猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第37話 ★おれっちは、澄海と友達になりたいんだ。

 ジメジメとしけった空気が続く。早いもので、もう6月だ。
 ゴールデンウィークも、猫たちとの修行に費やし、週末の夜には時々、心霊スポットを巡っては悪霊を成敗するようになった。


 猫たちも、だいぶレベルを上げてきている。
 僕はみんなの修行を見ているばかりなので、あまり修行はしていない。
 そもそも、小さいころからママが霊媒詐欺師として働く姿を見ているので、僕は無意識に技術が身についているんだ。


 一応、僕とタマは幽体離脱を覚えることに成功した。
 タマは体全体を本体から切り離し、1分までなら耐えられる。
 僕は右腕のみが本体から抜ける程度、切り離すことはできない。なんというか、手がブレて見える程度でしか離脱できないし、それも30秒が限界だ。寝る直前に毎日イメージを作り続けた成果だろうか。


 まだ幽体のまま物体は触れない。タマは浮遊もできない。


 平医院二階を探索中、タマが幽体離脱して、足場のイメージに失敗し、一階に落っこちたのは笑えた。ママが幽体を引っ張り上げなかったらタマは死んでいたかもしれないけど。


 ティモとおっちゃんはお経を覚えてはいない。だけど、読み方は全部覚えたらしい。
 さらにティモは、おっちゃんから藁人形と五寸釘を預かり、呪いの修行にも取り組んでいる。
 僕の家は聖域になっているから、危険はない。
 おっちゃんのような『入れ替え』は、まだ教えてもらっていないようだ。


 最後にクロだ。クロには僕がついて、神様の力の借り方をレクチャーしてあげた。
 ママからの受け売りだけどね。一応、僕がしてあげられる範囲の事はやったはず。


 クロはミコトとも仲良くなれた。今クロができることは、ミコトをその身に宿らせること。
 憑依ではなく、クロの意識を保ったまま、ミコトの力をクロが受け継ぐというもの。


 クロの霊力とあいまって、ミコトの力が増しているように感じた。






「スカーイくん!」






 修行の成果を脳内で反芻していると、ティモが僕に話しかけてきた。


「…………なに。」


 窓の外は雨模様の放課後。誰も帰らず、ただただみんな駄弁っていたところ、後ろの席のティモが僕にこんなことを言い始めた。もちろん、僕は雨足が収まるまで本を読むつもりだったのだけど、


「おねがいがあるんだけど、いいかな?」


 ティモが話しかけてくるんだよな。


「…………断る」


「はやいよ! ぼくまだなにもいってないよ!?」


 どうせろくな事じゃないだろう。


「…………なに。」


 短くそういうと、ティモではなく、タマが要件を言ってきた


「実はね~、明日からおっちゃん、バドミントンの県大会で~、三日間アパートにいないんだー。」


 もうおっちゃんの最後の県大会か。はやいもんだな。


「………それで。」


「よかったら、澄海くんちにー、泊めてもらえないかなー?」


「その、修さんがいないと………大人が、だれもいない………から。」


「だからおねがい! スカイくん!」


 三猫が手を合わせて頭を下げる


「………別に、いまさらだろ。土日はいつもウチに泊まりにきてるんだから。………僕としては、それは僕にとって日常みたいなものだから、平日も泊まるからって、そんなに変わらないよ。」


 毎週土日は、猫とおっちゃんはウチに泊まりに来て修行をする。まぁおっちゃんは時々バイトと部活で来れない日はあったけど。
 それが平日になったからといって、なにかが変わるわけでもない。平日も修行をするだけだ。


「え、じゃあ………いいの?」


 クロが上目使いで僕を見上げる。綺麗な青い瞳に吸い込まれそうになる。


「……………(こくり)」


「やったぁ! じゃああしたから3日間、スカイくんちにお泊りだね!」


 ティモが大声だはしゃぎだした。


 ば、馬鹿野郎! このクラスでそんなことを言ったら………!






「「「「 な ん だ と ! ! ? 」」」」








 うわ、狂戦士バーサーカーがいっぱいいる


 そんな大声でそんなこと言うから………




「クロちゃん、タマさん、僕の家も泊まりに来ていいからね!」


 稲村正明が鼻息を荒くしてドスドスと太い体を揺らして詰め寄る


「なんだよ、澄海。水くせえじゃねえか。なんでおれっちを誘わないんだよ。」


 なんか、こっくりさんの時に助平に掴まれていたのを助けて以来、急になれなれしく僕の肩に腕を回すようになった男子生徒。名前は忘れた。


「あたしだってまだ澄海くんちに行ったことすらないのにーっ!」


 と、ご当地アイドル。『九州娘くすこ』のリーダー如月銅鑼夢きさらぎどらむの妹、樋口里澄も喚く
 僕が呼んでるわけじゃないんだけど、ママが連れてきてるんだから、僕は本当に関係ないとおもう。


「クソッ! なんでいつもいつも澄海のやつばっかり………」


 なんか知らないけど歯を食いしばっているガキ大将。真田時輝さなだときめき
 墓にイタズラして以来、ゴーストに憑かれている。
 背後のゴーストは、時輝が歯ぎしりしているのをみてほくそ笑んでいた




「………………。」


 ため息をひとつ。


 いつも日陰にいるつもりだったけれど、今日ばかりは僕がクラスの中心に回されたみたいだ。


 しかたない。


「………あのね。今回はティモたちの両親が出張に出てるから。家に大人がいないその間だけだよ。ったく。なんでそんなに興奮してるんだか。」


 理由はわかってるけどね。どうせまた、くだらない嫉妬だろう。


 一応、猫たちに両親がいない、などとは言わず、出張だといった。
 それなら『親がいない』と茶化されることもないだろう


 まぁ、このクラスは、根はやさしい。そんなことをするとは到底思えないが、話がいつ、どう転ぶかはわからない以上、下手なことは言わない。
 時輝とか、口軽いから。






「「「「 ま ず 泊 ま る こ と 自 体 が 妬 ま し い ん だ よ !! 」」」」




 ………だろうと思った。
 クラスメイトの男女全員の大合唱。こんなことでクラスがまとまるなんて、どうかしてる


 だけどこれはもう決定事項。あの尻尾のかわいらしさは誰にも渡さない。………あれ?


「ティモ。お前は、泊まれるところが欲しいの。それとも、僕の家に泊まりたいの。」


 自分の心から逃げるように、ティモに聞いてみた






「えへへ、まいしゅうとまっているから、なれてるほうがいいかな、なんて」






 話を振る人材を間違えた。


 邪気のない照れ笑いでそんなことを言われてしまった。
 ティモは嘘なんかつかない。だから、それは本心からの言葉なんだ。


 ということはだ。


「「 毎週? 」」


「「 泊まっている? 」」


 狂戦士大量発生注意報発令


「「「「「 詳しく聞かせろ!! 」」」」」


 撤退命令が下された。
 僕は速やかに教室から、走って抜け出すことにした。


 去り際に、クロに目で語った。


『後の言い訳は任せた』


 ええーっ! というクロの心の声が聞こえた気がした




                    ☆




 澄海が抜けた後の放課後。


「ったく。やっぱりこのクラスはさいこうだ。」


 おれっちはそんなことを思っていた


 だってそうだろう?


 こんなに結束力のあるクラスは、そうそうないはずだ。
 それに、ひとりひとり、個性がつよい。


 岡田姉弟がクラスの一員となってからは、ますます団結力がつよくなっていた。
 唯一、澄海だけが団結などをせず、我を通していて、すべて自分ひとりで完結していた。だけど、それもまた、岡田姉弟のおかげで澄海の味として、クラスに溶け込んでいる。


 おれっちは、それがうれしかった。


 岡田姉弟がいなかったらおそらく、ずっと変わらなかっただろう。
 タマがこっくりさんに『どうやったらこっくりさんを終わらせることができるか』を聞いたときに、『澄海をここから落とせ』という指令が出た。
 その時に澄海が言った言葉は


『僕が落ちるだけでいいなら、それでいい。』


 そういった。あいつは、おれっちたちを助けるために、自分が犠牲になることを選んだんだ。
 たいして運動ができるわけではなく、少し暗い。いつも教室で本ばかり読んでいた澄海は、ちゃんとおれっちたちの事を気にかけていてくれた。


 しかもそのあと、クロがそれを止めると


『じゃあ、別の代案を聞かせて。みんなもなにか考えてよ。』


 このセリフは、普段の澄海じゃ、そんなことは絶対に言わないだろう。
 それはよく知っている。いつも一人で完結させるあいつが、はじめて他人を頼ったんだ。
 それに応えてやれなかったのは、残念だが………。


 ………あいつは、ちゃんと変わってきている。いい風に。


 ………それに、おれっちは見たんだ。おれっちの体が、急にうごかなくなっちまったとき。
 澄海は、ポケットから『数珠』を取り出し、おれっちの後ろの空間を掴んだ。
 まるで、そこにいる『何か』を払ったかのように、それからおれっちの体が急に動くようになったのだ、なぜかはわからないけど。


 澄海は、変わってきているのと同時に、何かを隠していることに気が付いた。
 何か。それはおそらくオカルト的なものだろう。
 もっと澄海のことが知りたい。 おれっちはあいつと、友達になりたい。








「澄海を泣かすために! 明日の夜は学校で肝試しな! 絶対に全員参加!!」








「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」




 こいつらも、変わってきている。間違いなく、悪い方に。


 おれっちはため息をついたが、結局はおれっちも、声を張り上げて腕を上に突き上げた。




 みんなこっくりさんをして巻き込まれた影響だろうか。
 クラスのみんなが、こわいもの見たさで、オカルトに興味を持ち始めていた。



「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く