受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第124話 バンダナ





さて、僕に対する質問はどうにかなったみたいだけど、ファンちゃんとルスカへの質問はどんなものだろうか




「次の質問なんだが、ルスカちゃん。」
「はいなの!」




 うん。元気いっぱいでよろしい。


「君はアントン先生に怪我をさせたね。そのことについて、どう思っているのか聞かせて欲しいな」


 と、騎士様は優しい口調でそう聞いた。


「なんともおもってないの!」


 それに対し、ルスカは自分の思ったことを素直に答える。


「うーん。先生に暴力をふるっちゃいけないとは思わないのかい?」
「うゅ? 言ってることがよくわからないの。先生は生徒にぼーりょくをふるってもいいの? 毒を混ぜてもいいの?」


 純粋な疑問。
 ルスカにとって、暴力はわりと日常的なものだ。
 ルスカはもう覚えていないけれど、子供の頃から、僕を虐待する両親を見ていたし、アルノー山脈で竜と追いかけっこ。
 野ウサギ、フラビットなどを捕まえては自分で皮を剥ぐこともできた。


 シゲ爺の館についてからは、組み手と称して僕やファンちゃんとも日々殴り合いを行っている。
 自分自身にも相手にも血を見せたり見たりするのにも慣れている。
 ルスカにとって、暴力はいけないことではないのだ。


 とはいえ、ルスカも好き好んで相手に殴りかかったことはない。
 僕が暴力が嫌いだから、というのもあるかもしれないが、友達が危ない目にあったり僕が悪口言われたりしない限り、ルスカは本当に人懐っこくて誰にでも明るく優しい女の子なのだ。


「いや、ふるっちゃいけないね。毒もいけない。それはアントン先生が間違っていた。」
「ルーしってるの。先生っていうのはね、お手本になる人のことなの。だからルーはフィアルみたいな魔法使いになるの。」


 ちらりとフィアルを見るルスカ。
 ルスカに魔法を教えたのは、僕とフィアルだ。
 僕はどちらかといえば我流だし、フィアルは教本便りだ。
 どちらが優れた先生かといえば、フィアルだろう。最初の頃は本当に教えるのが下手くそだったけれど、今はこうやって臨時講師をやっているくらいなのだから。
 フィアルの今の人生に、僕らに魔法を教えた経験が生かされているのは間違いない。
 そんなフィアルに教わったからこそ、ルスカもフィアルのことは頼れるお姉さんだと尊敬しているし、当然、僕だってフィアルのことは尊敬している。


 なんたってフィアルは、前世も含めた僕と同い年。あったかもしれない未来の僕の姿だから。


「アントン先生はルーの友達に………ラピスくんに暴力をふるったから、アントン先生みたいにはなりたくないの。でも、ぼーりょくがアントン先生のやり方だから、アントン先生に対するぼーりょくにはルーはいっさいのはんせいはしないことにしたの」


 ルーはぷんぷんと頬を膨らませながら両手でバッテンを作る。


『まったく………。』


 と眉を寄せるフィアルだが、ルスカに尊敬されているという話を聞き、多少なりとも嬉しそうにしているのがわかる。


「そうか………。ファンちゃんも同じかい?」


 同時にアントン先生に攻撃を仕掛けたファンちゃんにも聞いてみた。


「ぅぅ………………」


 やはり人見知りを発動して緊張して縮こまっている!


『ファンちゃん、頑張って!』
『ファイトなの!』
『ボクたちみたいに自信を持って答えればいいだけだよ』
『わ、わかってるわよ! みくびらないで!』


 糸魔法による念話でファンちゃんを励まし、騎士様はファンちゃんの言葉をゆっくりと待つ。




「は、はい。あたしも、その、友達が傷ついているのをみて、カッとなって………。」
「カッとなっても、暴力はいけないよ。」
「は、い………。もうしわけ、ございませんでした」


 しりすぼみになるファンちゃん。
 よく頑張ったね。ファンちゃんも思い切り掌底を顎にカチ当てたことを後悔はしていないけれど、武術を習う身としては褒められたことではないことはわかっているのだ。
 ちゃんと謝れることは、えらいことだと思う。


「でも、友達を助けたかったってことは私たちも知っているから。その気持ちは大事にしてね」
「は、はい! ありがとう、ございます!」




 褒められたファンちゃんは嬉しそうにはにかんだ。






 他にも騎士様からみんなに、どんな授業を習っているのか、アントン先生は普段どんな人なのかを聞かれたが、真偽官の魔眼が発動することはなかった。


 一番聞きたかったのは、殺意マシマシだった僕に対する事だったのかもしれない。


 ちょっと拍子抜けだったけど、唯一僕がどくどく草を混ぜられていたから、動機や真実を知りたかったのかもしれないな。


「最後に、ちょっと気になっていたんだけど、リオルくんちルスカちゃんは頭にバンダナを巻いているけど、理由とかあるのかな?」


 まあ、それ聞いちゃうよね。
 バンダナ巻いてる子供なんて、僕とルスカしかいないんだもの。


『魔眼、発動しているよ。理由はどうあれ、髪を隠しているのはダゴナン教会が探す神子や魔王の子を見つける為には不要なはずだからね。念のためなのかは知らないけれど、神子や魔王の子として多少は疑われているってことかな』


 まあ、そうなるよね。
 ラピス君からの念話に、嘆息するしかない。


『あたしは、南大陸はダゴナン協会の総本山だって知っているわ。あの真偽官もそれを確かめる為に送られてきたのかもしれないわね』


 なるほど。アントンの方がついでなのか、僕らの方がついでなのかはわからないけれど、バンダナで髪を隠す子供なんてものは目立つし疑われて当然だ。
 他国の王族が害された事件で、真偽官を派遣したのもあるだろう。
 バンダナの子供が命を狙われていたなんて報告もあったら、ついでに聞いてもなんらおかしくない。


「それ、答えないとだめですか?」


 だから、逆に聞き返した。
 魔眼も発動しているみたいだけど、答える義理もない。
 ルスカが僕の方をちらりと見て、コクリと頷く。


「ルーたちはこのバンダナを取りたくないし、答えたくもないの。」


 ルスカも僕と同じ考えだったのか、僕の続きを答えた。


「そっか。ちょっと気になっただけなんだ。私たちは子供が嫌がることはやらないよ。騎士だからね」


 とはいえ、察しくらいは付いているかもしれないな。
 あからさまに頭部の髪を隠す子供。
 そんなの、黒い髪か、黒っぽい髪で嫌なことをされた記憶があるに決まっている。
 バンダナの中身は間違いなく地雷だということは騎士様もわかっていると思う。
 もしかしたら、ルスカの髪も、そういった黒っぽい髪だと誤解しているかもしれないけれど、別に誤解を解こうとは思わない。


 触らぬ髪に祟りなしってね。


 ん? ちょっと違うか。


 ま、もみあげなんかも毎朝ちゃんと剃っているので、毛がはみ出すこともそうそうない。




「今日は情報提供に協力してくれてありがとう。今回は事態が事態だったから大ごとになっちゃったけど、あまり暴力は振るわないようにね」


 優しくそういうと、騎士様は書類を立ててトントンとそろえると、ニコリとほほ笑んだ。


 子供たちに対する質問は終わったらしい。
 それほど長く拘束されなかったのは、やはり子供に対する配慮だろうか。


「あの、アントン先生を逮捕して下さって、ありがとうございました。」




 大変な目にあったとはいえ、騎士様が逮捕してくれなかったり、獣人差別を助長するような人だったりしたらもっと大ごとになっていたかもしれない。
 僕は素直に感謝の気持ちを言葉にして、行動にして騎士様に頭を下げた。


「「「 ありがとうございました。 」」」


 ファンちゃんとラピス君、ルスカも僕に続いて頭を下げる。


「はい。どういたしまして。気を付けて帰るんだよ」


「「「「 はい! 」」」」








 どうやら、無事に切り抜けることは出来たみたいだ。















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