猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第65話 おいおいジョン。それを言うならSAMURAI、だろ?



 今日、修さんはタマちゃんとデートに行っていた。
 ………いいなぁ、タマちゃん。わたしも………行きたかったなぁ


 修さんは最近、忙しそうだし。休む暇もないのに………。
 久しぶりにできた休みも、タマちゃんのために使っていたし。


「………うぅ、会いたいよぅ」


 座布団に顔を押し付けて
 修さんに会いたい。思わずそんな言葉をもらしてしまった。


「どーしたの? クロちゃん。」


 わたしの背中をクイクイとティモちゃんが引っ張った
 でも、わたしが座布団に顔をおしつけたまま、むーむーとくぐもった声を出していると
 ティモちゃんは「やー!」という声と一緒に、わたしにだきついてきた。
 この子は人にぺたぺた触ったり触られたりするのが大好きなんだ。
 修さんも、まんざらでもなさそうだったよ。


「ティモちゃん………。今日は修さんが、いないから………」
「そうだよね、いつもはスカイくんのおうちにいくのに、今日はスカイくんもおかあさんがおしごとでいないから、しゅぎょうはしてないもんね」
「それにタマちゃんも………修さんと一緒に、どこかにいっちゃうし………」


 修さんが家に居る休みの日は、いつもはみんなでゲームしたりトランプしたり勉強をおしえてくれたりしていたのに、修さんがいないと、この家ですることがないよ………


「ティモちゃんはいいなぁ。泳げるように、なってさ」


「うーん。まだかおを水につけられないよぅ。」


 わたしは水に触るのもできないのに。ティモちゃんが大きい。
 そして、わたしを同じように嫌いだったティモちゃんが泳げるようになったのは全部、修さんのおかげ。
 座布団から顔を上げて、体の向きを変えると、ティモちゃんが微笑んできた。
 すごくかわいい。かわいい弟だ。弟であるのがもったいないくらいかわいい。


 わたしはティモちゃんの頭を撫でる。少し硬い髪の毛だけど、肌触りがいい。
 なでていると、ティモちゃんが「えへへ」と目を細めた。
 わたしのおなかにティモちゃんは頭をこすりつけた。
 猫の習性だ。自分の匂いをこすりつけようとする。人の姿になっても、ティモちゃんはあまりかわらないなぁ。


 わたしもティモちゃんを抱きしめて、家の中をゴロゴロとふたりで転がる


 ころん。ころころ。ころんころん


 ちょっとたのしい




「タマちゃんたち、今ごろなにしてるのかな」
「んー。わかんない!」
「だよ、ね」


 ころころころ。こつん


「あいた………」


 置きっぱなしにしてあった修さんのカバンに頭をぶつけてしまった
 その拍子に金具が外れ、修さんのカバンから一通の手紙が出てきた


 文字も読めるようになった。漢字もかけるようになった。
 だけど、その手紙が何の手紙なのかがよくわからなかった






『岡田芳一様へ
 今月分のお金を入れておきました。少ないですが、受け取ってください
                             岡田修より』




「………?」


「クロちゃん、どうしたの?」


「え、ううん。なんでもないよ」


 その手紙を、修さんのカバンの中に戻そうとしたときに、一枚の封筒が目に飛び込んできた
 封筒の中には、五万円が入っていた




「ん? これがそのお金、かな。」


 よくわからないけど、修さんはこのお金をこの人に渡そうとしているみたい。
 岡田芳一………なんて読むんだろう。
 修さんのお父さんの名前かな。修さんが働いてお父さんにお金を渡してるの?


 うーん、よくわかんないや




「ただいまー」


「ふひゃー、ただいまー。おっちゃん、早くお風呂に入ろうよー。さすがに海水にぬれたままなのは気持ちが悪いよー」


「むむ!! タマ………完全に苦手を克服したわけではないだろうけど、自然とそういう発言をしてくれておっちゃんうれしい!」


「んふふ~、私だってちゃんと成長してるんだよー。」


 わわっ! 修さんたちが帰ってきた! まだ3時なのに! 思ったよりも早く帰ってきたみたいだ!
 いそいでカバンの中に封筒と手紙を入れる


 それに、タマちゃんがお風呂に入ろうなんて言っている!


 あのタマちゃんが………一番お風呂がキライだったあのタマちゃんが!
 ………すごいなぁ。修さんとのデートで、なにかがあったのかな。


「うー………髪がギトギトする………これは嫌いでもお風呂に入らざるを得ないんだよー。」


 よくわからないけど、嫌いなお風呂に入らざるを得ない状況になったのかな


「ってそれが本音かよ。あ、ただいまクロちゃん。」


 修さんが靴と靴下を脱いで入ってきた。


「おかえり、なさい。どうしたの? ずぶぬれ、だよ」


 修さんはずぶ濡れだった。どうしたんだろう。なんか全体的に潮の匂いがする。
 タマちゃんが言ってた海水に浸かったっていうやつ?


 わたしが修さんを迎えると、修さんはわざとらしく両手を上にあげて首を振った






「Oh。それがな、聞いてくれよジョセフィーヌ」


「………わたし、クロだよ。」


「ジョセフィーヌ。俺とジュリエットで海に行ったんだ、そして最後に二人で海に足まで浸かったんだが、二人一緒に転んでドボン。それでこの様さ。HAHAHA!」


 大げさにアメリカンなジョークをする修さん。ど、どうしたのかな、壊れたのかな。


「クロちゃ………ジョセフィーヌ、の言いたいことはわかるけどー、私もジョン一緒に海に浸かってびしょびしょなんだよー。」


 タマちゃんが湿った自分の髪を少しだけ持ち上げた。
 だからわたし、ジョセフィーヌじゃないよ?


「ん? どうしたジョセフィーヌ。なにか言いたいことがあるのか? 聞いてやる。遠慮するなよ。俺たちの仲だろ? おっと、キミにはまだこの話は早かったかな? おっとっとこれはすまない。ついうっかりしていたようだ! ハッハー!」


「はっはー!」


 ど、どうしよう、なんか無駄にタマちゃんまで変なノリをしてる。
 えっと、ジョセフィーヌってわたしのこと?
 ジョンが修さんで、ジュリエットがタマちゃん?


 どうしよう。この無意味な寸劇を最後まで見ないといけないのかな………。




「仕方ないよージョン。彼女はとても繊細なのー。そっとしておこうよー。」
「っふ、お前は、やさしいよな。ジュリエット。」
「んふふー、よせやいー」


「あーあ。ジュリエットみたいな姉がいるくせに、ジョナサンのやつは変わんねーよな! 見ろよ、キョトンとしてやがるぜ。 ジャパニーズニンジャかよっての!」


 うぇあ!? また新しい人物がでてきた。 きょとんとしてるのはティモちゃんだから、ジョナサンっていうのはティモちゃんのことなのかな?
 え? そして忍者ってキョトンとするもの? なんか違うよ!? 何を言ってるの?
 日本を誤解している外国人!? あ! もしかしてそういう設定なの!?


「ジョナサンも、もっと協調性ってやつをだなぁ………どうした、ジョセフィーヌ?」


 わー! 何かに気付いたかのように急にわたしに話を振ってきた! えっと、えっと、ノらないと、ダメ? 


 どど、どうしよう! そ、そうだ!






「お………おいおいジョン。そ、それを言う、なら、SAMURAI、でしょ?」






 うあー! 我ながら適当な返しだったよ………。チラリと修さんとタマちゃんの顔を確認してみる
 話の内容が見えないのに、適当に日本っぽいことを言っただけだよ………。
 これじゃわたしも日本を誤解してる外国人だよ……






「ありゃりゃ、こいつぁうっかり。ジャパンの言葉は難しくていけねーや」






 納得しちゃった! 修さんが肩をすくめてこちらに歩いてきた。
 ニヤニヤしながら、わたしの頭をぽんぽんとなでる。




「うー!」


「あはは、ごめんクロちゃん。まさかクロちゃんがノってくれるとは思わなかった」


「んふふー。クロちゃんがオロオロするのは見てておもしろいねー」


「もー! タマちゃん!」


「きゃー!」


 わたしは怒ったふりをしてタマちゃんを追いかける。
 ちょっと恥ずかしかったけど、本当はたいして怒っていない。


 いつも楽しいことをしてくれる修さんだけど、これで友達がいないっていうから不思議だ。
 修さんは初めて会う人や同い年の人とあまり話さないのかな。
 話しかけられないと話さないっていってたけど………
 わたしたちみたいに親しい人と話しているときはおもしろくて素敵な人なのに。


「タマ。風呂に行くぞ。いつまでも濡れたままでいるわけにもいかんだろ。」
「そーだねー。私も少しずつ水に慣れるようにならないとー」
「その意気や。」


 あのタマちゃんも水に入れるようになった。
 まだ少し抵抗があるみたいだけど………わたしだけ、だよね。
 まだ水が苦手なのに………


 くよくよしていたら、ティモちゃんがわたしの背中から抱き着いてきた。
 いいなぁ、ティモちゃんも水を克服できて………


「クロー、タマが風呂から上がったら次はクロの番ねー。」


「うひゃあ!?」




 うぅ………せめて修さんを傷つけないようにしないと………





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