猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第34話 礼子の奴、眠りこけながら結界を張るとは。一応修行は積んでおるようじゃの。



『ZZZ………(コロン)』←神


「………(ゲシッ)」←僕。


「………(ゲシゲシ)」←クロ


『ZZZ………(コロン)』←神


「………(ゲシッ)」←僕


「………。」←クロ


『ZZZ………(コロ)』←神


「………(ゲシッ)」←僕


「あの、」←クロ


「………何も言うな。わかってる。」←僕


「………。」←クロ


「………(ゲシッ)」←僕


『ZZZ………(コロ)』←神




 わかってんだよ。めっちゃくちゃシュールな光景だってことは。
 でも、僕がわざわざ担いだり引っ張ったりするのは、面倒くさい。


 面倒くさいのを嫌うゆえに、遠回りになっている気がするけど、僕もママも、そういう性格だ。
 そして、隣の部屋の襖の前にまで転がした。


『―――。――――いの?』


 ん? あ、ここはまたおっちゃんとティモの部屋か。
 また読めない漢字でもあったんだろう。話し声が聞こえてくる


「………一応、おっちゃんにも、こっちは進展したことを報告しとくよ。」


「う、うん」


 僕は神様を転がしながら、襖を開ける










「――せやから、ジャーマンスープレックスは、手をこう。ほら握って」


「こう?」


「せやせや。そのまま―――」


「んんっ! せりゃーっ!」


「ぐぶぅふ!? ゼヒュッ! 成功、や。」


 なんか修行サボってプロレスしてやがった。








「………なにしてるの。」








 僕はため息をつきながら、ひっくり返っているおっちゃんと、ブリッジ状態のティモに聞いた。


「あ゛………えっと………げほっ、息抜き?」


「………つまりサボりだね。」


「そ、そうともいう」


 ちらり、と自分の足元を見る。
 僕は蹴りやすいところに転がっていた神様を


「………。」


 トントンと、二歩ほど後退し


「………ふっ!」


 おっちゃんに向かって蹴っ飛ばした。








『げぶぅああ!!???』


「へ? なにごとぶふぅうううう!??」


「にいちゃああああん!」








 神様とおっちゃんがもみくちゃになって吹き飛ばされる。






「………さぼってんじゃねぇよ。」


「す、澄海くん!?」


 クロがあわてて僕の腕をつかんだ。これ以上の追撃をするとおもったのかな。
 そんなことをする気はない。おっちゃんのところに行ってあげなよ。


『い、いったい何事なのじゃ。なぜ、いきなり背中を衝撃が………!?』


「なんか、もやっとした空間が飛んできたように見えたら、今度は衝撃が………。澄海、お前サイコキネシスでも使えるのか!?」


 おっちゃんには、神様がよく見えていないらしい。
 その点、ティモはしっかりと視認できているみたいだが。




「………ふざけたことを言う前に」


「あ、はい。ごめんなさい。ちゃんとべんきょうしますゆるしてください。」


 謝れ、と目で脅迫したら、しっかり謝ってくれた。
 しっかりと正座をして、床に手を当て、頭を床にこすり付けて。


「………こっちの首尾はどうなの。」


「どうもこうも、おっちゃんもティモ坊も、漢字が難しくて読めないんやけど。」


 僕はため息をついた。だから、遊んでいたってのかよ。わからないんだったら………


「………だったら、誰かに頼めばいいのに………。」


 そう言ってから気が付いた。そう言えばおっちゃんって………


「いや、だって………人と話すのって、緊張するやん………。自分から話しかけるなんて、おっちゃんには難しい技術やで。」


 そうだった、失念していた。人見知りうんぬんもあるかもしれないけど、自分から話しかけることはない人間だった。


 誰かを介して話したり、話し始めると饒舌になるから違和感はそんなにないけど、平医院にいるときから、そうだったじゃないか。


「………。わかった。この部屋には優を入れる。………優は霊感はないけど、お経は気まぐれで暗記したみたいだから、たぶん役に立つよ。」


「暗記か………。地味にスペックが高いな。」


「………(こくり)」


 ということで、優にメールでおっちゃんの部屋に呼び出しておいた。


「………じゃあ、僕たちは行くから。ママに報告もあるし。」


「ほうこく?」


 おっちゃんの首に抱き着いたティモが首を捻る。


「………(こくり)。クロの修行はいい感じだから、次の指示をもらいにいく。」


「いいかんじって、あそこのおんなの人が、クロちゃんのしゅぎょうのせいか?」


「………そんなとこ。」


 ティモが指差すのはΩ←こんな羽衣を付けた神様。




『一応、空気を読んで発言は避けておったが、もうよいか?』




「………もうちょっと黙ってろ。」


『 !! 』


 一蹴。まだ僕の話は終わってない。


「………だから、そこの神様をママの所に連れて行かないといけない。」


『い、一応ながら神様じゃぞ………黙ってろ、など』


「………(ギロ)」


『うぅ………なぜ我がこんな小童に怯えねばならぬのじゃ………。なぜ背中が曲がるように痛いのじゃ………』


 ぶつぶつ言いながら黙ってくれた神様を無視する。


「えっと、じゃあこの辺のもやもやが、神様なの?」


 おっちゃんが、神様がいるあたりを、両手でわさわさする。振れても貫通するから、本当によくわからないんだな。


「………(こくり)」


 僕がうなずくと


「神様初めまして。岡田修と申します。僕は、結婚できますでしょうか。」


『………なんと自由な子なのじゃ………急すぎはせんかの。人生急いではならんぞ。』


 そんな会話が繰り広げられた。なんか、神様っぽいこと言ってるし。ああもう!


「………そんなことはどうでもいい。どうせおっちゃんはきっと結婚なんかできない。だから、早く自分の修行をして。」


「澄海が冷たい………」


 当たり前だ。修行しない人が悪い。


「………それと神様。アンタも起きたなら僕についてきて。」


『一応神なのに………なぜ指図なぞ』


「あ?」


『な、なんでもないぞ。我は何も申しておらぬゆえ!』


 事態が思うようにいかない。めちゃくちゃイライラする。


「す、澄海くん、………いこ?」


 クロが慌てたように僕の手を引いて部屋から出た。神様も僕………ではなく、クロの後についてきた。


『そもそも、額に張り付いておるコレはなんなのじゃ。』


「………御札だよ。」


 もう御札自体の効果は切れているだろう。


『剥がそうにも………イタッ! 皮膚と同化しておうようじゃ。』


 そりゃあ、あんなに大量にアロンアルファを塗りたくったらなぁ


「………似合ってるよ。」


 アホっぽくて。


『そ、そうかの?』


 うわ、やっぱりアホだ。照れてやがる


 歩きではなく、ふよふよと漂うようにクロの後をついてくる


『ここは、礼子の自宅か?』


「………(こくり)」


 神様が聞いてきたので、頷いておく。
 それを見たクロが、話をするタイミングを見つけたかのように、質問する。


「あの………礼子さんと神様は、どういう………お知り合い、なんですか?」


『むぅ………どうと言われてものう』


「………あんたのこと、ガチレズとか言ってたけど。」


『ぶふぉっ!? ばば、馬鹿も休み休み言え! れれれ礼子め、じ自分の息子になんてことを吹き込んでおぉるおるのじゃ!』


 いきなり吹き出したかと思ったら、今度は不自然に目が泳いでうろたえ始めた。
 よくわからないけど、ガチレズだということはわかった。


『礼子は、取り壊されたやしろに奉られていた我を、回収しただけじゃ。それから、礼子に霊力を与え、霊能力を覚えさせた。ただ、そういう仲じゃ。』




 ………ふーん。一言じゃあ語れないってことか。
 おっと。ママがいる部屋はここだ。
 声が何も聞こえないってことは、修行の真っただ中ってことなんだろうか


 できるだけ音をたてないようにゆっくりと襖を開くと








「………(こっくり)」




「………ZZZ」








 寝て、いやがった。


 いやいやおかしいだろ。だって僕が入門書を取りに行ってから5分も経ってないはずだろ!?
 あれでもタマは修行中なのかもしれないけど、規則的な寝息が聞こえてくるからたぶん高確率でタマは寝ているだろうし、ママに至っては船を漕いでいるから完全にアウトだろあれ


『むっ! そこに寝ておるのは、もしや礼子か!?』


 一緒に覗いていた神様が興奮した声を上げた。


「………(こくり)」


 とりあえず頷いておく。


『我を鏡に閉じ込めた挙句の果てに封印なんぞしおって! 許さんぞ!』


 神様が襖を通り抜け、ママに向かって一直線に飛ぶ。あ、一言で片付きそうな関係だ


「むにゃ………(こっくり)」




――――バヂッ!




『なんと! こやつ、眠りこけながら結界を張っておるわ! 小癪な真似を!』




――――バヂッ!




『うぅ………。小娘相手に、なんたる体たらくじゃ………。礼子の結界ごときを破れぬとは………手がヒリヒリする………。』


 神様は結界に弾かれた右手をさすりながらも、涙目でママを睨みつける


 僕とクロも部屋に入り、神様は結界のどこかに穴がないものかと、ママの周りをふよふよしている。




――――そのまま10秒くらい経った頃。




「むにゅ………!!(ガクッ!) ふにゃ! 寝てない、寝てないよ。」


 嘘コケ。だったらそのよだれはなんなんだよ。


『おお、起きたか。さあ礼子、結界を解くのじゃ。積年の恨み、晴らしてくれる!』




――――バヂッ!




『いったぁ!』


「くぁ、んーっ………ぁふぅ………。はえ? ミコトじゃん。クロはしっかり封印解けたんだなーバスルーム。上出来上出来。」


 ママは盛大にあくびと伸びをして、目をこすりながら神様を見る
 ………そんな神経質な風呂には絶対に入りたくない。


『礼子、結界を解かんか!』


「へ? なんで? アタシが結界解いたら、ミコトはアタシに憑依してそこに横たわっているタマ子になんかやらかしそうだし。なんかやだ。」


『何を言うか! 我がそんな幼いオナゴに手を出すはずがなかろう!』


「それ、アタシは守備範囲ってことよね。ミコトがアタシの事が大好きなのはよーくわかっているけどさ。ほどほどにしときなさいよ。また封印するぞ」


『う、うぬぬ………我の許可もなしに、異界のものと契を交わすなど、言語道断! 我は、認めておらぬぞ!』


「話変わってるし、まーだそんなこと言ってるの? もう澄海も9歳だよ? アタシの身も心もダディちゃんのものなの。邪魔すんな変態神」


『我をそこまで愚弄するか! もう許しておけん! 神通力をお見舞いしてやる!』


「まあ、アタシの結界には効かないんだけどさ。クロ、鏡を閉じろ。」


「あ、………はい。(パタリ)」


『くらえ礼子、我が神通―――』


 神様が虚空に消えた。


「あー、寝ざめ最悪。」


 結局寝てたことは認めるのかよ。


「クロ、そいつの名前は忘れたから『ミコト』とでも呼んでやってくれ。アタシ程の実力はないが、修ちゃんの藁人形並に利便性に優れる神様だから、時と場合によっちゃあ、アタシの幽体離脱よりも強い武器になる。有効に使役してやってくれ。」


 なんだそれ。つまりママは神を凌駕した存在ってことなのか? うわ、ただの詐欺師かと思っていたけど、実はとんでもない人間だったみたいだ


「ミコト、さん………。はい………わかりました。」


「ミコトは鏡の中から話すことも出来る、顕現させたいなら、鏡を開いた時と同じようにやってくれればいい。一度閉じれば、また封印されるように、鏡には印を打ってある。クロには逆らえないだろうよ。牙をむきそうなら、すぐにでも鏡を閉じたらいい。」


「う、うん。がんばりますっ………!」


 クロがぐっと手を握り締めるのを見届けたママは、結界を解いてクロの頭をなでる。


「そんじゃ、クロはもういいよ。時間があれば、修ちゃんたちの修行に付き合ってあげな。」


「は、はいっ! 澄海くん、………ありがとう。」


「………(ふるふる)」


 礼を言われるのに悪い気はしない。それに、僕はとくに何かをしたような感じはしないので、首を横に振った。
 はにかんで笑顔を向けるクロが、踵を返して部屋をでる。僕もそれを見送って、ママに聞く。


「………僕は。」


 次の予定はない。おっちゃんのところに行ってもいいんだけど、優もいることだし、大所帯になる。人口密度が高いのはあまり好きではない。


「澄海は………どうしよっか。一緒に幽体離脱の特訓してみる?」


「………(こくり)」


 できることが多くなるのはいいことだ。


「………教えて。」


「いーよ。珍しいね、澄海がアタシに教えを乞うなんて。いつも一人でなんでもやっちゃうくせに。」


「………幽体離脱の方法なんて、自力じゃわからない。」


「あー、たしかにそうかも。じゃあ、タマの隣に寝て、自分の数センチ上にもう一人の自分を思い描く。」


「………(こくり)」


 僕はタマの隣に寝っころがって、目をつむる


 自分の数センチ上に、幽体が宙に浮いているようなイメージを作り上げる。その意識を手放さないように、常に集中し続ける。


「地道な作業だよ。イメージを固めるまで、ずっとそれの繰り返し。集中する以外の作業は必要ない。ただ、切り離そうとする自分の幽体を知覚できるまで、その修業は続く。」


 たしかに、気が遠くなるほど地道な作業だ。面倒くさがりで、短期決戦を望むママが苦労するのもうなずける。
 幽体を知覚できるようになるまでってことは、自分の幽体がそこにあるってことを分かるようになるってことだよね。………だったら、ママならできる裏ワザがあるじゃないか。


「………この修行で思いついたんだけど、一回、僕に幽体剥離してみて。」


 幽体剥離して、僕の幽体を本体から直接切り離したら、自分の幽体を自分で知覚することができる。


「澄海に? ダメダメ。アタシもそれを考えたんだけど、生身が生きている状態で、イメージが固まらないうちに幽体剥離して、そいつが幽体の固定に失敗すると、幽体が四散するんだ。こればっかりは地道な修行しか思いつかん。」


 そう簡単にはいかないらしい。


「一日二日で会得できる技術でもない。こればっかりはアタシも苦労した。」


 プロであるママが言うのであれば、仕方ないだろう。
 僕は目を閉じ、自分の幽体のイメージを作り続ける。







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