幼馴染に異常性癖を暴露(アウティング)されて破滅するけど、◯◯◯希望のかわいい彼女をゲットしたので人生楽しい~幼馴染が後になって後悔しているようだけど、もう遅い

スンダヴ

第3話 きっかけ

僕が首絞めの性癖に目覚めたのは、幼少期に見た戦隊ヒーロー番組がきっかけだ。
確か『天体戦士サンレンジャー』とか言う名前だったと思う。
男性が赤+青+緑、女性が黄+ピンクの5人で構成されるオーソドックスな構成の、平凡なヒーローもの。

4〜5歳の男の子なら誰でも見る番組だが、僕はとある場面に魅入られてしまった。

それはすなわち、ヒロイン役を務めるサンピンクのピンチシーンである。

「私1人でも怪人を倒せるんだから!」

勝気なサンピンクが息巻いて単独で出撃し、案の定敵幹部に敗北するという筋書きだ。
そして、片腕で全身を持ち上げられ、首を絞められる。

「くっ!離せ!」
「ふははははは!サンピンクとやらも大したことない!このまま絞め殺してくれる!」
「ぐあっ…!」

女性の小さな首に食い込む、敵幹部の大きな腕。
売り出し中の若手女優の、苦痛に歪む顔(ヘルメットは都合よく割れている)。
ジタバタと力なく動く足。

「やめろ…!」
彼女は必死に抵抗するが、敵幹部は当然首締めをやめない。
それどころか、さらに締め付けを強くする。

「あ…」

やがてサンピンクの動きが鈍くなり、そのまま絞め殺されると思われた時ー、

「ピンクを離せ!」
「なに!」

仲間の援軍が現れ、ピンクは助かるのであった。



「ピンクが助かって良かった〜」

普通ならこうなる所だが、僕の感想は違っていた。



「どうして最後までやらなかったの?援軍とかいらないんだけど…」

子供向け作品に、首絞めを最後までやり切る作品なんて存在しない。
必ずどこかで助けが来て未遂に終わる。
いや、ほとんどの大人向け作品でも同様だ。

大多数の人間にとって需要があるのは過程であって、結果ではないらしい。

だから探さなくてはならない。

僕がアンダーグラウンドな世界に興味を持つまで、さほど時間はかからなかった。



戦隊ヒーローものも、子供の教育に悪いことがある。


****


ピピピピピ…

目覚まし時計の音が僕の部屋の中に響き渡る。
タイマーをセットしているのは朝8時、学校に登校するために設定している時間だ。

いつもなら朝ごはんを食べて、支度をして、学校へ行く。
学校に付けば、まずは吹奏楽部の朝練からだ。
僕は自分の楽器であるユーフォを取り出し、ほど近い席にいる戸田さんに挨拶する。

佐渡くん、おはよう!

戸田さんは僕の挨拶に満面の笑みを返してくれてー

「くそっ!」

僕はベッドから起きることなく、目覚ましのタイマーだけを切った。
気持ちはどんよりとしていて晴れない。

(学校なんて、行けるわけないだろ…)

戸田さんが僕の性癖を暴露してから1週間、僕が学校に行かなくなってから3日が経過していた。


****


当事者になって分かったことだが、戸田さんのように本人の了解なく他人の性癖を暴露することを『アウティング』と呼ぶ。

その効果は絶大だった。

「佐渡くん、女の子を虐待して喜ぶ異常者なんだって〜〜〜」
「うわ、まじきめえ。死ねばいいのに」
「大人しそうな顔してるけど、殺人する人ってあんな感じなんだよね…」

教室、廊下、吹奏楽の部室、運動場、トイレ。

なんとか平静を装って登校すると、あらゆる場所で僕のうわさ話が響いていた。
むろん、好意的ではない。
それどころか、尾鰭が付いて殺人を好むサイコパス設定となっていた。

なんとか我慢して自分の机に座ろうとするもー、

「いたっ!」

お尻に鋭い痛みを感じ、思わず立ち上がる。
椅子に画鋲が仕込まれていた。
苦痛に呻く僕の姿を見て、とある男子がニタニタ近づいてくる。

「見ろよ!佐渡は女を傷つけるのが大好きな癖に、自分は画鋲の痛みにすら耐えられないってよ!」

サッカー部の本田だ。
ガラの悪い性格で、『イジリ』と称して気の弱い後輩に暴力を繰り返す、タチの悪いやつ。
クラスでも本田の性格は敬遠されていたけど、僕と言う『いじめてもいい異常者』ができた今では違うらしい。

「あなたたち、いい加減やめなさいよ!」
わずかながら僕を庇う人間もいる。
生徒会長の福田美奈子さんだ。
メガネとおさげという古風な出立ちから分かる通り、コテコテの真面目人間である。

「なんだよ!止めるのか福田!」
「いくらなんでもやりすぎよ!佐渡くんだってー」
「じゃあお前が福田に首絞められたらいいんじゃね?ギャハハハハハ!!!」
「なんてことを…」

普段は強い言葉でクラスに秩序をもたらす福田さんも、どうにもならないようだった。
クラスの人間も、冷たい目で僕を見る。

この教室で悪なのは、暴力的な本田ではなく、異常性壁をばらされた僕自身なのだ。

(これなら、もう死んだ方がマシだな…)
絶望感に包まれる僕の視線に、とある人物が目に入った。



戸田さんだ。
丁度教室にやってきたらしい。


「戸田さん!」

思わず、声が出てしまう。
今まで幼馴染だった戸田さん。
小学生の頃からの付き合いだった戸田さん。
大好きな戸田さん。

「…」
でも、戸田さんが僕のことを見てくれることはなかった。

完全に無視し、自分の席に座る。



結局、こちらを最後まで振り返ることはなかった。


****


『首絞めとか頭おかしいんじゃねえのwwwさっさと自殺しろwww』

家に引きこもっていても、アウティングによる追及は続く。
たまにつぶやいていたSNS、ツイッタラーへの糞リプだ。
どうやら学校の誰かが僕のアカウントを知って攻撃してきたらしい。

ツイッタラーのアカウントを消して、追及から逃れる。
同じような誹謗中傷が押し寄せるので、LINEもとっくに退会した。

僕の居場所は、ネットにもない。
今頃、僕の個人情報や貯めていたコレクションがせっせと拡散されているだろう

完全に、詰んだ。


****


もういいんじゃないかな。

パジャマのままベッドから抜け出す。

アウティングを受けた人間は、多くが精神的に病んでしまうらしい。
つまりー、

僕が自殺してもそこまで不思議じゃないだろう。

問題は方法だが、こだわらなければなんでもある。
このままビルに飛び降りてもー、

ピーンポーン。

そんな取り留めもない思考を止めたのは、チャイム音だった。

ピーンポーンピーンポーンピーンポーン。

無視しようとしたが、なかなか終わってくれない。

まあいい。
郵便か何かだろう。
家には誰もいないし、とりあえず出てみるとするか。



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