幼馴染に異常性癖を暴露(アウティング)されて破滅するけど、◯◯◯希望のかわいい彼女をゲットしたので人生楽しい~幼馴染が後になって後悔しているようだけど、もう遅い

スンダヴ

第11話 意趣返し

ピピピピピ…

目覚まし時計の音が僕の部屋の中に響き渡る。
タイマーをセットしているのは朝8時、学校に登校するために設定している時間だ。

「おっと、もうそんな時間か」

ほんの少し前まで、このアラーム音は絶望の始まりを告げる音だった。
起きるたび戸田に裏切られた怒りや悲しみを思い出し、排斥される恐怖に怯えていた。
だが、今は違う。

「25分には家を出て、天野さんを迎えないとね!」

希望の始まりを告げる音なのだ。


****


「先日発生した痴漢事件が大きな波紋を呼んでいます。犯人である高校生の個人情報が動画により拡散され…」
「高校生とは言え、線路に飛び込むなんて馬鹿なことをしたもんですよ。賠償請求がいくらになるか…」
「これは更生の可能性がある学生に対するリンチです!教育者として…」

パンを頬張りながらテレビのチャンネルをいくつか回してみると、本田の事件に関する報道が展開されていた。
賛否両論といったところで、さまざまな意見をコメンテーターが述べている。
ま、数日もすれば忘れられるし、問題はない。

「しかし線路に飛び込んだのはやりすぎだよ、本田…」

ぽつりと呟いた後、パンを食べ終え、後片付けに入る。
この家は色々あって僕だけが住んでいるので、家のことは自分でやらなければならない。



ーあの男の退学が決まりました!本当にありがとうございます!

支度を整えた頃、秋山さんからLINEが来た。
可愛い動物のキャラクターがお辞儀をするスタンプと共に。

当然だし残念でもない。

情報をここまで拡散した以上、うやむやに終わる道は閉ざされた。
痴漢そのものの裁判に加え、線路に飛び込んで電車の運行をストップさせた件で鉄道会社からも訴訟されるだろう。
賠償額は、下手をすれば数百万円に上るはずだ。


それでも、1人の女性の尊厳を2週間に渡り踏みにじった罪に対する罰としては、軽いのかもしれない。

いずれにせよ破滅への道を選んだのは本田自身だ。


****


8時24分。
この時間ならまだ彼女はきてないはず。

「おはよう!佐渡くん。今日もいい天気だね〜」

と思って自宅のドアを開けると、天野さんが待っていた。
いつも通り、ベージュ色のカーディガンと丈の短いスカートを着て。

「…次は8時20分に出るか」
「じゃあ私は朝6時!」
「もうちょっと駆け引きしよう!?」
「だって佐渡くんを出迎えたいし…だめかな?」
「全然オッケーです!」

演技と分かっていても、瞳をうるうるされた天野さんに逆らえるはずはない。

「私が佐渡くんを毎日出迎えるね。彼女だし」

そう言いながら、僕の腕に自分の腕を絡めてくる天野さんはやっぱり天使なのである。

「なんなら、朝に私の首を少し絞めても良いよ?」
「そんな決め台詞を言うのは天野さんだけ!」

多少性癖が特殊だけど。


****


何事もなく、無事に1年2組の教室に到着した。
しかし、自然と足を止めてしまう。

「…」

今日は、本田の事件があって初めての登校日だからだ。
本田を破滅させたことに後悔はないけど、クラスの人間にどう思われてるかは分からない。
もしかしたら責められるかもー

「大丈夫だよ」

腕を組んでいる天野さんが、僕の耳にささやく。

「私が付いてるからね…」

そう言うと、天野さんは一歩を踏み出す。
萎えていた気分が明るくなり、僕も一歩を踏み出した。

そして、2人で扉の取手に手をかける。

「「せーのっ!」」

力強く扉を開け、待っていたのはー



「「「おかえりなさい!!!」」」

賞賛。

「佐渡、よくやった!」
「俺は信じてたよ!」
「佐渡くん、あなたを誤解しててごめんね!」
「あたし、あなたを悪く言ったことなんてないから。本当だよ?」

クラスの人間たちが一斉に立ち上がり、僕と天野さんに向けて駆け寄った。
みんなニコニコと笑顔を浮かべている。
戸田にアウティングされた時、裏で陰口を叩いていた人間もだ。

「佐渡さん!天野さん!」

先頭に立っていたのは秋山さんだ。

「おかえりなさい!ごめんなさい驚かせて。結衣がみんなに声をかけて、佐渡くんを迎えようって決めたんです」

どうやら歓迎されているらしい。
秋山さん以外の本音は分からないけど、まあいいだろう。

クラスの認識が『異常性癖を抱える異常者佐渡涼真』から、『痴漢の魔の手から秋山結衣を救った英雄佐渡涼真』へと変わったのだ。

人の認識は、機械よりも簡単に変わる。

「ありがとう、秋山さん」
とにかくお礼を言って自分に席に向かった。

「よかったね!佐渡くん」
天野さんも嬉しそうだ。

これでー



「み、みんなおかしくない?佐渡は異常者なんだよ?」
焦りを隠しきれない声が聞こえる。
戸田だ。

自分の席から立ち上がり、みんなに呼びかける。

「みんな目を覚まして!痴漢を捕まえたなんて偶然じゃない!危険人物なのに変わりはないんだよ!」

教室は静寂に包まれる。
僕は反論しようと口を開くが、それより先に怒号が走った。

「異常なのは戸田さんじゃないの?」
「そうだぜ。体を張って秋山さんを助けた佐渡が異常者だってのか?」
「本当に異常者なのは本田の方だろ!」

クラスメイトは戸田に一斉に詰め寄り、口々に彼女を攻撃した。

「そもそも、前々から佐渡くんの個人情報をばら撒くのは陰湿だと思ってた!」
「そうだそうだ!」
「佐渡くんに謝れ!」

「あ、あたしは…」

剣幕に押され、戸田は座り込む。
机の上で俯き、何も話さなくなった。

「みんな。その辺にしておこうよ」
抑えきれない喜びを感じつつ、クラスのみんなに呼びかける。



「どこかのだれかさんみたいになったら駄目だよ」

戸田は体を震わせるが、何も反論しない。
そのまま、授業開始まで頭を上げることはなかった。



アウティングされてから丁度13日。
僕と戸田の地位は逆転した。

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