受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第113話 ★水魔晶石のペンダント

「ほーん、そんなことがあったんだ。わたしが始末書を書いている間にねえ………」


 そんなジト目で見ないでフィアル先生。
 フィアルに今日、リールゥを孤児院で発見した出来事を報告すると、頷きながら返事をしてくれる。


 あ、ちなみにここはシゲ爺の館だよ。
 フィアルの始末書の作成が終わったのが、騎士コースの子たちの部活動が終わるのと同じくらいの時間だったらしく、アルンやリノンといった双子と久しぶりに一緒に帰ってきたね。


 リールゥを見つけて、ジャムのおっさんが言っていた孤児院に言って、話をつけて。
 それらをすべてフィアルに報告した。


 僕らはいくら年齢よりも知能が高くても、その年齢が低い。経験が浅いんだ。
 相談できる大人が居るなら、相談するに越したことはない。


「そうそう。まさかこの王都にリールゥが居るとは思わなかったけどね」


 紅茶をすすりながら僕は返事を返す。
 このテーブルに座っているのは、僕とファンちゃんとミミロの3人だ。
 本当は孤児院の子供たちを相手していたラピス君も呼びたいところだったんだけど、さすがに今日はいろいろありすぎたし魔力枯渇で体力も残っていないみたいだから、すこし別室で休んでもらっているよ。
 ルスカとキラケルは子供たちと遊んでいただけだから、大した情報は持っていないことがよくわかった。
 ミミロやラピス君並の高速思考は僕にも無理だから、3人の情報収集はそこまで期待していない。僕の代わりに元気に遊んでくれるだけでうれしいよ。
 3人とも、座学は苦手だからね。


 そんで、その時に仕事もひと段落したフィアル先生が迎えに来てくれて、シゲ爺の許可を得て夕食を食べた後、一緒にお茶してくれているの。
 フィアル先生の転移の魔法はこの上なく便利だからね。シゲ爺もうらやましそうにしていたよ。
 ま、シゲ爺は世界最強の竜だから、本気を出せば1週間で世界一周とかできそうな気がするけどさ。格闘武術の師範と伯爵の仕事で忙しいからできないだろうけどね。




「もー、あんまり無茶しないでね。リオルたちが問題を起こすと私が始末書書くことになるんだから」
「今回ばかりは無茶をするよ。弟の命がかかっているんだ。できることならなんだってする」
「………そうだったわね」


 フィアル先生はため息を僕の頭をポンと撫でた。その言っても聞かない子を宥めるような眼はなに?
 基本的に僕はいい子のはずだよ?


「リールゥ殿を助けるのはリオ殿の自己満足でありますが、わちきたちも協力したいと思います。リオ殿は“家族”に飢えていますからね。ルー殿のように、血のつながった肉親に対しては甘くなるのも仕方のないことかもしれませんね」
「そうかもしれないけど………正直なところ、リールゥよりもミミロたちの方が大事だよ。一緒に過ごした時間が違いすぎるもん」
「だったら、もうすこしわちきに甘えてくださってもいいのでありますよ」


 ミミロはひょいと僕を抱き上げて膝の上に座らせる


「………十分甘えさせてもらっているよ。ミミロにはいつも助けられてるからね」


 そのまま僕のおなかに手を添えてミミロはゆらゆらと前後に揺れる。
 僕と同い年なのに、ミミロの方が身長高いんだもんなぁ。なんか、ミミロに子ども扱いされるのって初めてかも。
 なんか新鮮。


「とはいえ、リオ殿はリールゥを孤児院からお金で買うと言っていましたが、それは誰がするのですか? 一見ただのガキであるリオ殿など、門前払いでありますよ? シゲ爺殿にはリョクリュウを名乗ることを許されているわけではありませんし、権力を使うこともできません。虎の威は借りられないのであります」


「………そうね、おじいちゃんはそんなことで勝手に権力を使われるのを嫌うわ」


 ぽすっと僕の頭の上に顎を乗せるミミロ。
 なにそれ、気に入ったの?


 ファンちゃんもミミロの言葉に同意するように頷いた。
 シゲ爺は辺境伯―侯爵と同じくらいの地位にいるとんでもないお偉いさん。


 おいそれと権力を使うわけにもいかないし、それはそもそも僕の本位でもない。




「どうするのでありますか、リオ殿」
「うーん………」


 悩むそぶりを見せる僕に対し、ミミロはすこしお腹に回した手に力を籠める。


「まさか、考えてなかったのでありますか?」
「や、考えてはあるんだけど………」


 そういって、僕はフィアルを見上げると


「え、わたし!?」
「うん、だって僕、大人で頼れる人って他に知らないから」


 僕の知り合いは大体が大人だ。
 だけど、この状況で頼りにできる大人はフィアル以外にいない。


 みんな竜の族長たちなんだもの。


「まぁ、順当にいけばそうなんだろうけどさ………あ、そうだ。赤竜のところの戦士長さん。イズミさんなんてどう? あの人なら子供の面倒を見られる時間があるはずだよ。さすがに教師をしていると今日みたいに時間に融通が利かない日があるから、私には難しいし」


 そうだよね、今回の話は面倒ごとだ。
 フィアル先生が回避したくなる気持ちもわかるし、フィアル先生の時間の都合がつかないというのも本当だ。


「別に子供の面倒をずっと見ていなくてもいいんだよ。リールゥを預かって、別の孤児院に預けるだけなんだから。」
「………そうだったね。やー、それでも、私の予定に空きはないから、時間がかかっちゃうよ。すぐには休みなんて取れないし、難しいと思うな。」


 一瞬フィアルもそれだけならと頷きそうになったんだけど、頭の中で予定表を見直せば、仕事でびっしりと埋まっていることを思い出した様だ。


「そうだよね………ただでさえ僕たちのクラスで大きな問題があったばっかりだし、フィアル先生に負担をかけすぎるわけにもいかないか………。あー、どうしよっかな。フィアル先生、タイミング的にもちょうどいいし、イズミさんに聞いてもらってもいい?」
「うん、聞くだけ聞いてみる」


 互いのコイバナに花を咲かせるイズミさんとフィアルは仲良しになったんだよね。
 去年の族長会議があったときの豊穣祭の日。フィアルは黄竜族長のニルドと。イズミさんは赤竜族長のジンとダンスを踊れていたみたいだから、すこしは進展しているんじゃないかな?




「あ、そうだ。機会があったらイズミさんに伝えておいて。『ユーコと名乗る転生者を見つけた』って。たぶんスッ飛んでくるよ」


 おそらく、これはイズミさんがこの世界に転生してから最も知りたかった答えだ。
 汚い考えかもしれないけど、恩を売っておいた方が、スムーズに事が進みやすいのも事実。ここはどうせ言わないといけない情報を有効に使おう。


「え? わかった、伝えてみるね。この時間だと、ケリー火山の赤竜の里はまだお昼くらいかな? ちょっと行ってくるね」


 フィアルは何のことかわからずに困惑しながらも了承し、席を立つ。




「もう行くの?」


 席を立ったフィアルに、慌てて声をかける。
 フィアルは残業と始末書の作成で疲れているし僕たちの送迎で魔力も消費している。
 ここでさらに大陸をまたぐような転移を行えば、いくらフィアル先生でも大変なんじゃないかな………


「リオルにとっては、早い方がうれしいんでしょ? それに私も、ケリーの木を調べてみたいっていう先生が居たから、枝と木の実を少しだけもらっていこうかと思ってるし、ちょうどいいかなって。魔力回復のアルノー濃縮液も用意しているし、大丈夫よ」


 ポンとポーチに手を置くフィアル。
 それならなんとかなるかな………? まぁ、負担が大きいのも、それをさせようとしているのも僕だし、フィアル先生が言ってくれるというのなら、ありがたい。


「………そっか。ありがとね」
「いえいえ。そのかわり、学校ではちゃんと私のサポートをしてよね?」
「そりゃもちろん。クラス内の情報は逐一報告させていただきます」


 うやうやしくうなずくと、フィアルはぷっと笑ってから『ゲート』と唱えて空間のゆがみを作り出した


「それじゃ、行ってきます」


 ゆがみの中にためらいなく体を突っ込んでいき、フィアルの姿が消えていった。








……………
………





 数分後。設置したままの空間のゆがみから、真紅の髪の女性が飛び出してきた。


「リオル! 話があります!!」


 ほーら、すっ飛んできた




 この人は赤竜戦士長のイズミさん。日本からの転生者。そして、今日であった吸血鬼、ユーコの親友である人だ。


「どうどう。落ち着きなさいな。情報は逃げたりしないから。ちょっと向こうでお話ししよう。」
「交換条件があるなら聞きましょう。優子はどこにいるのですか?」
「びっくりするほど話が早い! それについては教えることはできないけど、僕たちが行く場所に連れてきてもらうことはできるよ」
「わかりました、ではすぐに」


 すぐにでも僕を引っ張り出して聞き出そうとするイズミさんにちょっと押され気味だ。
 そういや、イズミさんが最初に転生者である僕を見つけたとき、涙を流しながら抱きしめてたことを思い出した。
 そうだよね、転生してから20年以上。ずっと探してきたんだもん。急に入ったその情報に慌てるのもしかたないか。


 とりあえず、ファンちゃんとミミロが席に座り、フィアルも席に戻ってお茶代わりに魔力回復薬を服用していた。
 それをしり目に、僕はイズミさんを引っ張って部屋の隅に移動する。


 古代種には前世の記憶が宿る。というのはファンちゃんもミミロも知っているようだから隠す必要もないけれど、僕らの場合は異世界人だからね。
 ミミロとラピス君、あとルスカ辺りには気づかれていそうだけど、むやみに話すことでもないからね。一応みんなとは離れてお話することにするよ。


「すぐには無理だってば。明日ね。今日はいろいろなことがありすぎて疲れているから、説明と確認だけするけど、『ユーコ』って名前の中二病の女の子。それがイズミさんの探している女の子でいいの?」
「間違いありません。おっとりした口調のくせに、中途半端な中二病であったならそれは間違いなく優子です」


 あら、確定だ。


「その女の子は、“吸血鬼”に転生していたよ。今は5歳くらいだったね」
「吸血鬼………ユーコの中二病のベクトルのど真ん中ですね。5歳くらいとなると、リオルよりも年下ですか?」
「うん、年下だった」


 顎に手を当ててふむと考えるイズミさん


「転生する時期にもムラがあるのですね………。わたしとリオルが前世で死んだ日というのは同じ日でしたっけ?」
「どうだろ………あの頃の記憶は殆ど泥みたいなものだったから、日付は全く覚えてないや。曜日さえわかっていたらいつも通りいじめられるだけの生活だったもん」
「………そう、ですか。年は同じですから、優子も転生していたとなると、もしかしたらほとんど同時刻だったのかもしれませんね。」


 僕の前世を聞いたことがあるイズミさんは一瞬、顔をしかめた物の、すぐに気を取り直して前を向く。
 質問も途切れてちょうどいい、話を変えよう。


「話を戻すけど、イズミさんにやってもらいたいのは、僕の弟のリールゥの解放。その後、ユーコちゃんに会わせてあげる。これでいい?」
「もちろんです。優子に会えるならなんでもします。ずっと、この日を待っていたのですから。………ありがとうございます、リオル」


 僕のバンダナを撫でながら、あまりの嬉しさに笑みを浮かべて涙をこぼし、僕を抱きしめた。


 ………。僕も、こうして抱きしめてもらえるほど、愛を受けている。
 前世や村にいた時とは大違いだね。


 僕は今、恵まれている。これ以上ないほどに。


 なぜ、僕よりもリールゥの方が辛い目に合わないといけないんだ。
 それを許しちゃいけない。


 なにがなんでも、リールゥを救う。




 そう決意してイズミさんの手を軽く叩いて抱擁を解いたそのとき、ノックの後に部屋のドアが開く。
 ドアの隙間から、ぴょこんと特徴的な桃色のうさ耳が見えた。


「うぁー………意地張らずにルスカちゃんに目の治療をお願いしとけばよかった………」


 やっぱりラピス君だ。
 ラピス君が片目を押さえながら、フラフラと近寄ってくる。


「大丈夫でありますか、ラピス殿」
「無理しないで、ラピス」
「うん、ありがとう」


 心配してミミロとファンちゃんが声をかけるけど
 ラピス君は恥ずかしそうにイケメンスマイルを浮かべる。これが“はにかみ”か。僕にはできそうにないや。


 魔眼の連続使用で目が疲れ、魔力枯渇もおこしていたラピス君は別室で休んでもらって、それからいろいろ報告してもらおうと思ってたんだけど、もう大丈夫なのかな?


「あ、リオッち。ペンダントを過去視したときのことなんだけど………」


 と前置きをして
 水魔晶石のペンダントの事で報告があったらしいラピス君がイズミさんを視認した瞬間。


「あれ、その人……いった!」


 突然、ラピス君が左目を押さえてうずくまる


 ラピス君は魔眼が制御できなくて、時々勝手に魔眼が発動してしまうって言ってたっけ。
 未熟な魔眼使いのラピス君に起きる、魔眼の暴走。
 油断しているときに発動すれば、激痛が走ってしまうらしいよ。


「なに、これ………箱の中? 鉄の塊が迫って………おなかに………つぅ……」


 左目を押さえながら何事かをうわごとのようにつぶやくラピス君。
 僕もそんな状況を初めて見た。
 慌てて駆け寄って、声をかけてみる


「大丈夫、ラピス君!?」
「ああ、うん。平気。いつものことだし………」


 平気だと言っているが、ラピス君の頬には脂汗が浮かんでいる
 こちらを見上げるラピス君の眼は充血し、目の焦点が合っているようには見えない。
 ここではない、どこかを見ているようだった。


「あ………」


 ドロッと左目から血が出始める。
 これは、ルスカの加護を打ち消した時と同じ、魔眼の使用過多!?


「ファンちゃん!」
「ええ!」


 ファンちゃんは光属性も持つエルフの女の子。
 すぐに僕の意図を察してラピス君に駆け寄り、瞼に触れて光魔法を使用する。
 ルスカほどじゃなくとも、ファンちゃんの光魔法は回復力に優れている。
 ラピス君の瞼に手を当てて、魔力を注ぐ


「ありがと。過去視の魔眼のことを話そうとしたからかな、勝手に発動しちゃった………」


 どうやら『過去眼パストアイ』がラピス君の許可なく発動してしまったみたいだね。
 今日はたしかに魔眼を使いすぎた。よく今まで無事でいられたね………。こうも何度も目から血を流すのを見ていると、いつか視力を失ってしまいそうだよ。
 いつ目の毛細血管が破裂するかもわからない。




「あ、あの………なにが起こっているのですか?」




 こんなにオロオロしているイズミさんは珍しい。
 入ってきた少年から、いきなり目から血が出たら困惑もするよ。


「ラピス君は兎人族とメドューサの子供なんだ。だからすごくたくさんの魔眼が使えるんだけど、魔眼の制御が難しいみたいで、時々眼に負担がかかりすぎるとこうなっちゃうんだって」
「そ、そうなのですか………」


 困惑気味にラピス君を見下ろすイズミさん


 ファンちゃんに「ありがと、もう大丈夫だよ」といって目の治療を終わらせるラピス君
 ファンちゃんもずいぶんとラピス君になれてきたね。
 かいがいしく目の治療をしながら脂汗を拭いてあげてたし。


「ごめんなさい、ボクの魔眼でそっちのお姉さんの過去を勝手にみちゃった。いきなり身体に棒が刺さるのが視えてびっくりしちゃったよ」


 両目をもみほぐしながら、イズミさんが死んだ時の状況を言い当てる
 見てしまった過去が、前世・・の死に際だというのに、さらに驚く。


 イズミさんがビクリと肩を動かしたのがわかった


「そ、そんなことまで視えるんだ………」
「んー、まぁね。その人はリオルくんの竜関係の知り合い?」
「そんなとこ」
「じゃあ、もうリオルくんの秘密を全部知っている人か。ならここで話しても問題ないね」


 直接過去を見ることができるラピス君には隠し事は通用しない。
 おそらくラピス君のことだから僕の前世のことも気付いているのだろう。


 それでもなお、僕を慕ってくれるのか。
 ここまで無条件で慕われるのも、なんかむず痒いな。


「それで、ラピス君。このペンダントについて、なにか言いたいことがあったんだっけ?」
「うん。ボクの魔眼では過去は視られても音は視られないから憶測になるんだけど………そのペンダント、リールゥが孤児院から柵の外に投げ捨てた物なんだ」


 ポケットから水魔晶石のペンダントを取り出す。


「リールゥが投げ捨てた………でも、なんで?」
「リオルくんがリールゥを見つけたとき、リールゥをいじめている男の子っていたよね」
「ああ、うん。いたね。」
「その子がね、リールゥからペンダントを奪い取ろうとしていたのが視えたんだ」
「ふむ………」


 あの孤児院は金策に困っているようだったし、リールゥが金目のものを持っていたから、それを奪ってしまおうってことだったんだろうか。
 弱い者いじめのテンプレかな


「そのペンダントに込められている『氷壁ex』は強力な魔法だよ。国の宮廷魔術師たちが何人も力を合わせてようやく発動できるくらいの魔力が込められている」
「でも、発動コマンドを発声しないと魔法は発動しないんでしょ?」
「そうなんだけど、別に発動しなくたって、その大量の魔力を吸い出すだけでも莫大な資金にできるはずだよ」
「吸い出すことができるの!? あ!」


 そういや、昔ミミロの産卵の時に、ルスカが僕の魔力を無理やり吸い出したことがあったっけ
 魔力譲渡の逆パターン。魔力強奪とでもいえるような技術。
 モノに込められた魔力を吸い出すような、そんな機械とかが開発されている可能性もある。


 魔力とかいう不思議物質は価値が高いんだろう。僕は持て余しているけどさ。




「魔力を吸い出すことはできるよ。現にボクも魔眼で魔力を吸収したり破壊したりできる。魔力が視えれば、吸い出し方も少しだけわかるしね。なにより、そこに込められているのが“神子の魔力”だから、付加価値がすごいんでしょ」


 付加価値とか知ってたんだ。
 7,8歳くらいなのに、なんて子供だ。


「相手も子供だから単に“金目の物を持っている”と思っただけかもしれないけどさ」


 というより、そっちの線の方が濃いとおもう。
 ファンちゃんも経済についてはシゲ爺の元で習っていたのだろう。コクコクと頷いている。


「ボクが知る限りじゃ、リオルくんのお母さんも、リールゥも、そのペンダントは大事にしていた。粗末に扱うような感じじゃなかった。だから、盗られないように、柵の外に投げたんじゃないかな。ほら、あそこの孤児院の裏って、柵が外れてたでしょ。あそこの孤児院の子たちが気づいていないはずがないんだよ。リールゥだって、ほとぼりが冷めたころに、ペンダントを取りに行くつもりだったんじゃないかな」




 なるほどね。


「じゃあこのペンダントは、大事だからこそあそこに落ちていたんだ」


 僕はペンダントに視線を落として呟いた。
 ずっと大事にされていたことはうれしい。


「おそらくね。リールゥには悪いことしちゃったな。孤児院周りの町との境界の柵は修理されちゃったし、ペンダントはここにあるし。」
「いや、ラピス君。ペンダントがここにあるのは好都合だよ。どうせ柵が修理されたらリールゥにはペンダントを取りに行く術がなくなるから」
「あ、そっか。ついでにリールゥに大事なペンダントを拾っておいた恩を売ってた方が、リールゥも付いてきやすくなるよね」




 なかなかラピス君も3歳の子に対してもシビアなことを言うね。
 正直なところ、僕としては実の弟だから無条件に助けたいと思っているのだけどさ。
 やりやすくなる分にはいいか。


 どうせ、魔王の子である僕は嫌われる。
 もう嫌われたっていい。リールゥの無事さえ確保できれば、それだけで。


「なんにせよ、明日の放課後。リールゥを買い取りに行こう。イズミさんもそれでいい?」
「話の流れがつかめませんが、するべきことはなんとなくわかりました」
「あとでもっかい詳しく今日のことを説明するよ。明日は僕も一緒に孤児院までついていくから。その後、ユーコちゃんに会いにいこ?」
「ええ!」


 イズミさんは力強く頷いてくれた。
 お金は十分にある。足りなかったら土魔法で鉱石を作り出してもいい。
 これで、明日にはリールゥを解放できるはずだ。





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