幼馴染に異常性癖を暴露(アウティング)されて破滅するけど、◯◯◯希望のかわいい彼女をゲットしたので人生楽しい~幼馴染が後になって後悔しているようだけど、もう遅い

スンダヴ

第15話 罠

朝9時50分。
日曜日なのでそこまで混んでいない電車に揺られながら、僕はニュースをチェックしている。

「お笑い芸人渡辺氏が多目的トイレで毎日性行為!?謝罪会見が大荒れとなり…」
「吸血鬼と人間の恋を描く!全米が泣いたラブロマンス『ヴァンパイア・サマータイム』が7月公開されます…」
「イタリアサッカーの試合で、サポーターが審判員に侮辱的なポーズを取り、差別的だとして物議を醸しています…」

(多目的トイレはないっすわー…というか性欲がよく続くな)
世の中色々な人間がいるものだ。
一皮むけば、みんなどこか異常な所を持っているのかもしれない。

僕のように暴露されなければ、みんな異常な面を隠しながら生きていくのだろう。

「次はー、大阪、大阪です…」

目的地まではあと1駅だ。
わずかな時間で、Youtubeのお気に入り動画を見ることにする。

「ここで僕が君の個人情報をくわしく話せば、それも容易く拡散されるだろう。家族に迷惑をかけるつもりか?」
「こいつ…!」
「ここで大人しくするのが、君にとって最善の道だよ」
「くそおおおおお…」

本田が通行人に抑えられ、カエルが潰れたような声をあげる動画だ。
この悲鳴がネットユーザーの琴線に触れたらしく、削除を繰り返されながらもしつこくアップロードされている。

悲鳴を素材としたMAD動画作成も盛んだ。

「悪いことはできないもんだな、本田…」

ま、人を笑ってもいられない。
僕自身も本田本人ほどではないが動画に登場している。

そのせいなのか、メールアドレスを変えても変えても詐欺まがいな勧誘メールが届くのであった。
このネット社会で、個人情報をばらまかれるリスクは小さくない。
僕の場合、性癖もアウティングされているのだからなおさらだ。

(戸田の性癖も、いずれは…)

そう思いながら電車を降りた。


****


「おはよう!ぴったりだね」

日曜朝10時。
JR大阪駅の改札口を潜ると、天野さんが駆け寄ってきた。

襟の短い黒色のTシャツの上から、胸元がV字型に開けた白のカーディガンを羽織っている。
首回りが見えやすいコーデなのは…あえてそうしているはず。

下半身は青いジーンズに黒のハイヒール。
肩にかけている赤いポーチがワンポイントとして機能している。

全体的に大人っぽい感じのいで立ち。

「ど、どうかな…?」
「凄く可愛い」
「本当!?やったぁ」

ガッツポーズを取り、喜ぶ天野さん。
くるんとしたボブカットと大きい胸が跳ねる。
服装よりも、喜んでいる彼女の姿が1番魅力的なのかもしれない。

「すみませ〜〜〜ん!遅れました〜〜〜!」

背後から誰かが迫る声。
童顔、ナチュラルメイク、低身長と小学生に間違われることもある秋山さんだ。

「あだっ!」
焦りすぎたせいか思い切り転んだので、駆け寄った。

「大丈夫?
「だ、だいじょうぶです。昔からドジで…」

僕が差し出した手を取り、秋山さんは立ち上がる。

白地に黒の水玉模様をあしらったワンピースにサンダルと、服装もやや幼め。
高校生らしさを少しでもアピールしたいのか、黒いキャップを被っていた。

「ありがとうございます。やっぱり、佐渡くんは結衣のヒーローですね。いつも結衣を助けてくれます」
「別に大したことじゃ…ってええ!?」

秋山さんは笑顔を浮かべたかと思うと、僕にひっつくように腕を絡めてくる。
天野さんの腕がすべすべだとしたら、秋山さんはプニプニだ。

「じゃあ、行きましょ!最初はTOHOシネマズに行くんでしたよね」
「あ、ああ」
「天野さんも行きましょ!」

天野さんの方に近寄る僕と秋山さんだったがー

「…むー」

当然、彼女は良い顔を浮かべない。
唇を尖らせ、膨れっ面だ。

「あれ?どうしました?天野さん」
「な、なんでもないけど?ちょーっと佐渡くんと距離が近くないかなって」
「そうですか?」

秋山さんは不思議そうだ。

「親戚同士の天野さんと佐渡くんが仲良さそうだから、佐渡くんが恩人である結衣もやってみようと思ったんですけど…だめですかね?」

(これは天然か…それとも孔明の罠!?)

秋山さんは鋭い所を突く。
表向きは親戚同士となっている天野さんに、秋山さんの抱きつきを止める権利はない。
下手に止めようとするなら、僕と天野さんとの間に特別な関係があるのは明白だ。
カマをかけられてる…わけじゃないと思いたい。

僕は天野さんにちらりと視線を送る。
少し悪いけど、なるべく彼女の性癖がバレるような行為は避けたい。

「…」

天野さんは首を振り、やれやれと言った表情を浮かべる。
そしてー、

「確かに秋山さんを止める理由はないわね。だから、私も佐渡くんとスキンシップしようかな!」

残っていた左腕を掴まれた。
すべすべな感触に包まれる。

右腕のぷにぷに。
左腕のすべすべ。

楽しそうな笑顔を浮かべる秋山さん。
ちょっと嫉妬混じりの表情を浮かべる天野さん。

「行きましょう!佐渡くん!」
「…佐渡くん、あとで埋め合わせしてよね?」



(今日は波乱の1日になりそうだ…)
色んな意味で重みを感じつつ、歩き出すのであった。


****


「あたい、夢を諦められへん…!」
「俺も応援するよ、律子」

というわけで、まずは映画を見ることになる。
関西弁の夢見る少女と、普段はクールだけど実は熱血漢な少年が繰り広げるハートフルラブロマンス。

まあまあな出来である。
男性的な意見を言わせてもらうと、やや刺激が足りない。

「律子さん、素敵です…!」
だが、右隣に座る秋山さんには大ウケだったらしい。
物語世界に入り込み、涙を流している。

「…」
天野さんも画面に見入っているようだ。
僕もきちんと見なければなるまい。

「あたい、昔お母さんが亡くなって、お父さんに育てられたの…」

ヒロイン律子のセリフに気を取られた。



戸田と同じ境遇だったからだ。

ーあたしね、お母さんがいないの。ずうっとお父さんと2人暮らし。

詳しい事情は聞いたことがなかったが、確かそう言っていた。
中学2年生でそのお父さんも亡くなり、今は親戚の家で住んでいるらしい。

(ま、だからなんだと言う話だけどな…)

その時、左隣から衣擦れの音を感じる。



天野さんだ。
こっそりこちらに手を伸ばし、腕を掴もうとしている。
どうやら、先程の埋め合わせということらしい。
こちらは見ないけど、少し顔を赤く染めていた。

だから、僕もその手を掴む。

「あ…」
でも、彼女の予想より深く指を絡めた。
指1つ1つを繋ぎ合わる、恋人繋ぎ。

「…」
彼女は驚いた表情を浮かべるが、やがてそれは笑みに変わる。



そのまま、映画が終わるまで手を繋ぎ続けた。


****


「…情報通り、か」
映画館から出てくる3人の男女を、遠くで見つめる影がいる。

マスク、帽子、サングラスなど、容姿を特定できないような服装に身を包んでおり、何者かはまるで分からない。

わかっているのは、追跡者であると言う点だけだ。

「見つけてやる」
そう呟くと、懐に隠し持ったスマホを握りしめるのであった。

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