猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです

たっさそ

第11話 霊媒師がお経を唱えると思ってるの? それは幻想ね。







 平医院は、平和夫という医師が建てた病院らしい。


 ただ、裏のコネクションが豊富で、暴力団やヤクザなど、そういった人間がよくこの病院を利用していた為、地元民も、一刻を争う事態以外は車で20分はかかる市立病院の方へ向かう


 10年くらい前までこの病院もしっかり機能していたらしいが、警察の一斉捜査により、地下から麻薬が大量に発見されたという噂だ。。


 和夫氏は病院の備品だと訴えたが、その麻薬の流通経路などが明るみにでて、言い逃れができなくなったという。
 この病院が潰れたのはそれからだ。






「ん、ドム子ちゃんはあの部屋が怪しいんだね。わかったわかった行ってみヨウカン」




「え、ぇえ? 行くんですか!?」


「うん。もちろんモチモチ餅。写真も撮っちゃおう。心霊写真、映るかもよ」


「ひっ」


 声にならない、しゃくりあげるような悲鳴をあげるドラムさん


 それでも、撮影の為ということで、泣きそうになる顔で、重い足取りだがその部屋へと向かう。プロの根性を見たよ。


 うーむ。5、6人くらいかな。この部屋にいるのは。


 ナイフを持っている霊、銃を持っている霊。
 武器を持った霊は厄介だ。気性が荒いし憎しみが強い。霊体のまま武器を召喚できるレベルとなると、相当強いだろう。


 まぁ今ドラムさんがそんな人たちに囲まれて武器を突きつけられているんだけど。


『おうねーちゃん。俺らのシマに入るとはええ根性しとるやん』


『なかなかにべっぴんさんやんな。廻すで』


 とまぁこんな感じ。一応撮影が始まる前にママがお祓いしてから護符を持たせてるから、ゴーストたちはドラムさんにはそうそう手を出せない


「撮るよー、はいチーズケーキリンゴリライオン」


「うふっ☆ ‥‥‥チーズの後が長すぎですよ、礼子さん‥‥‥。」


 怯えながらもさすがの営業スマイル
 一瞬の変わり身に、僕も驚いた




「おおー、映ってる映ってる。」


「ええ!?」


「「「みせてー!」」」


 子猫たちがママの方に駆け出す


「おう猫ども。コレだ」


 ママがデジカメを猫に見せ、それから九州娘、そしてカメラにデジカメを映す


 僕も確認したら、2人ほど薄く人の顔が見えた


「な、なんか肩がすごく重いんですけど‥‥‥。足が動かないし………なんで………?」


 ふと声の方を向くと、ドラムさんが写真を撮った位置から動けずにいた


「ああ、ゴーストちゃんがドム子ちゃんの右肩を押さえてるよ」


「ぇ、えええ!?」


 護符渡してなかったら、取り付かれるか憑依されそうだな。


「まぁ待ってろ。澄海、サポートよろよろ」


「‥‥‥。」


 ため息を一つ。


 めんどくさ




 霊媒師は種類がある
 お経や護符、結界などといったものを使って地道に退治するか
 幽霊を直接叩いて強制的に冥界に送るか。


 ママもめんどくさいのは嫌いな人間だ。


 地道な作業などというのを極端に嫌う
 ママもお経を唱えたりお祓いしたり、出来なくはない。むしろそっちが向いているが、肉弾戦を好む傾向があるため、ママは直接殴るタイプの霊媒師だ。




「はいはい南無阿弥陀仏。ぶつぶつボヤくアタシは美少女。おじちゃん一緒に遊びましょ」


 数珠を人差し指でクルクル回しながら紅白の巫女が歩いてゆく
 そのママの数歩前を僕が歩く。
 僕は前衛だけど、役割はフォワードではなくディフェンダー


 僕は数珠は持たず、手ぶらだ。




 相手に銃器といった遠距離アイテムがある場合は、肉弾戦よりもお経や結界といった遠距離戦をするのがいい。
 だけど、僕たちはめんどくさいのは嫌いだ


 短期決戦を望む故、危険は承知で肉弾戦を挑む


「‥‥‥。」


 僕は紙で包んだ塩を取り出すと、ドラムさんの肩を掴んでいるゴーストに向かって投げた


 突然の僕の投擲にドラムさんが身を固くするが、自分の身体ではなく、隣の空間に当たり、投擲したものが弾かれたのを見て、目を丸くした


「イッショーターイム。カメラさん、しっかり撮れよ。コレが戦う美少女天才霊媒師の姿だヨーロッパイナッポー」




 バッと両手を広げるママ。


「‥‥‥かっこつけはやめてよ。仕事しろ、バカ。」


「ぁあ!? ぶっ殺すぞこら」


 広げたママの手から生気が抜けた


 霊媒師が言うセリフかよ、と心の中で愚痴りつつ、右手の親指と人差し指をくっつけて輪を作り、その輪の中に結界を張る。直径4センチの小さい結界だ。


「お?」


 と、おっちゃんが声をあげた。
 多分、僕とママの変化に気付いたんだろう




「しゃらくせぇ!」


 生気の抜けた手を胸の前で勢いよく合わせる


 ―――ッパァアアン!


 と、乾いた音が病院内に響いた




 と、同時に




『なっ!』『ぐあっ!!』


 2人のゴーストの頭と頭がゴヅン! と、ママの目の前、僕の背後でぶつかる




 ゴーストはゴーストとして意識と痛覚がある。
 そして、ゴーストは死ぬ。
 既に死んでいるゴーストが死ぬ、とは即ち成仏。
 もしくは好戦的霊媒師による強制成敗で現世からの追放、消滅。




 だけど、現世にいる僕たちはゴーストに触れることは基本、できない。


 霊媒師であってもそれはしかりだ。
 それを行使するために必要なものが、護符や数珠、塩、聖水といった神聖なアイテムだ。


 だが、ママは例外的にゴーストに触れることができる。
 完全な裏技だ。チートだ。
 だからこそ、バカみたいに強い。




『なっ‥‥‥! やりやがったな!』


―――ドンッ!


 ゴーストの一人が、銃を構えて撃ってきた。
 現世からゴーストになにもできないのとは逆に、ゴーストは人間にできることは山ほどある。


ただ、ゴースト側も人間や物体に干渉するのには相当な集中力を使うらしい。
 そして、ゴーストが放つ銃弾は、人間に当たれば実際に食らったような痛みが走り、霊感が強い者は実際に傷がついたりもする。


 けど、そんなもの僕には関係ない。


「‥‥‥。」


『なんだと!?』


 それを防ぐために僕がいるんだ。


 放たれた弾丸を、人差し指と親指で作った輪の間にできた結界で受け止めた。




 ママは護符と護符の間に結界を張れるが、多少時間がかかるからね。


 僕はまだまだ未熟だし、自分の皮膚と皮膚が触れている間の部分にしか結界を張れないもん。だけど、僕にはそれを補って余りある胴体視力と運動能力がある。
 だから結界を張るのはその範囲だけで事足りる


 それに、ママが霊に触れられる特殊な人であるのと同じく、僕の結界は少々特殊だった。


 簡単に言えば、宇宙人としての遺伝が濃く反映されている。


 おばあちゃんが、人の寿命(時間)をもらって生きる宇宙人。
 パパが予知夢(先の時間)を見る宇宙人。
 僕は、結界を張っている範囲だけ、時間を止める宇宙人。


 能力がだんだんしょぼくなっていくのは、だんだん人の血の方が濃くなっているからだと思う。


 ママは僕みたいに皮膚が触れているところだけ結界を張る、などという真似ができないらしく、もしかしたら僕が未熟なのではなく、すでにコレが完成形なのかもしれない


「よーし、いいぞ澄海。」


 ママが締め上げたゴースト二人を、僕の結界の後ろに並べる。


「‥‥‥手、離すよ。」


 親指と人差し指を離すと、シャボン玉が割れるように結界が消滅する


 と、同時に弾丸の時間が動き出す
 ゴースト一人の頭を打ち抜き、そしてゴーストは一人消滅した


「あーあ。結界通ると威力落ちるねぇ。」




 時間が動き出すのは、弾丸の先端部分だけだ。ゴーストの武器にも物理法則は働くらしい。だから少々威力が落ちるのはしかたがない。
まぁ、基本的にこの結界は絶対に貫通されない結界なんだけどさ。




                    ☆




「れ、礼子さん‥‥‥いったい、何を‥‥‥」


 いきなり目の前で叫びながら手を叩き、踊り出すママを見てやや困惑している様子のドラムさん。


「ああ? 何って幽霊退治だよ。お経唱えるとでも思ったか? んなわけあるか、めんどくせぇ」


「そ、それが‥‥‥? 幽霊退治‥‥‥?」


 その反応はわかるよ。見えないものは仕方ないもんね。


「まだいるから続けるよ。澄海、塩!」


「‥‥‥。」


 めんどくさ。
 ポーチから博多の塩を袋ごと(1kg)取り出して、手渡した


「そうそう。この博多の塩をな、ぺろっと‥‥‥しょっぱ!! ってなんでやねーん!」


 ノリツッコミしながら思い切り袋から塩をぶちまけながら回転するママ。




 ゴーストはもちろん、ドラムさんや他の九州娘。スタッフ、猫たちも塩を盛大に浴びた


「目が、目がぁああ!!」


 おっちゃんは目に思いっきり当たったみたいだ。南無。




 猫たちはプルプルと首を振って頭の塩を落としている




「あ、あれ‥‥‥カメラに‥‥‥影?」


 カメラマンさんがボヤく。
 そりゃそうだ。肉眼でも少しはゴーストが見やすくなってるはずだよ。


 ゴーストが盛大に塩を浴びたんだから。
 というか、それが目的だし。




「仕上げダージリン!」


 空になった袋を放り捨て
 ママが生気の抜けた左手をドラムさんに向ける。
 いや、ドラムさんの右肩を掴んでいるゴーストに。


 ママとゴーストとの距離は5mはある。だけど、ママにそんな距離は関係ない。


『………何する気だ………?』


「何するも何も………どっせい!」


 生気の抜けた左手の上を右手の掌底が貫いた


『グベッ!?』


「成敗するにきまってんじゃん」


 なんてことはない。ママがドラムさんを掴んでいたゴーストの首をへし折ったんだ


 これで二人目。いや、ママが弾丸に打ち抜かれなかった方をすでに片付けているから三人目か


「あ、あれ? 身体が軽くなった‥‥‥」


「おーよしよし。ドム子ちゃん。いい子だからこっちにおいで。」


「ふぇ? は、はぃ‥‥‥」


 今にも泣きそうな顔になるドラムさん。
 身体についた塩を払い落としながら小走りでママの元へやってきた


「あらぁ、肩に痣ができちゃったね。ドンマイマイ」




「‥‥‥ぇ? あぁぁ‥‥‥」


 少々露出した肩に、赤い手形がついていた。
 二、三日で引くだろうが、コレは精神的に来るものがあるだろう


 ドラムさんは恐怖で足腰に力が入っていないようだった。うわ、大丈夫だろうか、なんだかすごく痛そうな痣になってるし。


「ごめんごめん。怖かったね。修ちゃん、この子に肩かしてあげてちょんまげぷりん」


「ガッテンでい!」


 おっちゃんがママのそばにシュタッと現れた
 ………準備していたのかな。


「ドム子さん、大丈夫ですか? 俺に捕まって。」


「ドム子ゆな!」


「あだっ! 痛いじゃないですか樋口ひぐちさん! せっかく僕が紳士的になっているのに!」


「肩は借りるけど、それとこれとは話が別なのよ。あと本名もやめれ。」


「ふぅむ。じゃあお姫様抱っことかおんぶとかのほうがいいかな? えっと、ドラムちゃん?」


「それはやめて。というか視聴者から嫌われるようなマネはしない方がいいよ。ドラムでいいわよ。」


「それもそやね、以後気をつけます。ドラムさん。」


「‥‥‥というかあんた、そんなにお喋りなキャラだっけ?」


「ん? おっちゃんの生態か? ワタシはきっかけさえあれば誰とでも話すおしゃべりちゃんやで。話しかけられないとただの根暗ちゃんやけど。あと夜行性?」


「‥‥‥聞いてないし。とりあえず、次に学校で会ったらその定まらない一人称を一つに定めときなさいね。」


「にゅ‥‥‥承知した」




 なるほど。おっちゃんはひょうきんだ。


 だけどそれは受け身なひょうきん。
 話しかけられたら人当たりはいいが、まず話しかけられることがないんだろう。新学期も始まったばかりだし。


 だからおっちゃんの人当たりの良さに誰も気づかない。




 僕の場合は猫たちが仲介役になって話が繋がったのがきっかけだけど、おっちゃんは自分をいじめられっ子と評したが、あまり敵はできなそうな性格をしている


 さて、邪魔者はいなくなったし


「片ぁつけるぞ、澄海!」


「‥‥‥。ダル」


                    ☆



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