猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第77話 ★こなつちゃん と ハルナちゃん

 なにやらプールが騒がしい。


 痴漢が現れたようだ。
 満員電車じゃあるまいし、こんなおっぴろげた場所で痴漢なんてバカみたいな真似するバカだどこのどいつだ。
 クロちゃんを抱っこしたり肩車したりする俺か? いや、俺ではない。


 俺はクロちゃんを褒めながらペタペタと全身を撫でまわすくらいしかしていない。
 だから俺ではないはずだ。


 というかクロは俺が撫でると気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らすから痴漢ではなくスキンシップだ。


 そもそも、俺のクララは幼女の肢体ではハレルヤしない。
 俺はロリコンではないのだ。


 クロちゃんがもうチョイ大人になったら俺の聖剣も天高くにそびえたつのかもしれないが。
 どうせなら水瀬レベルのおっぱいを拝みたいものだ。
 あ、だからといって俺は巨乳属性ではないぞ。


 ちっぱいも好物だ。ただし、俺自身の性欲があまりないから意味はないけど。




「クロちゃん、そろそろ上がろう。疲れたやろ?」


「う、うん………一日中水の中にいたから、少しずつ、なれてきたよ」


「えらい! 偉いよクロちゃ―――!」


「えへへ………わわっ!」


「たかいたかーい! ひゃっふ――――!!」


「きゃー!」


 クロを上に投げ、キャッチと同時に抱きしめる。
 もちろん、まだ水に完全に慣れたわけではないから、つまらないミスはしない




 さて、と。
 クロちゃんの特訓も終わったし、そろそろ―――




『えへへ、よかったね、おねーちゃん! 』




 そう、さっきクロちゃんとお友達になってくれたっていう、ハルナちゃんの成仏をさせないといけないな。
 害はない子なんだけど、ゴーストを放置しておくのは、このプールの運気が下がる。


 俺はすでに運気がマイナスのような人間だからもう何でも来いって感じだけど。
 俺のように悟っているやつ以外にとっちゃ致命的だ。


 普段なら放っておいてもいいんだけど、幸い、この子を幸せに成仏させることができるかもしれない。
 悪霊を討伐するのとは別に、しっかりと手順を踏んで霊を満足させ、未練をなくすことでも霊は成仏できる


 せっかくクロちゃんと友達になってくれたゴーストだけど、こればっかりは霊媒師の宿命だ。
 避けては通れない。




「ハルナちゃんも、泳げるように………というか、水に浸かれるようになったんだね。満足した?」


『えっとね。んーん。やっぱり、イルカさんと泳いでみたいの』


「そっか」


 苦笑する。


 笑おうと腹に力を込めると、肺がミシリと音を立てた。
 鳴海竜也に蹴られて、肋骨にヒビが入ったかもしれないな。


 この程度なら、1か月も安静にしてたら治るだろう。
 よっぽどの怪我じゃない限り、俺は藁人形は使わないぞ。




 それにしても、イルカ、か。
 夢があるね。
 どういう風に願いを叶えてあげようかと悩んでいると――




「おっちゃーん!」
「………。」
「あ、にいちゃん!」




 ――澄海とタマとティモの3人組が現れた。




 澄海とタマにはお世話になった。


 俺がリンチに会っている時にはすでに俺の側にいたらしい。
 殴られているところをタマと澄海は目撃していたんだ。
 その場でこの子たちに助けられでもしたら、俺は情けなさで死んでしまうかもしれなかった。
 聞けば、澄海が暴走しそうになるタマを掴んで止めてくれていたみたいだけど。
 俺のためにそこまで思っていてくれてありがとう、タマ。
 タマを止めてくれてありがとう、澄海。






 気絶してからすぐに俺は目を覚ましたけど、『………タマが解決してくれる。クロの所に戻った方がいい。』と言ってくれた
 結局、俺は情けなく、立ち向かう勇気もなく、タマに任ることにしてしまった。
 ヘタレだよ! 笑えよ! この哀れなピエロを! クソッ!






「おかえり。ごめんね、タマ。俺の尻拭いなんてさせちゃって。」


「んふふ~。おっちゃんの頼みならー、私が断るわけがないよー。私のすべてはおっちゃの物なんだから、なんでも言ってよー。」


 そういってタマは俺に2万7千円を渡してきた


「………あれ? キラメキに盗られる前よりも増えてる気がする」


「うん♪ 私が上目づかいでお小遣いをねだったらちょちょいのちょいだよー」




 ………バレバレだ。 またスったのか。


 だけど、いつもだったら怒るような場面なんだろうけど、今回は素直に頭を下げた


「………ありがとう。」


「修さん、どう、したの?」


 不審に思ったのか、クロが聞いてきた。
 もちろん、タマも俺もお金は人には見えないように取引しているから、なんでもないと首を振ってごまかした


 格好悪い所ばっかりも見せていられない!
 いっちょおっちゃんもド派手に場を盛り上げてあげようかね!
 そのあとしんみりするかもしれないけど!


「さて! 猫たちもみんなも、水に浸かれるようになったね。ここいらで少し、おっちゃんからプレゼントを用意した。………このプレゼントは、ハルナちゃん、君の為でもあるよ」


『あたちのー? なんで?』


 首を傾げる幼女ゴーストのハルナちゃん。
 6歳だっけ。かわいいなぁ。
 猫たちにもこんな時代が………無かったな。
 擬人化する前の猫時は成長が早かったもんなぁ


 小学生低学年くらいの姿をすっ飛ばして今の姿に擬人化してるし。


「ハルナちゃんの夢は、イルカさんと一緒に泳ぐこと、なんだよね?」


『うん♪ イルカさんはね! ぴゅーっておよいで、ばーん! ってじゃんぷするの!』


「今から、ハルナちゃんにその夢を叶えさせてあげる」




 俺が自信満々にそういうと、タマが何かを納得したかのような表情になった




「イルカってことは、おっちゃん、もしかして………」


「そう、わかっちゃうよね、タマちゃんは。
 ………ちょっと呼び出すから待ってて。」




 俺は胸に手を当てて深呼吸をする。
 できる限りリラックスして自身の肉体から力を抜き去り、特定の霊力を自分の心臓部から分離する。


 俺は霊媒体質。そして、幽霊を自分の体に取り込んでしまうという厄介な体質だ。


 感情に任せて霊を自分の体の中から呼び出すとすべての霊が俺の中から出てしまうから。
 一人だけを呼び出すためにはリラックスをしながら相当な集中力が必要になる。


 分離した霊力を練って眼前で具現化する。


「んっ! いでよ、『こなつちゃん』!!」




『ギュイ! きゅう~~~!!』






 俺の目の前に姿を現したのは、体調130cmほどの、小さなハシナガイルカ。


 ハシナガイルカの『こなつちゃん』は、俺たちの目の前でスピンジャンプをしながらテンション高く現れた。


『わ、わ、キャ――――! イルカさん―――!!』


「ふわー! こなつちゃん、昨日ぶりー!」


『キュアキュアキュア! キュー!』




 水の中に潜るでもなく、宙を泳ぎながら・・・・・・・タマに挨拶をするハシナガイルカのこなつちゃん。


 実はこのこなつちゃん。昨日、阿久根大島から帰るフェリーに乗っている時に、俺の中から勝手に出てきて、フェリーと一緒に海を渡ってきた。
 だからタマだけはこなつちゃんの存在を知っていた。


 本当は、こなつちゃんの存在はサプライズの予定だったんだけどね




「わー! イルカさん! 」
「………。ふぅん」


 澄海も、クールなふりをしているけど、ツンデレだということはよく知っているから、後でちゃんと触らせてあげるよ。




「わわ、すごいね、修さん。どうしたの、このイルカさん。」


「えっへん。よく聞いてくれました、クロちゃん。
 この子、こなつちゃんは、俺がバドミントンの県大会に行った時に出会ったのよ」




『きゅきゅぅ~~~!!』


 俺が手を上げると、こなつちゃんは得意のスピンジャンプをみんなに見せつける


 ハルナちゃんやティモ坊どころか、澄海でさえ、『おおっ!』と感嘆の声をもらした


「桜島行フェリー乗り場の近くに鹿児島水族館があるんだわ。
 そこに居たのがこの子。自分の意思で俺の中に入ってきた物好きなイルカさんなんだよ。
 俺の中に入ってから、気持ちが少しわかるようになってね、『いろんなところを見てみたい!』って言うから、俺の目を通じて世界を見てもらおうと思ってね。」




「そう、なんだ。………あと、どうしてこの子は、浮いてるの?」


 そう、こなつちゃんは水の中に入るわけでもなく、空中に浮いていて、空中を泳いでいるんだ。
 それが何を意味するのかと言うと


「この子は、自分が死んでいることをもうわかっているんだ。
 いろんな世界を見てみたいという願いから、幽体でも空中を自由に泳げるようになったんじゃないかな。まさに幽霊の神秘だね。」




 適当なことを言いつつ、実は俺もよくわかっていない。


 死んでから長い時間経っていて、礼子さんの幽体離脱中の浮遊みたいなのをできるようになったのかもしれない。




『おにいちゃん! このこ、こなつちゃんってゆーの?』


 ハルナちゃんがこなつちゃんの鼻を撫でながら俺に聞いてきた


「そうだよ。おにいちゃんから、ハルナちゃんへのプレゼント。こなつちゃんと一緒に、プールを泳いでみよっか」


『うんっ♪』


『きゅう~~~♪』




 こなつちゃんはプールに浸かった。
 もちろん、実体がないからプールに波はたたない。


 ハルナちゃんもゆっくりと子供用のプールに浸かる。


 実態がないから、これも波はたたない。


 こなつちゃんはハルナちゃんに寄り添って、ゆっくりとハルナちゃんの周りをおよぐ


『えへへ、こなつちゃん、まてー!』


『きゅう、きゅ~~~♪』




 ゆっくりとハルナちゃんに合わせてプールを泳ぐこなつちゃん。


 猫たちも、全員水の中で立てるようになっている。
 だから、子供たちはみんなプールに入って大はしゃぎ。


 俺は体力回復のためにプールの縁に腰掛けて、誰も溺れないように監視をする。


「わわ、こなつちゃん、はやい、よ」
「あはは、まてー!」
「んふふ、澄海くんもこなつちゃんをおいかけたらー?」
「……………いや………うん。」


 澄海がツンデレで楽しい。




「あ、タマちゃん、そっちいったよ!」
「わかったよー、えーい!」


――ザパーン!


 そして、いつの間にかこなつちゃんを捕まえるゲームに発展する。


「ハルナちゃん、こなつちゃんを、おさえて」
『うんっ! えい! あはは、ダメだったよ』


 霊体だから、ハルナちゃんかタマ以外は触ることができない。
 そして、いまこなつちゃんはまさに水を得たイルカ。


 その最高速度は時速40kmは超える。


「えーい!」
『きゅう~~♪』


―――ザパーン!


 タマが捕まえようとした瞬間、こなつちゃんが背後に回り込んで挑発する。


「このー!」
『やー!』


 ティモ坊とハルナちゃんがそのこなつちゃんに飛びかかる


―――ジャバーン!


『きゅうギュグアー!』


 華麗に避けて見事なスピンジャンプを見せつける。


「ふっ!」
「えい!」


 澄海が持前の脚力で距離を詰める。
 クロも猫の瞬発力を駆使してこなつちゃんにむかって走る。


―――ザッパーン!




 泳ぐには程遠いけど、みんな、水を怖がることが無くなった。


 これでいい。
 プールに来たかいがあった。




                ☆






 しばらくそのままこなつちゃんと追いかけっこをしていると、ハルナちゃんの姿が見えなくなった。
 どこにいるのかを確認しても、もう俺の目には映らない。


 成仏したのだろうか。


「あ、ハルナちゃん!」


 クロが声を上げる


 クロが何もない空間を見つめている。


 そこにハルナちゃんが居るんだろうか。
 居るんだろうな。


 霊感が弱いと、こういう時に不便だ。




「うん、成仏するんだよ。わたしも、楽しかった。」


 クロは自分の身体を抱きしめる。
 たぶん、ハルナちゃんもクロを抱きしめているんだろう。
 触れられないっていうのは、少しさみしいな。




「じゃあね、ありがとう。ずっと、友達だよ」




 俺はクロの側に行ってやった。
 もう、成仏したのだろうか。


 俺を見上げるクロの顔に、一筋の涙の痕があった。


 俺はクロの頭を撫でる。


「修さん、お別れって、悲しいね。」
「うん。」
「悲しいけど、コレでよかったんだよね」
「ああ。………霊媒師ってのはこういうもんだ」


 詐欺と罵られ、死者と対話し、別れが待っている。
 金にならない話だ。暗い気分になってはいけない。


 死者は現世にとどまってはいけない。コレでいい。
 テンションを上げて行こう。


「さ、て、と。みんな集合!」


『きゅう!』
「「はーい!」」
「………なに。」


 タマとティモがこちらにザバザバと波を作りながらやってくる。
 澄海はゆっくりと歩いてきた。


「みんな、よく水を克服できました。こなつちゃん、君が一番貢献してくれた。今日のMVPだ」
『きゅぅ~~~~♪』


「クロ。クロも、あんなに怖がっていた水に、もう自分から飛び込んでも大丈夫だろう」
「そ、そんなこと、ないよ。まだ、飛び込むなんて………」


「こなつちゃんに向かって、水の中に顔を突っ込んでも、笑顔で顔を上げたじゃん。」


「あ………」


「ティモ坊も、少しなら泳げるようになったんだろ?」


「うん! ありがとう、こなつちゃん!」
『きゅう!』


「タマも、もう水は大丈夫だよね?」
「もちろんだよー! 私は、おっちゃんが一番頑張ったとおもっているけどねー」
「アホか。俺は助けられてばっかりで何もしてないよ」
「んふふ」


 なんだその含んだ笑いは。


「あと、澄海。今日は付き合ってくれてありがとう。本当に今日は助かった。
 澄海が居なかったら、今日はクロがどうなっていたかわからなかったし、タマが暴走していた可能性もあった。だから、本当にありがとう」


 クロとティモがぼうそうってなにー? っと首を傾げているけど、それはシカトする。


「………いい。どうでも。」


 謎の倒置法。
 このツンデレさんめ!




 みんなが泳げるようになってよかった。


 6月を通して、みんながぐっと大人に近づけたような気がして、俺は嬉しいよ。










 こうして、俺たちの波乱万丈な水克服授業は幕を閉じた。
 みんなが泳げるようになるのは、そう遠くないだろう。








FIN



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