猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第61話 はやく帰ってこないかな♪



 『親』という字を、一番最初に調べた。
 『木』の上に『立』って『見』る


 私は、すごくこの漢字が好きなの。


 子供を見守ってくれるってすごく伝わる字だよね。


 私たちにとっての『親』は、高校3年生。
 親としては未熟だけど、私達の事をよく考えてくれる人。


 でも、家の中で一緒にいる時間はあまりない。だけど、私達の目線に合わせて私たちを見てくれる。
 『木の上』に立たなくて、『目の前』に立って私たちを見てくれる、私の『お兄ちゃん』。


 『親』であると同時に、頼れる『お兄ちゃん』でもある、私の大好きなおっちゃん。


 あの人は、私達のために毎晩バイトに行っていた。
 月曜日と水曜日と金曜日は11時から4時までコンビニ。
 火曜日と木曜日は8時から2時まで本屋
 土曜日は丸一日、鶏の解体
 日曜日は修行か、老人介護施設で介護人の真似事。


 私のお兄ちゃんには休みがない。
 時給換算で、一週間に3万円は稼いでいる。ハードワークだ。
 へそくりで貯めているお金もあるらしく、実際にいくらもらっているのかは知らない。
 聞いても『手元に残るのは月5万円くらいだよ』としか言ってこない。
 でも、ちょくちょくへそくりを降ろしていたことを、私は知っている。
 記載した通帳と、レシートの合計が合わないんだもん。そりゃあ気づくよ。
 きっと毎月赤字なんだ。


 平日は学校がある。お兄ちゃんは6時には起きて学校に行っていた。いつ寝ているのか、わからなかった。
 そんな状態なのに、この間までは部活もしていた。


 前に部活中を覗いたとき、お兄ちゃんはものすごく努力をしていた。
 お兄ちゃんは運動音痴だ。私はそれを初めて知った。


 私たちを助けてくれたヒーローは、やっぱり普通の高校生で、ただの、頑張り屋さんだった。
 それなのに、お兄ちゃんは笑われていた。それも、バドミントンの顧問の先生に。
 私はお兄ちゃんが努力をしていることを知っている。


 お兄ちゃんが時間を削ってまでなんでバドミントンを続けているのかはわからない。
 お兄ちゃんの性格から考えても、理由はなさそうだ。強いてあげるなら、履歴書に副部長だと書けなくなるから、らしい。


 私達の前ではいつも優しい顔を見せるお兄ちゃんは、心無い大人の笑い声で、私の好きなその顔を俯かせて、その笑顔を歪めさせた。
 許せなかった。でも、そこは私たちが関与してはいけない、お兄ちゃんの問題だ。
 私は我慢した。でも、悔しかった。お兄ちゃんのことを何も知らないでお兄ちゃんを馬鹿にしたその顧問を殴ってやりたかった。




 普通の高校生であるお兄ちゃんは、その忙しい暇を縫って料理の勉強をしていた。
 それはもちろん、私達のため。
 忙しいはずなのに。料理なんてしたこともないはずなのに、料理の勉強をしていた。
 「日曜日は栄養士の手伝いもしたことがあるから、栄養計算だけはできるからね」なんて言っていたけど、本当かどうかはわからない。私達を安心させるために言っていたのかもしれない。
 結局、お兄ちゃんは料理を覚えた。元々器用なんだ。
 でも、それは特別にすごいわけではなく、器用貧乏なんだ。
 なんでもできるけど、なんにもできない。できるように努力を惜しまない。
 それは尊敬できるほどすごいことだと思う。


 そんなお兄ちゃんが稼いでくれたお金で、私達は生きている。
 でも、お兄ちゃんはお金を稼ぐために無茶をしている。




 だから、妖怪討伐の報酬が一人75万円だと聞いたときは歓喜した。
 帰り道に澄海くんが「僕んちは元々裕福だから、僕の取り分はいらない」といった。
 その考えが変わらないうちに300万円は私があずかることにした。


 卑しい考えだとは思ったけど、お金があるにこしたことはない。ありがたく頂戴した。






 お兄ちゃんが県大会から帰ってきた。
 試合で負けてきたらしい。
 でもスッキリした表情だった。あの最低な顧問から解放されるんだ。当然だろう。


 帰ってきたお兄ちゃんは、私達を抱きしめてくれた。
 ちょっと汗臭いけど、私はこの匂いは好きだ。お兄ちゃんの匂いがした。


 300万円をお兄ちゃんの口座に預け入れたことを報告すると、すごくびっくりしていた。
 これでしばらくバイトしなくても大丈夫だよ。
 家でもっといっぱいお話できるよ。


 でも、お兄ちゃんはこの極貧生活を続けようとした。
 私たちが渡したお金を、自分のためには決して使おうとはしなかった。
 あくまで私たちのために、そのお金を使うつもりなんだ。


 なんでだろうと考える。


 責任。そう、『親』としての責任感だ。


 初めは『天才子役の稼ぎでお母さん大儲け作戦』などと言っていたくせに、いざ私達が稼いだお金となると、頑として使わなかった。
 同時に、私は自分の卑怯さを悔やんだ。澄海くんがお金を受け取らないのをいいことに、自分たちのものにしようとした。
 お兄ちゃんならどうするだろうか。おそらく澄海くんに無理やりにでも押し付けていただろうか


 卑しい考えをしていたら、お兄ちゃんも『報酬金額を偽って残りを自分の物にするかもしれない』という正直な話を聞いて、お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんなんだと、私は苦笑した。




 責任感の強いお兄ちゃんは、バイトもいつも通りに続けた。
 大人の付き合いがあったのかもしれない。お金があってもすぐにはやめられないようだ。
 責任感の強いお兄ちゃんの事だ。もしかしたらバイトはずっと続けるのかもしれない。


 しかたないよね………。


 私は少しの寂しさを覚えつつ、今日も私は鍋を混ぜる。
 疲れて帰ってくるお兄ちゃんは、私達に疲れを見せない。
 私達には見せないその疲れを、癒してあげよう。
 最初に教わった料理、カレーの入った鍋をかき回し、目の前に立って私達を見守ってくれる『親』を待つ。




 ティモちゃんはお風呂に浸かれるようになった。お兄ちゃんのおかげだ。
 これ以上お兄ちゃんに迷惑をかけたくない。私も頑張ってみよう。
 ティモちゃんがやったように、私も、自分からお風呂に誘ってみよう。
 きっと、あの優しい笑顔で頷いてくれるはずだ。






 ……………はやく帰ってこないかな♪







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