猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第43話 30秒だけ待つ! 早く行け!



 ―――6周目。トキメキ、ティモ、ナナシチーム


 なんかおれっちたちが出発するときに、タマが『うわー、天然BLトリオだー。』とか顔を赤くして言っていた。BLってなんだろうか。ボンゴレ?


「お、おい澄海! さっきリズムちゃん泣いてたぞ! お前なにしたんだよ!」


「………あ? んなもん本人に聞け。」


 時輝が澄海につっかかってきた。澄海はウザそうに顔をゆがめる。おれっちもリズムが泣いて戻ってきたときはどうしたもんかと思っていたけど、リズムが澄海に肩を借りていて、なんとなく幸せそうな表情をしたいたから、キレるにキレられなかった。


 腰の抜けてしまったリズムに、肩を貸していたということは一目でわかるし、リズムは澄海の事が好きだ。これは全員が知ってる。澄海が知っているかどうかはしらんが。
 いや、こっくりさんの時に、澄海も分かっただろう。それでも態度を変えないのはすごいと思う。


 とりあえず、澄海の姉だという優さんという人に、リズムを預けている。
 足が震えていたから頼りないけど、『頼ってくれ』って言ってるし、いないよりはマシか。






「……………だいたいお前ら、なんてもんを企画しているんだ。これは興味本位でやっていいことじゃないよ。禁止されてるだろ。」






 澄海が不機嫌そうに時輝を睨む。


「そ、それは………」


 すると、言いよどむ時輝。やましいことがあるんだろう。それはそうだ。
 時輝は、澄海が妬ましい4割 澄海が気に食わない6割といったところだろうな。
 わかってるよ。だからといって、おれっちは澄海を仲間外れになんかしたくない。
 だから―――


「まぁまぁ待て、二人とも。今は喧嘩してる場合じゃないだろ。早く次の場所で御札を取っちまおうぜ。」


 おれっちがが澄海と時輝の間に入って仲裁する。次の場所は、理科準備室だ。


 七不思議『動く人体模型』があるという理科準備室に行かないといけない。
 正直に言おう。おれっちはものすごく怖い。でも、幽霊ってもんを見てみたいという気持ちもある。
 本当はすぐにでも帰りたいけど、澄海は落ち着いているし、ティモは―――


「えへへ、なんか夜にみんなでがっこうをあるいてると、わくわくするねっ!」


―――おれっちと時輝の手を取って上機嫌で歩いてる。肝試し中なのに、場違いな奴だ。
 でも、そのティモの何気ないその行動のおかげで、おれっちたちはすこし安堵しているところがある。ティモは楽しんでるし、澄海はもう飽きている。


 怖がっているのは時輝とおれっちだけだ。


 三人で理科準備室に向かって歩いていると






―――ぴとっ






「うっひゃああ!?」




「うわっなになに!? どうしたの!?」
「ど、どうしたんだ!?」
「…………………………………。」




 途中でなにかが首筋に触れて、裏返った悲鳴を上げてしまった。


「ななななんかヌメプルンってしたものが首筋にひぃいいいい!!」


「………こんにゃくだ。」


 澄海はおれっちの声に少し驚いていたけど、すごく冷静に突っ込みを入れた。


 …………………………………………すごくはずかしい


「そうだけど………やっぱり怖いっつうの。」


 物陰から生徒の笑う声が聞こえてきた。あの野郎、明日教室で出会ったらとっちめてやる! ………一番面白い反応をしそうなおれっちにターゲットを絞りやがったな!


「………行くよ。」


「あ、あぁ。なんでそんなに落ち着いていられるんだよ、ティモも、澄海も。」


 飛び出しそうな心臓が落ち着いてきたおれっちは、歩き出しながらそんなことを言ってみた。


「へ? ぼく? うーん、たのしいよね!」


 いや、ティモ。そんなことは誰も聞いてないからね。


「た、楽しいか? オレはどっちかというと、ティモはこういう、肝試しとかでは怖がりそうなイメージだったんだけど。」


 おれっちに続いて、時輝も言う。
 確かに、ティモはこういうところでは泣きそうな顔で震えている姿の方が合っている気がする。
 でも、上機嫌で、心の底から楽しそうだ。心の底から怖いおれっちたちと、心の底からめんどうくさそうな澄海は、なんともミスマッチだ。


「えへへ、たのしいよー。ぼくは、みんなといっぱい遊びたかったんだもん! あ、ついたよ! りかじゅんびしつ! ここだよねっ!」


 おれっちが怖がっているのが馬鹿らしいくらい、ティモは無邪気に笑った。
 なんでだろうな。見た目も中身も男の子なのに、ちょっとした仕草で女の子っぽく見えてしまう。なぜだか『かわいい』という単語がよぎった。おれっちは頭をブンブンと振る。


 ティモが握っていたてを解いて、扉の前まで走り寄る。


 時輝が、なんか名残惜しそうに『あっ………』とか言って手を伸ばしていた。
 お前、どんだけ怖がりなんだよ。


「お、おい澄海! お前が開けろ!」


 おれっちたちも扉の前に立つと、時輝が澄海にそう言った


「………あ? 別にいいけど、なに。怖いの。」


 それに対するのは、完全に見下している口調。そこからすべてわかる。澄海も時輝を嫌っている。
 まぁ、時輝は、澄海にいつもちょっかい出してるからな。そりゃあ嫌われるだろう


「ここっ! 怖くなんかねぇよ!」


 相当怖いらしい。時輝、声が裏返ってるぞ。
 かくいうおれっちも、だいぶ足にキているけど。


 正直、怖すぎる。御札を人体模型なんかに貼るんじゃなかった。気持ち悪い


 澄海は、時輝を鼻で笑ってから理科準備室の扉に手をかける


 ………よくこんな怖い状況なのに、すましていられるなぁ、本当に不思議なヤツだ。
 一人でここを回って、それからさらに何周もしているんだ。
 おれっちはこの一回限りでもう十分だってのに。




―――ガラッ




 と、澄海が理科準備室の扉を開く


 その瞬間。






 人体模型が理科準備室から飛び出してきた!






「うぐっ………うぇ」


「う、うわあああああああああああああああああああ!?」


「ひっ―――――!」


 ティモが吐き気を堪えるように口元を押さえ、時輝が情けない悲鳴をあげる。




「っ! 下がれ!!」




 澄海が人体模型の頭を掴みながら叫んだ。
 何事かと思ったけど、目の前のショッキングな映像に、おれっちは思考が停止してしまった




「ちっ、ティモ!」


「う、うんっ!!」


 おれっちたちが動かないでいると、澄海は舌打ちしてティモを呼び、澄海は人体模型を理科準備室に蹴り飛ばし、部屋の中に飛び込んだ
 すると、少し落ち着いたティモが、おれっちたちに、ものすごい勢いで抱き着いてきた


「ごぶっ!?」
「がはっ!?」


 勢いが強すぎて、ダブルラリアットみたいになってたけど


「え? あ、あれ?」


 地面に転がるおれっちたちを見て困惑するティモ。ちょっとは加減ってものを覚えてほしいな! くっそ痛ぇよ! 後頭部を思いっきり廊下に打ち付けた!!


 時輝は失神。おれっちは悶絶。これは、どっちが良かったのだろうか。意識があってマシだったのか、意識をなくして何も見なかった方がよかったのか。




 ゴロゴロと転がってから涙目で後頭部を押さえて上半身を起こす。






 半開きになった理科準備室を覗くと………




(あれ………? 澄海のお姉さん? なんでここにいるんだ?)




 理科準備室の中、バラバラになった人体模型の後ろに、リズムを預けていたはずの澄海のお姉さんがいた


「こらこらー、よい子は寝る時間だよ。肝試しはそろそろお開きにして、そろそろみんな、帰ろうか」


 やさしく諭すように言い聞かせる姿は、本当にお姉さんのようだった。
 うーん、人体模型をドアの前にでも置いておいたのかな。それで、人体模型がドアを開けた瞬間に倒れこむようにして、中からおれっちたちの反応を見てたのか。すごいな。
 そんなこともできるのか。………時間は、もうすぐ0時30分をまわるところだ。
 明日が開校記念日とかいう休みの日でよかった。そうじゃないと肝試しなんて企画できないもんな。




「…………………。」




 おれっちが関心していると、澄海は無言で自分の姉を睨みつけていた


「ほーら、わたし・・・の言うことを聞きなさい。親が心配してるかもしれないよ」




 確かに、もしかしたら、おれっちの親が、おれっちがいないことを知って、心配しているかもしれない。
 怒られたくはないし、時間も、もうかなり遅い。
 澄海のお姉さんの言うとおり、今日はこの辺でお開きにしたほうがいいだろう。
 クロとタマのペアはまだ終わっていないけど、仕方ないか。後で謝っておこう




 おれっちは、時輝を肩に抱えて立ち上がる。


 が、それでも、澄海は動かない。どうしたのかと思っていると―――




「……………親が心配? 笑わせるな。ママが僕を心配なんかするはずがないだろう。優、お前がそれを知らないはずがない。」




 澄海が、そんなことを言い放った。さらに、




「……………お前、誰だ。」




 おまっ、実の姉に対して、なんてことを言ってるんだ!


 澄海に説教しようとおもって理科準備室に入ろうとしたら、澄海が理科準備室を閉めて鍵をかけた


「え、え――――!」


 何してんの? なんでわざわざ鍵なんか閉めるの? おれっちは怖くて、その部屋に閉じこもるなんてしたくないぞ!




『ティモ! クロとタマを呼んで来い! 今すぐだ! それと、ナナシ! お前はさっさとここから消えろ!!』


 な、ナナシってなんだ!? もしかして澄海のやつ、おれっちの名前を憶えてないのか!?
 1年生の時から同じクラスなのに! なんで!?


「うん! すぐ呼んでくるね! 待ってて!」


『30秒だけ待つ! そいつらを連れてすぐ行け!』


 澄海がそう叫ぶと、ティモが時輝の服を掴み、おれっちの手を取った。


「ここはすごくあぶないから、はやくいこ?」


「あぶない、のか? だったら、澄海は………」


「スカイくんならだいじょうぶだよ。いそいで!」


 ティモがせかすから、急いで立ち上がる。


「そのままときめきくんを、みんなのところまでおねがい! とちゅうに人がいたら、もうおわりだっていって!」


「へ? ティモは?」


「ごめんね、ぼくはちょっとさきにいくよ!」


「なっ! ちょっとまっ―――」


 ティモは廊下の窓から外に出た
 ここは一階だから危険はないけど、一人で大丈夫か?


「………うぅ……。」


「……………はぁ。」




 とりあえず、時輝を運ぶか


 一度理科準備室を振り返る


『クハハっ! お前面白いぞ! カイの息子なだけあるな!』


『――――。』




―――ガン ガン! 






―――パリィン!!


 と、澄海のお姉さんの笑い声と破砕音が聞こえてくる。澄海のお姉さん、一体何してるんだ?
 人体模型を蹴り飛ばした時の澄海は、なにやら慌てていた。相当珍しいことだ。


 なにをしているのか気になるけど、鍵がかかっているから確認なんかできない。


 澄海が何をしているのかは知らない。だけど、たぶん、おれっちがいると邪魔だということはわかった。
 常識ではわからない、オカルトの事なんだろうか。




 歯の間に詰まるものを感じながら、おれっちは、理科準備室を後にした。





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