幼馴染に異常性癖を暴露(アウティング)されて破滅するけど、◯◯◯希望のかわいい彼女をゲットしたので人生楽しい~幼馴染が後になって後悔しているようだけど、もう遅い

スンダヴ

第26話 零落

数百枚の福田さんの写真は、3階の教室からひらひらと、地上へ落ちていった。
今日は風もさほど強くなく、吹き飛ばされずに運動場へと届く。

「なんだこれ?」
「うちの制服じゃん!」
「エッロ。おっぱい見せてんじゃん。これ誰?」

最初に発見したのは、ちょうど運動場手前をランニングしていた陸上部員のようだ。
写真を拾い、付近の仲間たちと話し合っている。

「なんか校舎でやべえもんがばら撒かれてるらしいぞ!」
「うそうそ!誰?」
「早いもん勝ちだぜ!」
「これ…福田さん?」
「うちの学校事件起きすぎ〜」
「みんな!写真を拾ったらダメよ!」
「少しぐらいいいだろ、ケチ」
「こんだけばら撒かれたらどうせ隠しきれねえわ…」

陸上部員だけではない。

サッカー部、野球部、ラグビー部、吹奏楽部。
屋外で活動していたありとあらゆる生徒が集い、写真を拾い始めた。

驚きの表情を浮かべるもの、にやけながら懐に隠すもの、先生へ報告するのか職員室へ向かうもの、義憤を感じる怒りの声を上げるもの。

人々と感情のるつぼだ。

リアクションは多種多様だが、共通してるのは、福田の秘密をやがて理解するだろうということ。

画像からアカウントが判明し、アカウントから福田のものであると判明し、福田の性癖も判明し、やがては過去の悪行に至るまで。

福田美奈子という存在は全て丸裸となる。
他ならぬ、僕たちの手によって。

「壮観だね、佐渡くん!見て!先生たちも出てきたよ!」

天野さんは手すりから身を乗り出し、まるで遊園地に来たばかりの子供のようにはしゃいでいる。

「すごいです佐渡さん!学校始まって以来の事件になりそう!」

秋山さんも放心状態の福田から手を離し、地上の風景を嬉しそうに眺めていた。



そんなに無邪気でいいのかという気はするが、まあいいだろう。
こうするしかなかったんだ。

いざとなれば、僕が天野さんと秋山さんを無理やり参加させたと言えばいい。
運が良ければ、2人は学校には残れるはずだ。

「大丈夫だよ佐渡くん!私中卒でも大丈夫だから。ヤンキーものとか好きだし」
「大学に行っても、吸血性癖が満たされるわけじゃありまんしね」
「私の首絞め性癖もね!」
「「ねー!」」

…多分。

「さあ、2人とも。いさぎよく職員室へ行こうか。福田も一緒にー」





「いやあああああ!!!」
その時、福田が叫び声を上げる。

「私は、私は違う!違うのおおおおお!!!」

止める間もなく教室を飛び出すと、階段を駆け降りていく音が響き、やがて静寂が訪れた。

本田もそうだったが、どこに逃げようと言うのだろう。
そもそも、そんなに傷つけられるのが怖いなら、誰も傷つけなければよかったのに。
少なくとも、僕のように、理不尽に傷つけられることもなかったはずだ。

「追いかけなくていいよ、佐渡くん」

天野さんにそっと手を掴まれる。
気づくと教室の外に出ており、どうやら福田を追いかけようとしていたようだ。

「放っておけばいいじゃない。復讐も成し遂げたし、佐渡くんがこれ以上関わることはないよ」
「でも…」
「佐渡くんが本田さんから私を助けてくれた時、嬉しかった。でも、少し危ないなと思ったの」

天野さんは、不安そうな表情を浮かべる。

「佐渡くんは誰かを助けたいと思った時、危ない橋を渡るなって」
「…」
「だから、ここにいよ?」

確かに、言う通りかもしれない。
連れ戻せば僕の行為が許される、なんてことはないはずだ。
冷静になれば、福田が僕を再び糾弾するかもしれない。

「勘違いしてるよ、天野さん」
「…?」
「僕はねー」





「福田さんが落ちぶれるのを見たいだけさ」
それでも、追いかけることにした。

ー いくらなんでもやりすぎよ!佐渡くんだって…

本人にそのつもりはなかったろうが、一応恩はある。


****


「はあっ、はあっ、はあっ…」

怖い。
学校を飛び出し、ひたすら走り、衝動的に乗り込んだ電車の中で、私は震えている。
周囲の乗客が気味悪そうに眺めているけど、気にしてる余裕はない。

今この瞬間も、みんなが私の写真を見てる。

「見られちゃった…全部、全部、全部…!」

膝をぎゅっと握りしめないと、恐怖で叫び出してしまいそうだ。

佐渡たちの後をつけなければよかった。
天野の秘密を暴露しなければよかった。
秋山の話を信じなければよかった。

(ちがう…)

絶望感の中で、受け入れようとしなかった現実と向き合う。

(本当に怖かったのは…)





写真がばら撒かれた時、えもいえぬ興奮を覚えたこと。
教室の中で堂々と振る舞う3人に、羨望の感情すら覚えたこと。

(あの3人に偉そうに言える権利なんて、最初からないじゃない…!)

自分は賢く振る舞ってるように見えて、結局は佐渡と同じ異常者だ。

どうしようもない、変態だ。

(違う…!)

結局、受け入れたくない考えを頭から振り払う。

(私は異常者じゃない。異常者は、あの3人なんだ。私は、ただ脅されて仕方なくやっただけ。それなのにこんな制裁を受けるなんておかしい!)

「次は、梅田、梅田です」

ふらふらと倒れそうになりながら、目的地へと向かった。
私は秘密を暴かれ、学校にも、家にも居場所がない。
世界中、みんなにネットで監視されてひとりぼっち。

こんな私を助けてくれるのは、1人しかいない。


****


『TRAVAS』に着くと、吉岡さんは機嫌良く接客していた。

「この服なんてどうですか〜?お似合いですよ〜」
「うーん、どうしようかな…」
「絶対似合いますって!お客さん超可愛いから。今僕とLINE交換してくれたら安くしますよ〜」

とある女性客になれなれしく、ニヤつきながらベタベタ触ってる。
私には、決してしてくれないこと。
頭に血の気が上った。

「吉岡さん」
「うわっ!なんで急に…」
「?この人誰ですか?」
「あ〜ちょっと待ってください〜」

慌てた吉岡さんが、人気のない場所に私を連れ込む。

「来るなって言ったよね?邪魔だから帰って」
「帰りません。今日泊めてください。行く場所がないんです」
「帰れって!」
「…しますよ?」
「は?」
「バラしますよ?」

シャツをたくし上げ、ブラを分かりやすく見せる。



「吉岡さんが、私の裸オンラインで毎日いやらしい目線で見てるって」

あの3人には、脅迫は通用しなかった。




でも、この人なら。




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