猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第22話 ………たかが二階の教室から落ちた程度じゃ、僕は怪我すらしないからね。

「‥‥‥。」


 ため息を一つ。




 物体に入り込まれると手だしできないのをいいことに、帰れと言われても帰らない助平。




 いっそ10円玉をひん曲げてやろうか。


 いや、今はこっくりさんの最中でしかも10円玉に入ったなら、触れている全員の指はちょっとした自己暗示と金縛りでもう10円玉から離れないだろう。


 そんな連中から10円玉を奪うのは難しいな。


 さっきの僕が助平と戦ってる間に指を離せば大丈夫だったかもしれないが、そういう『ルール違反』がどういう影響を及ぼすのかもわかんないし‥‥‥う~ん。


 年上に相談するのがいいか。


 ママは今熟睡中だろうし、起こしたらきっとキレるだろう。でもほかに頼れる人がいない。


 というかこの隔離された結界から電話なんかできるんだろうか‥‥‥圏外だし。


 あー最悪。


「う~ん。どーしたらこっくりさんは帰ってくれるのかなー?」


 タマがまた悪乗りに悪乗りを重ねる最悪な質問をしてしまった


 すると助平は
『澄海をここからグラウンドに落とせ』


 という予想通りの指令をだす。


 あくまで僕狙いであることを喜ぶべきか忌むべきか‥‥‥。
 ここは二階の教室だし、小学生が落っこちれば普通に大怪我する。打ち所が悪かったら死ぬだろうね




「だってー。澄海く~ん、どーするー?」


 タマが首を動かして僕を見た。
 クラスメートも、指示に動揺しながらも固唾をのんで僕の言葉を待った


「‥‥‥。」


 深くため息をつく。


「‥‥‥僕が落ちるだけで終わるなら、それでいい。」


「そんな‥‥‥だめ、だよ‥‥‥。そんなの‥‥‥!」


「‥‥‥。クロ。僕だってこっくりさんの知識なんか中途半端にしかない。だったら従った方が効率いい。」


 めんどくさいことは早く片付けたいんだよ。


「で、でも‥‥‥それで本当に終わるかもわからない‥‥‥。飛びおりたら、どうやって教室にもどってくるの‥‥‥? こっくりさんがウソついてたら‥‥‥」


 む‥‥‥。確かにそうだ。クロはオドオドしながらも、客観的に物事を捉えて冷静な判断をしてるな。


 ‥‥‥というかそのセリフ、僕が怪我をするなんて一ミリも考えていないだろ。


 怪我なんかしないけどさ。


 まぁ確かに、この助平の結界から抜け出せて教室から落ちたとしても、この結界に入ってくる術を僕は持っていないし




 そもそも助平は邪魔な僕を追い出そうとしているからそんな指示を出してるんだ。


「‥‥‥じゃあ、別の代案を聞かせて。‥‥‥みんなも何か考えてよ。」


 少し悩んでから、みんなにも解決策を求めた。


 一人で解決しないといけない訳ではないしね。かといって代案を期待はしないけど。


 別に一生出られないわけでもないだろうし、特に焦りはしない。いつかはこっくりさんが折れる。基本的に飽きれば終わりだ。


 ‥‥‥一応次にこういうことが起こった時のためにこっくりさんの勉強でもしとこう。
 あと結界からの脱出方法も。


みんなが話し合いをしている間、クロが僕に耳打ちする。


「代案‥‥‥かどうかはわからないけど、修さんに、そうだんしてみる‥‥‥!」


「‥‥‥。携帯、通じないよ。」


「えと‥‥‥だったら‥‥‥。‥‥‥よしっ」


「‥‥‥?」


「やっぱり‥‥‥修さんに、連絡を取るね」


 だからどうやって と問おうとしたら


 クロはおもむろに、カバンから藁人形を取り出した


「‥‥‥それ、おっちゃんの。」


 クロは小さく頷く


 それをいったい、どうするのかと思ったら、クロはその藁人形の頭を軽くぽんぽんと叩いた


 ‥‥‥なるほど。携帯には繋がらないが、おっちゃん自身に話すことはできる。


 あの藁人形はおっちゃんそのものだ。ちょっと霊力を注いでおっちゃんに知らせるくらいはできるかもしれない。


 今、8時30分だけど、時間は大丈夫なんだろうか


『なんや呼んだけ? あともうちょいで一限目始まるから手短にな』


「‥‥‥。」


 合図を送って増援を呼ぶのかと思ったら、本人が来ちゃったよ‥‥‥


 というかなにこれ。藁人形が喋って動いてる?


『お、澄海。昨日ぶりやんね。』


「‥‥‥。どうなってんの、これ。」


『俺にもわからん。フユルギたんに聞いたら「みくるちゃんの本質は藁人形との入れ替えなんだな」って言われたから、できるんじゃないかと思ってやってみたら、なんかできた。』


 またフユルギか。誰なんだよそれ。
 あとみくるちゃんってなに。おっちゃんのあだ名か?


「‥‥‥入れ替えだったら、なんでクロが頭を叩いたのに気づいたの。」


 その程度じゃ藁人形は傷付かない


 入れ替えるタイミングもわからないのに、緊急信号を受け取れるのはどうしてだろうか。


『んっと。この藁人形にはねぇ、おっちゃんの髪の毛が入っているのだ。クロが俺を呪ってリンクさせたのだよ。俺みたいな中途半端なチカラじゃないから、入れ替えなんかないしね。頭を叩かれて気づいた』




「‥‥‥今、おっちゃんの本体は。」


『幽体離脱中。幽体がこの藁ん中や。本体は机に突っ伏して寝とるんよ』


 なるほど。じゃあ今、おっちゃんの本体は空っぽなのか。


『あ、クロちゃー。ちょっとこさ身体借りるよ』


「ふぇ‥‥‥? ど、どういう‥‥‥っとと。」


 いきなり、クロの雰囲気が変わった


 なんというか、どこかフワフワしたような飄々としたような雰囲気に。


『ふわぁぁっ!? ど、どうしちゃったの‥‥‥?』


 そして藁人形からはクロの声。


 なんだ、なにが起きたんだ?


「おっ、身体が軽い。さすが猫やなぁ。人間様とは筋力が違うね」


 クロが肩をグルグルと回し、首の骨をコキコキと鳴らした。


「ごめんね、クロ。5分だけ俺の代わりに授業受けてちょうだい? 何も喋らなくていいよ。」


『え? え? えっ―――』


 クロ(?) が藁人形に手を触れると
 藁人形が力無く『生気を失った』


「‥‥‥。クロは。」


「んー? 俺の高校の教室に行ったよ。で、あのこっくりさんを止めさせればいいんだね」


「‥‥‥(こくん)」


 状況の把握が早くて助かる。
 藁人形との入れ替え。中途半端なくせに結構なんでもありの能力だな、おっちゃん。


 クロの声でクロの顔。しかし中身はおっちゃん。中身だけ入れ替わったんだ。


「‥‥‥。あれの止め方、わかるの。」


「わからん。けど、こっくりさんに聞きたいことはいっぱいある。」


「‥‥‥?」


「こっくりさんについて、いっぱいシュミレーションしたからね。質問したい内容がいっぱいあるんだよ」


「‥‥‥なんでこのタイミング‥‥‥。」




 呟く僕の声は聞こえなかったようで、おっちゃんはクロの黒い尻尾を左手で掴んだ


「尻尾があるって不思議な感じだね。人間に無い器官やから触るとゾクゾクする。」


 なんというか、マイペースだ。




「さわってみる?」


 クロの体でそんなことを平気で聞いてくるおっちゃん。
 実はちょっと興味はあったけど。


「…………。今はいい。」


 そう答えておいた。今はこっくりさんの解決が先だ。
 ポイッと自分の尻尾を投げ捨て(それでも腰に付いているので取れるわけがないが)こっくりさんの元へ向かう。











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