受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第109話 ☆喫茶店会議

 さて、ルスカとファンちゃんも校門前に来てくれた。


 フィアル先生は今日の出来事の始末書の作成をしないといけないらしく、泣き言を言いながら残業をしているよ。


 僕たちがシゲ爺のお屋敷に帰るにはフィアル先生のゲートをくぐって転移する必要がある。


 だからフィアル先生の残業が終わるまではどこかで待っておかないといけないのだ。


 フィアル先生には少し学校から離れる旨を念話で伝えて置き、3竜とファンちゃんラピス君ルスカと僕の6人が一緒に行動するので、何かに巻き込まれる心配は無し。
 フィアル先生もリオルやミミロちゃんが引率をしているなら安心だと、だから始末書が書き終わるまで待っててねとの言葉をいただいたので、そのお言葉に甘えて


「みんな、ちょっと難しい話があるんだ。ミミロ、フィアル先生の残業が終わるまで話せるような、どこか落ち着けるところは近くに無いかな」


 時間をつぶせるような場所でフィアル先生を待とうと思う。
 そんな場所はないか、自由時間も多いミミロに確認をとれば、思い当たる場所があったらしい。




「それでしたら、向こうに喫茶スペースがありましたよ。紅茶と甘味のお店でした。わちきはそこに行ってみたいであります!」






「いいね!そこで飲んで食って騒ぎたいよ!」


「ラピス殿は未成年ではありませんか」


「それを言うならミミロちゃんだって同じじゃん」


「わちきは見た目が15歳くらいだから鯖読めば大丈夫ですよう」


「うわっ、ずっる!」




 ああもう、このボケ担当同士を組ませたのは誰だ。
 暗そうな雰囲気を盛り上げようとしてくれるのはありがたいけどさ、収集つくのそれ


 というか、この国の成人は18歳からだから、ミミロは子供にしか見られないっての!


「飲んで食って騒ぐのはまた今度。今回はちょっと真面目な話だからそういうのはなしでいこう」
「わかりました。では、こちらであります。」


 ミミロに先導してもらい、一同は歩き出す。
 先導するミミロ、そして、殿にはキラケルを配置して、万が一にも僕らみたいな子供の姿をした子たちを守れるようにしてもらっている。


 年下に守られるのは困ったもんだけど、竜たちと僕たちでは体格が違いすぎるしね。


「リオ、まじめな話ってどーしたの?」


 歩きながらも自然と僕の手に指を絡ませて手をつなぐルスカ。
 真面目な話というのがどういう話なのか理解できないルスカは、詳細を聞こうと僕の顔をじっと見つめる。


「これはルーにも関係する話なんだけど………ルーはさ、弟が居たらどう思う?」
「弟? リオにとっての、ルーみたいなの?」
「うん。そんな感じ」


 僕の質問に対し、左手を唇に当ててうーんとうなる。




「わかんない」
「そっか………」
「でも、リオがずっとその子ばかりを見てたら、嫌なの」


 ルスカはわからないなりに考え、自分の弟としてではなく、僕とルスカの弟として考えて、僕が弟ばかりをかまっていたら嫌だという。
 ルスカはお兄ちゃん大好きっ子だから、弟にも嫉妬してしまうのだろう。


「でも、守ってあげないとって思うの」
「………へえ」
「だって、いつもリオはルーのことを守ってくれるでしょ? だから、ルーに弟が居ても、妹が居ても、守ってあげたいなって思うの」


 ルスカの中では弟も妹もいない。
 だけど、もしいたとしたら、自分がしてもらっていることを、してあげたい。
 そう思っているんだ。


「じゃあ、ルスカ。」
「にゅ?」


 僕はギュッとルスカの手を握り、ルスカに視線を合わせる。


「顔も見たことのない、僕らの弟がピンチだと知ったら、ルスカはその子を助けるの?」
「………。弟なのに、顔も見たことないの?」
「見たことはあるかもしれないけど、その頃はルスカがその子が弟だとは思っていなかったってこと。」


 僕の手をぎゅっと握り返して考え込む。


「むつかしいの。顔も見たことない弟を、弟と思えないなら、それはルーにとっては知らない人なの。大事に思えないの」


 ルスカは優しい子だ。
 優しい子だけど、物事に優先順位をつけられる子だ。




 大事なものを分かっているけれど、すべてを救えると思えるほど聖人君子じゃない。
 時には人を傷つけるし、人を見捨てることも厭わない。


 すでに、人を殺害することに忌避感もない子なのだから。
 知らない子がピンチだといわれても、その子が実は弟だといわれても。
 ピンと来ないのだ。


「そっか………」
「もしかして、大事な話っていうのは、リオとルーの弟の話なの?」
「………そうだよ。ルスカは覚えていないかもしれないけど、ラピス君と初めて出会った日………」
「リオがルーの代わりに盗賊さんに連れていかれたときなの」


 ルスカもその時のことは覚えているようだ。あの時は4歳だったのに。
 あの時は、ルスカを突き飛ばして、盗賊にさらわれて、リールゥが誘拐されて………ローラを助けてと大変な一日だった。
 捕まっていた人たちに、魔王の子である僕が助けるって言っても信じてもらえなかったことも共に思い出す。やなこと思い出した。


「そう。その時に、一緒に連れ去られていた小さな1歳くらいの男の子がいたんだけど………その子が、僕たちの弟なんだ。」
「おとうと………」




 やはりそこまでは覚えていないのか、ピンと来ないようで首をひねっていた。


「ルーとその子のお母さんが一緒?」
「そうなるね」


 兄弟というのは、親が同じ人のところで生まれた子供。そのはずだが………
 ルスカの認識は違ったようだ。


「お母さんはゼニス?」




 ルスカにとっての母親とは、“自分を育ててくれた恩人”なのだから。


 だからこそ、そんなことを聞いてしまったようだ。


「違うよ。お母さんは、“ローラ”っていう金髪のお姉さん。フィアル先生と同じ年の女の人だよ。ファンタの町に居たときに、ルスカを抱きしめた女の人がいたでしょ。あの人だよ」


「うーん? でもお母さんっていうのは、子供のお世話をしてくれる人なの。ルーはゼニスとフィアルとイズミせんせしか知らないの」




 やはり、ルスカには難しかったか。説明をして、それでもローラが母親だと理解できないのだから。
 きっと弟のことも同じ結果だ。




「着きましたよ! さあ入りましょう!」




 ルスカが考え込んでいるうちに、喫茶店についてしまったらしい。


 いらっしゃいませと制服に身を包んだ店員さんが笑顔を向ける。が、その笑顔は一瞬で凍ることとなる。


 店員さんは頭にバンダナを巻いた僕たちを見て首をひねり、白黒の髪のキラケルを見ては驚きの顔を見せ、ファンちゃんのやけどの跡を見てから眉を顰め、ラピス君のウサ耳を見てから嫌悪感を丸出しにした。


「申し訳ありませんお客様。当店は獣人の立ち入りを禁止しておりま―――」
「―――“幻覚眼ファンタズム”」


「………あ、あれ? さっきまで………ゴホン。失礼しました。いらっしゃいませ………7名様ですね?」


 チカッと僕の隣にいるラピス君の瞳が朱く輝いたかと思えば、店員さんは目をシパシパと瞬かせる。
 名称から察するに、ラピス君は店員さんに幻の魔眼をかけて獣人の耳が隠れて見えるようにしたようだ


 自分自身、ヒトから逸脱している分、露骨な人種差別を見ると自分のことのように感じていい気分はしない。
 学校の中では安定してきたとはいえ、ウサ耳を見せびらかして大っぴらに動き回らないほうがいいだろう。
 ラピス君は寮生活なんだし、人目に付くことは少ないはずだ。


「はい! 向こうの席がいいであります!」


 ミミロが団体7人で窓際の席を所望し、そこに案内する店員さん。


 よっこらしょと椅子に腰かけてオレンジジュースとパンケーキを注文する。
 ちなみに銀貨2枚(2,000W)だった。クソ高い。そういや、ここ貴族街に最も近い場所だった…………客層が貴族に偏っているんだ。


 ジュースはすぐに来た。それを受け取ってまずは一口。うーん、薄味。




「それで、リオル。話って何なの?」


 コトリとオレンジジュースをテーブルに置いて僕に目を合わせる。
 隣にはファンちゃんが最も仲のいいルスカがいるから、ルスカを挟んで向き合う形となる。
 テーブルの正面には竜たち。反対側には子供たちという構図だ。」
「今回、王都の外に出て行ったときに孤児院の裏を通ったよね」
「ええ」
「その孤児院の裏の柵を越えたところで、このペンダントを見つけたんだ」


 テーブルに水色の水魔晶石を置く。


「これは………?」
「これは水魔晶石。水属性の魔法を一度だけ込めることができる魔石だよ。ラピス君が見つけてくれたんだ」
「………ふぅん? その中に、何か魔法が込められているの?」


 そんなものを見せられても、何が言いたいのかが分からずに首をひねるファンちゃん


「そう。この石には、ルスカの魔力が込められているんだ」
「んん? それはおかしくないかしら。さっき見つけたペンダントなんでしょう? ルーが魔力を込めたところなんて見てないわ。実際にさっきまでルーあたしは教室でおしゃべりしていたのよ?」


「その通り。ここ最近ルスカが魔力を込めたものじゃない。ルスカはこの魔石に見覚えある?」
「んーん。覚えてないの。本当にルーがやったの?」


 聞いてみても、ルスカは首を振った。さもありなん
 そりゃそうだよ。印象に残る一日だったとしても、そんな細かいところまで覚えているわけがない。


「これは、ファンタの町から出ていくときに、ルスカの魔力を使った水魔晶石を、お別れの選別に僕とルスカの母親に持たせたものなんだ」


 僕が手短に説明すると、ファンちゃんは目を見張った


「リオル、お母さんがいたのね………」
「うん………ローラって言って僕たちとは違って普通の人間なんだけど、赤子の僕に暴力をふるっていたからあまり好きではなかったんだよね。それでも、おなかを痛めて僕とルーを産んでくれた僕たちの母親だ。ローラがいなかったら僕はルーと出会えなかったし、僕たちはこの世に存在していない。ファンちゃんたちとも仲良くなることができなかったんだ。だから一応感謝しているよ」


「そう………リオルはすごいわね………嫌いな相手にもちゃんと感謝や敬意を示すことができて………」
「僕のはそんな美しいものじゃないよ。ただのわがままで“繋がり”に飢えているだけの子供だよ。このペンダントも………きっと繋がりを残しておきたくて渡したものなんだから。」


 テーブルの上に置いたペンダントを見つめる。


「でも、それじゃあなんでそんなものが王都に? さっきファンタの町って言っていたけれど、この王都から離れているわよね? たしか馬車でひと月くらいの場所………」


 ファンちゃんはシゲ爺の………“伯爵の養女”として育てられた女の子だ。
 この辺の国の地理については誰よりも詳しい。


 とはいえ、今いる場所はリリン王国の王都。
 シゲ爺がいる場所はクロッサ王国の伯爵領とファンちゃんの実家のほうが遠いんだけどね。


「つまり、それが問題なのです! なぜ母親に持たせていたペンダントが、孤児院の裏なんかに、ひいては柵の外なんかにあったのか! サスペンスのにおいがするのです!」
「うん、僕もそれを言いたかったんだけど、キラに言われると釈然としないね」
「理不尽なのですー!」


 話に割り込んできてドヤ顔を向けるキラ。そんな彼女に突っ込みを入れつつ話を続ける。
 みんなにも聞いてほしいから、むしろキラが聞いてくれて助かったかも。


「ラピス君が言うには、1年くらい前にローラはリリン王国の騎士に連れていかれたみたいなんだ。それがどこなのかはわからない。でも、現に例の孤児院で僕の弟であるリールゥを見つけたし、ペンダントを見つけた。このペンダントに込められている魔法は“盾”の魔法だし、おそらくはローラがリールゥを守るためにリールゥに預けたんだと思う」


「そこまで推理できているのでしたら、さっさとローラ殿を探してリールゥを保護しないとなりませんね。そのあたりはどうなさいますか? リオ殿」


 腕を組んで冷静に僕の話を聞いてくれていたミミロも、リールゥを助けることには悪くない感じなのかな。




「それについては、一応当てはあるんだけど………それよりも気になることが………」
「にゅ?」


 チラリと隣を向けば、かわいい妹の顔が首をかしげていた。


「ルスカ。手伝ってくれる? ルスカにとっては見ず知らずの他人を助けるために。」
「リオがしたいことはルーのしたいことなの! ルーは全然覚えてないけど、リオは間違ったことは言わないの。リオとルーの弟………リールゥをたすけるの!」


 ぎゅっと僕の手を握る力を強めるルスカ。
 ありがとう………ちゃんと弟のことを理解したうえで手伝ってくれて。


「お待たせしました、ご注文のパンケーキです」


 と、そこで注文していたパンケーキが先に三人分ほどやってたのでいったん話を中断してパンケーキをフォークで突っつく。




「でもさ………にーちゃん。助けるって言ったって、孤児院の子供をどうやって助けるんだ?さっきだって見つけた瞬間に、にーちゃんなら一瞬でリールゥを連れ去るくらいはできたはずだけどそうしなかったみたいだし………」


 フォークでパンケーキを突っつきながらマイケルがそんなことを言う。


 たしかにそうなんだけどさ




「マイケル。今のマイケルは竜人族だけどさ、僕は違う。僕は魔王の子なんだ。そんなことをしたら確実に目立ってしまうし、僕は実の弟に嫌われたくない。」
「つってもさあ、おれもにーちゃんの弟だし、いまさらにーちゃんが魔王の子だなんだって言われてもよくわかんないしそんなことで嫌いになんてならないぞ? ちょっと臆病になりすぎじゃないか?」




 そりゃあ、長い間一緒にいたから実の弟よりは確実に大事なぼくの弟だ。
 僕のことを嫌いになられたらきっと泣く。


「それは………ちょっとわちきがリオ殿を脅したからであります。すぐにでも助けに行きたそうにしていましたから、冷静にさせる必要があったもので………リオ殿、すみません。助けられたリールゥ殿も、魔王の子であるリオ殿に恩義を感じて、きっと嫌いになったりはしませんよ。」


 ちょっと臆病になりすぎていたか。マイケルに指摘されるとは………。
 でも、ミミロに言われて少しだけ気にしすぎていたことは否定できない。
 最初は冷静じゃなかったし、今もすこし頭に血が上っているのかもしれないな。


「いいよ。まぁ、そういう相談をするためにみんなを集めたんだからね。それじゃあ、リールゥのいる孤児院の情報から集めたいと思うんだけど………ラピス君、君の魔眼頼りになって申し訳ないんだけど………リールゥの周囲の情報を洗ってもらってもいいかな」


「もちろん! ボクがリオル君の頼みを断るわけないじゃん! ボクにできることならじゃんじゃん言って!」
「頼りにしてるよ」






 みんな、見たこともない僕の弟のために、いや………これは困っている僕のためになのかな。役に立とうとしてくれる。


 ラピス君も、負担が大きいというのに、口元をω←こんなふうにしてどんと胸をたたき、桃色のウサ耳ピンと伸ばしていた


「キラはリールゥのことは覚えているのです! 泣き虫の男の子なのですー!」
「あの時はキラも泣いていたでしょ」
「それは忘れておいてほしいのです!」


 頬を朱色に染めてぶんぶんと手を振っても、あの頃のキラも十分泣き虫だったんだぞ。


「匂いも覚えているのです!」
「それはすごいな」
「んふふん♪」


 ほめてみれば、すぐにコレだ。守りたい、そのドヤ顔。




「お待たせいたしました、こちら、パンケーキになります。ご注意は以上でよろしいでしょうか」


「はーい」


 さて、パンケーキも店員さんがのこりの持ってきてくれた。


「いただきますっと」


 切り分けて一口。パクリ。甘っ!
 貴族街が近くだし、貴族が来ることもあるのだろう。
 王都の貴族はお砂糖をふんだんに使って(これをふんだんというかはおいておいて)いるようだ。
 甘さが強い。おいしいけれど、もう少し抑えておいてほしかったな。後でお好みではちみつを掛けられるようにしたらもっと良かっただろう。
 まぁ、はちみつも高価だけどね。






「とりあえず、リールゥって子を助けるのはわかったわ。でも、どうやって助け出すの? 目立たない方法となると、誘拐?」


 お行儀よく切り分けて、誰よりもきれいで優雅に食べていたファンちゃんがパンケーキを満足そうに嚥下してほっと一息つき、口元をナプキンで拭ってから問う。


「それはだめだ。非人道的な孤児院であっても、一応孤児院の体裁を保っているんだからリールゥの戸籍はそこにある。誘拐しちゃってもいいかもしれないけれど、リールゥの身分を証明するものが何もなくなるのはまずいと思うんだ。冒険者をさせるわけにもいかないし、あの年齢で商業ギルドの登録をできるとも思えないからね。年会費も払えない。だから無理だ。」


 冒険者ギルドも商業ギルドも、冒険者証ライセンスを更新するときにお金がかかる。商業ギルドの場合は後ろ盾の問題もあるから年会費が必要になったりする。そんなお金を払うことは、僕たちならいざ知れず、リールゥにしてやれるわけがない。


 そこまで甘やかすつもりもない。


 僕が首を横に振れば、ルスカが口を開く。


「じゃあ、どうやってリールゥを連れ出すの? 連れ出した後、リールゥをどうするのかもわからないの」


「それについては当てがある。正直なところ、賭けだけど、試してみる価値はあると思うんだ」


「ほう? 聞かせてくださいませんか? リオ殿の作戦とやらを」




 テーブルの上で手を組んでこちらを向くミミロ。こら、口元にお砂糖がついてるぞ。格好つけているつもりなんだろうけれど、お砂糖だけつけて格好がついていない。
 くにゃりと紫紺色のアホ毛をしならせながら聞くミミロに、僕は少しだけ口角を上げて、つぶやく。


「相手の弱みに付け込む。」
「ほう、常套手段でありますね。では、どのように?」


 頭のいいミミロのことだ。おそらく予想はついているのだろう。


「孤児院は、基本的に国から給付金や教会の寄付金から経営されているはずなんだ。もちろん、子供を育てるだけじゃなくて、職員も生活が懸かっている。子供が貧しい思いをしないといけないほどだから、正直、孤児院にはお金が足りないことになる」


 ここまで言えば、僕の言いたいことはみんなに伝わったらしい


「ああ、なるほど。つまりにーちゃんは孤児院から“お金でリールゥを買う”つもりなんだな」
「マイケルの言う通り。人道的ではないことも、人を売買する行為ことも、本来は褒められた行為じゃないだろうけど、そんなことはわかっている。正直なところ、僕は人の命は軽いものだと思っているからね。お金で簡単に解決できるのなら、そうしたほうがいいと思うんだ」
「なるほど………たしかにそれならそれほど目立ちはしませんね」




「もしくは………孤児院の外で生きる権利を孤児院長からリールゥ自身が自分でお金を稼いで自分自身を買い取るか。」
「リオ殿、そんなことをしたらリールゥが金ヅルだという認識をされてひどいことになりそうであります。一番やっちゃいけないパターンであります。」
「そうだね、ボクらがリールゥの身元を引き受けたほうがいい。確実だよ」




 追加の案をミミロとラピス君に否定され、代案はなくとも先ほどの案を肯定された。
 まぁ、実際僕もそう思っていた。


「それじゃ、その方向で行こうか」


 金で解決するなら、リールゥを保護するのは簡単だ。
 幸いにして、僕には鉄鉱石竜メタルドラゴン討伐の時のお金がたんまりとあるのだから。


「それで、その後。リールゥをどこで保護するの? さっき、当てはあるって言ってたけど………」


 ファンちゃんが首をかしげながら僕の目を見る。


「一応ね、東大陸に居たころに一人の冒険者に知り合ったんだ。その時にもらったものの中に、この王都にある孤児院の紹介状をもらったんだよ」
「孤児院の紹介状? その人は信用できる人なの?」
「うん、ジャムっていう冒険者なんだけど、僕の頭のバンダナを誤ってはぎ取ってしまったときに、黙って頭にバンダナを巻きなおしてくれたんだ。僕が“魔王の子”であることを知っていて、黙っててくれる、見た目じゃなくて、行動で判断してくれるとってもいい人」


 昔を思い出してしみじみと語ると、ラピス君は僕の眼をじっと見つめる。
 おそらく、過去視の魔眼でその時の映像をラピス君の脳裏に移しているのだと思われる。


 魔眼が何でもありすぎる


「へえ、そんな人が居たんだ」
「うん、僕もジャムのおっさんのことは気に入ってるからね。その人が昔住んでた孤児院は人間だけじゃなく魔族や獣人、その他の亜人も区別なく保護する場所らしいんだ。実は大っぴらに言えない事情を抱えた子供を保護している場所らしくて、その孤児院は地下にあるみたいなんだ。『いざとなったらそこを頼れ』って紹介されたということは、僕がそこに行っても、保護してくれるくらいの場所ってことだし、そこなら、リールゥを入れても問題ないと思うんだ。一応、リールゥは『魔王の子の弟』という人には言えない経歴があるわけだしね」


「なるほど………その孤児院を実際に目で見てみないことにはわかりませんが、ジャムのおじさまがそうおっしゃったのであれば、信用するに足ると思います」


 鉄鉱石竜を討伐する前にミミロやキラケル、ルスカといった面々はジャムおじさんとは面識があるし、僕が黒い髪を見られても黙っていてくれたということは僕が何度か話したことがあるし、ある程度知っている。


 だからこそ、ミミロも信用するに足る根拠を見つけたようだ。
 ミミロはパンケーキを一口で頬張ってはアホ毛をピコピコと動かし、オレンジジュースをぐいっと一気に飲み干すと、トンっとコップをテーブルに置いた。




「それでは、さっそくその孤児院の下見に行きましょうか。フィアル殿の残業が終わるまで時間がかかりますし、へたをしたらアルンやリノンの部活が終わるのと同じくらいの時間になるかもしれません。時間は限られているのですから、動けるうちに動きましょう」


「わかったぞ!」
「そうするのです!」


 いつの間にやらパンケーキを食べ終わって口元にお砂糖をつけているキラケルもうなずいて立ち会がる。


 残念ながら僕は小食なので全部は入らなかった。
 ものほしそうに見ていたキラケルに「食べていいよ」といって半分くらい残ってしまったパンケーキをキラケルに捧げると、ペンダントをポケットに入れなおして立ち上がる。


 ルスカもファンちゃんも、ラピス君も甘いものは好きだったようで、ペロリと平らげてしまったようだ。
 その食欲が僕にはうらやましい。


 こんなんだから、いつまでたっても小さいままなんだよ。


 みんな、お砂糖でべとべとになった顔を服の袖ででごしごしとこすってからお会計を済ませる。


 あ、僕はそれほど食べてないし、ファンちゃんと同じように小さく切り分けて食べたからまったく汚れてないよ。




「ミミロ、道具袋出して」
「これですか? どうそ」




 お会計でミミロが大銀貨1枚と銀貨4枚払ってから、ミミロに声をかける。
 そういや、下町の兵士の一日のお給料が銀貨2枚くらいだったっけ。お菓子って本当に高いんだなぁ。
 気軽に食べられるようなものじゃないよ、これ。


 道具袋に手を突っ込んで中をあさる。


「えっとね………あ、だいぶ物が減ってる?」
「ああ、アルノーやキングアルノーを売りましたからね。時間凍結の魔法陣が刻まれているらしいので、腐る心配はありませんが、中の容量を開けておきたかったので他にもいろいろ魔物の素材などを売り払いました。」
「あ、そうなんだ」


 たしかに、冒険者活動をするにあたって、500kgしか許容重量がないのは心もとないよね。じゃんじゃん売っていいよ。


「リオ殿、何かお探しですか?」
「んー? ほら、さっき言ったジャムおじさんからの手紙を探してる。たしか、なくさないようにこの中に入れておいたから。お、あったあった」


 道具袋から手紙とペンダントを取り出す。
 その孤児院についたらこのペンダントを見せろと言われていた。


 ペンダントには五芒星のようなマークに見たことのない文字や記号が書かれている。違う国の言葉かな?中央大陸と東大陸の言語はわかるから、それ以外だろう。


 裏には番号らしきものが書かれている。おそらく、ジャムおじさんが卒院した時か孤児院に入った時に振り分けられた番号的なものだと思う。


 地下の施設というからどんなものかと思ったけど、案外ちゃんとしてそうだ。


 ジャムおじさんから預かった手紙を開けば、個人の詳しい場所まで書いてある。


「それでは、まいりましょうか。リオ殿、案内をお願いいたしますね」


「うん。」




 喫茶店を出て、僕たちはリールゥ救出に向けて歩き出した。



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