猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第18話 ローカルアイドルって………ずるい。おっちゃんかて寝たいねんで!

撮影は無事終了した。


 無事、ではないか。
 おっちゃんは今日だけで二度、すでに死んでいるわけだし


 現在の時刻は午前3時


 僕は保護者がついているからいいとして、おっちゃんだってまだ学生の身分だ。
 九州娘たちは仕事という大義名分があるけど、深夜徘徊はマズいだろう。


 ‥‥‥でも、プロデューサー自らが映すと言ったんだ。どうとでもなるか。
 所詮はローカル番組だし。


「にいちゃん‥‥‥ぼくねむい‥‥‥」


 ティモが目を擦りながらおっちゃんのジャージを引っ張る


「せやなぁ………おっちゃんは明日も学校あるし6時30分起きだよ、三時間しか寝れねぇし。」


 おっちゃんがしゃがむと、ティモがのそのそとおっちゃんの背にのり、おぶられる


 猫たちは昼間寝てたから明日の朝は特に問題ないだろう


「そう? 頑張ってね。」


 よっこらしょ、と立ち上がったおっちゃんに、ドラムさんがどうでも良さそうに励ました
 おっちゃんと一緒の学校だって言ってたはずだけど‥‥‥なんでそんな他人事なんだろう


「樋口さんも同じでしょ?」


「アタシは明日‥‥‥てかもう今日か。今日は午前中は寝るもん。ローカルアイドルの特権よ」


「なんやそれズルい! ヘレンさんハーモニさん! この如月銅鑼夢はサボリ魔だ! ヤンキーだよ!」


「アタシ学校は福岡だから、今日と明日は学校休んできたんだけど」


「わたしは熊本だからぁ、スタッフさんに自宅まで送ってもらったら午前中は寝るよぅ?」


「みんなひどい! 皆勤賞目指してる優等生なおっちゃんは仲間外れ!? 正直者はバカを見ないんだからね! 俺は絶対学校に行ってやるんだから!」


 ヘレンさんとハーモニさんはクスクスと笑いながらおっちゃんを見送った


 おっちゃんはツッコミタイプだけど、結局自分がいじられてツッコミを入れることが多い。
 自分がそういういじられるキャラだということを把握しているようだ。(そのキャラを作っているようではなかった)


 おっちゃんは九州娘の好感度を着々と上げているようだけど、九州娘たちはおっちゃんを『女友達』みたいなくくりにして一緒にバカやってるように見えた。


 つまりおっちゃんを男として見ていない、ということなんだけど


 おっちゃん自身、九州娘を女として見ている様子がなかったから、そこは問題ないだろう


 おっちゃんは九州娘のヘレンさんとハーモニさんの顔の区別を最後まで付けられないくらいだったのだから


 ドラムさんはクラスメートだからなんとなく覚えていたんだろうか。


「修ちゃん。家まで乗っけていこうカジュアルコールセンター。それともウチに泊まってく?」


「あー‥‥‥助かります礼子さん。さすがに泊まるのは迷惑でしょうし、遠慮しときます。その溢れんばかりの厚意だけは貰っときますよ。(なんだそのカジュアルなコールセンターは?)」


「じゃあ家まで乗っけてくから車までついてきて。家はどこ?(カジュアル、アルコール、コールセンターだとは誰も気づくまい。ふはは)」


 クルクルと車のカギを回しながら聞くママ。
 バカばっかりだ。 僕は何度目ともつかないため息をつく。


「大山荘です。」


 おっちゃんが短く答えると


「‥‥‥‥‥‥あっ」


 間を空けてから、カギがすっぽ抜けた




「大丈夫ですか?」


 幸い、おっちゃんの足元に落ちたみたいで、おっちゃんがママにカギを渡す
 ママがカギを受け取っても返事が無いのでおっちゃんが首を捻る


「公園の近くですよ?」


「‥‥‥いや、わかるよ。大山荘かぁ‥‥‥あそこ幽霊アパートだろ」


「はい。俺以外の住人はいませんでした」


「だろうね」


「家賃が冷暖房込みで一万円だから即決しましたよ」


「だとしてもあそこはあかんぜ‥‥‥」


「僕は友達はほとんどいないけど、おかしな仲間はいっぱいいるからね。非力な僕を護ってくれる物好きな人もいるんだよ」


「で、友達じゃないんだ」


「はい。102号室のゴーストですけど。飯さえ食わせりゃ襲ってこないし、コイツ等の、面倒も見てくれるしね。」


 背中のティモを背負い直す


「あの‥‥‥修さん‥‥‥」


 話を聞いていたクロが、おっちゃんの話に加わる。


「ふぇ? どったのクロちゃん。」


「‥‥‥藤本さん‥‥‥何でか知らないけど、もう‥‥‥いないみたい、だよ?」


「ほわっつ? なぜwhy? あ、浮遊霊だしどっかぶらぶらしてるんでしょ」


「‥‥‥ううん‥‥‥匂いも気配も‥‥‥どこにもないの‥‥‥。成仏、したの‥‥‥かな。」


……………………。


僕は無言でママからカギを奪い、車の助手席に入った。
 頬を伝う冷や汗を隠すために。


 そっかぁ‥‥‥あの男のゴーストが面倒を見てたのか‥‥‥。
 問答無用で成敗しちゃったなぁ


 おっちゃんたちも僕に続いて車に乗り込む


「うーん困った。おっちゃんかて人間も幽霊も苦手やし‥‥‥。猫たちには安心できる場所が欲しいし‥‥‥。」


「だったらアタシが子猫たちの面倒を見ようか? お金だけはたくさん持ってるから不自由なんかさせねぇよ?」


「あー、それもいいですね。俺なんかと一緒にいるより絶対贅沢できるな」


 なんで納得してるんだよ。


「おっちゃ~ん、私は貧乏でもー、おっちゃんと一緒がいいのー。」


「わたしも‥‥‥です。修さんと離れるのは、いやだ‥‥‥から」


「なんやお前らかわええのう! みんな大好きだ!」


 後部座席でハシャぐおっちゃんたち。


 車が発進しても、しばらくはしゃいでいた。テンション高いなあ。なんで友達がいなんだろうか。


 車がある程度進むと


「修ちゃん、このあたりでいいかしラスベガス。」


「あ、はい。構いませんよ?」


「すまないね、アタシは大山荘には行きたくないんだ。」


「へー」


大山おおやま 石動いするぎだろ。管理人。」


「そうですけど、なんで知ってるんです?」


「どっちが苗字なのかよくわからない名前よね。昔、色々あったのよ。殺し合いするくらいにね。」


「うへぇ、怖いなぁどっちも。」


「だからすまんね。アタシはヤツのことは好かん。顔見ると殺したくなる。」


「す、すみません」


 よくわからないままに謝ってしまうおっちゃん。
僕もよくわからないけど、ママがその人をかなり毛嫌いしているのがわかった。


「ま、アタシは修ちゃんのことは好きだけどね。イスルギが嫌いなだけだし、お金が無いのも事実だろ? 別に修ちゃんを責めているわけじゃないし、修ちゃんに罪はないから謝らなくていいよ。」


「はい、ありがとうございました。わざわざ近くまで送っていただいて。」


「いいっていいって。そんかわり、毎週土日は覚悟しろよ? 修ちゃんとアタシに予定がない日はとことん稽古つけてやるからな!」


「おうっ! どんとこいっ!」


「‥‥‥。」


 やっぱり、もうおっちゃんは弟子になったのか。


 毎週、ウチに来ることになるのか‥‥‥。
 猫たちと一緒に‥‥‥。


 僕はため息をついたが、自分の頬が少しだけ緩んでいたことには最後まで気付けなかった.







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