猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです
第12話 ………なんでおっちゃんは死ぬって宣告されてるのに普通でいられるんだ?
「岡田さぁ」
「はいな」
「幽霊って見える人?」
「そだよ。ぼんやりと。」
「そっか‥‥‥。あたしは今日まで信じてなかったんだけど、この肩を見たらイヤでも信じるわ。」
「うへぇ、痛そう‥‥‥。自分じゃなくて良かった‥‥‥」
「すがすがしいくらい正直なやつだなぁ、岡田。ウチの妹にも見習わせたいくらいだよ」
「へぇ、樋口さん妹いるんだ。何歳?」
「何歳だっけ。最近小学4年生になったかな。」
「ほほぅ‥‥‥ティモ坊たちと同年代やんね。」
「ティモ坊‥‥‥? あぁ、あの猫ミミつけた子達ね。あんたの妹弟?」
「うん。かわいいでしょ」
「そうね。猫ミミはかわいいから許す。あの年であんな風に髪を染めるのはどうかと思うけどね。」
「あれ地毛やで」
「うそこけ」
「バレた?」
「う‥‥‥なんかそれも嘘っぽいわね」
ママがほとんどのゴーストを片付けると、平医院の探索もいったん休憩することにした。
カメラマンさんも九州娘も精神的に摩耗しているんだ。それはしかたない
おっちゃんとドラムさんはコロコロと話題の変わる他愛の無い話をしていた。
恐怖体験に精神を潰されそうなドラムさんをうまくおっちゃんが誘導しているようにも見えるが、おっちゃんはなにも意識してなさそうだ。
むしろただ単純に人と話すことが楽しそうに見えなくもない
「おっちゃーん。なんのはなしー? あとお小遣いちょーだーい。」
「oh、タマさん。おっちゃんの収入に期待はしない方がいいですよ。」
おっちゃんの膝の上にちょこんと座ったタマの腹部に手を回しておっちゃんの上半身がゆっくり前後に揺れる
「あら‥‥‥?」
そして、おっちゃんが揺れるのと同じ動きでおっちゃんの足に垂れたタマのふさふさな尻尾が揺れる
「‥‥‥すごいおもちゃね‥‥‥。まるで本物みたい‥‥‥」
「んふー。おねーさん、この尻尾の正体が知りたーいー?」
「いや、別に‥‥‥」
とかいいながら、チラチラと尻尾を見るドラムさん
「情報量はー、500円になりまーす」
「おいおい、タマの正体なんか500円ぽっちじゃ足りねえよ。目の前に500万積まれてやっと悩むくらいだ」
「いや、いいよ。なんか不思議な子ってことは理解できたから」
タマは意に介さず「ざんねーん」などと言うが、尻尾をパタパタさせながらもう一度おっちゃんに訪ねる
「それでー、なんの話してたのー?」
「なんでもない話だよ。おっちゃん記憶力乏しいからほとんど忘れてもうた。なんやったけ………、樋口さんの妹の話とかお前らのはなしとかだった気がする」
「おねーさん妹いるのー?」
「ええ。あなたと同い年のね。アタシから見ても可愛い妹よ。」
「んー‥‥‥樋口里澄?」
「‥‥‥‥え? 知ってたの?」
「いやー。なんとなくなんだけどー。どことなく雰囲気が似てるなーってー。」
タマがはにかみながらドラムさんに答える。
あー、なるほど、里澄ににているんだ、この人。
誰かに似ているように気がしてちょっともやもやしていたのが晴れたよ。
「リズムちゃんはね、クラスメートだよっ!」
ティモがおっちゃんとドラムさんの後ろからひょっこり頭を出す
驚いて立ち上がったドラムさんは、ティモの無邪気な顔を見て怒るに怒れず、ティモの頭を撫でて座り直した
「えへへ、にいちゃん。なでられたよ!」
「そりゃよかった。この人そりゃあすごいご当地アイドルさんだから、その記憶は宝物やで」
「ご当地アイドル言うな! もっと名を売ってやるんだから!」
「そっか、ビッグになるのか。逃がした魚がでかくなる前に。樋口さん、結婚してください」
「岡田、あんたとはほぼ初対面でしょ! その何のフラグもたってないプロポーズはいったいなに!?」
「なにと言われれば‥‥‥おっちゃんジョーク? 樋口さん、俺のタイプじゃないもん」
「アイドルに言ってはいけないことを言ったな貴様ー!」
ほぼ初対面と言ったくせに、かなり親しげに話せるのは、おっちゃん独特の雰囲気のおかげなんだろうか
ドラムさんがひとときプンスコ怒ると
おっちゃんはタマを抱きしめて縮こまった
「で、話を戻すようだけど。タマちゃんと、ティモくん。里澄のクラスメートなの?」
「うんっ! リズムちゃん、かわいいよね! クラスメートの男の子は、ほとんどリズムちゃんが好きっていってたよ!」
「そんなにかわいい子なん? ってことは、ティモ坊は、そのリズムちゃんとやらに惚れてるのん?」
おっちゃんがティモにそんなことを聞くと
「ほれてる?」
意味が理解できなかったみたいだ。おっちゃんは頭を軽く掻いて言い直す。
「あー‥‥‥、リズムちゃんのこと好きか?」
「うん! そんなのもちろんだよ!」
もちろんなんだ
「そっか‥‥‥おっちゃん悲しい。ティモ坊に好きな子か‥‥‥弟離れしないといけない年頃か。ぐすん」
「おっちゃーん、勘違いしているみたいだけどー、ティモちゃんの人間関係にはー『好き!』か『大好き!!』しか無いよー」
うん‥‥‥たしかにそんな感じがする
「へぇ、じゃあティモくん。一番好きな人って誰なの?」
今度はドラムさんがティモに聞いた。
「あは、そんなのにいちゃんにきまってるよ! にいちゃん大好き!!」
ティモがおっちゃんの背にのしかかるように首に抱きついた
「ぐぇ!? くるし‥‥‥可愛いからゆるす!! おっちゃんかてティモ坊が大好きだ!」
「岡田‥‥‥」
ドラムさんが軽蔑の眼差しを向けるが、おっちゃんは意に介さず。
………そういやパパが見た予知夢でおっちゃんが死ぬんだっけ。
過程がわからないけど、予知夢は回避不能。なにがなんでも天変地異が起こってもその事実だけは変わらない。予知は現実となる
その事実をおっちゃんに伝えるべきか伝えざるべきか。
悩んでも仕方ないけど‥‥‥。
それに僕は、あまり死というものに実感がない。
それはきっと、僕は生まれながらにさまよう死者と常に対峙してきたからだろう。
たぶん僕は、おっちゃんが死んでもなんとも思わないと思う。
死に感心がない。
逆に言えば、きっと僕が人を殺すことになんの躊躇いも覚えないと思う。
生まれた頃からゴーストを殺すのが習慣になっている僕が、どうして人を殺すのに躊躇いを覚えよう。
僕にとってはどっちも同じで、まだ現世側に手を出したことはない程度の話でしかない
「澄海よー、何考えてるノートルダムーミン」
「‥‥‥。おっちゃん、本当に死ぬの。」
「死ぬでしょ。ダディちゃんの予知夢なら。」
「‥‥‥原因は。」
「しらね。そこまでは聞いてないし、アタシは自分以外の死に興味ないね。大怪我とかじゃねぇの? ダディちゃんが死んだと判断できるほどのさ」
僕やパパが死んでも興味ないのか。ママも人格が破綻してるな。
確率は低いが、パパの勘違いでまだ予知夢でみたおっちゃんが、虫の息で生きているのを、パパがママに死んだと報告していたのであれば、おっちゃんは死なないだろう。
まぁさすがにそんな都合のいいことは起きないと思うけど。
………そういや、おっちゃんは二回死ぬってママは言ってたな。どういう意味なんだろうか。
「んじゃ、ちょっと修ちゃんに死ぬって報告してくるわ。澄海もくる?」
「‥‥‥。(コクン)」
僕がうなずくと、ママが目を見開いて僕を見た。「………なに。」と聞き返すと
「驚いたわ、澄海もアタシと同じように、人の死にあまり興味は無さそうだったから。どうしたのさ]
「‥‥‥。なんでだろうね。‥‥‥あいつらが泣くとこを見たくないのかもしれない」
視線を廃病院ではっちゃけるおっちゃんたちに移す
クロがおっちゃんたちの輪に加わり、ティモが他の九州娘、スタッフさんを引っ張ってきて、ここが心霊スポットとは感じさせない明るい雰囲気を出している
その中心にいるのはおっちゃんと猫たちだ。
おどけて、細かくボケて、鋭くツッコミを入れる。おっちゃんが自分から話すことはないが、自分に振られた瞬間に、待ってましたと言わんばかりの小ネタ。苦笑を誘い、心霊スポットという極度の緊張を解しているのが遠くから見て取れた
あれで友達がいないっていうのが逆に怪いくらいだ
僕の答えを聞いて、ママに笑われると思ったけど、ママは少し目を見開いて、へぇ、とだけ言って歩き出した。
なんなんだよ
「修ちゃん、話があるんだけど」
ママが輪の中に入り、おっちゃんを手招きすると
おっちゃんは周囲の人に一度頭を下げてから僕たちの方にやってきた
「はい、なんですか? 話って」
「単刀直入に言うけど、今日修ちゃん死ぬんだわ」
ちょっ!? びっくりした‥‥‥。
オブラートに包むどころか、本当にズバッと斬り込んで行きやがった‥‥‥。
「そうなの? なんで俺が死ぬんですか?」
キョトンと聞き返すおっちゃん。
話を信じてないわけでは無さそうだが、なぜ自分が死ぬのか、ただ不思議におもっているようだ
話を疑ってもいいのに。
むしろ胡散臭さのほうが勝ってるはずだよ
「なぜ死ぬかはしらん。でも死ぬ。これは決定事項なんだよ」
「ふぅむ‥‥‥俺、死ぬのか‥‥‥。ちなみに、なぜそんなことが判るんですか? 天才霊媒師である由縁とか? そんなこんなが関係あるとか?」
「いや、そんなこんなはまったく関係ない。ただ、冥土の土産程度に教えるけど。‥‥‥アタシはハーフ宇宙人のダンナがいるんだわ」
そんなこんなってなんだろう。
「ふんふむ。澄海がクォーターなんでしょ? だからそれは知っていますよ。」
「お、もう知ってたんだ。話が早い。アタシのダンナがね、予知夢を見るんだよ。めんどくさいからいろいろ省くけど、それで修ちゃんが死んでいたらしい。」
「回避は?」
「不可能。」
そう、回避はできない。未来は変えられない、そう言っているんだ。
即答で答えたママに、少しだけ考えたおっちゃんは
「………そっか、わかった。礼子さん、教えてくれてありがとうございます。」
「いや、守ってやれなくて申し訳ないくらいだ」
「はは、思ってないでしょそんなこと」
「まぁそうなんだけど。やけに落ち着いてるね」
「人間、死ぬときは死ぬって。抗ってみていいよね。まぁ死ぬと思うけど」
「アタシは無駄だと思うけど、好きにすればいい。死ぬだろうけど。」
「俺が死んだら、番組はどうなんのかな」
「さぁ、お蔵入りじゃないの? あたしはすでにお金もらう約束してるからどうだっていいけど」
「まぁ、死んでも無かったことにすればいいもんね。それなら大丈夫か。」
なんかおっちゃんがよくわからないことをぶつぶつ言っていた。電波さんだったのかな
「‥‥‥修ちゃん?」
「いや、大丈夫。なんでもないですよ。死ぬなら死ぬで遺言でも考えとくか。にゃはは。礼子さん、俺が生きてもどったら弟子にしてください!」
「おおっと、修ちゃん、それは死亡フラグかい?」
「むしろこれが遺言かな。フラグは立てておくに越したことはありません。たとえ死亡フラグでも。」
「死亡フラグは立てたらあかんぜ。ま、化けて出たらアタシが成仏させてやんよ。アタシの鉄拳で。」
「お手柔らかにお願いしますね。あと、他の今日の予知夢ってどんなのがありますか?」
「メガネの子が死ぬ。白い子が全裸になる。黒い子が怪我をするってのかな。アタシはタマ子の全裸に期待大」
「ふんふむ。わかりました。タマは全裸になるのか‥‥‥。カメラからは極力遠ざけよう。怪我も‥‥‥カメラに映しちゃまずいよねぇ。あの子たちが全国デビューしたら儲けもんだけど、地方のローカル番組だし‥‥‥。ま、クロが怪我する以外たいしたことないね。タマの全裸は僕の記憶だけに留めておきます」
自分が死ぬことはたいしたことないのか。
おっちゃんは自分の死にあまり感心が無さそうだ
おっちゃんは「礼子さんに俺今日死ぬって言われたー」とか言いながらティモを抱きしめ、談笑にまた参加する
自分の死すらネタ扱いか。
「‥‥‥ママはおっちゃん、どう思う?」
「どうもこうもあるか。あの子、脳天気の仮面の下に何隠してんのかまったくわからん。たぶんあれが素面だと思うけど。」
「‥‥‥。何かを隠してるの。」
「たぶん‥‥‥。」
んー、僕もちょっと探ってみるか。
☆
「はいな」
「幽霊って見える人?」
「そだよ。ぼんやりと。」
「そっか‥‥‥。あたしは今日まで信じてなかったんだけど、この肩を見たらイヤでも信じるわ。」
「うへぇ、痛そう‥‥‥。自分じゃなくて良かった‥‥‥」
「すがすがしいくらい正直なやつだなぁ、岡田。ウチの妹にも見習わせたいくらいだよ」
「へぇ、樋口さん妹いるんだ。何歳?」
「何歳だっけ。最近小学4年生になったかな。」
「ほほぅ‥‥‥ティモ坊たちと同年代やんね。」
「ティモ坊‥‥‥? あぁ、あの猫ミミつけた子達ね。あんたの妹弟?」
「うん。かわいいでしょ」
「そうね。猫ミミはかわいいから許す。あの年であんな風に髪を染めるのはどうかと思うけどね。」
「あれ地毛やで」
「うそこけ」
「バレた?」
「う‥‥‥なんかそれも嘘っぽいわね」
ママがほとんどのゴーストを片付けると、平医院の探索もいったん休憩することにした。
カメラマンさんも九州娘も精神的に摩耗しているんだ。それはしかたない
おっちゃんとドラムさんはコロコロと話題の変わる他愛の無い話をしていた。
恐怖体験に精神を潰されそうなドラムさんをうまくおっちゃんが誘導しているようにも見えるが、おっちゃんはなにも意識してなさそうだ。
むしろただ単純に人と話すことが楽しそうに見えなくもない
「おっちゃーん。なんのはなしー? あとお小遣いちょーだーい。」
「oh、タマさん。おっちゃんの収入に期待はしない方がいいですよ。」
おっちゃんの膝の上にちょこんと座ったタマの腹部に手を回しておっちゃんの上半身がゆっくり前後に揺れる
「あら‥‥‥?」
そして、おっちゃんが揺れるのと同じ動きでおっちゃんの足に垂れたタマのふさふさな尻尾が揺れる
「‥‥‥すごいおもちゃね‥‥‥。まるで本物みたい‥‥‥」
「んふー。おねーさん、この尻尾の正体が知りたーいー?」
「いや、別に‥‥‥」
とかいいながら、チラチラと尻尾を見るドラムさん
「情報量はー、500円になりまーす」
「おいおい、タマの正体なんか500円ぽっちじゃ足りねえよ。目の前に500万積まれてやっと悩むくらいだ」
「いや、いいよ。なんか不思議な子ってことは理解できたから」
タマは意に介さず「ざんねーん」などと言うが、尻尾をパタパタさせながらもう一度おっちゃんに訪ねる
「それでー、なんの話してたのー?」
「なんでもない話だよ。おっちゃん記憶力乏しいからほとんど忘れてもうた。なんやったけ………、樋口さんの妹の話とかお前らのはなしとかだった気がする」
「おねーさん妹いるのー?」
「ええ。あなたと同い年のね。アタシから見ても可愛い妹よ。」
「んー‥‥‥樋口里澄?」
「‥‥‥‥え? 知ってたの?」
「いやー。なんとなくなんだけどー。どことなく雰囲気が似てるなーってー。」
タマがはにかみながらドラムさんに答える。
あー、なるほど、里澄ににているんだ、この人。
誰かに似ているように気がしてちょっともやもやしていたのが晴れたよ。
「リズムちゃんはね、クラスメートだよっ!」
ティモがおっちゃんとドラムさんの後ろからひょっこり頭を出す
驚いて立ち上がったドラムさんは、ティモの無邪気な顔を見て怒るに怒れず、ティモの頭を撫でて座り直した
「えへへ、にいちゃん。なでられたよ!」
「そりゃよかった。この人そりゃあすごいご当地アイドルさんだから、その記憶は宝物やで」
「ご当地アイドル言うな! もっと名を売ってやるんだから!」
「そっか、ビッグになるのか。逃がした魚がでかくなる前に。樋口さん、結婚してください」
「岡田、あんたとはほぼ初対面でしょ! その何のフラグもたってないプロポーズはいったいなに!?」
「なにと言われれば‥‥‥おっちゃんジョーク? 樋口さん、俺のタイプじゃないもん」
「アイドルに言ってはいけないことを言ったな貴様ー!」
ほぼ初対面と言ったくせに、かなり親しげに話せるのは、おっちゃん独特の雰囲気のおかげなんだろうか
ドラムさんがひとときプンスコ怒ると
おっちゃんはタマを抱きしめて縮こまった
「で、話を戻すようだけど。タマちゃんと、ティモくん。里澄のクラスメートなの?」
「うんっ! リズムちゃん、かわいいよね! クラスメートの男の子は、ほとんどリズムちゃんが好きっていってたよ!」
「そんなにかわいい子なん? ってことは、ティモ坊は、そのリズムちゃんとやらに惚れてるのん?」
おっちゃんがティモにそんなことを聞くと
「ほれてる?」
意味が理解できなかったみたいだ。おっちゃんは頭を軽く掻いて言い直す。
「あー‥‥‥、リズムちゃんのこと好きか?」
「うん! そんなのもちろんだよ!」
もちろんなんだ
「そっか‥‥‥おっちゃん悲しい。ティモ坊に好きな子か‥‥‥弟離れしないといけない年頃か。ぐすん」
「おっちゃーん、勘違いしているみたいだけどー、ティモちゃんの人間関係にはー『好き!』か『大好き!!』しか無いよー」
うん‥‥‥たしかにそんな感じがする
「へぇ、じゃあティモくん。一番好きな人って誰なの?」
今度はドラムさんがティモに聞いた。
「あは、そんなのにいちゃんにきまってるよ! にいちゃん大好き!!」
ティモがおっちゃんの背にのしかかるように首に抱きついた
「ぐぇ!? くるし‥‥‥可愛いからゆるす!! おっちゃんかてティモ坊が大好きだ!」
「岡田‥‥‥」
ドラムさんが軽蔑の眼差しを向けるが、おっちゃんは意に介さず。
………そういやパパが見た予知夢でおっちゃんが死ぬんだっけ。
過程がわからないけど、予知夢は回避不能。なにがなんでも天変地異が起こってもその事実だけは変わらない。予知は現実となる
その事実をおっちゃんに伝えるべきか伝えざるべきか。
悩んでも仕方ないけど‥‥‥。
それに僕は、あまり死というものに実感がない。
それはきっと、僕は生まれながらにさまよう死者と常に対峙してきたからだろう。
たぶん僕は、おっちゃんが死んでもなんとも思わないと思う。
死に感心がない。
逆に言えば、きっと僕が人を殺すことになんの躊躇いも覚えないと思う。
生まれた頃からゴーストを殺すのが習慣になっている僕が、どうして人を殺すのに躊躇いを覚えよう。
僕にとってはどっちも同じで、まだ現世側に手を出したことはない程度の話でしかない
「澄海よー、何考えてるノートルダムーミン」
「‥‥‥。おっちゃん、本当に死ぬの。」
「死ぬでしょ。ダディちゃんの予知夢なら。」
「‥‥‥原因は。」
「しらね。そこまでは聞いてないし、アタシは自分以外の死に興味ないね。大怪我とかじゃねぇの? ダディちゃんが死んだと判断できるほどのさ」
僕やパパが死んでも興味ないのか。ママも人格が破綻してるな。
確率は低いが、パパの勘違いでまだ予知夢でみたおっちゃんが、虫の息で生きているのを、パパがママに死んだと報告していたのであれば、おっちゃんは死なないだろう。
まぁさすがにそんな都合のいいことは起きないと思うけど。
………そういや、おっちゃんは二回死ぬってママは言ってたな。どういう意味なんだろうか。
「んじゃ、ちょっと修ちゃんに死ぬって報告してくるわ。澄海もくる?」
「‥‥‥。(コクン)」
僕がうなずくと、ママが目を見開いて僕を見た。「………なに。」と聞き返すと
「驚いたわ、澄海もアタシと同じように、人の死にあまり興味は無さそうだったから。どうしたのさ]
「‥‥‥。なんでだろうね。‥‥‥あいつらが泣くとこを見たくないのかもしれない」
視線を廃病院ではっちゃけるおっちゃんたちに移す
クロがおっちゃんたちの輪に加わり、ティモが他の九州娘、スタッフさんを引っ張ってきて、ここが心霊スポットとは感じさせない明るい雰囲気を出している
その中心にいるのはおっちゃんと猫たちだ。
おどけて、細かくボケて、鋭くツッコミを入れる。おっちゃんが自分から話すことはないが、自分に振られた瞬間に、待ってましたと言わんばかりの小ネタ。苦笑を誘い、心霊スポットという極度の緊張を解しているのが遠くから見て取れた
あれで友達がいないっていうのが逆に怪いくらいだ
僕の答えを聞いて、ママに笑われると思ったけど、ママは少し目を見開いて、へぇ、とだけ言って歩き出した。
なんなんだよ
「修ちゃん、話があるんだけど」
ママが輪の中に入り、おっちゃんを手招きすると
おっちゃんは周囲の人に一度頭を下げてから僕たちの方にやってきた
「はい、なんですか? 話って」
「単刀直入に言うけど、今日修ちゃん死ぬんだわ」
ちょっ!? びっくりした‥‥‥。
オブラートに包むどころか、本当にズバッと斬り込んで行きやがった‥‥‥。
「そうなの? なんで俺が死ぬんですか?」
キョトンと聞き返すおっちゃん。
話を信じてないわけでは無さそうだが、なぜ自分が死ぬのか、ただ不思議におもっているようだ
話を疑ってもいいのに。
むしろ胡散臭さのほうが勝ってるはずだよ
「なぜ死ぬかはしらん。でも死ぬ。これは決定事項なんだよ」
「ふぅむ‥‥‥俺、死ぬのか‥‥‥。ちなみに、なぜそんなことが判るんですか? 天才霊媒師である由縁とか? そんなこんなが関係あるとか?」
「いや、そんなこんなはまったく関係ない。ただ、冥土の土産程度に教えるけど。‥‥‥アタシはハーフ宇宙人のダンナがいるんだわ」
そんなこんなってなんだろう。
「ふんふむ。澄海がクォーターなんでしょ? だからそれは知っていますよ。」
「お、もう知ってたんだ。話が早い。アタシのダンナがね、予知夢を見るんだよ。めんどくさいからいろいろ省くけど、それで修ちゃんが死んでいたらしい。」
「回避は?」
「不可能。」
そう、回避はできない。未来は変えられない、そう言っているんだ。
即答で答えたママに、少しだけ考えたおっちゃんは
「………そっか、わかった。礼子さん、教えてくれてありがとうございます。」
「いや、守ってやれなくて申し訳ないくらいだ」
「はは、思ってないでしょそんなこと」
「まぁそうなんだけど。やけに落ち着いてるね」
「人間、死ぬときは死ぬって。抗ってみていいよね。まぁ死ぬと思うけど」
「アタシは無駄だと思うけど、好きにすればいい。死ぬだろうけど。」
「俺が死んだら、番組はどうなんのかな」
「さぁ、お蔵入りじゃないの? あたしはすでにお金もらう約束してるからどうだっていいけど」
「まぁ、死んでも無かったことにすればいいもんね。それなら大丈夫か。」
なんかおっちゃんがよくわからないことをぶつぶつ言っていた。電波さんだったのかな
「‥‥‥修ちゃん?」
「いや、大丈夫。なんでもないですよ。死ぬなら死ぬで遺言でも考えとくか。にゃはは。礼子さん、俺が生きてもどったら弟子にしてください!」
「おおっと、修ちゃん、それは死亡フラグかい?」
「むしろこれが遺言かな。フラグは立てておくに越したことはありません。たとえ死亡フラグでも。」
「死亡フラグは立てたらあかんぜ。ま、化けて出たらアタシが成仏させてやんよ。アタシの鉄拳で。」
「お手柔らかにお願いしますね。あと、他の今日の予知夢ってどんなのがありますか?」
「メガネの子が死ぬ。白い子が全裸になる。黒い子が怪我をするってのかな。アタシはタマ子の全裸に期待大」
「ふんふむ。わかりました。タマは全裸になるのか‥‥‥。カメラからは極力遠ざけよう。怪我も‥‥‥カメラに映しちゃまずいよねぇ。あの子たちが全国デビューしたら儲けもんだけど、地方のローカル番組だし‥‥‥。ま、クロが怪我する以外たいしたことないね。タマの全裸は僕の記憶だけに留めておきます」
自分が死ぬことはたいしたことないのか。
おっちゃんは自分の死にあまり感心が無さそうだ
おっちゃんは「礼子さんに俺今日死ぬって言われたー」とか言いながらティモを抱きしめ、談笑にまた参加する
自分の死すらネタ扱いか。
「‥‥‥ママはおっちゃん、どう思う?」
「どうもこうもあるか。あの子、脳天気の仮面の下に何隠してんのかまったくわからん。たぶんあれが素面だと思うけど。」
「‥‥‥。何かを隠してるの。」
「たぶん‥‥‥。」
んー、僕もちょっと探ってみるか。
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