猫と宇宙人はゴーストバスターを始めたようです
第1話 ★………転入生として人猫がきた
時間が止まった瞬間を見たことがある?
少なくとも僕はある。
例えばこの瞬間。確実に時間がとまった
いや、むしろ止まったのではなく、時間そのものが氷結してしまったかのように固まったんだ。
僕 はまだ平静を保っていられるけど、クラスのみんな、そして、気合いを入れたのか、濃い顔になったおばさんたちも。 表情は引きつり目は笑っていないし、ただただ固まっている
田舎すぎることを除けば、普通すぎる小学校の普通ではない授業参観
平静を保ってられる人数は7人
27人のクラスメートのうち僕と、クラスメート三人。後ろで待機している保護者。数はわからないけど、僕の両親と腕を組んだだれかの保護者の1人。それ以外の時間がまるで止まっている。
『―――以上で、ぼくの作文、『ぼくのにいちゃん』を終わります!! 4年1組、岡田ティモ』
☆
事が起きたのは、僕が小学四年生に上がった時のこと。
始業式の二日後が日曜日で、この学校の特徴といえば、進級した最初の日曜日には授業参観で家族について発表すること。
たまたま始業式の次に土曜を挟んで日曜日。いきなり授業参観という事態になったんだけど
普通といえば普通かもしれない。
校長先生のありがたいお言葉を聞き流し、始業式が終わると、生徒たちはグループを形成して各自の教室に向かう
僕には友達と呼べる人がいないため、一人で教室に向かった。
教室につき、隅っこの自分のイスでぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。
背後からの笑い声。
――新しい先生は誰かな?
――オレはももちゃん先生がいいな
――ゴリマツだったら私、不登校決め込んじゃおうかなぁ
――あいつ、顔がまるっきりゴリラだからなぁ
不愉快な笑い声。耳障りだ。
僕は机に突っ伏して寝たフリをする。それで何かが変わるわけじゃない。ただ、気分の問題だ。すると不思議と、周りの喧騒が遠ざかっていく気がした。
友達が欲しくないわけじゃない。だからといって、欲しいとも思わない
誰に対しても僕は興味がなかった。
だからこそ、僕は誰に対しても一定の距離を保って、誰に対しても同じ反応を示していた。
そんな僕の反応が面白くないのか、
――あいつ、また来てるぜ
――なんか、ウザいよなあいつ。
――せっかく遊びに誘ってやっても、そっけなくて、いっつも断りやがる
――今度はどうする?
――教科書隠すか?
――いいな、それ
僕のことを快く思っていない連中からの、陰湿ないじめが存在したりする。
不愉快だ。対処しとこう。
丸聞こえなんだけど、僕の耳に滑り込んでくる不快な声に
‥‥‥くっだらねぇ
と、心の中でひとりごちる
「おーい、席に着けー。」
ピリッと空気が張った
あー、こりゃゴリマツが担任だな。ももちゃん先生だったらいつまでたっても騒ぎっぱなしだ。
ノロノロと自分の席に座る生徒たち
僕も机から顔を上げて、何とはなしにゴリマツ先生を見る
「今日から4年1組の担任、松本だ。去年も俺だったが、これからよろしく」
暑苦しい顔がそこにはあった。
「なんでゴリマツなんだよー」
「ももちゃんに変えろよー」
「誰だー、ゴリマツって言った奴。おまえ等のお母さんにお前たちが言うことを聞かないって言いふらすぞー!」
「ぎゃー!」
「ごめんなさい許して下さい!」
「母ちゃんにだけは勘弁してー! 尻ぶったたかれる!」
「wwwwww」
こんな喧騒も、去年とほとんど変わらない
「ほら静かにしろ。今日は新しいお友達を紹介するぞー。おーい、入ってこい」
だけど、始業式を機に、この学校に入ってきた三人の同級生がいた。
姉弟らしいその三人は、少子化の影響で、1学年1クラスしかない、そして24人しかいない僕たちの教室に、先生の紹介を受けて入ってきた
2人は女の子。
1人は男の子
三つ子なのか‥‥‥と、僕はぼんやりと考える
僕のパパが、興味を持っている本を読みながら僕に言った。
転校生という生き物は、美少年と美少女と相場が決まっている。と。
なるほど。たしかにその通りだ。
さらにその転校生は、どこか普通の人とは雰囲気が違っているとなおよい、とのこと。
僕にとっては想定内だった。
他の生徒は、その生徒を見るなり、頭の上に『?』のマークを浮かべている。
三人とも顔が整っているのは全員が把握した。
ただ、その視線が、髪に向かっている。何がおかしいんだろうか。
パパが見せてくれるマンガやアニメでは、こういうのは普通にスルーして日常に入り込んでいるものだけど
「岡田タマですー。よろしくねー?」
と、銀色の髪に"ネコミミと尻尾"をつけた女の子。左目は黄色で右目は青
「お、岡田クロ………よ、よろしく、おねがいします………」
今度は日本人形のような、光を反射するほど綺麗な黒髪。青い瞳に"ネコミミと尻尾"
「ぼくは岡田ティモです!」
さすがにコレは僕も異質に思った
髪がオレンジ色と薄い茶色のとら模様。黄色い瞳、それに"ネコミミと尻尾"。
ネコミミと尻尾はいいよ。そういうのは僕だって想定内さ。
ただ、髪の色が異質だ。しましまって‥‥‥
どういう原理なんだろう?
「えー、この子たちが今年度から、お前たちと共に過ごすことになった、岡田姉弟だ。みんな、仲良くするよーに。席は五十音順だから、上段のとなりにクロ。その後ろにタマ。その横にティモっていう具合で座ってけ」
「はーい」
「は、はい‥‥‥」
「うんっ!」
僕の隣‥‥‥あれか。僕のパパが言ってた。こういうのは運命だって。きっと僕はこの三人と、ハーレムなるものを作るに違いない。ハーレムの意味は知らないけど。
僕のとなりにクロが席に着き、後ろにティモが座る。きれいに囲まれてしまった。
「あの‥‥‥よ、よろしく‥‥‥」
「‥‥‥(こくん)」
隣の岡田クロが怯えた瞳でこちらを見つめる。凛々しい目をしているのに、この表情はもったいないな。
ふと、瞳の奥に目を凝らしてみる。青い眼に、瞳孔が縦に裂けている。典型的な人猫の目だ。
すごく整った顔立ちをしている。素直にかわいいと思った。
横に6列、縦に5列
隣の異性とくっつけ合う構図の机の配置。
タマとティモが机をくっつけている。もちろん僕とクロも。
「明後日はいきなり授業参観だから、忘れ物はしないように。あと、ちょっとしたプリントをいくつか配って、解散だ。春休みだからって宿題が無かったわけじゃないだろ。各自、明後日の授業参観で発表だからな。」
ゴリマツ先生がプリントを一番前の席にいる人に渡す
僕はそれを2枚取って、後ろの人に回す。一枚をクロへ
「あ、ありがと‥‥‥」
「‥‥‥(ふるふる)」
そんなことで感謝されるいわれはない。僕は首を横に振る
ティモとタマを見てみると、同じ様にプリントを後ろに回した。そんな様子をクロも見ていたようで、ホッとしたような息をついたのがこちらにも伝わった。
それを横目で見ていると、クロは最初から小さかった声をさらに小声にし、僕に話しかけてきた。
「その、きみは‥‥‥人間じゃ、ないよね」
出会ったばかりなのに人猫にそんなことを言われた。
「………いつから?」
気付いていたの? という質問は省いて、プリントに目を通しながら頬杖をつく
「校舎に入ってから。あなたの周りだけ、ゴーストがいない………から。それに、私たちは匂いでわかる」
ゴーストのことも知っているのか、この猫は。
「………この学校は、もともとは城が建ってたらしいよ。城が無くなったのは火事だって」
なんの脈絡もない話の転換。だけどクロには予想していたかのような表情で返す。
「そっか………。通りで、ここはゴーストが多いのね。………なんで、あなたはぶじなの………?」
「………自分の身を守る術はもってるよ」
「ん、………そっか。名前を聞いても、いいですか?」
「………僕は上段 澄海。元は地球外生命体。………この星でいう宇宙人、だね」
ゴリマツ先生のありがたいお言葉を聞き流し、学級委員の里澄が[きりーつ]と号令をかけたので、礼をすると、僕は家路についた
少なくとも僕はある。
例えばこの瞬間。確実に時間がとまった
いや、むしろ止まったのではなく、時間そのものが氷結してしまったかのように固まったんだ。
僕 はまだ平静を保っていられるけど、クラスのみんな、そして、気合いを入れたのか、濃い顔になったおばさんたちも。 表情は引きつり目は笑っていないし、ただただ固まっている
田舎すぎることを除けば、普通すぎる小学校の普通ではない授業参観
平静を保ってられる人数は7人
27人のクラスメートのうち僕と、クラスメート三人。後ろで待機している保護者。数はわからないけど、僕の両親と腕を組んだだれかの保護者の1人。それ以外の時間がまるで止まっている。
『―――以上で、ぼくの作文、『ぼくのにいちゃん』を終わります!! 4年1組、岡田ティモ』
☆
事が起きたのは、僕が小学四年生に上がった時のこと。
始業式の二日後が日曜日で、この学校の特徴といえば、進級した最初の日曜日には授業参観で家族について発表すること。
たまたま始業式の次に土曜を挟んで日曜日。いきなり授業参観という事態になったんだけど
普通といえば普通かもしれない。
校長先生のありがたいお言葉を聞き流し、始業式が終わると、生徒たちはグループを形成して各自の教室に向かう
僕には友達と呼べる人がいないため、一人で教室に向かった。
教室につき、隅っこの自分のイスでぼんやりと時間が過ぎるのを待つ。
背後からの笑い声。
――新しい先生は誰かな?
――オレはももちゃん先生がいいな
――ゴリマツだったら私、不登校決め込んじゃおうかなぁ
――あいつ、顔がまるっきりゴリラだからなぁ
不愉快な笑い声。耳障りだ。
僕は机に突っ伏して寝たフリをする。それで何かが変わるわけじゃない。ただ、気分の問題だ。すると不思議と、周りの喧騒が遠ざかっていく気がした。
友達が欲しくないわけじゃない。だからといって、欲しいとも思わない
誰に対しても僕は興味がなかった。
だからこそ、僕は誰に対しても一定の距離を保って、誰に対しても同じ反応を示していた。
そんな僕の反応が面白くないのか、
――あいつ、また来てるぜ
――なんか、ウザいよなあいつ。
――せっかく遊びに誘ってやっても、そっけなくて、いっつも断りやがる
――今度はどうする?
――教科書隠すか?
――いいな、それ
僕のことを快く思っていない連中からの、陰湿ないじめが存在したりする。
不愉快だ。対処しとこう。
丸聞こえなんだけど、僕の耳に滑り込んでくる不快な声に
‥‥‥くっだらねぇ
と、心の中でひとりごちる
「おーい、席に着けー。」
ピリッと空気が張った
あー、こりゃゴリマツが担任だな。ももちゃん先生だったらいつまでたっても騒ぎっぱなしだ。
ノロノロと自分の席に座る生徒たち
僕も机から顔を上げて、何とはなしにゴリマツ先生を見る
「今日から4年1組の担任、松本だ。去年も俺だったが、これからよろしく」
暑苦しい顔がそこにはあった。
「なんでゴリマツなんだよー」
「ももちゃんに変えろよー」
「誰だー、ゴリマツって言った奴。おまえ等のお母さんにお前たちが言うことを聞かないって言いふらすぞー!」
「ぎゃー!」
「ごめんなさい許して下さい!」
「母ちゃんにだけは勘弁してー! 尻ぶったたかれる!」
「wwwwww」
こんな喧騒も、去年とほとんど変わらない
「ほら静かにしろ。今日は新しいお友達を紹介するぞー。おーい、入ってこい」
だけど、始業式を機に、この学校に入ってきた三人の同級生がいた。
姉弟らしいその三人は、少子化の影響で、1学年1クラスしかない、そして24人しかいない僕たちの教室に、先生の紹介を受けて入ってきた
2人は女の子。
1人は男の子
三つ子なのか‥‥‥と、僕はぼんやりと考える
僕のパパが、興味を持っている本を読みながら僕に言った。
転校生という生き物は、美少年と美少女と相場が決まっている。と。
なるほど。たしかにその通りだ。
さらにその転校生は、どこか普通の人とは雰囲気が違っているとなおよい、とのこと。
僕にとっては想定内だった。
他の生徒は、その生徒を見るなり、頭の上に『?』のマークを浮かべている。
三人とも顔が整っているのは全員が把握した。
ただ、その視線が、髪に向かっている。何がおかしいんだろうか。
パパが見せてくれるマンガやアニメでは、こういうのは普通にスルーして日常に入り込んでいるものだけど
「岡田タマですー。よろしくねー?」
と、銀色の髪に"ネコミミと尻尾"をつけた女の子。左目は黄色で右目は青
「お、岡田クロ………よ、よろしく、おねがいします………」
今度は日本人形のような、光を反射するほど綺麗な黒髪。青い瞳に"ネコミミと尻尾"
「ぼくは岡田ティモです!」
さすがにコレは僕も異質に思った
髪がオレンジ色と薄い茶色のとら模様。黄色い瞳、それに"ネコミミと尻尾"。
ネコミミと尻尾はいいよ。そういうのは僕だって想定内さ。
ただ、髪の色が異質だ。しましまって‥‥‥
どういう原理なんだろう?
「えー、この子たちが今年度から、お前たちと共に過ごすことになった、岡田姉弟だ。みんな、仲良くするよーに。席は五十音順だから、上段のとなりにクロ。その後ろにタマ。その横にティモっていう具合で座ってけ」
「はーい」
「は、はい‥‥‥」
「うんっ!」
僕の隣‥‥‥あれか。僕のパパが言ってた。こういうのは運命だって。きっと僕はこの三人と、ハーレムなるものを作るに違いない。ハーレムの意味は知らないけど。
僕のとなりにクロが席に着き、後ろにティモが座る。きれいに囲まれてしまった。
「あの‥‥‥よ、よろしく‥‥‥」
「‥‥‥(こくん)」
隣の岡田クロが怯えた瞳でこちらを見つめる。凛々しい目をしているのに、この表情はもったいないな。
ふと、瞳の奥に目を凝らしてみる。青い眼に、瞳孔が縦に裂けている。典型的な人猫の目だ。
すごく整った顔立ちをしている。素直にかわいいと思った。
横に6列、縦に5列
隣の異性とくっつけ合う構図の机の配置。
タマとティモが机をくっつけている。もちろん僕とクロも。
「明後日はいきなり授業参観だから、忘れ物はしないように。あと、ちょっとしたプリントをいくつか配って、解散だ。春休みだからって宿題が無かったわけじゃないだろ。各自、明後日の授業参観で発表だからな。」
ゴリマツ先生がプリントを一番前の席にいる人に渡す
僕はそれを2枚取って、後ろの人に回す。一枚をクロへ
「あ、ありがと‥‥‥」
「‥‥‥(ふるふる)」
そんなことで感謝されるいわれはない。僕は首を横に振る
ティモとタマを見てみると、同じ様にプリントを後ろに回した。そんな様子をクロも見ていたようで、ホッとしたような息をついたのがこちらにも伝わった。
それを横目で見ていると、クロは最初から小さかった声をさらに小声にし、僕に話しかけてきた。
「その、きみは‥‥‥人間じゃ、ないよね」
出会ったばかりなのに人猫にそんなことを言われた。
「………いつから?」
気付いていたの? という質問は省いて、プリントに目を通しながら頬杖をつく
「校舎に入ってから。あなたの周りだけ、ゴーストがいない………から。それに、私たちは匂いでわかる」
ゴーストのことも知っているのか、この猫は。
「………この学校は、もともとは城が建ってたらしいよ。城が無くなったのは火事だって」
なんの脈絡もない話の転換。だけどクロには予想していたかのような表情で返す。
「そっか………。通りで、ここはゴーストが多いのね。………なんで、あなたはぶじなの………?」
「………自分の身を守る術はもってるよ」
「ん、………そっか。名前を聞いても、いいですか?」
「………僕は上段 澄海。元は地球外生命体。………この星でいう宇宙人、だね」
ゴリマツ先生のありがたいお言葉を聞き流し、学級委員の里澄が[きりーつ]と号令をかけたので、礼をすると、僕は家路についた
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