猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第13話 ………うわ、開始から5行で死なないでよ。





撮影を再開した。
撮影をし始めたころよりも緊張と恐怖がみんなから抜けている


猫たちとおっちゃんのおかげだろう


だけど、撮影を再開してから三分後。










おっちゃんが死んだ










「ちよっ―――岡田! しっかりしなさいよ!]


「おいカメラ止めろ!!」


「にいちゃん! ぼくたちをおいてかないでよ!」


「‥‥‥。」


「言ったそばから死んだね、修ちゃん。」




 老朽化だったのか、地震でも起きたのか、それともポルターガイストでも起きたのか
 よくわからないが、一階の探索中、突如天井が落ちてきて、ピンポイントでおっちゃんを直撃した


 姿を確認することは出来ないが、落ちた天井の隙間から流れる黒い液体が、致死量の出血だということは容易に想像できた


 ティモは泣き叫び、ドラムさんは瓦礫を退かそうと駆け寄る
 九州娘の二人は声を出せずにその場でへたり込んだ


 タマの姿はいつの間にか見えない。
 クロはティモのそばについてティモを落ち着かせようとする




「こりゃあダディちゃんも死んだと判断するわな。」
「‥‥‥。見えたてたの。」


「アタシを誰だと思ってるんだよ。アンタのママンだぞ? アタシは見えた。確かに修ちゃんは死んだわ。あーあ、修ちゃんを弟子にしないといけないね、遺言だし。めんどくさいけど」


僕たちは、おっちゃんが死んだというのに、結構落ち着いていた。


「‥‥‥。そう、面白そうなんじゃないの。」


「そーね、面白くなりそうだからアタシは歓迎だよ」


「‥‥‥。矛盾してるよ」


「アタシもアンタもひねくれ者だけど、自分に真っ直ぐだろ?」


僕はそれに答えず、おっちゃんが埋まってる方を向く


「‥‥‥。そろそろおっちゃんを引き上げる。」


「そうだね。それにしても、修ちゃんの霊感とか、能力とか、全部中途半端だねぇ」


「‥‥‥でもそれで、おっちゃんは生きてるんだろ」


「中途半端もいいことあるもんだ。」




 僕たちは時間をかけて瓦礫をどけておっちゃんの姿を確認する


「いやー、死んだ死んだ。まさかいきなり死ぬとは思わんかったよ」


瓦礫が少なくなると、おっちゃんは上の瓦礫を押しのけながら立ち上がった


「え!? なんで無傷で起きあがってんの!? 岡田、お前化け物か!」


「いやぁ、無傷じゃないよ。だって俺、死ぬほどのダメージを実際受けたんだから、あれは絶対死んでるって」


 瓦礫を頭から直撃し、圧死していたのは間違いない


 だけど、おっちゃんは生きてる


 ちなみにいうと、今はあれだけ大量に流れていたはずの血すら、どこにも存在しない




「だからなんでっ! 生きてるのよ!」


「なんでって‥‥‥おっちゃん、そういう人間やから‥‥‥」




 そういや、確かに言っていた。
『おっちゃんは心臓刺されたって死にゃしないよ』


 確かにあれなら死なないと思うが、リスクがデカすぎる


 でも、成功させやがった




 絶対に僕には出来ない
 それに絶対におっちゃんは死なない。
 そういう、呪いのように。


「タマ、どこ?」


「こっちー」




 おっちゃんがタマを呼び、僕は声の方を向くと、タマがおかしなものを持っていた。


 天井が崩れ、おっちゃんに降り注いだときに、おっちゃんがとっさに投げたもの。


 藁人形。




 ただし、その藁人形は腕が千切れ、藁がほとんどバラバラに散っていた
 さらに不思議なことに、その乾いた藁人形から、赤黒い液体が滴っている




「うへぇ、派手に死んだなぁ‥‥‥」


「これ、どうするのー?」


 汚いもののように端を摘んで持ち上げる


「捨てるなり埋めるなりしとくべ。」


 藁人形をタマから受け取ると、おっちゃんはタマのポーチを勝手にあさり、ビニール袋を取り出すと


「えい」


 生ゴミを入れるように藁人形をその中に突っ込んだ




 潰れたおっちゃんが歩き出し、しかも何事も無かったかのように振る舞うものだから、周りのスタッフも唖然呆然


「岡田、アンタ生きてるのよね‥‥‥。」


「ドム子さん、俺が幽霊にでも見えますか?」


「ドム子言うなっつってるよね!!」


「いだぁ!!」


「あ、触れる‥‥‥なんで死んでないの!?」


「えー、樋口さんは俺に死んで欲しかったの? ショック~」


「いやそんなことないけど!」




 おっちゃんは、はぐらかすだけで決して答えようとはしない




 だけど、僕たちは見て、確信した。


 藁人形を使った中途半端な呪い。
 普通、呪いはその強力な能力のため完璧でなければ自身に呪いが返ってくる性質を持つはず


 だけど、おっちゃんはどういうわけか、中途半端な呪いを使い、自分の受けたダメージのみを藁人形に移した。


 藁人形とおっちゃんは表裏一体。自分自身を呪い、それを利用した。


 しかし、どういう理屈なのだろう。
 藁人形が傷つけば生身の人間が傷つくのはわかる。
 しかし、藁人形はグッチャグチャでおっちゃんはピンピンしている。


 ということはやはり、中途半端な呪いのおかげで藁人形のダメージとおっちゃんのダメージに差があり、その差を埋めるために帳尻合わせの中途半端な呪いでダメージの交換をおこなった。
 というのが僕とママの推論。


 正直、意味判らない。自分が考えていることもよくわからない




 判ることは、おっちゃんは呪いを使う呪術師だ、ということである。しかも中途半端な。




「にいちゃん生き返ったぁ!!」


「おゴぅあ!!?」


 唐突にティモがおっちゃんに抱きついた


 うわ、鳩尾にティモの頭がクリーンヒットだよ


 あいつら、パワーは高校生男子くらいはあるのに‥‥‥


 そんなに全力で飛び込んだら-----


「‥‥‥(ブクブクブク)」


 おっちゃん、また死んだかもしれない






 それを見てケラケラ笑っていたママが、スッと目を細め


「二階‥‥‥か。」


 とママが呟いた


「‥‥‥。二階? なにが。」


「天井を破壊して修ちゃんを殺した奴がいるんだよ。」


 ‥‥‥。やはりポルターガイストだったのか。天井が崩れたにしちゃ揺れを感じないと思ったよ。


「よいしょっと」


 ママはその辺の瓦礫に座ると、上を指差して


「ちょっと見てくる。」


 目を瞑り、全身から生気が抜けた。
 さっきゴーストと戦った時に腕の生気が抜けた時と同じように。




「‥‥‥。便利だね、幽体離脱。」


『だろ? いっそ死んだまま生活した方が楽そうだ。食わなくても生きていけるし。あ、死んでんのか』


 ケラケラと笑うのは、ママの幽体。


 ゴーストだ。


 ゴーストに触れることができないなら自らがゴーストになればいいと。
 だから幽体離脱なんてものでゴーストを直接叩いているんだ、この人は。


 ママ曰わく『服を脱ぐより簡単に魂を脱げる』らしい。


 僕には幽体離脱は難しくてできない。


 ふわっとママが天井の大穴から二階へと向かう。
 浮くのは本物のゴーストでも高等技術らしい。どうでもいい。


 大穴を抜けてキョロキョロと見回してから戻ってくると、自分の体に入る。


「ダーメだ。逃げられてるてる坊主」


「‥‥‥。そう。」




「ゆっくり探すかね。スタッフたちを落ち着かせてからまた撮影再開だ」




                              ☆




「おーい、おっちゃ~ん。目を覚ましてー。(バシバシバシバシ)」




 タマが馬乗りになって気絶したおっちゃんを往復ビンタ。




「へぶん! ぶべっ!? タバッ! タマサンぶっ!? 起きたガベッ!? 起きたからっ!」


 あろうことか、タマは馬乗りになりながらおっちゃんの両手を足で塞いでいるため、おっちゃんの意識が戻ってもおっちゃんにガードするすべがない


「おーっちゃーん、おーきーてー。」


「そろそろブガッ!? 気持ちよくなっちゃうブッ、から! やめたげてよ!」


 タマをお腹に乗っけたまま無理やり起き上がるおっちゃん。


「おおっとー」




 バランスを崩したタマの背を、僕のすぐ近くにいたから片手で支えた


「顔の形が変わりそうや‥‥‥。せっかくのイケメンが台無しじゃないか。」


「大丈夫だよー。少し腫れ上がった方がー、おっちゃんはカッコいいよー」


「マジで!?」


「だってほらー、おっちゃん痩せ型だしさー。はいメガネー。」


「な、なるほど。あ、メガネ預かってたんだ。ありがとう」


「うんー。それあると叩きにくいもんね~」


「はは、邪魔だもんな。おっと、なぜだろう。メガネと顔のサイズが合わないや」




「‥‥‥。」


 猫に論破されやがったよ、おっちゃん。
 タマは楽しんでるし、おっちゃんもただのスキンシップだと思ってるみたいだし、その異常な までに腫れ上がった頬は全力でスルーしてあげよう。




「さて、修ちゃんも起きたし、撮影も再開だね。」




 休憩時間もカメラマンは撮影を続けているが、動き出すかどうかはこちらが決めること。


 岡田家のギャグはスルーして仕事に集中だ。




 九州娘を先頭に、スタッフが続く。




 おっちゃんは崩れた天井の穴を見ている


「‥‥‥。どうしたの。」


「ん、いや‥‥‥俺を殺した奴がまだ上にいんのかなって。」


「‥‥‥。」


「ふむ。クロちゃー」


 九州娘の後ろを歩いていたクロが肩をビクッと震わせ、おっちゃんの顔を見ると安心した様子でこちらに歩いてきた


「修さん‥‥‥どう、したの?」


 おっちゃんは上を指差す


「先回り。お願いしていい?」


「‥‥‥え、わたしひとりで‥‥‥?」


 ブルーの瞳に広がった瞳孔。その奥に不安の色を見せるクロ。


「クロちゃーがそういうならシロちゃーもつけるけど。というか怪我させたくないし一人にはさせへんよ」


「タマちゃんが‥‥‥わかり、ました。頑張りますっ!」


 あまりクロを一人にすると、怪我をしてもすぐに手当てが出来なくなる。だから一人にはさせず、もしもの時は助けを呼べるようにタマをつけるのか。




 おっちゃんが穴の下で腕を組んで中腰になる




「いいよ」


「うん‥‥‥っ!」




右、左。軽い助走をつけて二歩目でジャンプ。


「んっ‥‥!」


「それっ!」




 右足をおっちゃんの組んだ腕に乗せ、おっちゃんが腕を上に振り上げ、クロが足に力を込める


 バネのように跳ね上げられたクロは、楽に穴を抜け、二階に着地した。






「あとは‥‥‥、タマ。」


「はーい。おっちゃーん。私じゃクロちゃんみたいには届かないよー」


「じゃあおっちゃんが投げたる。‥‥‥あ、予知夢ってコレか‥‥‥。」


「‥‥‥。」


 まぁ僕だってその展開は予想できたよ。
 タマが全裸になるなら、それは猫から人間になるってことだから。




「晩飯食った内容物とか大丈夫かな‥‥‥。胃が張り裂けなければいいけど‥‥‥。」


「もー、怖いこと言わないのー。一瞬なら胃も騙せるでしょー。」




 ふわふわした足取りでおっちゃんの隣に立つタマ。


「服は後で投げてねー?(ポムッ)」


 僕はまばたきしたのか、はたまたどうしたことか。音もなくタマの姿が消えた。


 服を残して。


「はいな」


 タマの返事をしたおっちゃんは、新しいビニール袋にタマの服を詰め込んだ。


 そして、ついでに白くて丸い小さな毛玉を回収する


 おっちゃんの部屋で見た、すごく小さい子猫だ。


「‥‥‥。」


「ほら、しっかり力抜くんだよ。クロは絶対キャッチしてくれるから。」


「(クルクルクルクル)」


「力抜くのはいいが、鼻鳴らして寝ようとするな。投げるぞ。それっ!」


 両手でレシーブするように、おっちゃんはタマを穴に向かって投げる
 タマは空中であるにもかかわらず、身をよじって受け身を取ろうとすらしない。




「わっ、わっ、タマちゃん‥‥‥っと。修さん‥‥‥大丈夫、です。」




「おっけ、じゃあ次コレね。」


 ビニール袋をクルクル回して穴に向かって投げ、二階のどこかに落ちる音がした。タマやクロのすぐちかくだろう


「い、行ってきます‥‥‥!」


「状況は電話で教えて頂戴。」


 クロはタマを抱えて穴から手を振ると、クロは立ち上がり、クロたちの姿は見えなくなった




「‥‥‥いいの。クロ、怪我するよ。」


「怪我だけだろ。俺みたいに死んだりしなけりゃまだマシだ。滅茶苦茶心配やけどね!」




 心配以上にクロやタマを信頼しているんだろう。


 僕とおっちゃんはスタッフたちの後を追った。




僕たちがスタッフ達の元に追いつくと


「あれぇ? ロリっ娘たちはどこにいったのぉ?」


ハーモニさんがそんなことを言った。


「ロリっ娘って‥‥‥タマとクロのことですか?」


おっちゃんがダラダラ歩きながら、ティモの手を引き、ハーモニさんの問いに問い返す


「そーそー。さっきまであたしの後ろにいたと思うんだけどねぇ。」


「あぁ、それなら心配いらな―――」


「ちょっと岡田! 子供だけを残して行くってどういうことよ! まだ小さいのにこんな怖いところを歩くなんて‥‥‥アタシは恐ろしくてできないわ!」


「いや、あいつらなら心配いらないって。樋口さん、言おうとしてたことを二度言わせないでよ‥‥‥。いくらあの子達が可愛いからって、俺は過保護にはならないよ。それに、あいつ等は夜でも普通に目が見えるし、俺よりも―――霊感とかあるし。」


「―――っ!」


 おっちゃんは後半部分の声量をおとし、ドラムさんが息を飲む気配が伝わった


「それに、すでにあの二人は死なない俺より数倍は強いよ。まぁ俺が弱いだけなんだけどさ。」


「強い弱い以前に、死なないってのが異常なのよ‥‥‥。」


「それもそうやったね。死ぬほどの痛かったんだよ? あ、死んだのか。ボクのことは他言無用でお願いします。ただでさえクラスに友達いないのに、妙な噂なんかで距離感がまたはなれちまったらもう時間割すら聞けないもん」


「‥‥‥そうするわ。それで、アンタの妹たちは無事なのね。どこにいるの。」


「二階。俺が死んだ穴から先回りして、安全か否か確かめてもらってる。あわよくば俺を殺したやっこさんを成敗してくれたらな~って。」


「‥‥‥礼子さんや澄海くんを含めて何者なのよ、あなたたち‥‥‥。まぁ無事ならそれでいいわ。はっちゃん、心配ないって。」


 声量を戻したドラムさんがハーモニさんに向かって言い直す


「なんでドム子が言うのか知らないけどぉ‥‥‥。トイレかなにかかなぁ。まぁいっか。」


 ハーモニさんは頭がよろしくないらしい。
 普通はまぁいっかでは済まないはずだ。


 実際にゴーストを見て、さらにそれを退治するママがいるんだ。
 普通はドラムさんやヘレンさんのように混乱してもおかしくないんだけど、バカなのもいいことがあるもんだね。




「‥‥‥というか岡田くんさぁ、さっき瓦礫の崩落に巻き込まれたのに、なんで生きてるのさ。普通死ぬでしょ、あれ。」


「何言ってはるのん、えっと‥‥‥あ、ヘレンさんか。すみません、アイドルってみんな同じ顔に見えるんだよね‥‥‥。暗いし判断しづらいし‥‥‥。‥‥‥何の話だっけ。」


「何で生きてるの?」


「あぁ、それか。セリフだけ見たらヒドいセリフだねぇ。そりゃあ、僕は死にましたよ。あんなん食らって生きている奴は化け物かなにかだって」


「岡田くん、生きてんじゃん」


 ただただ不思議そうに首を捻るヘレンさん。


「うん。生きてるよ。幽霊じゃないよ。ましてや化け物でもないし。」


「意味判んない! さっきからはぐらかしてばっかり! さっさと説明しなさいよ!」


 ドラムさんも声を張り上げ、ハンディカメラをおっちゃんに向ける


 カメラマンも集音機も、自然と人が話している方に向く


「うぅ‥‥‥あんまネタバレしたくないのに‥‥‥。気味悪がらないでよね。」


「いいから、早く言いな。」


 ヘレンさんはややのっぺりした顔だが、口調が姉御っぽいというか‥‥‥ドラムさんよりヘレンさんの方がリーダー気質がありそうだ。


「じゃあ、はいこれあげる。」


 おっちゃんはティモから手を離し、肩に下げたバッグからビニール袋を取り出した


「なにこれ‥‥‥ってうぇええ!? 藁人形!? しかも血まみれだし!」


「‥‥‥それがさっき死んだ俺だよ。」


「‥‥‥は?」


「身代わりの術ってこと。説明はめんどくさい。サッカーのオフサイドの説明よりめんどくさい。澄海ならきっとカラクリもわかってるから澄海か礼子さんにでも聞いてよ」


 九州娘の視線が僕に突き刺さった


「‥‥‥。僕もめんどい。」


 当たり前だ。
 そんなめんどいことをする意味がない。
 そもそもおっちゃんは自分の能力を隠そうとしていない。最初こそはぐらかしていたが、避けられないと悟やすぐに手のひらを返した。


「‥‥‥。」


 まぁ、僕だって隠そうとはしてないし、ママなんかカメラで撮影されて記録に残されちゃってるし。




 僕はただ、結界を張っていないと自分の時間停止能力が発動できないし、普段はする必要すらないわけだから、人に見られたことは今日を除いて一回もない


 立体じゃなくて面の能力だから使いにくいし。


「じゃあ藁人形は返してもらうね。コレは俺が処分するから。」


「あんた、本当に何者なのよ」




 ドラムさんの溜め息混じりの声が探索中の院内に虚しく響いた




                              ☆





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