猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第23話 ★わたしだけ………修さんががんばってるところを、みてないよ



「あー、こほん。こっくりさんに質問したい。いい?」


 今までのクロの雰囲気との違いに、クラスメートは戸惑ったが、クロが打開策を見つけたと思い、みんながクロおっちゃんに注目する


「あれー? クロちゃ‥‥‥おっちゃんー?」


「えっ? 今クロちゃん、にいちゃんなの!?」


 小声で驚く二匹。
 僕は耳がいいので普通に聞こえるが、周りの人には聞こえていないようだ


「おう。おまえらがお困りなら参上するのが兄貴ってもんだ。今の見てくれはクロなんやけどね」


 グシグシとティモの頭を撫でるクロおっちゃん


 こっくりさんは少し怪訝そうに間を開けた後、『はい』に10円玉を動かした。


「『はい』っつったからな。後悔すんなよ。逃げんなよー?」


 状況はよくわからないけど、こっくりさんは選択を誤ったような気がする




 クロおっちゃんがおもむろに10円玉に指を置いた。


 たしか、途中で10円玉に指を置いてもルール違反なんじゃなかったっけ。
 こっくりさんが『はい』って言ってるなら大丈夫なのか。


 自分で自分を逃げられなくしていいのかな。


「質問その1。こっくりさん、生前は彼女いたの?」


『‥‥‥』


「答えてね。二言はないって言うたやんな。」


『いいえ』


「彼女いないの!? ぷぎゃーテラワロス! おっちゃんかて彼女おらんけど死ぬまでには確実に彼女できる自身があるね!」


 僕はすでにおっちゃんに10円玉に入っているのは男のゴーストだということは話してある


 ‥‥‥よくそんなに煽ることができるな‥‥‥。


『‥‥‥』


「質問その2 享年は何歳?」


『36』


「なるほど。質問その3 童貞ですか? ちなみに、童貞の意味くらい判るよね。10円玉を伝って俺の知識を借りてるはずだから。だから、逃げるなよ?」


『‥‥‥』


「ほれ早く。」


『‥‥‥』


「あっれれー? 言えないのかにゃーん? 沈黙は肯定と捉えますよ?」


『‥‥‥』


「ほい確定! 魔法使いキタコレ! ねぇねぇどんな気持ち? 幼女に童貞となじられるいまの気持ち、どんな気持ち!?」


『――――』


 バヂィッ!


「「「うわっ!」」」


「「キャッ!」」




 10円玉に指を乗せていた全員の指が弾かれる
 こっくりさんが止めたのであれば、一応みんなこっくりさんからは解放されたはず。
 霊障があるかどうかはもうそいつの自己暗示しだい。
 あとはこの隔離された結界のみだ


 思わぬところでおっちゃんがこっくりさんに勝ったけど、ドウテイってなんだろう
 こっくりさんに勝てる何かなんだろうか。
 後でパソコン室で調べてみようかな


「やはは、逃げたな? ウチの猫たちを巻き込んだ落とし前はつけてもらうよん」




 楽しそうに笑うクロおっちゃんはバックステップでタマの席まで戻り、体操服入れの中に手を突っ込んだ、その瞬間。


 ―――バキィ! と、堅い木が割れるような音が響いた




 タマの奴、よくその細腕で教卓を叩き割れたなぁと横目で感心しつつ、クロおっちゃんが動きやすいように机の位置を僕はすこしだけ調整しとく。


 クラスメートがその音源の方に注目した一瞬(注目された瞬間にはすでにタマは他の人に紛れていた)、タマの体操服入れから藁人形を取りだしたおっちゃんが、僕の目の前を通り過ぎ、10円玉まで一直線に駆け寄る


 おっちゃんの手元が動いているな‥‥‥。
 なにをしているんだろうか。
 ‥‥‥藁人形の腹から髪の毛を一本抜き取って、左手に釘を持ち、釘を藁人形に突き刺したのか


 トンカチを今は持っていないみたいだけど‥‥‥。


「―――ぅおらぁ!」


 うわ、普段のクロの口からは決して聞けないような声だよ、それ!
 おっちゃんは、空っぽの藁人形に貫通した釘を、そのまま10円に叩きつけた


 ふぅむ。僕の出番はなさそうだね。正直、助かったよ


 ふいに10円玉から気配が消え、その気配が藁人形に移った




 さらにクロおっちゃんは手首から素早く髪留めようのゴムを抜き、藁人形を縛ると


「封印完了。澄海、これあげる。」


 そんながんじがらめでうねうね動く、奇妙な藁人形を渡されても‥‥‥


 縛っているゴムはなんかのアイテム何だろう。霊体として抜けられないみたいだ


「‥‥‥。いらない。」


「せやろな」


 クロおっちゃんが藁人形を握り直すと、今度は助平入り藁人形とただの藁人形の位置情報が入れ替わった‥‥‥のか?
 藁人形に助平が移った時点で結界も消えたし、藁人形からゴーストの気配もなくなったんだ。何はともあれ一件落着か。




「うっし。馴れてきた。結構条件がゆるゆるなんやな、俺の能力。」


 おっちゃんはクロのポケットに藁人形を入れて隠し、僕はおっちゃんに小声で話しかける。


「‥‥‥。今のは。」


「入れ替えだよ。さっきの藁人形は俺のカバンの中に行った。で、カバンにあった藁人形がコレ。」


 ポン、とポケットを叩く。


「多分だけど、入れ替える時、対象か藁人形のどちらかに『自分自身』がいないと入れ替われないみたい。抵抗されるなら自分の髪を抜いて不純物をなくした器にして、どっちも直接触っていた方が入れ替えやすいから、さっき髪抜いたんよ」


 やっぱり言っている意味がよくわかんないや。


 半分くらい聞き流して、適当に相づちをうっとくことにしよう


「クロはいま『俺の身体』にいるから、『俺が手に持った』この藁人形とチェンジ。」


 おっちゃんが念を込めると


『‥‥‥修さん‥‥‥無茶ぶりがすぎるよ‥‥‥』


 クロが帰ってきた。藁人形(空っぽ)とクロの霊体が入れ替わった。今はまたおっちゃんの本体が空っぽの状態なんだろう


「この場合はどっちも『自分』が入ってるから距離があってもなんとか出来るみたいだ。たぶんやろうと思えば学校の教室にいるおっちゃんの本体とこの藁人形の位置を入れ替えることが出きるかも。おお。考えていけばこの入れ替え、めちゃくちゃ応用が効くじゃん」


『お‥‥‥修さん‥‥‥その、早く、私の身体を返して‥‥‥』


 表情は見えないけど、今にも泣きそうなクロの顔が脳裏に浮かんだ。おっちゃんの相手はティモの次に大変そうだね


「ん。ごめーんね。‥‥‥あ、‥‥‥戻った‥‥‥?」


『うん。本当にごめんね、クロ。変わったこと無いよね』


「う、うん‥‥‥特に指名されたりもしてないし‥‥‥大丈夫、だよ。」


 また入れ替わったっぽい。おっちゃんの能力は条件も効果も半端だけど、利便性がかなり高いな。


 僕みたいな意味のわからない時間停止の結界(2D)と交代して欲しいくらいだよ。
 なんだよ、平面だけ時間を止めるなんて。


『ほな、おっちゃんは戻るわ。またなんかあったら呼んでくいやんな。たぶん知識と実力が足りなくて役にはあまりたたないだろうけどさ』


「‥‥‥ううん。そんなこと、ないよ。ありがとう、‥‥‥大好き」


『ゃはは、おっちゃんもクロのことは大好きよ。ほなな』


 おっちゃん入り藁人形はただの藁人形に戻った


 本当に何者なんだろう、おっちゃん。


 藁人形を大量に所持してるみたいだし、傷ができても、あまつさえ死んでも復活できるなんて、もはや敵なしじゃないか




「‥‥‥結局、全部修さんが終わらせてくれたの‥‥‥?」


「‥‥‥(こくん)」


「本当に………五分以内で全部終わらせるなんて‥‥‥」


 それは僕もびっくりだ。













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