ないことに、私はすでに魅入られていたのだから。


****


といっても、しばらくは我慢しようとした。

あれは溺れて幻覚を見ただけ。
いずれは忘れ、普通の女の子に戻るはず。

その思い込みを続けられなくなったのが、小学5年生の頃。
初潮を終えて性に目覚めた時、私はとある衝動に耐えがたく苛まれるようになる。

あの時の感覚、死を目前にした時の甘美な感覚をもう一度味わいたい。

死にたくはなかったけど、どうしても私が我慢できなかった。
あの時見れなかった未知の世界を見てみたい。

廃ビルの屋上まで登ってスリルを楽しむ、わざと電車に飛び込もうとするなどいろいろな手法を試したけど、麻衣含む家族にバレずこっそり実行する手段といえば1つしかない。

「ぐっ…は…!」



それが、首絞め。
ベッドの上で自分の首を思い切り絞め、死の岸辺まで自分を導いていく。

窒息すること自体はさほど好きではないので、自分の首であろうと容赦はしない。

(ごめん、麻衣。私、あなたとの約束を裏切ってる…)

完全に意識が遠のく寸前で手を離し、息を荒々しく吐いて整える。
落ち着いたらまた首を絞めるの繰り返し。

何度か失禁したこともあったけど、それで衝動は収まり、なんとか日常生活を継続できた。



中学3年生の終わり頃までは。
高校生になるとそれでは満足できなくなり、私は力を込めすぎてしまうようになった。

「お姉ちゃん!どうしたのですか?顔色が悪いのです」
「…え?ああ、何でもない。何でもないよ」
「それなら、良いのですが…」

遂には、ベッドやソファの上で失神するようになってしまった。
明らかに危険なレベルだったけど、それでも止めることはできない。



本当に死ぬのかな、私。
麻衣、お母さん、お父さんと離れたくない。
でも、我慢できない。
死にたくないけど、死に近付きたい。



「誰か…お願い。助けて…」
私は夜ベッドで泣きながら、求めていた。
自分の欲求と衝動を満たしてくれる存在を。
否定せず、優しく包み込んでくれる人を。





そんな時、私は涼真くんという天使に出会った。


****


「玲ってタナトフィリアだったの!?」
「うん。私、涼真くんを騙してた。ごめんね…ごめんね…!」
「いいんだ。よく言ってくれた」

泣き崩れる彼女をそっと抱きながら、俺はこれまでの彼女を回想した。

(普通の女の子なのにかなり無茶するタイプだとは思ってたんだよな。そう言えば『すとらんぐるしるばーしりーず』も大体そのまま絞め殺されるってパターンだった。最近は作者もネタが尽きてきたのかNTRモノとか手を出したり…ってそんなこと今はどうでもいい!)

彼女が今ここで真実を話すのは、俺によほど重要なことを伝えたいからだ。

「うぉい!煽り運転だろ今の!警察呼ぶぞこら!」

車の運転に苦戦している再生怪人本田から逃げるより重要なことを。

「私ね、あなたのたくましい腕で首を絞められるようになってから、死に対する衝動が抑えられるようになったの。だから、あなたのためならなんでもしてあげたいって心に誓った」

こちらの腕をぎゅっと握りしめ、玲が俺の胸に顔を埋める。

「私の人生に楽しさと安らぎをもたらしてくれた涼真くんと、ずっと一緒にいたいって…」
「俺だってそうさ。俺も、玲とずっと一緒にいたいし、これからもずっと一緒にいる」
「…優しいね、涼真くんは。私なんて嘘つきにはもったいないくらい。でも、駄目なんだよ…」

玲が顔を上げた時、その表情には絶望が宿っていた。

「私、また衝動が強くなってきちゃった。涼真くんがもっと強い力で私を絞めてくれないと、体のうずきを抑えられない」
「…より強く絞めて欲しいとせがむのはそのせいだったのか」
「いつか、私はあなたに殺して欲しいとお願いしちゃう…!涼真くんを人殺しにしちゃうよお…!」

彼女の気持ちが、俺には痛いほど分かった。
もし彼女が本気で懇願してきたら、俺は本当にそうしてしまっていたかもしれない。

それぐらい、彼女のことを愛している。

「だから、嘘つきの私のことは見捨てて…涼真くんはもう縄をほどいたから隙を見て脱出できる。私のことは、助けなくていい…」
「そんなことは、しないさ」
「…!涼真く…」

俺はー、



「死に極限まで近づけば、玲は苦しみから開放されるんだね」

玲の首に両手をかけた。


****


「すんすん!すんすん!すんすん!」
「どう?麻衣ちゃん。私は佐渡さんの血のオーラをもう感じられない。もう乾いてしまってるんだと思う…」
「あのおんぼろ軽自動車から、かすかにお姉ちゃんとお兄ちゃんの匂いがするのです!あれに間違いないのです!」
「本当ですか?ああ佐渡さま、私の裸を見るまでは死なないでくださあああああい!天野さんもあまり付き合いないけど死なないでくださあああああい!」
「ちょっと!あなた裸見えてるわよ!」

俺はタクシー運転手の伊藤。
この道30年のベテランだが、こんな客は未だ乗せたことがねえ。

客はこんな枯れた俺でもつい欲情しちまう美少女が4人。
それだけでも珍事だが、依頼は男女2人を拉致した自動車の追跡。
というわけで、高速道路を走りながらずっと追いかけている。

ドラマかよ。

今は全員窓から身を乗り出して、高速道路を走る軽自動車を睨みつけていた。

それだけならまだいいんだが、どうやらこいつらは全員変態らしい。

1人は高速道路で走行する車両から人の匂いが分かるとかいうツインテール。
1人は同じく車両から好きな人の血のオーラを感知できるとかいうセミロング。
1人はコートの下には何も着込んでいない変眼鏡。
最後の1人である白髪も、ぱっと見はわからないが多分変態だろう。

アニメかよ。

まったく、とんでもないことに巻き込まれちまったもんだ。

「運転手さん!」
ツインテールが、俺の方を向いた。

「お兄ちゃんとお姉ちゃんを、絶対、絶対に助けてくださいなのです!」

…へっ。
人生で人を助ける経験なんてないと思ってたが、これはこれでいいな。
30年の経験と腕、見せるのは今しかねえ。

「任せときな!絶対に最後まで追跡してやっからよ!」
俺はハンドルを握りしめ、決意を新たにするのだった。





「ところで、警察はいつ来るんだい?」
「「「「…あ」」」」
「呼んでないんかーい!」


****


「…ありが、とう」

玲は全身から力を抜き、目を閉じた。
俺にどうされてもいいということらしい。


だが、俺の考えは少しだけ違った。
首から少し両腕を離す。

「…え?」
「ただし条件がある」







「俺の首も絞めてくれ、玲」




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