幼馴染に異常性癖を暴露(アウティング)されて破滅するけど、◯◯◯希望のかわいい彼女をゲットしたので人生楽しい~幼馴染が後になって後悔しているようだけど、もう遅い

スンダヴ

第10話 裁き

「何勝手なこと言ってんだ!殺すぞ!」

この後に及んで本田は抵抗を試みた。
僕の手から逃れ、秋山さんのところへ向かおうとする。

「秋山あああ!ぜってえ許さねえからな!無実の罪でハメやがって!俺は謝らねえぞおおお!」

どこまでゲスなのだろうか。
いずれにせよ抵抗が実を結ぶことはない。

「手伝おう!!」
「犯罪者め、大人しくしろ!」
「君は足を押さえておいてくれ!」

男性乗客数人が加勢し、本田を抑えにかかったからだ。
少しサッカー部で鍛えた程度では逃れることはできない。
正義のために団結した、群衆の手からは。

「ジタバタするな、もう現場を写真で抑えられてるし、秋山さんの服に指紋がべっとり付いてる。大人しくした方が身のためだぞ」
「佐渡!お前も許さねえからなあああ!」
「…次は住所をばらす」
「な、なに?」

本田を大人しくするため、最後のカードを切った。

「ここで僕が君の個人情報をくわしく話せば、それも容易く拡散されるだろう。家族に迷惑をかけるつもりか?」
「こいつ…!」
「ここで大人しくするのが、君にとって最善の道だよ」
「くそおおおおお…」

本田は潰れたカエルのような悲鳴をあげ、動かなくなる。
作戦は成功した。

「すみません。ここで押さえておいてください」

乗客たちに本田の拘束をお願いし、人混みをかき分けて秋山さんのところへ向かう。
彼女は天野さんに肩を抱かれ、唇を真一文字に結んでこちらを見つめていた。

少し制服が乱れているのを見て、心が痛む。

「秋山さん、大丈夫かい?」
「は、はい。大丈夫です」
「怖かったね…でももう安心だよ」
「ありがとうございます…結衣を、あの男から救ってくれて」

震えながらも、秋山さんは笑みを浮かべた。

「だから、もう泣きません。これからは笑います」
「秋山さん…」

それがなによりの救いだった。

「佐渡くん!」
「うわっ!あ、天野さん!?」

油断していると、天野さんに抱きしめられる。
柔らかい体の感触を感じたかと思えば、心配そうな表情を浮かべた天野さんに上目遣いで見つめられた。

色々な意味でドキドキしてしまう。

「佐渡くんは、怪我してない?」
「ああ、大丈夫」
「良かった…本当に良かった」
「天野さんは?」
「私は平気。やったね佐渡くん、私たちあの男に勝ったよ」
「勝った…?」

天野さんが表情をほころばせるのを見て、僕はようやく実感した。

電車が停止し、ドアが開いていく。
あとは本田を警察に突き出し、自由と勝利をー


「うおおおおお!!!」
ぞっとする叫び声。

本田だ。

あろうことか拘束から逃れている。
乗客が気の緩みを見せた、一瞬の隙に抜け出したらしい。

「どけえええ!」

乗客数人を弾き飛ばし、ホームに逃げ去った。

「あいつ!」
こちらも慌てて後を追いかけるも、本田は予想外の行動を取る。

なんと、1号車を超えたあたりまで来た後、ホームから線路に飛び込んだのだ。
よろけながらも着地した後、そのまま線路を全力疾走。
駅からどんどん離れていく。

(こんなことにして何になる…もう逃げ場なんてどこにもないのに)

流石に線路に飛び込む勇気はないし、そもそも本田の破滅はもう決まっている。
放っておいてもー

「待ちなさい!」
凛とした声が後ろから響く。

天野さんだ。
器用にホームから線路に降り立ち、本田の後を追いかけていく。

「天野さん!」
慌てて僕も線路に降りた。
彼女を1人にしておけない。

「いっつ…!」
着地の際左足を少し足をくじいたが、構わず走り続ける。



もしこれで責任を問われたら、僕が罪を被ればいい。


****


線路に逃げればワンチャンあると思った。
それで、痴漢が逃走に成功した例をいくつか知っていたからだ。

「逃げないで!」

でも天野がグングン追いかけてくる。
走り出して結構経つのに、なんであんなに呼吸が持つんだ?

とにかく適当なところで線路を抜けて、逃げ切ってー、

「うわあああっ!?」
後ろの天野に気を取られてて、線路に敷き詰められた石の1つに足を取られてしまった。
無様に転び、とっさにかばった右腕をしたたかに打ちつける。

「いってぇぇぇ…」
立ち上がれず痛みに耐えている間に、天野が追いついてきやがった。
サッカー部なのに、女に追い付かれるなんて。

「…捕まえた」

はあはあと息をしていた天野だったが、やがて冷たい表情で俺を見下ろす。

「まだ責任を果たしてないのに逃げちゃダメだよ」
「責任だと?」
「そう、責任」

激しい怒りを抱いてる声だ。
なんで他人のことでそんな怒ってるんだ?
わけわかんねえ。

「秋山さんに謝って。今からでも。許されるなんて期待はこれっぽっちもしなくていいけど、秋山さんの尊厳を傷つけて、心に傷を負わせたことを謝りなさい!」
「ふざけんな!謝るってのは、許される見込みがあるからやる行為なんだよ!ぜってえ謝らねえからなあああ!」

許されないのに謝るなんて馬鹿のやることだ。
ここまで事態が大きくなればどうせ許されないだろう。
そもそも、たかが痴漢でなんでここまでされなきゃいけない?

「…そう、仕方ないわね。でもこれだけは言っておく」

天野はスマホを取り出し、素早く操作し始めた。

「やめろ!」
嫌な予感がして止めようとするが、腕の痛みで動けねえ。
LINEを送信する音が響いたと思うと、画面を目の前に突きつけられる。
クラスのグループLINEに1枚の写真が添付されていた。

『本田くんは痴漢をする異常者です。これは本田くんが痴漢をした場面の写真』

俺がにやけた顔で秋山の背中を触っている写真。
ムカつくことに、秋山の顔が映らないような角度で撮影されてやがる…

「他人を傷つけ、その罪を認めず謝罪もしない人は、何倍何十倍の報復を受けることになるんだよ」

プチン、と何かが切れた音が聞こえた。


「…うわああああああああああ!!!」

最後の力を振り絞って天野に飛びかかった。
殺してやる。
こいつだけは許せねえ。

「きゃっ…!」
女だからって容赦しない。
左手で胸ぐらを掴み、あらん限りの力で殴りつけようと右手を振り上げる。

「やめろ!!!」



脇腹に衝撃が走った。


****


間一髪、本田の側面にタックルをかまして動きを止めた。

「ぐがあああ!」
天野さんから手を離し、本田は再び倒れ込む。
すぐさま馬乗りになりー、



本田の首を絞めた。
いや、絞めてしまった。

ゴツゴツとして嫌な感触がする、汚い首だ。

「かひゅ…!」
本田が体内の空気を吐き出し、情けない声を出した。
許すつもりはない。
秋山さんを傷つけ、たった今天野さんに手を出そうとしたこいつだけは。
たとえ死んでもー、

「佐渡くん!もういいの!」
腕を抑えられる。

「私は大丈夫だから。佐渡くんが手を汚すことなんてない…」
天野さんの涙混じりの声で、我に帰った。

「ごめん、なさい…」
虚な顔をした本田が謝罪の言葉を口にする。
謝罪…

「秋山さんに痴漢して、天野さんに暴力振るって、すいませんでした…許し、て下さ、い」
息も絶え絶えだ。
それを聞いて、ようやく首から手を離す。

「…」

本田は気絶し、完全に抵抗をやめた。


****


「佐渡く、ん…」
僕が本田を無力化させたのを見届けると、天野さんは体の力が抜け、線路に倒れ込もうとした。

「天野さん!」
慌てて背中を支え、ゆっくり地面に横たえる。
体が震えている。

「ごめんなさい…今更になって怖くなっちゃった。馬鹿だよね私」
「そんなことはない。君はすごい勇敢だった」
「佐渡くん…」

彼女の澄んだ瞳を間近で見つめていると、愛おしい気分が止まらなくなった。

天野さんもこちらを見つめ、唇を交わそうとー

「いたぞ!こっちだ!」

どうやら時間切れらしい。
後ろから、駅員か警察官が迫っている声が聞こえる。

「続きは、また今度ね」
「うん、待ってるから…」



天野さんは微笑み、僕の体をしっかり抱きしめるのだった。





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