受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第112話 中二病幼女吸血鬼 ユーコ







 目を開けると、そこは真っ暗な部屋だった。


「もう転移したの? さっきと変わった様子がないけど………」




 とはいえ、僕は闇との親和性が高いため、暗闇など太陽が輝く昼間と何ら変わりない様子で周囲を確認できる。


 ちゃんと体感的に暗いってのはわかるよ。
 ただ、暗い場所だと僕の第六感が発動するみたいで、どこに何があるか、誰が居るか、どう動いたか、心拍数までもはっきりと僕に伝わる。


 暗闇であればかくれんぼなど僕の前では無意味だね。




「こちらの施設も隠し部屋で作られておりますので」




 そういって、アリス先生が再び明かりの魔道具を使用し、周囲を明るく照らす。


「ほんとね、さっきと変わった感じがしないわ」
「そうですね。ここも孤児院なのでありますか?」


 転移が終わったことを確認すると、ファンちゃんとミミロは僕の傍に寄る


「………いえ、こちらは隠れ家になります。ここにいるのも、吸血鬼の女の子一人だけです。私も基本的には向こうで生活しておりますので」


 ん? そうなると、ここで世話している子はずっと一人ってこと?
 それはかわいそうだな


「リオルさん、失礼します」
「あ、どうも」


 再びアリス先生に持ち上げられて、梯子に手を掛ける。


 僕の下にアリス先生が居て、上る。


 僕が足を踏み外しても大丈夫なようにスタンバっているんだ。




「それではこちらも。ファン殿」
「ありがとう………」




 さらに下の方ではミミロがファンちゃんを抱えて梯子に掴まらせてあげていた
 まぁ、僕なら梯子なんか使わなくても浮けるんだけどね。


 そんなことしてたらただでさえ少ない筋力がさらに落ちそうだからしないけどさ。




 梯子を上りきれば、そこには壁が。


「開けますね」




 アリス先生がそれに手を触れると、自動で壁が動き、光が差す。


「思ったよりもかび臭いですね」
「さすがに子を育てる環境としては狭すぎないかしら。」
「すみません。もともとが使われなくなった納屋なので………。」




 孤児院で暖炉を動かした時と同じように、音もたてずにすっと壁が動き、部屋全体が見えるようになる。
 だが、少々カビのにおいが鼻につく。


 若干不衛生だなと思いつつも、部屋の中に足を踏み入れた


 そこは、部屋の上部から夕陽が差し込んでいるようで、オレンジ色の光が埃と陰でカーテンを作っていた。
 なんとなく吸い込みたくなくて、僕はポケットからハンケチを取り出して鼻に当てる。


 うぬぬ、なんか目に染みてきた。
 僕って花粉症とかに弱いのかな。


「あれ? ユーちゃんが見当たりませんね」


 アリス先生はぐるりと部屋を見渡すと、件の吸血鬼の子の名前であろうか。ユーちゃんとやらの姿を探し始める


「納屋ってことはこの一部屋だけなんでしょ? ここにいないってことは外に出てるのかな?」
「そう、かもしれませんね」


 アリス先生は箱に偽装された壁を再び移動させ、隠し通路を隠すと、出入り口に向かって歩き出した


 魔界って言われて身構えたけど、アリス先生はためらいもなく出入り口の扉を開いた


 夕日が差し込み、目を細める




 初めての魔界の光景だ。
 どんな木ががあって、どんな空気で、どんな景色なのだろうかと若干胸を弾ませつつ、その光景を焼き付けようと、アリス先生に続いて魔界への一歩を踏み出した!




「嗚呼、太陽よ! お前はなぜわたしを焼くのか! わたしはこんなにもお前を愛しているというのに! わたしに何か恨みでもあるのか!」




「「「 !!? 」」」




「くぅ、こんな時に右眼の封印がっ! ぐああああああ!!?」




「「「 !!?!? 」」」




 途端に目にしたのは、右の眼に眼帯をして、左目の下にはコウモリのタトゥーの入った、黄金色の瞳の少女が、眼帯を押さえながら太陽に向かっておかしなことを叫んでいた。




「ッフ、抑え込めたか。まったく世話の焼ける子猫ちゃんを預かったもんだぜ」


 そんなことを言いながら右目の眼帯を撫でる少女。年のころは5歳くらい。


「ん? ああ、この眼か? 邪気眼を持たぬものにはわからんのだろうな」


 あどけない顔の女の子がニヒルに口元をゆがめる。


「闇の炎に抱かれて消えろ!」


 そんな幼女といっても過言ではない女の子が、決めポーズをしながら太陽に向かって様々なポーズをとり続けていた!


「ッフ、貴様もなかなかやるな。名を聞いといてやろう」




 しかも、夕陽に向かって独り相撲である!


「私か? ふん、我が名は『ユーコ・インフィニティドライブコードグラマラスボインボイン』だ。覚えておくがいい」


 あいたたたた!


 フレーバーな香りの漂うポーズをしながら太陽に向かって叫ぶ!
 しかも流し読みしそうなほど長い名前の癖して後半は願望が混じっている!
 そしてきっともう二度と同じ名前は唱えられない!!




(リオ殿リオ殿っ!)
(ん? コラッ! はしたないよ!)


 ちょんちょんとミミロが僕の肩を突いた。と何事かとそちらを向けば、ミミロは己の胸を強調するように持ち上げていた
 ミミロは将来ボインボインだろうけど、今はおとなしくしておきなさい。


「悠久の時を経て、わたしは再び貴様の前に会いまみえることになるだろう。忘れるなよ、太陽。わたしのこれは敗北ではない。未来の決闘へ向けた“誓い”だ。」


 ミミロがそんなアホなことをしていても、バサッとマントを翻した幼女の独り相撲は続く!


 しかも太陽に敗北して何の宣言かもわからない、というか、もはや何を言っているのかもわからないことを眼帯のついた右眼を左手の指を親指、人差し指、中指の三本でを撫でながらおっしゃっている!!!
 この子はあれだ!! 邪気眼系の中二病だ!!


「ふぅ、邪気眼系の中二病ってのもつかれるねー。わたしのすっからかんの国語力じゃどーにも格好いい中二病のセリフは出てこないなー」




 しかも飽きた―――!!
 なんだったの今までの恥ずかしいポーズの数々!!
 いい汗かいたと額をぬぐいながら自らの国語力のなさを嘆く幼女!!




 もしかして、もしかしてなんだけど、この子がアリス先生の言っていた吸血鬼の女の子?


 アリス先生は『ユーちゃん』なんて呼んでいたし、本人も『ユーコ・うんたらかんたらボインボイン』と名乗っていたしね。




「せめてもっと語学が堪能だったら―――む、何奴!?」


 のほほんと自分の世界に浸っている幼女が、いきなりバッとこちらを向いた!




「わっ!」
「おおう!」
「ひうっ!」


「―――なーんて『俺の後ろにいるのは誰だ』ごっこをしてみるテスト~♪ って、んえ?」




 幼女の方は完全にこちらを意識していなかったようで、驚いて硬直している僕たちと、バッチリと目が合った


 首を勢いよく回した影響か、薔薇の刺繍された眼帯がそもそも自分の頭に合っていなかったのか、ズルッとずれ落ちて己の首にネックレスのようにぶら下がる
 そこには当然、まんまると見開かれた、光を映す健全な黄金色の瞳が。


 幼女の肌の色はやや血色が悪いが、気にならない程度。ポカンと開けた口元からのぞかせるのは、白い八重歯。いや、鋭い牙といった方がいいだろうか。吸血鬼というのは本当らしい


「………」
「「「 ……… 」」」


 僕たちと幼女の間に、冷たい風が吹いた。




 その幼女は、夕陽に照らされていてもわかるほどに顔を真っ赤に染め上げると


「んにゃああああああ!! 見られたああああああ!!!」




 ぷにぷにした小さいおててをバッと顔に当てて天を仰ぐ幼女の羞恥に悶える大絶叫が、魔界の片隅で響いたとさ。








☆優子Side ☆




 これは恥ずかしい! すごく恥ずかしい!!


 アリスにはあまり外には出歩かないように言いつけられていたけど、どうしても狭い室内では鬱憤が溜まってしまう!
 暇つぶしの本をアリスが買ってくれることもあるけれど、1日もあれば読み切ってしまうし、お夕飯まではどうしても暇になってしまうのだ


 だからわたしはストレス発散のために、ちょっと納屋から出て太陽に向かって吠えていた。


 そんな時だ


 なんと、そんなわたしの奇行をアリスと、アリスが世話している孤児院の子供だろうか。その子たちに見られてしまったのだーっ!


 もうやだー! 死にたいー! 恥ずかしー!! どうしよー!!




 中学生のころから動物にヘンテコな名前を付ける友達が居たけど、その子にしか自分の中二病的な趣味を明かしたことはなかったのにー!


 誰もいないと思って油断したーっ!!


 交通事故で死んでから、生まれ変わったと思ったら吸血鬼。


 これはたまりにたまった鬱憤を中二病としてではなくガチ吸血鬼として発散できると思っていたのに、吸血鬼だとしても、この状況を見られればただの頭のおかしな子でしかないということは客観的に想像できるよー!!




 うああああああ!!


 うあああああああああああああああああ!!


 どわあああああああああああああああああああああああああああ!!!






 羞恥に悶えながら、顔を押さえた指の隙間からチラと闖入者の方を見てみると




 まずは命の恩人であるアリス。彼女のことはひとまず置いておこう。


 そして、頭にバンダナを巻いている7歳くらいの少年。わたしよりもすこし年上かなー?
 顔立ちは整っている。将来はイケメンになるに違いないねー。
 とはいえ、わたしにはショタコンの趣味はないよー。


 ストライク圏外である!


 そして、その男の子の陰に隠れて、オレンジ色の髪をお団子シニヨンにしているエルフっぽい少女。褐色だからダークエルフなのかな?
 怪我かな? 右眼のあたりに怪我の痕があるみたいで前髪を伸ばしているようだ。


 とてもかわいらしい。食べちゃいたいくらいだねー。


 でもわたしには百合の趣味はないよー。


 ストライク圏外である!




 そして、最後は14歳くらいの少女かなー? 濃い紫色の髪の毛で、ピョンと飛び出たアホ毛がチャームポイント。少々の鱗と耳の形から竜人族だと推測できる。
 おっぱいはおーきめ。これは将来が楽しみだよー。


 物腰は柔らかく、おっとりとした服装をしているが、体つきはがっしりしている。おそらくは冒険者とかいう素敵職業に違いない。


 どストライクである!!


 ぜひとも姐さんと呼んで尻尾ふって後ろをついて回りたいねー!




 そんなわたしの黙考と、周囲の沈黙を破ったのは、アリスだった。




「ユーちゃん、日光に当たってはだめでしょう? また火傷になっちゃいますよ」


 わたしの痴態は無視して、とりあえずお外に出ていたことを叱責されてしまった


 わたしは吸血鬼。
 太陽光線はお肌にビリビリきて天敵なんだよねー


 そのぶん、月明かりは身に染みるよー。満月の日なんかは毛深くなったりするよ。ライカンスロープ系の吸血鬼なのかなー?


 といっても、吸血鬼になってからまだ5年。しっかりと自分の思う通りに体を動かせるようになって1年。自分の生態について、よくわからないねー




「ご、ごめんね、アリス」
「私に謝られても困りますよ。自分の身体なんですから」


 ぷりぷりと怒って見せるこのエルフ。
 目の下にはクマがあり、幸が薄そー。


 それでも、彼女の愛は本物だよー。いつだってわたしを守ってくれる。
 でも、叱るときは説教がながいのよねー。


「ゴホン。そっちの人たちはー?」


 だからわたしは、話を逸らすために、視線を彼女たちに向けながら紹介を促すと


「あ、すみません。こちらの方たちはある事情を持った子たちでして、ぜひユーちゃんにも会ってもらいたいと思っていた子なんですよ」
「それは珍しいねー」




 アリスが連れてくるとなると、人間界の方で特殊な事情を持った子供ということだねー。


 さすがに、人間から生まれた吸血鬼であるわたしほどおかしなことはないだろう。
 アリスは先祖返りと言っていたけど、こんなことがそうそうあるわけがない。


 人間から魔族が産まれたのだ。ま、わたしは心は人間のつもりなんだけどねー


 アリスが促して、先頭に立っていたバンダナの少年がバンダナをはぎ取りながら自己紹介をしようとする。


 おお、黒髪だ! この世界に来てから初めて見たけど、黒髪の人も居るんだ!
 ちょっと安心した。


 とはいえ、相手がいかなる事情を持っていても、さすがにわたしほどおかしい子はこの世にはいないよねー。
 だってわたし前世の記憶を持った吸血鬼だよー?


 うふふ、なんかわたしだけ特別って感じがして中二病としては素敵。


「初めまして。僕はリオル。魔王の子だよ」
「と思ったらわたしよりもおかしな子来た―――!!」


 王子様! 王子様だー!!


 魔王様のご子息!!


 なんでアリスが連れてきてるのー!?


 わたしが大興奮でリオルを凝視していると、リオルの方は目を丸くしてわたしを見つめた


「魔界の子だったら平気かなって思ったけど、本当にここじゃ、この髪は何ともないんだね」
「え? どういうことー?」
「人間界じゃ黒髪は邪悪の象徴だし、僕は魔王の子だ。幼いころはずっと虐げられていたんだよ」
「ふうん」


 キュッとバンダナを頭に締めなおす。
 そのバンダナは髪を隠す為の物だったんだ。




「アリス先生、ちょっとこの子と二人だけで話してもいいかな」


 リオルがバンダナを締めると、アリスを見上げながらそう切り出した


「………はい。わかりました。できるだけ木陰で話してくださいね。」
「わかりました。ファンちゃん、ミミロ。ちょっと待っててね」
「………ええ」
「了解であります」


 あら、紫色の子がリーダーじゃないんだ。
 不思議ね。


 リオルはアリスたちと少し離れた場所までわたしを連れて歩いた。
 とはいえ、アリスの眼からは外れない程度、話を聞かれないくらいの距離だ。


 リオルが木陰に腰を下ろすと、リオルが手をこまねいて自分の隣に座るように促す


 その際にバンダナに目が行く。うーん、漆黒の髪は隠すのがもったいないんだよねー。


「黒髪ねー、わたしは素敵だと思うけどなー。むしろわたしは黒髪がよかったよー。魔王ごっこできるよー」
「実際に虐げられていると、この髪が憎くて憎くてしかたなくなるんだよ」


 あ、と声を漏らして気づく。
 わたしがなんとなくつぶやいた一言は、彼のトラウマを刺激して踏みにじる、不謹慎も極まる言葉だと気付いた


「ごめんねー。そんなつもりじゃなかったのー」
「わかってる。これは僕の心の問題だからね。それにしても、5歳とは思えないほどの中二病だね。普通の子供とは考えられないくらいだ。まるで年齢と精神がかみ合っていない」


 そういって、リオルはニコリと笑う。


 うーん。そんなリオルも7歳くらいとは思えないくらいしっかりしているなー。
 魔王の子だから、とはさすがにいえないよね。
 でも、リオルのセリフからは魔王が背景に見えない。魔王とは関係がないのかなー。


「それはリオルもじゃないかなー。『中二病』なんて言葉を知っているくらいだし、わたしの行動も見られてて気づいているだろうけどー。わたしは『安藤優子』。おそらくあなたと同じ、転生者だよー。先祖返りで吸血鬼をやってるのー。名前を付けられる前に捨てられちゃったから、ユーコって呼んでほしいなー。」
「なるほどね………。ここにも古代種が居たのか………。僕はリオル。あっちのオレンジ色の髪の子はハイダークエルフのファンちゃん、。で、そっちにいる紫紺の髪の毛の子がミミロ。紫紺竜で、僕らは3人ともおそらく前世の知識がある」


 リオルの発言に目を剥く。


 三人とも、前世の記憶もちー!?


 そんなグループがいるのー!?
 じゃあわたしだけが特別じゃないんだ!


 この世界なら、よくあることなんだろうかー………。ちょっとショックだなー


 でも、そしたら全員地球からの転生者?
 地球で死んだらここに来るのかな?


「古代種であるファンちゃんはハイエルフに伝わる太古の唄をなぜか知っているし、ミミロは紫竜から生まれ変わって、記憶を持ったまま紫紺竜になったんだよ」


 ふーむ、つまり、同じ世界からの転生もありうるってことかなー?


「そして僕は、お察しの通り、日本から来た。当時はいじめられっ子で、13歳の時にクラスメイトに教室から投げ捨てられて、頭が割れて死んだよ」


 首をすくめてリオルは自分の過去を語ってくれた。
 すごい環境だったんだねー。
 いじめられて死んだと思ったら、生まれ変わっても黒髪のせいで赤子の頃から迫害されていたんだ。


 わたしだったら、心が折れてるなー。


「それは壮絶な人生だったねー。わたしは大学生の時に、運転してたら交通事故に巻き込まれちゃった。死んだときのことは覚えてないけど、すごい衝撃だったってことは覚えているよー。一緒の車に乗ってた和泉ちゃん、生きてるかなー?」


 わたしが死んだときは、苦しくなかった。
 横からトラックが来たと思ったら、赤ん坊になっていたのだから。


 もし一緒に死んじゃってたら、和泉もこの世界に来てたりするのかな。


「イズミさん? それが前世での友達の名前?」
「そそ。ヘンテコな名前を付けるのが趣味で、ディ○ニーとかリ○ックマとか、そういう小物が大好きな子なんだけどー。もしかして、会ったことあるー?」


 そんなわけないか、と思って軽い気持ちで聞いてみたら、リオルは難しい顔でコクリと頷いた




「ある」
「うそっ!」


 思わず目を剥いた。


「イズミさんは、竜に転生してる。イズミさんも、日本からの転生者をずっと探し続けていたよ。あわよくば、交通事故で死んだ友達がこの世界で見つかるように。キミのことだったんだ」


「あー、会いたいなぁ………」
「今はちょっと僕の周りでゴタゴタしてるから合わせることはできないけど、それが片付いたら、連れてってあげるよ」
「本当? うれしいなー。わたしは吸血鬼だからあんまり外を出歩けないんだけど、できれば夜におねがいねー」


 お昼は基本的に寝て過ごすんだよー。
 夏場は寝苦しくてかなわないし、冬は活動するときに寒くて寒くて辛いよー。
 吸血鬼なんてかっこいいと思ってた時期がわたしにもあったけど、日の光を浴びると眠くなって弱体化するのはなんともねー。


 それでも、いつの日か和泉に会いたい。わたしだけじゃないと分かっただけで、ずっと一人でいたわたしの寂しさはなくなった。


「うん。あ、でも吸血鬼ってことは血を吸わないと生きていけないの?」
「そだよー。いつもアリスが鶏とか豚とかを持ってきてわたしに血抜きをおねがいするのー。最初は血なんか見たくなかったんだけどー、いつのまにか慣れちゃってねー。もう血ソムリエだよー」


 わたしはそういいながら、牙をリオルに見せてみる。


「そ、そうなんだ」
「そうなのだー」


 へへーと笑いながら復唱する。
 しかし吸血鬼は人の血を吸うイメージが強いのか、リオルは不安そうに聞いてきた


「じゃあ、僕の血を吸いたくなっちゃったりするの?」
「おなかがすいたらそーいうこともあるかもねー。あ、でもねー。人間を吸っちゃうと傷口からわたしの牙の毒が出て、わたしの眷属にしちゃうみたいなのー。すごくおいしいけどー、人間は吸わないよー」


 なんか魅了の能力がある唾液、らしいよー。
 アリスが言ってた


「魔王様なら大丈夫かもねー。リオルを吸ってもいいー?」
「まぁ、毒耐性あるから、吸われても問題ないけど、一応やめてね。どうしてもおなかすいたときにして」
「わかったー」


 中学生とはいえ日本の人と、それに和泉がこの世界に居ることが聞けてわたしは上機嫌だ。
 パタパタと足をばたつかせてリオルと話した。


 たのしい。アリス以外の人間と話すのは楽しい。
 施設の子と話したこともあるけど、幼すぎて会話が成り立たないことの方が多いし、大きな子は、わたしが異常だと気付いてしまう。


 それに、魔族であるらしいわたしには人間界は生きづらいってアリスが言ってた。


 魔族との混血であるアリスが言うんだもん。そうなんだろうね


「そろそろ向こうに戻ろう。僕も、本当はここに長居するつもりじゃないんだ。ほんの確認のつもりだったんだ。そしたら転生者に会えるなんて思わなかったけど、親はいないけど、向こうには心配してくれる人はいるからね」
「うん、次会える日を楽しみにしてるねー」




 もう終わりかと思うととたんに寂しくなる。
 とはいえ、彼も彼の生活があるし、そこにいきなりわたしというイレギュラーが混ざれるとも思えない。


 日本人のよしみとして仲良くはしたい。


 よっこらしょと立ち上がったリオルが妙におじさん臭くて笑ってしまう。


「リオル、おじさんみたいだねー」
「あー………前世では右腕はギプスで左腕は感覚無くて、足は変な風に固まっちゃってたからね………久しぶりに日本人と話したからかな。昔を思い出しちゃった………。昔は立ち上がるのも一苦労だったから」


 明るかったリオルの表情が一気に暗くなる。
 どうやらまた地雷を踏んだようだ。


 わたしのバカバカー!


 心の中で自分をボクシングでボコボコにしていると、リオルはすぐに表情を戻す


「ま、今は元気だからべつにいいんだけどね。昔のことは忘れたいけど、なかなかできないのは困ったもんだよ。はい、掴まって」


 差し伸べられた手を掴んでわたしも立ち上がる。
 あら、紳士的。女の子がいっぱいいるみたいだし、むこうのエルフちゃんも心配そうにリオルを見ていることから、好意を向けられていることはわかる。


 自然とこういうことをやっちゃう子なのかな? もうさっきのことも引きづっているようにも見えない。
 過去にとらわれているけど、切り替えは早いのかな。


 じゃないと、トラウマを刺激した女の子に手なんか差し伸べられないよねー。


 なるほど、この子は転生してハーレムを作るタイプの男の子だなー?
 ラノベか! と突っ込んでやりたいけれど、わたしだって転生主人公として逆ハーをねらっちゃうよー。
 ま、前世でも恋人はいなかったけどね。


「アリス先生、ありがとう。僕らを信用してくれて」
「いえ、こちらも大事な秘密を教えていただきまして、大変申し訳ありません」


 わたしをつれて、リオルはアリスの元へと戻った。
 やっぱりアリスは腰が低い。
 この会話から、おそらくリオルは自分が魔王の子であることを打ち明け、アリスの方はわたしという魔族に会わせることで信用を得ようとしている。


 互いの信用を得ることが目的の訪問だったようだ。


 なーんか、わたしだけ蚊帳の外。


「頭を上げてくださいアリス殿。そろそろ向こうに戻りましょう。ラピス殿やルー殿、それにキラやマイケルも孤児院で待ってるかもしれないであります」


 ミミロの姐さんがアリスの頭を上げさせて人間界に戻ろうという。
 もう会えないのかー。仕方ないんだけど、残念だねー


「わかりました。ユーちゃん、先生はもう行きますね。あんまり夕陽にあたりすぎないようにしてください」
「うん、わかったー。リオル―、ファンちゃん、ミミロの姐さんもー、また来てねー」




 笑みを浮かべて手を振ると、人見知りのエルフのこがぎこちない笑みを浮かべながら手を振り返してくれた。


 うむうむ。かわいらしい。


 小屋の中に入っていったアリスたちを見送り、すっかりと日も暮れてしまったため、半分も見えない夕陽と向かい合う


 また一人で中二病ごっこでもして時間をつぶして遊ぶとするかなー。


 んふふー、仲間が増えると心強くなるねー。









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