受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第89話 “両手に鼻”とはこういう意味なのです!



            ☆ ファンSIDE ★






「ルー………」
「…………。」


 あたしはルーと二人でお風呂に浸かっていたのだけど、ルーを呼びかけてみても、どこか上の空という様子だった


「リオ………へんだったの」


 ぽつりと呟くルーの声が浴場に反響してあたりに響く


「ファンちゃんのこと、こわがってたの」


「………そうね」




 そう、彼はあたしを恐れていた。
 あたしが、不可抗力とはいえ、彼の髪を見てしまったから。
 お風呂場だから、バンダナを付けていないのは当然だし、服を着ていないのも―――


 ふと、戸を開いた瞬間に見えた魔王の子の裸体を思い出し、さらに彼の頭を、素っ裸のまま抱きしめたことを思い出して顔を真っ赤にした。


 うぅ、もうのぼせたのかしら


「でもね、リオはずっと、ファンちゃんとお友達になりたいっていってたの」


 ルーの声に我に返る。
 口元まで浸かって湯船でぶくぶくしていたのを中断して顔を上げた


「そっか。」


 と返事はしたものの、それはずっと前からわかっていた事だ。


 初めて会った時。大きなツボの中に隠れて返事もできないあたしに、声を掛けてくれた。
 夜。部屋で泣いていたら、あたしの部屋に来て、怯えないように………ずっと手を握っていてくれた。
 自信の持てないあたしに、勇気を出させるために、精霊契約をできる場を作ってくれた。


 それに―――ルーとあたしを、引き合わせてくれた。


 陰ながら、ずっとあたしとルーを見守ってくれていたんだ。


「ファンちゃん。」
「ん?」


 ルーの呼びかけに反応すると、ルーはお湯に深く浸かって上目づかいであたしを見上げる
 美しい白髪を瑞々しい肌に貼り付け、不安げに揺れる蒼い瞳を潤ませるその姿に、保護欲を掻き立てられ、無性にその頭を撫でたくなってしまう


「リオのこと、きらわないであげて」


 しかし、それでいて真剣な彼女の表情。
 その瞳に映るのは、魔王の子への心配。憧憬。そして信愛だ。
 あたしのことを理解してくれる彼女が一番に信頼している彼のことを疑いたくない。


「ええ。もちろんよ。嫌うわけがないわ。むしろ―――」


 むしろ? あ、あたしは何を言おうとしたのかしら。
 自分の口からポロッと漏れた言葉に首を捻る


「にへへ、それならよかったの」


 ルーはそんなあたしには気づいていないようで、あたしの答えにホッと息を吐いた
 しかし、そんなルーの顔も、すぐに影が差す


「リオはね、まおうの子だから、いろんな人にきらわれちゃうって言ってたの」
「それは、彼が?」
「うん。リオが言ってたの。」


 だからこそ、彼は悪魔の象徴である黒い髪を隠していたのだ
 そこからのルーは、あたしに話しているのではなく、まるで自分の心に話しているように、続けた


「でもね、リオはいっつもルーたちのことを考えてくれているの。ルーのしらないことをおしえてくれる。たのしいことをおしえてくれる。わらってくれる。ルーがこわくなったら、ぜったいにルーのことをまもってくれるの」
「………。」
「リオはせかいでいっちばんやさしいの。いっちばんかっこいいの。いっちばん、えがおがすてきなのに、みんながリオのことをきらいになるなんて、リオがかわいそうなの」


 彼女の表情を見ていたら判る。どれだけ彼のことを好きなのかということが。
 双子だから。兄だから。一緒に育ったから。そんなものではない。
 彼が彼だから、ルーは魔王の子のことが大好きなのだ




「それでね、いつも思うの。」
「………なにを?」
「“なんで、逆じゃないんだろう?”って」


 ルーは浴槽で体を丸め、ぎゅっと自らの膝を抱え込んだ


「ルーはリオよりもわるい子なのに、前にいたむらで、いっつもリオだけがおこられてたの。かわってあげられたらよかったのに………。」


 顔を見られたくないのか。ルーはそのまま水面に顔を付け、プクプクとルーの息が水面に上がる音だけが場に残る。
 あたしは、そんなルーの頭を優しく撫でた。撫でずにはいられなかったのだ。


「代わっちゃダメよ。まおうの子はきっとそんなことは望んでいないわ。」


 水面に付けていたのは顔だけなので、あたしの声はしっかりと聞こえているらしい。
 プクプクするのをやめて、ルーがあたしの話に耳を澄ませているのがわかる


「彼はきっと、なによりもあなたの笑顔が大好きだから、ルーに悲しい顔なんてさせたくないから。だから、ルーじゃなくて『彼』が“魔王の子”なんじゃないのかしら」


 ルーが水面から顔を上げてこっちを向く
 その不安そうな顔に、あたしはいたずらっぽく、パチャ、とお湯を掛けた。


「きゃっ!」


 かわいい悲鳴と共に、ルーはぐしぐしと目元の水を拭う
 そんな非難がましい目を向けてくるルーに、言ってやった。


「だから、“代わりたい”なんて言ったら、今まで必死にルーの笑顔を守ってきた彼に対しても失礼よ?」


 続くあたしの言葉に、ルーは目を丸くしてこちらを見た


 しばらくの沈黙。


「そうだね。さっきのは、今のリオをひていしちゃうの。ありがと、ファンちゃん」
「ううん。どういたしまして」


 なにかに吹っ切れた様子のルーは、あたしにお礼を言うと、湯船から立ち上がった


「リオのとこに行ってくる」
「うん。あたしはもう少し浸かっとくわ。できれば、まおうの子に伝えておいてほしいのだけど」
「うゅ?」
「『髪を見てごめんなさい。友達になってください』って」


 ぽかんと口を開けたルー。しかし、その口元はすぐにニマニマとした笑みに戻り、いたずらっぽくウインクをしながらこう言った。


「にへへ、それはファンちゃんがちょくせつ言った方が、リオはよろこぶと思うの」
「………それもそうね。ごめんなさい」
「ううん。ファンちゃんもがんばってね!」


 脱衣所に向かって歩くルーの背中にある純白の翼は、今の感情を表す犬猫の尻尾のように、ピコピコと明るく動いていた




            ☆ リオルSIDE ★




「リオッ!」
「ふぼわー!」


 バン!と扉が開いたかと思うと、弾丸の如きスピードでルスカが僕にタックル………もといフライングヘッドバットを僕の鳩尾にかましてきた


 幸いなことに、僕の胃の中は空っぽだ。


 おかげでルスカの目の前でリバースするという痴態を晒さずに済んだ


 まぁ、ルスカには僕の情けないところなんかいっぱい見られてるからあまり関係ないかもだけどね


 吹っ飛ばされながらルスカの頭をギュッと抱きしめ、背中から床に着地する


「ゴハッ!」


 運動神経が腐っているから、僕には受け身などと言う高等な技術はできない。


 お風呂上がりだからか、あったかいルスカの体温が伝わってきて心地いい。
 同時に、湿気を含んだルスカの肌から僕の服に水気が侵入してきた
上半身を起こしたルスカは僕の腰にまたがって僕の顔をペタペタと触ってくる


「リオ、大丈夫?」


「うん、もう大丈夫。心配してくれてありがとね」


 どうやらルスカは先程の僕の様子をみて心配してくれたらしい
 どうにかファンちゃんとミミロのおかげで普通の精神状態に持ってくることができたよ


 まだ僕の顔は血の気が引いた土気色だけど、まぁご飯食べたら戻るでしょう。


「それはそうと………そりゃ!」
「ふにゃ!?」


 僕は首に掛けていたタオルでルスカの頭を捕まえ、位置をひっくり返す!
 そして、ルスカの露出した白い髪をワシャワシャと撫で回す


「きゃはははは!」


 髪の後はルスカの身体をタオルで全体的に拭く。なぜって?そりゃルスカが最低限しか身体を拭かずに裸のまま僕にタックルをかましてきたからだよ!
 ルスカはくすぐったそうに笑いながらもされるがままだ


「いつも言ってるでしょうが! ちゃんと身体を拭いて服を着なさい!」
「むー、リオが着せてくれるもん」
「もう、甘えんぼさんめ。もう一人でできるでしょ?」


 駄々をこねたルスカの額をツンとつついてからルスカの身体を引っ張って立ち上がらせた。


「やーだ。リオがいいの!」
「ふぅ、困った子だね。」


 僕は苦笑しながらルスカの全身の水気を拭き取ると


「ほら、バンザーイ」
「はーい」


 なんだかんだで妹には甘いので、着せてあげるのでした。
 もうそろそろ羞恥心を持ってほしいけど、まだ6歳だし、裸で走り回っても恥ずかしくないお年頃なんだね。
 まあ、僕も同年代の子やフィアルやゼニス。キラケルにミミロ、あとイズミさんくらいだったら、今は別に恥ずかしくないかな。
 だってまだ6歳だもん。


 ルスカに服を着せて、フィアルの部屋でルスカと隣り合ってまったりと座っていたら




「にへへ、リオ、元気になって良かったの」


 ぽつりとルスカがそう呟いた。
 やばいな、お風呂場さっきのあれでルスカに相当心配をかけちゃったみたいだ


「ありがとうねルー。」


「うん♪ リオがいっぱい頑張ってるの知ってるから。」


 ルスカはそう言って僕に抱きついてきたので、そのまま抱きしめておでこにキスしてあげましたとも。
 そうするとルスカがだらしなく頬を緩めるのがまたかわいいのだ。


「リオ?」
「ん?」


「むりだけはしないでね。たいへんになったら、ルーは絶対にリオをたすけてあげるから」


「あはは、ありがと。」
「ぜったいだよ!」
「うん。頼りにしてるからね」


 ルスカの剣幕に若干押されながらも、ルスカのほっぺを撫でて答えると、ルスカはにへへと笑った


「あとね」
「んー?」
「ファンちゃん、すっごくいい子なの。」


 じっと僕の眼を見つめる。


「………知ってるよ。さっきのは僕の心が弱かったからなんだ。だから、僕がファンちゃんを嫌ったりはしないよ。」
「そっか。それならよかったの♪」


 にへへと笑みを浮かべるルスカは、まだ話は終わっていなかったようで、すこしだけトーンを落として続ける


「さっきファンちゃんがね、『髪をみてごめんなさい』って言ってたの」
「………本当に、いい子だね」


 まだ僕と彼女はあまり話したことはない。
 それでも、彼女がいい子だということ。彼女がすごく成長しているということはよくわかった。
 それならきっと―――


「明日には、僕も友達になれると思う?」
「ファンちゃんとリオなら、ぜったいに大丈夫なの!」


 きっと、心配なんか、なにもいらない




           ☆








 その後、族長会議から帰ってきたらしいイズミさんと合流し、再びルスカと一緒にメイドさんたちと料理を作って、それから夕食。


 夕食の席ではファンちゃんの近くにはルスカが陣取っており、僕はミミロやキラケルの近くでシゲ爺が会食の音頭を取るのを待つばかりだ。


「あ………」
「ん? あはは」




 ファンちゃんはお風呂場での出来事のせいか、ちらちらと遠慮がちに、それでいて心配そうに僕を見ていた。
 が、ある程度精神が回復してきた僕は、それに気づいて微笑みながらファンちゃんに手を振った後―――流れるような動作で唐揚げをつまみ食いしそうになっていたマイケルの鼻に二本の指を突き刺した。


「ふげ!」


 ホールインワン。
 その陰で「マイクはマヌケなのですー」とマイケルをケラケラと笑いながらこっそりとタンポポをつまみ食いしそうになっていたキラの鼻にも二本の指を突き刺した。


「ふに!?」


 ホールインツー。
 きちんと待ちなさい、似た者同士のバカチンが。


「………これが俗にいう“両手に鼻”である。」


 大真面目な表情を取り繕いつつ、計4本の指をキラケルの鼻の中に突っ込んだまま、ポツリと一言。
 その後すぐにズボッと指を抜き取って布巾で両手を綺麗にしましたとも。


「プッ!」
「ふふっ」


 その様子を見ていたルスカとファンちゃんがクスクス笑っているのを見て僕もなんだかほっこりしたよ。ファンちゃんは僕が元気になったのを確認して安心して肩の力が少し抜けたような表情になった。それだけでもキラケルを生贄に体を張ったボケをかましたかいがあったってもんだね。
 それに僕、切り替えは早い方だしね。


 僕たちの様子を見ていた他の族長戦士長たちも、なんだかクスクスと笑っているので、スベッていなかったと一安心。
 ニルドなんかは突っ伏してテーブルをバンバンと叩いているわ


 料理を準備していたメイドさんたちも口元に手を当てていた。


 これそんなに面白いかな、って思って指をチョキチョキしてみたけど、6歳児が見た目10歳児の鼻に指を突っ込みながらやっていることを客観的に想像したら、確かにシュールだわ。


「二人とも。行儀よく待ちなさい。兄ちゃんの言うこと聞けるよね?」


「うぅ、にーさまはねーさま以外には厳しいのです………」
「鼻が………もげるかと思ったぞ………」
「許可もないのにつまみ食いしようとする方が悪いよ。ルーはつまみぐいそんなことなんてしていないでしょ。」


 鼻をさする二人の上位の竜人族に説教を垂れる僕は、見た目では誰より最年少。
 しかし、家庭内序列は僕が頂点だ。兄の言うことは絶対である。


「でもにーさま。もしねーさまがしてたらどうするのです?」
「あ、それはおれも気になる」
「そりゃあ、デコピンするに決まってんじゃん。さすがにルーの鼻には突っ込まないよ」
「差別なのですー!」
「差別だぞ!」
「ちがいますー。僕はルーを傷つけたくないだけですー」
「人種差別なのですー!」
「竜人族に囲まれたこの状況でよく言えるね、キラ。むしろ僕がアウェーだよ」


 オーバーリアクションで首をすくめる。
 周りを見てよ。色竜カラーズドラゴンの族長と戦士長ばっかり。
 それに子供もミミロとキラとマイケルも色竜カラーズドラゴンだよ? しかも上位種だよ?
 竜人族以外って、僕とルスカフィアル。あとはダークエルフのファンちゃんだけだよ。


 使用人を除いた残りの17人全員竜人族って。ここに居るの、国を簡単に滅ぼせそうな化けもんばっかりじゃん。


 まぁ、言うてもキラやマイケルが大切じゃないってわけじゃないからね。
 これも教育だよ。


「もういいから、静かに座ってなさい。できるでしょ? もしかしてその程度もできないの?」


「できるのです。でもマイクはアホだから無理かもしれないのですー!」
「よーし、喧嘩は買ったぞ! ご飯食ったら表に出ろやねーちゃん! アホはどっちか今日こそはっきりさせてやる!」
「だから静かにしてってば。喧嘩は後で、武道館でしなさい。」


 もうすでに僕を挟んで頬を引っ張り合っているキラケルの間から交差する二人の手をチョップで離し、二人を軽く重力で縛りつける。
 ふう、ようやく静かになったよ。


 そうこうしていると、メイドさんたちが作った料理をテーブルに運び終えたようだ。


「さて、夕食を取る前に、少しだけ報告しておくことがある」


 さあ料理が並んだから食べよう、というタイミングで、シゲ爺が立ち上がって僕たち子供が集中している場所を見る


「うゅ?」
「………?」
「ん?」


 一様に首を捻る僕とルスカとファンちゃん。
 ミミロは眉をしかめ、キラケルは料理に釘づけで聞いていなかった。


「リオル、ルスカ」


「なに?」
「にゅ?」


 シゲ爺に呼ばれて返事を返すと、今度は目線を僕の隣に向ける


「ミミロ、マイケル、キラ」


「はい!」
「ん? はいっ!!」
「はいなのです!」


 料理に夢中のマイケルもシゲ爺に名前を呼ばれて誰よりも元気に返事を返す
 重力で縛りつけたはずなのに、マイケルのヤツ、元気よく手を挙げおった。
 す、すげぇ


「お主らはしばらく儂が面倒を見ることになった。これからみっちりと鍛え直してやるから、覚悟するんじゃぞ」


「ふぇあ!!?」


 シゲ爺のそのセリフに真っ先に反応したのは、僕でもルスカでもない。ファンちゃんだった
 シゲ爺の発言は、つまりファンちゃんと一つ屋根の下で暮らすということを指す。


 人見知りのファンちゃんにはいきなりすぎて厳しいことかもしれないが、長期的に見れば、確かにこれは効果的だ。


 それに、ファンちゃんだけではなく、僕たちにもメリットはある。
 まずは衣食住。これは大事。


 それに、僕だってへっぽことはいえ魔王の子。魔法だけで何でも片が付くのは今だけだ。
 運動音痴の僕は接近戦をしない事こそ利口なのだということはわかるけど、魔王の子という厄介な身分である以上、命を狙われる危険も多々あるはずだ。


 魔法だけに頼らず、己の身は己で守らないといけない時は必ず来るはずだ。


 幸いにして、僕は体は細くてもアルノー山脈での低酸素運動にも慣れているし、ケリー火山にてジンの元で修業も詰んだ。


 普段から自分の身体に1.2倍程度の重力負荷も掛けているため、見た目ではよくわからないかもしれないけれど、力だけなら同年代の人間にならそうそう負けないと思う。
 さすがに体格が違ったら負けるし、僕よりもよく食べてよく動くルスカにも負けるけどね。


 ただし、僕はわりと運動音痴だ。すごく運動音痴なのではなく、わりと運動音痴だ。
 前世では足の骨格からメチャクチャだったからね。体の上手な動かし方ができていないんだろう。


 とはいえ、運動音痴のままではいつかは死んじゃう。
 だって僕はドジ踏むし、選択を間違えるし、なにより自他ともに認めるトラブルメーカーのおっちょこちょいだからね!




「今日の会議ではそういうことになったんだね」


 会議では、とりあえず僕たちの面倒を見るのはシゲ爺ということにったのだろう。
 僕が誰にとも言えぬつぶやきを漏らすと、シゲ爺は髭を撫でながら頷いた


「うむ。リオルも後ろ盾があった方がいいじゃろう?」
「………うん。でも、本当にいいの? 僕なんかを匿ってても、たぶんデメリットしかないと思うんだけど」


 僕は魔王の子だ。そして、後ろ盾は嬉しいけれど、シゲ爺は伯爵だ。
 それが国にばれたらどうなってしまうのか、全く見当もつかない。


 いや、むしろ逆の可能性もあるな。
 伯爵っていうのは国と深く関わりがあるはずだ。
 竜の族長の頂点とはいえ、シゲ爺は信用できる人なのだろうか。
 それがいまいちよくわからない。


「ほっほっほ、メリットならちゃんとあるわい。」


 そう言って、チラリとファンちゃんを見るシゲ爺。
 その視線の先には、ルスカと手を繋いでいるファンちゃんの姿が。


「なら、いいんだけど………」
「それに、儂が引き取るとはいえ、養子にするわけではないからの。さすがにリョクリュウの名を名乗ることは認めんわい」


 一応、予防線は張っておくのね。
 わかった。


「それじゃ、これからお世話になります。よろしくおねがいします」
「「「「 よろしくおねがいします! 」」」」




 ぺこりと頭を下げると、僕に続いてルスカとミミロ、キラケルも頭を下げる
 こういうところはよく教育していてよかった。




「にへへ、これからずっといっしょなの、ファンちゃん!」
「え、あ、う………そ、そう、ね」


 ファンちゃんはルスカと一緒に暮らせることを嬉しそうでありながら、複雑そうに僕の方を見ていた。
 大丈夫。キミは僕よりも強いんだから、そんなに不安に思うことはないよ。







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