受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第95話 ☆彼の為にボクができること

          ☆ ラピスSIDE ★






 ボクの名前はラピスドット。


 兎人族バニーマンのおかあさんと、顔も見たことのないおとうさんの子なんだ




「クスッ。よかったね、リオル君。お友達ができて」


 そんなボクは今、リオル君を観察していた。
 ここから見るリオル君は、褐色の肌で顔に火傷の痕のあるエルフの女の子と、楽しそうに笑顔で円舞ワルツを踊っていた。




 え? ああ。ボクはリョクリュウ伯爵領にはいないよ。
 ファンタの街に住んでいるんだ。【千里眼】でリオル君を見ていたんだよ。


 リオル君は、僕が4歳の時に盗賊に捕まっていたのを助けてくれた命の恩人。
 リオル君が助けに来てくれることは【予見眼】による“未来視”で判っていたとはいえ、助けてくれたのは事実なんだ。


「会いたいなぁ、リオル君。元気にしているようで安心だけど、またツッコミを入れてくれないかなぁ」


 だから、ボクはリオル君のことが大好きなんだ。
 リオル君と一緒に過ごしたのは1時間くらいだけど、その思いでは僕の中にずっと残っている。
 ルスカちゃんにも会いたいなぁ。キラちゃんは今どのくらい成長しているのだろうか
 あと一人キラちゃんと同じような子が居るって言ってた気がするけど、誰なんだろう。いずれわかるかな。


 そういえば、少し前にリオルくんのお母さんとリオルくんの弟のリールゥがリリン王国の騎士に連れて行かれたけれど、アレはいったいなんだったんだろう。
 あの時はこの街に騎士様がいっぱい入ってきて、リオルくんのお母さんを連れて行ってしまったんだよね。
 リールゥがもう一人の息子だと知った騎士様たちがリールゥも特別な子だと思って連れて行ってしまったんだと思うけど………心配だなぁ。
 でも、ボクが出て行ってどうにかなる問題じゃないんだもんなぁ。


 本来なら、ボクもリョクリュウ伯爵領のあるサザン大森林に集落を構える兎人族の里に行きたかったところなんだけど、旅をするにしても、準備とかお金とかがかかるから、今はお金を集めている最中なんだよね。


 おかあさんがファンタの街に近づく獣を狩ったり、お裁縫で糸を編んだり。
 そうして、少しずつ旅立つためのお金を溜めて旅の準備を整えるんだ


 でもね、おそらくそれは実現しない。


「ラピス。あなたにお客さんみたいよ?」
「クスッ きた♪」
「………? 何か言った?」
「ううん。なにも。誰だったの?」
「なんだか、リリン王国の騎士様みたいだったわ。ラピス、あなたその“眼”を使ってなにかしたの?」
「なにもしてないよ」


 ボクの眼は生まれつき異常を持っていた。
 魔眼という物だ。


 魔眼とは、魔力が異常を起こして眼に宿り、それがさまざまな効果を発揮する、とても不思議なものだ。


 魔眼を持っても、魔力の扱いが出来なければ一生宝の持ち腐れとなる。
 それに、魔眼は使用するたびに激しく魔力を消費する傾向にある。


 必然的に魔力を使って鍛えることになるのだが、自分自身の魔眼を使いこなせないものも多い。
 使いこなせたら、強い武器になることに違いないんだけど


 ただ、ボクの場合はちょっと特殊だったから、魔力の操作が出来てもまだ使いこなせているとは言い難い。




 どういうわけか、ボクは生まれつき大量の魔眼を所持していた。


 それについては自分を【識別眼】で鑑定してみてわかったことだ。


――――――


 個体名:ラピスドット
  性別:男
  年齢:6歳
  種族:兎蛇魔人族ハーフメドューサ
  状態:良好
  装備:――
  称号:魔眼の申し子
  属性:――
  耐性:――
  加護:――
  特殊:鑑定眼・千里眼・魅了眼
     真偽眼・魔力眼・魔砕眼
     模倣眼・透視眼・予見眼
     過去眼・威圧眼・暗視眼
     霊視眼・鷹の眼・複眼
     識別眼・隠蔽眼・再生眼
     石化の邪眼・停止の邪眼
     破壊の邪眼・崩壊の邪眼
     封印の邪眼・隷属の邪眼
     暴露の邪眼・淫奔の邪眼etc…


――――――


 ズキリと頭が痛んだ。
 同時に目の前に文字が表示される。


 ああ、また勝手に出ちゃったか。
 はやく自由に使えるようになりたいな


 顔も見たことないけれど、ボクのおとうさんはメドューサらしい。
 メドューサがどんなものかはわからないけれど、“魔人族”という単語があることから、魔族の仲間なんだと思う


 蛇みたいな男の人なのかな。でも体に蛇みたいな特徴はそんなに無いや。容姿はおかあさんの兎人族の血の方を濃く引き継いだのかもしれない
 蛇みたいな特徴があるとしたら………手のひらにある肉球みたいな、蛇の鱗くらいかな。


 となると、眼の異常の方は、もしかしたらメドューサのおとうさんの能力チカラなのかもしれない


「いってきます」
「お母さんも一緒に行くわ」
「うん」


 大量の魔眼を所持している影響でボクの魔力はガリガリと減っていき、一日に二、三回。魔力切れで失神してしまうことが多々あった。


 リオル君を見るまでは。
 リオル君は魔力を圧縮して外に漏らさないように工夫していたし、魔法を使う際に、魔力の移動が他の人とは考えられない程スムーズだったんだ。


 リオル君を参考にして、少しずつ少しずつ。魔力を圧縮してボクの体内に収まりきるよう面積を減らし、そこに新たな魔力を圧縮しながら詰め込むことで、自分の身体にため込んで置ける魔力の量を増やすことが出来たんだ。


 その過程で、魔力の操作には大分慣れたし、眼の暴走も少なくなったんだけど、それでも一日に1回は魔眼に魔力を取られすぎて魔力枯渇を起こして倒れちゃうんだよね。


 それを繰り返している内に、ボクの中に入りきる魔力の量が増えて圧縮魔力も含めてだけど、ボクとはじめて会ったころのルスカちゃん並に魔力量を増やすことが出来たのは行幸かな。


 俗にいう、賢人級魔法使いオレンジクラス以上の魔力を持っているんだ。
 Sランク冒険者でも、賢人級魔法使いオレンジクラスの魔力を持っている人は居ないくらいらしいし
 ダゴナン教会の司祭であるアイザックさんや、ダゴナン教会の幹部の人たちくらいじゃないと、賢人級魔法使いオレンジクラスの魔力を持つ者はいないだろうね。


 たいていのSランク冒険者はせいぜい超級魔法使いイエロークラスが妥当だろう。
 正直なところ、超級魔法使いイエロークラスでも十分に常人には決して到達できない化け物の領域なんだから。


 そんな賢人級の魔力を隠し持つボクだけど、今日だけは、それを少しだけ解放するんだ。




「やあ、キミで最後だね」
「あの、最後ってどういうことですか?」


 おかあさんが疑問の表情で騎士に声を掛ける。
 騎士はリリン王国の紋様が入った鎧を着ており、その手には水晶玉が握られていた


「ああ。リリン王国の新しく決まった法案で、各地を回って6歳~9歳の子供の魔力測定を行っているんだ。それで、一定の魔力を持つ子供はリリン王国の国立魔法騎士学校に入学させることになったんだ」
「なっ! 聞いてませんよそんなこと!」
「おちついておかあさん。話しはさいごまできいたほうがいい」


 ボクを無理やり連れていくと勘違いしたおかあさんの服を引っ張って騎士に掴みかからないように注意する。
 もう。いつもいつも短気なんだから。


「ええ、落ち着いて聞いてください。強制ではありません! 私の言い方も悪かったです、すみません。一定の魔力を持つ子供をリリン国立魔法騎士学校に入学していただければ、奨学金が出ます! こちらからお願いしていただく立場ですので、返却は不要です。」


「………」


 いい傾向だ♪ 今はお金を貯める時期であり、お金を貯めるには時間がかかる。
 その間に、ボクが勉強をする時間ができる。しかもボクの勉強にかかるお金は国が負担してくれる。それどころか、お金ももらえるらしい。
 その間、おかあさんはボクという働くことのできない子供の面倒を見なくて済むし、仕事に専念できる。


 ボクと一時的に離れてしまうということを除けば、一石二鳥どころの騒ぎじゃないからね




「もし、在学中に子供に何かあったら?」
「国が責任を持ちます。」
「そう、ですか。」




 思案するおかあさん。
 心配なんだよね。ボクが魔眼を制御できていないから、何か問題を起こしてしまわないかが。


「でも、なぜこんなことを?」


 おかあさんがもっともな疑問を口にする。
 なぜ、そこまでして子供を集めているのかが不明なんだよね。


「ええ。最近、魔物が活発化していますので、数年後には“大氾濫”が起きることが予測されます。それと、魔王ジャックハルトが魔界より人間界を狙っているかもしれないとダゴナン教、アイザック司祭に神託が下ったのです。なので、優秀な子供を育て、戦士にすることを目的として将来的には国の防衛を担ってもらいたい次第です。」


 【真偽眼】が発動する。ズキリと右目が痛むが、慣れたものだ。
 王国騎士の男はウソをついていないと、眼が教えてくれた。


 最近は、ここらでの盗賊はまえにリオル君が退治してくれたから出ないけれど、魔物や野獣の被害は受ける。


 畑は猪に食い荒らされる可能性があるし、ゴブリンが入ってきたら物量で押しつぶされてしまう可能性もある。
 定期的に魔物を狩っているとはいえ、その数は増える一方だ。


 だから、国が新たな法案として、王都に住まう人だけでなく、辺境であるファンタの街まで足を運んでいる次第なんだよ。


「ね、おかあさん。ボク、行ってみたいな。そうしたらおかあさんもお金をためやすくなるんでしょ」
「でも………」
「ボクならだいじょうぶ。この眼の制御をできるようになるためにも、学校で学んだほうがいいと思う」
「………わかったわ。好きにしなさい」




 まぁ、ボクにとってはそのセリフは建前で、本音はリオル君に会いたい・・・・・・・・・からリリン王国の学校に行きたいんだよね。


 そこで、僕とリオルくんはもう一度会うことが出来るから。


「クスッ 楽しみだ」
「楽しみなのはいいけど、まずはこの水晶に触れてもらえるかな」


 まだ見ぬ未来………じゃなくて、一度見た未来・・・・・・に思いを馳せて自然と笑みがこぼれてしまう。
 しかし、そのためには一定の魔力を持つことが条件だ。




「うん。これはなに? おいしいもの?」
「食べてもおいしくないよ。この水晶は属性と魔力量を計るものなんだ。これを―――」
「なるほど、これを叩き割ればいいんだね!」
「ちがうよ!?」


 親指をぐっと立ててドヤ顔を向ければ騎士の人は狼狽えた。
 クスクス。この人の反応もなかなかに面白い。
 からかい概があるなぁ♪


「わかってる。これでいい?」


 ボクはそう言って水晶に手を振れる。
 魔力を操作して、一時的に自分の身体から流れ出る魔力の量を増やした。




 すると、水晶は明るく輝きだす




「これは………キミは無属性魔法の使い手になる才能があるみたいだね!」


 違う。
 その水晶ではわからないだろうけれど、ボクは魔眼使い。魔法を使うことはできない。
 魔力に属性を持たないため、その水晶では無属性と判断されてしまうんだ。


「しかも、魔力の量も、他の子達よりも一線を画している………! 是非、学校に入学してもらえないだろうか!」
「だってさ、おかあさん」
「………絶対に帰ってくるのよ。それまではファンタの街に居るから。」
「うん。騎士様、出発はいつになるの?」


 騎士様にそう聞くと、上機嫌に教えてくれる


「二か月後だよ。それまでに準備を済ませておいてくれるかな。もう一度、馬車を伴ってここにくるから、その時にね」
「はーい。」


 準備と言っても、お金も服も教科書も国が用意してくれるから必要ないんだよね


「この街でボクの他に学校に行く子はいるの?」
「いや、キミだけだよ。魔力の量が初級魔法使いインディゴクラスを超えていたのは。他の街も見て来たけれど、キミ以上の魔力の持ち主はいなかった。将来有望だね」


 そっか。まぁ、子供の内から初級魔法を使えるほどの魔力を持った子供は居ないからね。
 ボクやリオルくん達が異常なだけだ。


 ボクの場合は圧縮してある魔力を解放すれば、もっと溢れてくるはずだ。




 それでも、夕方になったらすべての魔力が魔眼に吸い取られて一度気絶しちゃうんだけどね。
 早い所、全部の魔眼を制御できるようにならないと。


 そう思っていたら、ズキンと再び眼が痛む。今度は左眼だ。




「あ………俺は………」
「いけないいけない。」




 慌てて騎士様から目を離す。
 騎士様の眼が、熱を帯びてボクをじっと見ていた。
 【魅了眼】が発動したんだ。


 困っちゃうよね。勝手に出ちゃうから、知らない人も、男の人も女の人も、みんなボクに惚れてしまうんだから。
 この間も、知らないおじさんがボクの身体を触ってきたからなんだと思ったら魅了眼に侵されていたんだもん。
 あわてて【魔砕眼】で魅了の効果を砕いたけれど、あの時はちょっと怖かったなぁ。


「騎士さま。そんなに見つめたら穴があいちゃうよ」
「え、あぁ、すまない」


 そこは“穴なんて開くわけないだろっ!”
 って軽く頭を叩くところなんだけどなぁ。ちょっと残念。


 騎士様から目を逸らした後は、眼をみないように口元あたりに視線を向けた。


 ボクの魔眼は“なんでも”できる。
 でも、なんでもできるからこそ、んだよね。




 物を浮かすこともできるし(浮遊眼)、火を起こすことも(発火眼)、凍らせることもできる(凍結眼)。
 そう言う危ないモノから制御できるように頑張って来たけれど、眼帯でもつけた方がいいかもしれないなぁ。
 こんなにポンポンと変わってしまう魔眼のおかげで、いくらボクの魔力の量が通常より多くても、制御が出来なくては魔力切れで倒れてしまっても仕方のない事だ。


 魅了眼は人に対する危険度は低いから制御は後回しになっていたんだよね。
 ボクが本当に魅了したいのはただ一人だけだし、コレも早い所制御できるようにならなくちゃ。




「あぁ、待ち遠しいなぁ」
「っふ、では、2か月後にまたここに来るから。楽しみにしておいてくれ」
「うん。じゃあね、騎士さま」




 ちょっとした手続きをした後、騎士様は書類を持って別の街に出発してしまった


「………さみしいわ」


 ボクを抱きしめてポツリとつぶやくおかあさん。


「ボクもだよ。でもねおかあさん。ボクはもっといいところで働いて、お金をかせいで、兎人族の里に帰るためのお金を貯めるんだ。そしたら、魔物や魔族に怯えなくて済む生活ができるはずなんだから。」
「ラピス………」


 これは本当。
 ボクはおかあさんのことが大好きだし、おかあさんが兎人族の里に帰りたがっていることも知っている。
 夜にうなされていることも知ってる。


 だから、ボクも早くおかあさんを安心させてあげたいんだ


 リオル君がいたら、もっと簡単に連れて行ってくれるんだろうけど、さすがに遠くの人と連絡が取れる魔眼はないのだからしょうがない。


「だから、あんしんして。学校であずけられているあいだに、おかあさんにも奨学金をおくるから。」
「ラピス………あんな男の子供がこんなにやさしくなるなんて、本当にうれしいよ」


 うーん。ボクもやさしいわけじゃないんだけどね。
 リオル君に会いたいっていう気持ちの方が強いんだもん


「クスッ、おかあさんのジマンの子だからね。おかあさんを守れるくらい、つよくなってからもどってくるよ」


 そう言ったら、うりうりと頭を撫でられた。


「男らしくなっちゃって。頑張ってくるのよ」
「うん。じゃあボクはこのまま遊びに行ってくるね」
「ええ、暗くなる前に戻ってきなさい」
「はーい。」




 さて、街の外に行ってまだ街の警戒網に引っかかっていない魔獣、【千里眼】で見かけた“Cランク魔獣”、グレートボアを退治しに行こうかな。
 ボクも“魔王の子”であるリオル君と並び立てるくらい、強くならないと。





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