猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです
第5話 拉致と遊びと麻雀と。
「………実戦あるのみ(キリッ」
さっきのおっちゃんをマネして、小声で呟く。
「もうやめて‥‥‥おっちゃんをこれ以上いじめないで‥‥‥おっちゃんな、これでもメンタルはトランプタワー並なんやで‥‥‥。慎重に接してくれんと崩れちゃう‥‥‥。」
しらねぇよ
「それにしてもー、まさか平医院にテレビ局の人が心霊ロケに来てたなんてー、びっくりだね~」
「このロケを収録、編集して放送するのは肝試しシーズンってことなんかね」
「‥‥‥だろうね。‥‥‥3ヶ月は先だけど」
 そう、今僕たちは、平医院に入ることもなく、テレビ局のスタッフの人に門前払いさせられた
今は準備中らしい。本格的に撮影するのは今夜からだろうか。
 すでに車がなぜかぬかるみにハマって動かなくなるというトラブルがでており、さらにはカメラが一台使用不可能な状態になっていた
「あれは心霊現象ってことでいいんかね?」
「‥‥‥いいんじゃないかな。‥‥‥明らかな人間の過失じゃなかったら、霊的なものの仕業だと思う。」
「そういうもんか‥‥‥」
本当にこういうことは初心者なんだな‥‥‥
このおっちゃん、霊感があることはたしかなんだけど、それだけみたいだし、逆にそういう人は悪霊に憑依されやすくなる。そのための護衛だろうか
だけど別に普通に暮らす分にはまずゴーストと関わるようなことがないかぎりあまり被害に会うはずもないしなぁ
考えても答えが出るわけでもなし。もういいや、どうでも。
‥‥‥う~ん、平医院で暇を潰せないとなると、どうやって暇をつぶそうか‥‥‥。
アニメや特撮が始まる時間だし、見てから二度寝して、夜までゲームかな
「あ、やっべ‥‥‥」
おっちゃんの呟きに顔を上げると
「‥‥‥修さん‥‥‥どう、したの‥‥‥?」
「いや、0時間目の授業が始まってる時間だったからさ。遅刻判定の無い補習みたいなもんだけど、一限目まで遅刻はさすがにマズいから‥‥‥。」
時刻は7時40分
学校の授業が始まる時間にしては早すぎる気がするけど、高校生はそんなものなのだろうか
「1時間目の授業には間に合うかな。8時30分までに到着すればなんとかなるか。‥‥‥おっちゃんはもう行くわ。おっちゃんかて学生の身分やし、あんま目立ちとうないしな。」
自転車だと1時間くらいで到着する高校の制服のブレザーを羽織って(カッコいいと勘違いしているのか、ボタンは付けていない)自転車にまたがるおっちゃん
「澄海くん、暇なんだったらウチで猫たちと遊んでてもいいよ。ゲームとかならいっぱいあるから。ほななー」
返答をする前にぴゅーっと自転車で去っていくおっちゃんに[‥‥‥いや、遠慮するよ]と言う間もなく
おっちゃんの姿は見る見るうちに小さくなっていった
「おー、いいね~。澄海くーん、ウチにおいでよー。」
「‥‥‥澄海くんに迷惑じゃなければ‥‥‥きて、欲しいな‥‥‥。」
‥‥‥普通の人ならここでなし崩し的に承諾するのかもしれない、だけど僕はことわ――
「‥‥‥いや、僕はやめと「よーし、けってーだよー。」………く、よ?」
――ったつもりなんだけどいつの間にか承諾されたことになっていた
「じゃー、ついつきて~。こっちだよー。」
「‥‥‥さっき家の前で出会っただろ‥‥‥場所くらいわかる。‥‥‥そもそも僕は承諾なんかうわっ!」
「はーやーくー!」
タマに手を捕まれて強引に走らされた
腕力は並の男子高校生くらいはありそうだ
子猫時の力をそのまま人間大にしたら、背丈とパワーが釣り合わないな
僕も人間じゃない身として、そこは見過ごせないな‥‥‥後で注意だけでもしとくか
さっきの何気ない行為だけで、同年代のクラスメートたちは脱臼してもおかしくないくらいだったんだ。
猫をそのまま人間大にすると、危険がいっぱいということか。僕も一つ学んだよ。
「たーだいま~」
「ただいま‥‥‥」
「………。」
僕は無言。玄関前で立ち止まる。クロがアパートのドアをあけると
「タマちゃんクロちゃん、お帰りなさーい」
ティモがパソコン画面に向かってジョイパッドを静かに動かしながら首だけ振り返った
「あ、澄海くんおはよう!」
トラ模様のオレンジ色の物体がトコトコと歩いて来て、手に持ったコントローラーに引っ張られて尻餅をついた
「あぅ!」
首輪と鎖で繋がってるのに前に進もうとする犬みたいだ
「えへへ‥‥‥」
恥ずかしそうに頬を染めて頭を掻くな
((‥‥‥きゅん))
おまえ等も弟相手に可愛いものを見るような反応はやめろ
「ティモちゃんにー、女の子のお洋服着せたいな~」
思っても口に出すなよタマ。
見た目もほとんど男の子
中身も男の子。
しかし、ちょっとした仕草が、女の子っぽく見えるこの矛盾
なんだこれ
「ごめんね、澄海くん。なにもないところだけど、ここがぼくたちのお家だよ!」
突然押しかけたのは僕なのに(タマとクロによる強引に拉致られたからだけど)快く家に入れてくれた
なりゆきでこんな事になってしまったけど、深く考えても意味はない。他にする事もないし、家主の許可も降りてることだ。
家に帰っても寝るか一人でゲームするかのどっちかなんだ。ここから歩いて帰るのも面倒だし、ちょっとだけ厄介になろう。
と、半ば諦めながら小さくため息をついた
☆
前言撤回。
どうして、こうなったんだろう
「りーちー!」
ティモの元気な声が響いた
「うわ~、またティモちゃんがリーチかけるのー?‥‥‥うーん‥‥‥(コトッ)」
少し悩んだタマが、テーブルに四角いものを置く
「‥‥‥バカヅキ‥‥‥だね。まだ三巡目なのに‥‥‥(コトッ)」
悩ましげに目頭を揉んだクロが、正座の姿勢からテーブルに四角いものを置く
「‥‥‥。(スッ‥‥‥)」
僕はあぐらをかいた姿勢だけど、左手は後ろについて右手で四角いものをいじる
少しだけ悩み
「‥‥‥(コトッ)」
「ローン♪ リーそく‥‥‥うらうら! まんがんだよ♪」
あーっ、というため息が誰かから聞こえた
そう、どういうわけか、僕たちは麻雀をしていた
「‥‥‥ハコ‥‥‥。」
そして、ぼっこぼこにやられていた
やはり漫画を読んだことがある程度の知識じゃ無理がある
そもそも、なんでこんなことになったのやら‥‥‥
たしか‥‥‥
回想
テ『四人でできるゲームって何があったっけ?』
タ『スマブラとかかなー』
ク『四人ならではの遊び‥‥‥とかは?』
僕『‥‥‥ならでは? ‥‥‥スマブラも四人ゲーでしょ。‥‥‥そもそも僕、やるとはひとことも言ってないんだけど』
テ『テレビゲームは1日1時間って決まりがあるんだよね‥‥‥。』
僕『………僕の声、聞こえてるの。』
タ『破ればいいんじゃないかなー。そんな口約束じゃー、なーんの拘束にならないしー、おっちゃんならー、どうせ気付かないしさー。「ゲームならいっぱいある」って言い残してるんだからー好きにしていいと思うんだよね~』
ク『ダメ‥‥‥だよ。タマちゃん。ここに住まわしてもらってるのは‥‥‥わたしたちなんだから‥‥‥修さんが決めたルールには、従わないと‥‥‥。』
僕『‥‥‥となると、四人でできて、テレビゲームではない、なおかつ長時間遊べるもの‥‥‥? そんなのあるの?』
テ『その条件を満たすとなると‥‥‥』
三匹『『『 麻 雀 ! 』』』
僕『…………………………………………はぁ?』
と、こんな具合だ
意味がわからなかった
いや、流れとしてはわかるよ。
四人のゲーム
なおかつ長時間
絞っていけば、確かに麻雀は合っている。
だけど、普通小学生が麻雀するか?
しないよな
僕だって今日までルールすら知らなかった
麻雀の漫画を読んではいたけど、物語の流れのみを楽しんで、ルールそのものを理解しようとはしなかったし、それでも十分面白かったから、わざわざ勉強しようとはしなかった。
そもそもする環境すらないし、友達もいないし。
でも、こいつらは違った
あたかもみんなが麻雀をできて当たり前だと言うような口振りでちゃぶ台に雀卓と牌を取り出した
やっとこさルールと役を頭に叩き込んで、頭と面子を作ることだけを意識して、一度だけタマから和了れたものの、バカヅキしているティモの支配力に屈し、最下位で終わってしまった
漫画みたいにコレが当たり牌っぽい
とかもわかるわけがなく、結局ティモに振り込みまくった
初めて上がったときには、思わず『や、やった‥‥‥っ!』などと口走ってしまったことは反省したい
でも嬉しかったのは事実だけど
「‥‥‥なんで僕はこんなことをしているんだ。」
ため息混じりに呟きながら山を崩してて全部裏返して混ぜる
「ふふふ~。そんなこと言ってー。澄海くん、結構乗り気なんじゃないかなー?」
どうやらタマに聞こえてしまったらしい
「私から和了った時にー、小さくガッツポーズしてたよねー」
「‥‥‥うるさい、もう一回だ。‥‥‥今度はルールも覚えたから、次は僕が勝つ。」
「クスッ‥‥‥澄海くん、楽しそう‥‥‥。」
「‥‥‥あ?」
聞き捨てならないことを聞いた
この僕が? 楽しそう?
そんなわけない。
ただ、負けっぱなしってのが癪なだけだ
「ううん、‥‥‥なんでも、ないよ。‥‥‥その意気、だよ。わたしも‥‥‥頑張る」
胸の前で両拳をぐっと握って力を入れるクロ
う~ん‥‥‥やっぱり、クロみたいに可愛い子、タマみたいに日本人離れした子、ティモみたいな元気な子が麻雀をしている絵はなんだかシュールだ
あ、僕もか。宇宙人だし。
「‥‥‥なんでクロたちはは麻雀のルールなんか知ってるの。」
「なんでって‥‥‥」
「修さんが‥‥‥最初に教えてくれたから、だよ?」
「おっちゃんはー、毎日麻雀三昧だもんね~」
なるほど、おっちゃんはダメ人間なのか
部屋にオタオタしいフィギュアはないが、壁際にはパパが持っているのと同じ種類の小説や漫画が本棚にいっぱい詰まっていた
おっちゃんの容姿は細身だけど、それなりにスポーツをしていそうな肉付きだった。
インドアっぽい印象は無かったし、単に多趣味なだけだろうか
☆
もう一回、もう一勝負と負けを重ねながら時刻を確認すると、もう12時を回っていた
「‥‥‥もう、こんな時間か。」
「‥‥‥結局澄海くんは、‥‥‥一回も勝てなかった‥‥‥ね。」
「………。」
「しかたないよー。澄海くんはー、今日始めたばっかりなんだからさ~」
「…………。」
「あーおなかすいたー」
悔しい
一回も勝てなかった
今の僕じゃ効率も悪いし目先のことで手一杯すぎる
一度伸びをして、畳に倒れ込んだ
あんなに頭を使うとは思わなかった
「………お腹すいた………。」
いつの間にか時間がかなりすぎていたため、腹具合に気が付かなかったが、普段なら絶対にしない独り言を漏らしてしまうほどおなかがすいていた。
今日は家には誰も居ないから、お小遣いだけもらってたんだよね
「じゃあ、お昼ごはんにしようよ!」
「‥‥‥うん、そう‥‥‥だね。」
「澄海くんもー、ここで食べるでしょー?」
「………いや、僕はスーパーでお惣菜でも買ってくるよ。」
………。買って『くる』………か。
無意識だったとはいえ、自分がそんなことを言ったことに内心驚いていた
自分でも気付かなかったが、もしかしたらこの六畳一間が居心地が良かったのかもしれない
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