猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第40話 ………耳がいいから、驚かすタイミングもわかっちゃうんだよね。

 夜の学校の廊下を歩いている。
 こういうのって、二人一組で行動して、片っぽの怖がりを鑑賞するものだと思っていた。
 だから、ひとりだとつまらない。


『へへっ、なんか今日は肝試ししてるみたいだぜ! 脅かしてやろうぜ!』


『いいなそれ。子供たちが驚く姿を、俺も見てやりたい!』


『あたしだって、今日は驚かすわよ! 人体模型に入り込んでおこうかしら!』




 ノリのいいゴーストたちが、悪乗りして肝試しに参加してしまっている。


 残念ながら、現在肝を試されているのは僕だけなんだ。驚くわけがない。
 というかネタバレしてるんだよ。




―――きた、澄海だ。


―――3,2,1で出るぞ。




 それに、僕の耳は常人より優れている。
 ひそひそ声を聞き取るなんて、わけがないんだ。


 漫画の主人公がなぜか大事な瞬間に難聴になるけど、僕に至っては絶対にそれはありえない。


 耳がよすぎるんだ。だから、なぜか里澄が僕に好意を持っていることも知ってる。
 ただ、本当に申し訳ないが、里澄には興味がない。素直にかわいいとは思っている。


―――3………2………1………


 タイミングまで教えてくれるから楽な肝試しだな。一応、こいつらは無事だな。


「「わー!」」


「……………。邪魔。」


「「えー!?」」


 渾身の驚かしだったのかもしれないけど、僕には全く響かない。
 最近で僕が驚いたのなんて、おっちゃんが風呂場で大暴れしたときくらいだ。


 いやあ、さすがにあれは怖かったな。




 僕は驚かせてきた生徒を避けて、『家庭科室』に入る。


「……………。」


 居るな。3匹。人じゃない、ゴーストが。


 ここは学校の七不思議『夜のお食事会』の場所だ。
 この家庭科室は、なぜか料理の匂いが立ち込めている。それはなぜか。


 簡単だ。ゴーストが料理を作っているから。材料なんかないはずなのに、どうして匂うのか。
 それも簡単だ。ここにいるのは昔建っていたお城で働く給仕の人たち。この場所で働くことが生きがいだった者たちの、土地に縛られる地縛霊だ。この、料理ができる環境がある、家庭科室から出られないんだ。
 一定の場所から出られないゴーストは、霊力が強い。平和夫の時にメスを具現化したように、ここにいるゴーストは、料理の材料を具現化している。実際に食えるわけでもないし、まず、ゴーストは腹が減らない。


 このゴーストたちは、したくて料理を作っているんだ。人間に害を及ぼすような悪霊ではない。


『この世に未練? ないわよそんなの。成仏? あはは、したくないって。おばちゃんはね、ここで料理を作るのが楽しいだけ。』


 ね? ポジティブな地縛霊でしょ。こんなのばっかりだから、僕もママも、七不思議には・・・・・・手を出さなかったんだ。




 この部屋の先生用の机の裏に貼り付けられていた御札を一枚だけ回収。次の部屋へと向かった。御札は何枚か貼ってあるみたいだ。




                    ☆




「………もどった。」


「あ、おかえりなさい、ぼっちゃん。」


 僕が体育館前に戻ると、クラスメートに懐かれている優の姿。
 見た目大人で、精神がガキだからかな。なんか違和感ないや。


「あ、こら! 今わちきのおっぱいを揉んだのはどこのどいつだー? 有料ですよ有料―!」


 別にどうでもいいや。


「よく戻ってきたな。どうだったか?」


 ナナシが聞いてくる。あれが肝試しか。うーん。肝が冷えたような感覚は一度もなかった。
 別に怖くもなんともないし、家で零とかバイオやってるほうが怖いかな。




「……………くだらない。時間の無駄だった。」


 本心からの言葉。だって、驚かす側もさ、白い布をかぶって『わー!』のワンパターン。


 こんにゃくを吊るした糸が後ろからビターン! とはならずに、気配を読んで普通に回避したり。
 怖がる要素なんか、どこにもないよね。


「そうか………。」


 僕が出て行った後、何人かが先回りして、驚かすポイントに移動してたみたいだけど、まぁ怖くはないね。


「約束だから、もっかい回るよ。」


「あー、いや、うん。わかった。」


 僕がつまらなそうだと感じたのか、ナナシが一度、僕を引き留めようとした。
 だけど、最初に言い出したのはナナシだ。今更撤回するわけにもいかないだろう。だから、僕の判断に任せたようだ。


 まぁ、ここまでしょんぼりされると、僕がなんか悪いことをしたみたいだし


「………ごめん。たいしたリアクションが取れなくて。」


 僕は謝っておいた。一応、みんなが僕を驚かすために企画した今回の肝試しなんだろうし、悲鳴どころか、眉ひとつ動かさずに終わっちゃったんだもんね。ま、僕はただ、みんなの無事を確認するために行ったようなもんだったけど。


「いや、無駄な時間をとらせてすまなかった」


「………。」


 僕はため息をついた。そんなに気にすることはないのに。なんせ、肝を試されてるのが僕なんだから、それはしょうがないことだよ。


「………それで、僕は次に、誰と組んで回ればいいの。」


 話をそらして、ナナシに聞く。
 今はいないみたいだけど、この学校にも、宿直の先生はいる。
 見つかれば全員、ヤバいだろう。とにかくヤバい。


 夜間外出、不法侵入。
 さらに家に帰ったら母親からのゲンコツ。


 ウチは基本的に放任主義だから、息子の行動にはノータッチだけどさ。


 みんなの脳みそのためにも、早目に済ませるのが一番だ。


「そうだな。7組に分かれてもらったから、4人ずつで組んでいるんだ。ショージキなとこ、澄海に怖い目に合ってもらうためにきかくしたから、かなりテキトーなんだ。」


 あー、やっぱり。だから僕が何周もすることになっていたのか。


「………(こくり)。わかった。それでみんなが満足するなら。」




 ナナシが申し訳なさそうな顔をしてからメンバーを告げる。律儀なやつだ。


 まぁ、それに乗って何周もする僕も律儀なこった。
 面倒くさいけど、一度頷いたことだからね。約束は守るよ。





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