幼馴染に異常性癖を暴露(アウティング)されて破滅するけど、◯◯◯希望のかわいい彼女をゲットしたので人生楽しい~幼馴染が後になって後悔しているようだけど、もう遅い

スンダヴ

第39話 序曲

「本気なのですね、お兄ちゃん」

『例のグループ』に連絡を送りながら、麻衣ちゃんが尋ねる。

「ああ。でも、麻衣ちゃんは危ないから、直接奴らを追い詰めるのは僕と玲だけだ」
「そんな!ここまで来れば麻衣もー」
「麻衣ちゃんは秋山さんと『例のグループ』を取りまとめてもらう。俺が合図したら、突入してくれればいい」
「お兄ちゃん…」
少し不安げな表情を浮かべる麻衣ちゃんの頭を優しく撫でた。
さらさらとした髪の毛は、姉の玲とまったく同じ。

「君は今日石井や戸田から解放される。明日からは自由の身だ。青春を思いっきり楽しむんだよ」
「お兄ちゃんがそう言うなら、従います。でも…」

ぽふん、と麻衣ちゃんが俺の胸に顔を埋める。

「無事に帰ってきくださいなのです。そして、また麻衣にすんすんをお願いします」
「もちろんさ」



すでに時刻は正午を過ぎ、午後になろうとしている。
復讐が開始されるまで、おそらく残り数時間もなかった。


****


「そうですか…許せないですね、それは」

麻衣ちゃんと交代し、最後は秋山さんと合流する。
俺から詳しい事情を聞き、彼女は表情を暗くした。

「すまない、不愉快な話だったな」
「いえ、大丈夫です!結衣も覚悟が決まりました。麻衣ちゃんに詳しく言わないのは正しいことだと思います。聞いたところでどうしようもありませんし」

秋山さんは痴漢魔、本田にトラウマを刻みつけられた過去がある。
同じような体験をして欲しくないと思うのは、当然の結論なのだろう。

「さっ!早速あの2人を追いかけましょう!と言いたいところですが、どうやら休憩するみたいですね」

石井と戸田は、ピンク色のパラソルが立ち並ぶカフェへ入っていくようだ。
来園してから数時間経ってるし、そろそろ休憩の頃合いなのだろう。

「佐渡さんも疲れましたよね?結衣たちのためにずっと歩いてますから。休みませんか?」
「そうするか」

秋山さんの言う通り、ここ数時間の尾行で結構疲労が溜まっていた。



石井と戸田に感謝するつもりは毛頭ないが、便乗させてもらうとしよう。


****


「これ美味しいですよ!佐渡さん!」
「どれどれ。うん、これはいけるな秋山さん」

と言うわけで入場したのはその名の通り『ピンクカフェ』。
屋根、椅子、テーブル全てがピンク色に染められた、ユニバーサル・スタジオ・ワールドの名物カフェだ。

そこで注文したサンデーを秋山さんと一緒に食べながら、離れた席にいる石井と戸田を監視する。

石井と戸田に、目立った動きはない。

「でも、こうしてみると結衣と佐渡さんは本当のカップルみたいですね」
「え」

思いもがけない伏兵。
秋山さんがニコニコしながら、スプーンでサンデーをすくい、俺の元にもってきた。

「それってどういう」
「はい、あーんですよ」
「あ、あーん」
「ふふふ。久瀬さん、可愛いです」

…こ、これは断じて浮気ではいない。
浮気ではないのだ。

「でも、こんなことしちゃダメですね」

秋山さんの表情が、ふっと曇る。

「本当は付き合ってますよね、天野さん。天野玲さんと」
「…いつ気付いてたんだ?」
「分かりますよ、2人が仲良くしてるところを見ると。女の勘ってやつです」
「…ごめんね、別に隠すつもりはなかったんだけど、言い出すタイミングがなかったんだ」
「いいんです!二人はとっても似合ってるカップルだと思います。結衣も応援しますね。ただ…」

彼女の表情はすでに元へ戻っていた。

「たまにで良いので、結衣に血を吸わせてください。それだけで結衣は幸せです」
「秋山さん…」

何か心に引っかかるものがあったけど、口を開く前に、石井と戸田に動きが見られる。
席を離れ、また別の場所へ向かうようだ。

が、何かに足を取られ、戸田が転んで倒れる。

「いたっ!」
「どしたの〜戸田ちゃん〜ドジだな〜」
「…少しぐらい手を差し伸べなさいよ」
「え?なんかいった〜?
「なんでもないわ、早く行きましょう」

相変わらずの仲の悪さを発揮しながら、2人は去っていった。

「俺たちも追いかけるぞ」
「待ってください」
「ん?どうしたの?」

秋山さんが俺を止め、愉快そうな表情を浮かべた。

「好みではありませんが…念のため味見しておきましょう」


****


その後も尾行はしばらく続き、いつの間にか夜になっていた。

周囲が暗くなったタイミングで、玲と麻衣ちゃんを呼び寄せる。

「佐渡くん、合流して大丈夫なの?」
「ああ。この暗闇じゃ見えないだろうし、あいつらもしばらくは動かないだろう」
「お兄ちゃんの言いつけ通り、『例のグループ』と連絡を送ったのです。夜にはここへ来るのです」
「ありがとう、麻衣ちゃん。秋山さんもお疲れ様」
「いえいえ、こちらも楽しい時間を過ごせました」

今石井と戸田がいるのは、ユニバーサル・スタジオ・ワールドのメインストリートである。
ここで、とあるイベントが始まろうとしていた。

「「「わあ…!」」」

色とりどりのキャラクターが行列をなして行進する、スペクタル・ナイト・パレードである。
この日を締め括る最後のアトラクションだ。

「すごいよ佐渡くん!あれってワーツホグ城の電車かな?」
玲。

「すごいのです!またここに来たいのです…」
麻衣ちゃん。

「佐渡さん、この日のことは、一生忘れません!」
秋山さん。

色と光の饗宴を、3人の少女たちは表情を輝かせながら楽しむ。
まるで、今日行われる復讐なぞ存在しないかのように。

(今この瞬間だけは楽しんでもいいか)

長く苦しかった日々にも、ようやく終わりへと向かう。



戸田は、この光景を見て何を思うのだろうか。


****


パレードが終わり、テーマパークの人は閑散とし始める。



息を殺して見つめていると、石井と戸田は移動を開始した。
明らかに、テーマパークの出口へと向かっている。

「いよいよだ。まずは僕と玲だけで尾行する。秋山さんと麻衣ちゃんは手筈通りに」
「分かりました」
「成功を祈っています、お兄ちゃん」

玲が、こちらに手を差し伸べてきた。

「行こう、佐渡くん」
「ああ」

手をしっかりと握り返し、慎重に2人の跡をつけていく。



いよいよ、戸田に鉄槌を下す時が来た。




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