受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第72話 ★族長たちと食事会



     ☆ リオルSIDE ☆




「………見られている」
「うゅ? りお?」




 見られている。
 見張られている。


 6、7歳くらいの小さい体躯。
 オレンジ色の髪の毛。褐色の肌。


 メイドさんたちから聞いた特徴通りだ。




 さらには、顔の右半分を隠すように流された前髪。
 その後ろでチラリと見える包帯。


 これまたメイドさん情報から手に入れたが、その包帯の後ろにあるのは、醜い火傷の痕、らしい。


 先ほどはツボの中で俯いていたおかげでお話もできなかったし顔を見ることもできなかった。
 さすがの僕も、いきなり『顔の火傷の痕』を見たらびっくりすることは間違いない。
 しかし、それは相手にとってはかなりショッキングで失礼な行為に値する。


 この情報を先に知れてよかった。
 なんだかんだで物語の心優しき主人公みたいにいきなり現れた顔にコンプレックスのある少女を見かけても普通に声を掛け、さらには『あたしの顔を見てもたいしたリアクションをしないなんて、素敵! 抱いて!』なんて展開になるとは思っても居ない。


 だからこそ、僕ははっきり言おう。僕は面食いであると。かわいいは正義であると。
 しかし、だからどうした。
 あえて矛盾する答えを僕の中に作る。


 僕は何が何でもダークエルフちゃんと仲良くしたいのだ。
 理由? そんなものは素敵だからに決まっている。


 動機が不純? 結構。僕は我慢もしないし、自由に生きるって決めたもん。
 欲望に忠実に。それでいて一線を超えることなく幸福を目指す。
 それが今の僕の生き様だよ。




 しかしながら、彼女は幼い身体で忌子の扱いを受け、さらには一生体に残るであろう心と身体の傷を持つ。


 あの子の事情なんか、僕は何も知らない。
 でも、これだけは言えるだろう。
 キミは、僕と同じだと。


 恐れる必要はない。
 怖がる必要はない。
 同じ忌子だ。心の傷の深さは誰よりもわかる。


(………じー)


「………そんな彼女がなぜ! 僕を観察しているのだろうか! 訳が分からないよ!」




 ドアの隙間からくりくりとした愛らしい左目だけをのぞかせている。
 あれは獲物を狩る狩人の眼だ。


 相手の一挙手一投足を見逃すまいと集中しているものの眼だ。
 僕がメイドさんたちとジャガイモの皮むきをしている間に彼女にどういう心境の変化があったのかはわからないけれど、なんか命を狙われているかのような不気味な感触が胸を締め付ける


 ひたすらに怖かった。




「あ、あのー、ファンちゃ―――」
「っ! (ダッ!)」


「oh………」




 話しかけようにも逃げられる始末。
 どうしたらいいの?




「リーオっ♪」


 どうやって仲良くなったらいいのか思案していると、背中にちょっとした重力と甘い香り。さらにプ二プ二とやわらかい肌の感触。


 そのまま背中越しに僕のほっぺたに自分のほっぺたをすりすりと擦りつけてくる。


 その反対側のほっぺたを撫でり撫でり。
 ふにゃふにゃと、とろけ落ちそうな笑みを浮かべながらルスカは僕に言葉を投げかける。


「どーしたのー?」
「ルー。僕はさっきから物陰に隠れてこっちをずっとうかがっている女の子とお話がしたいだけなのに、すぐ逃げられちゃうんだよね」
「ルーも見てたの!」
「やっぱりルーも気づいてたのね」


 えへんと胸を張るルスカのほっぺたを撫でり撫でり。




「あのね、ルーもね、あの子となかよくなりたいの!」
「そっかー。うーん。どうしたらいいと思う?」


 僕がそう言うと、首を捻るルスカのほっぺたを撫でり撫でり。


 恥ずかしがり屋、しかし視殺せんばかりに睨みつけられ、声を掛けようとすると逃げられる。
 そんな子と仲良くなるためにはどうすればいい?
 おしえてルスカたん。


「んっとね、むつかしいことはごはんを食べてからかんがえたらいいと思うの」
「そんじゃご飯食べようか。」


 ま、時間はたっぷりあるし、焦る必要はないよね。




                  ☆






 お夕飯というよりは晩御飯と言った方がよさそうな時間帯でのごはんだ。
 この世界では日が沈んだら寝て日が昇ったら起きる習慣があるのだが、特殊な環境や貴族の家では天井に光魔結晶こうまけっしょうという空気中の魔素を結晶の中で光属性の魔力に変換し光るというトンデモ性能を持つ結晶石のおかげでこの世界の夜は明るい所も結構多い。


 そんな明るいシャンデリアの下、食堂に集まった総勢21人は緊張した面持ちで椅子に座る。
 食堂の机に盛り付けられたパーティ食や日本食。
 本当にイズミさんは何でもできる。




「「「「「 だぅー……… 」」」」」




 そして、よだれを垂らして食べてもいい時間を計っている子供5人。


 僕以外の子供たちだ。
 ルスカ、キラケル、ミミロ、ファンちゃん。


 シゲ爺の陰に隠れる形で現れたファンちゃん。
 その時初めて顔をしっかりと見ることができた。


 ファンちゃんの頭は薄いオレンジ色で、天井から降り注ぐ光魔結晶による光で髪に天使の輪が映る。
 ツヤのある髪だ。
 そして顔の右半分を覆う包帯。おそらくその奥に火傷の痕があるのだろう。


 子供たちはいい意味でアホばっかりだから、ファンちゃんの顔を見て少し驚いた程度でかわいそうと思うことはあっても馬鹿にすることは無かった。


 いい子に育ってくれて、僕もうれしいよ。




 メイドさん情報によると、シゲ爺はゲテモノ料理が好きらしい。
 それをいつも見ているファンちゃんもゲテモノ料理が好きになっているそうだ。


 料理を気に入ってくれるかわからなかったけれど、それは杞憂だったようだ。
 早く食べたいと言わんばかりによだれを垂らしながらクイクイとシゲ爺の服を引っ張った




「では、いただくとするかのぅ」


 その一言で食事が開始された。




「「「いただきます」」」




 僕とイズミさんとルスカの三人が手を合わせて箸を握り
 生命と食材に感謝の意をこめて箸を進める。


 同じようにキラケルやミミロも手を合わせて祈りをささげる。


 食前のいただきますやごちそうさまは前世でも食事にありつけるときは律儀に毎回唱えていたけれど、こっちの世界に転生して心の底からおいしいと思える物にありついてからは真摯な祈りに変わった。
 なんせ虫とかネズミとかゴキブリとか食べないと生きていけなかったんだよ?
 食べれるだけでも儲けもの。さらにおいしいとあっちゃこれはもう贅沢としか言いようがないね。
 異世界漂流のように荒んだ生活をしていると本当に美味なる料理には何よりも心の栄養になってくれる。
 どんなに泣いても、どんなに辛くても、どんなに怠けていても、生きていれば腹は減る。


 心を癒してくれる食事には自然と感謝の念が湧いてもおかしくない。


 僕やイズミさんは毎回いただきますと手を合わせている物だから、ルスカたちも手を合わせていつも僕に合わせてくれる。


 ダークエルフのファンちゃんや族長戦士長の皆さんは目を丸くするも東大陸のしきたりだろうかとすぐに気にすることを止めた。


 目の前においしそうな料理があるのだ。
 腹は減る。ならば食う。本能に従って飯を喰らった。




 さて、ここで族長たちを紹介しようと思う。


 食事の席では全員そろったのだ。




「それにしてもだ。オレはニルドのバカのせいで明日が族長会議だということを今日知ったわけだが、他のみんなはどうだったのだ?」


 箸を器用に使って食事を勧めるのは、赤竜せきりゅう族長のジン。武器は大槌斧ハンマーアックス
 東大陸は元々が気候も食文化も日本食と近かったこともあり、ジンは箸で食べることの方が多いらしい。
 防具なんかも、日本風の鎧っぽい胸当てとか肩当とかそう言うのを好んでいる節がある。
 髪の色は赤。ツンツンと逆立て、立派な髭が渋いです。
 30歳くらいの渋いおじさまだ。


「キャハハハ! ワタシは1年くらい前から集まるのは豊穣祭の日だとしっていたのだ! どーだ、すごいだろ、ワタシを褒めろ! ところで何の集まりなのだ?」


 そして、たいそう持ち方のおかしいフォークとナイフを扱う幼女が居た。
 この子は12歳くらいの見た目であり、橙色オレンジの髪をツインテールにしている。


 12歳くらいといっても、それは見た目だけでありシゲ爺、ゼニスに次ぐ族長で言うと3番目に長生きしている橙竜とうりゅうの族長だ。
 名前はアシュリー。おっぱいは控えめ。


 橙竜族長のアシュリーの武器は死神の鎌デスサイズ
 見た目がちっこいからと、武器だけはたいそう大きなものだ。


 ふむ。RPリオルポイントを5RPあげよう。使い道は無いよ。
 かわいいは正義なのだ。


 アシュリーの性格は目立ちたがり屋な部分がある。
 そして、見栄を張りたがる。


 身長が小さいからか、自分を大きく見せようとしているのだろうが、その見栄が返ってかわいい。




「いやいやアシュリーちゃん。それは俺様が知らせてあげただろ? 族長会議をするんだZE☆」




 このチャラい口調の男は黄竜きりゅう族長のニルド。武器は棍棒ドラムスティック
 前髪だけはイナズマ型に整えてあるツンツンヘアー。意外と硬い。
 女の尻を追っかける典型的な軽薄男子である。


 しかし、その実態は結構紳士。変態紳士という意味ではなく、よく気配りができ、古典的なモテ紳士だ。
 ただし、女に節操がなく、ちょっと空気が読めないことがある。


 橙竜族長のアシュリーは「そうなのか? 初めて知ったのだ!」とか言いながらフォークで串刺したから揚げをおいしそうに頬張る


 やれやれといつもテンションの高いニルドにしては珍しく肩をすくめた。
 見た目的にはニルドの方が年上に見えるし、手のかかる姪っ子を仕方なく面倒見ている大学生という構図に見えなくもない。


 でもアシュリーの方が年上。ニルドの見た目は二十歳くらいだ。


「ふむ。会議を開くならば皆が解りやすい日がいいじゃろうと思ってのう。豊穣祭の日に族長戦士長が集まるようにニルドに伝えたはずだがまさかニルドがジンへの報告を怠るとは思わなんだ。あとでニルドには特別に稽古をつけてやるぞい。なんだかんだ言っててもゼニス以外は豊穣祭によく参加してくれるしのう。」




 そこに口を挟んだのが緑竜りょくりゅう族長の“シゲマル・リョクリュウ”
 武器は―――無し、らしい。あれ? ジンは緑竜には拳骨当メリケンを作ったはずじゃなかったっけ。 まぁいいか。
 シゲ爺は中央大陸東のクロッサ王国の辺境伯爵である。


 そりゃないぜシゲ爺! と懇願するニルドを華麗にスルーし、行儀よくナイフとフォークで肉を切り分けて食べる。
 その際、「やはり羊の脳の方がいいのぅ」などと言っていたのに僕はゾッとした
 脳? 脳みそたべちゃうの!?
 さ、さすがに僕はできないなぁ


 イズミさんは食べられる? あ、だよね、さすがに脳みそは食べないよね。
 でも生肉は平気? そのくらいなら僕も平気だよ。何年野生生活を続けていると思ってんのさ。


 メイドさん情報の通り、シゲ爺はゲテモノ料理が好きであったようだ。


 その点、ファンちゃんは初めて見る料理に興味津々。
 フォークをライスに突き刺してもきゅもきゅ。


 ライスだけを食べても味気が無いと思ったのか首を捻り、揚げるという文化に乏しかったのか、から揚げを一口かじり、その食感とジュワリと溢れる肉汁の虜になってしまったようだ。
 ちなみに下味は塩胡椒のみ。シンプルイズベスト。


 鶏肉じゃなくて鴨肉なんだけど、筋は切ってあるし、食べやすい大きさまでカットしてあるから噛み切れないなんてことにはならないはず。


 ファンちゃんはゲテモノ料理好きってだけでゲテモノ料理好きってわけじゃないんだね


 胡椒はテンプレ通り貴族の調味料で平民の嗜好品と言ったところだろうか。
 伯爵の家は調味料が潤沢でよかったよ。
 でもゲテモノばかり食べてちゃダメだよ。


 話はそれるけど、実はから揚げに使ったこの油だって、イズミさんが椿の実から椿油を搾り取ったものだ。
 東大陸でかなり手間暇をかけて作りだし、今では椿油の製造工場が立ち上がり、東大陸での就職率が大幅にアップ。
 揚げ物料理が流行っているおかげか、椿の木を植える植林業や採取を行う人など、林業でも大変就職率が上がり、競争率も高くなっている始末
 イズミさんは図らずも料理ひとつで東大陸の治安の底上げを行ってしまったのだ。


 ちなみにこの油は東大陸から僕の道具袋に入れて持って来てあるんだよ。
 この場で油を作るにはさすがに時間と設備が足りないからね。


「そうよぉ。そうなんだけど、むしろ今回はわたしより先にゼニスちゃんがついているから、てっきり会議の日程を間違えちゃったのかとおもったわぁ。だってゼニスちゃん、時間を正確に測ったことなんて一度もないんだもの。3年前の会議だって、ゼニスちゃんはすっぽかしてくれたじゃないのよぅ。時間にルーズすぎるのも困りものよねぇ」




 シゲ爺の言葉に続いたのは青竜せいりゅう族長。サンディ。
 水色のゆるふわな髪の毛を持つたれ目の美女だった。


 25歳くらいの見た目でダイナマイトなバディの持ち主。


 ボン、キュ、ボン なんて言葉じゃ生ぬるいくらい妖艶で淫靡な雰囲気を醸し出していらっしゃる


 例えるなら―――そう。 ブルン、キュッ、プリン! だ。


 そして、恰好はその容姿に合いまくった、それ下着じゃね? と言いたくなるような露出の高い恰好だった。
 その姿でジンの作った蛇腹剣ソードウィップ(僕も作成を手伝った)を振られたらたまったもんじゃないね。


 さあ全国の紳士な豚諸君。全裸になって這いつくばるのよ。豚のように鳴きなさい!
 なんてね。


 その破廉恥な格好のままサンディは飯も食わずに隣のゼニスにその豊満な胸を押し付け、窒息死させんばかりに抱き着いた。
 うらやまけしからん。
 ゼニスは「ええい離れろ! 私の方が年上だぞ! ちゃん付けはよせ」と邪険に扱った


 青竜族長のサンディはそれすら意に介さず「だーってぇ、かわいいんだもの。しかたないわぁ。これは前回の会議をすっぽかしたバツよぅ。」
 とゼニスのほっぺたを撫でまわしていた。
 ありゃ? サンディってそっち系の人?


 うん。いいと思います。


 そういえばゼニスは族長会議を開くのは数百年ぶりだとか言ってた気がする。
 案外、結構頻繁に開いているんじゃないの?


 ………もしかしてゼニス、全部すっぽかしてんの?


 ゼニスは時間が適当だから、数百年ぶりってのも疑わしくなってきた。
 ゼニスの時間的なセリフは一切信用しないことにしよう。




 青竜族長のサンディとその戦士長は晩御飯を食べるほんの数分前にシゲ爺の屋敷に到着したらしい。
 よく当日に到着できるよね。
 青竜ってたしか南大陸出身でしょ? 大陸を跨いでいるのに、日付はぴったりと到着できるなんて、すごすぎる。


 まぁ、橙竜族長のアシュリーや藍竜族長のアドミラはもっと前から、およそ2週間くらいかな? そのくらい前にはシゲ爺の屋敷に到着していたみたいだけどね。
 そのくらい余裕を持つのが普通だと思うよ。世界は広いんだから。




 サンディも「間に合ってよかったわぁ」と言ってたから、まぁなんかいろいろトラブルとか遭ったのだろう。
 僕には関係のない事だ。
 青竜は翼を持たないって話だし、人型での馬車移動ならトラブルくらいいくらでも舞い込んでくるはずだ。なんせあの淫靡な容姿だし。




「サンディさん、またそんなはしたない恰好をして! 貴女はいったいなんて恰好で食事をとるつもりですか! とりあえずボクのコートを着てください! 目のやり場に困ります!」


 バサッと自分のコートを脱いでサンディにかけてあげるのは、藍色の髪が特徴の、藍竜あいりゅう族長、アドミラ。
 武器は鉤爪クロウナックル


 髪型は首元まであるふわっとしたセミロング、かな? 微妙な長さだ。
 ミミロと同じように一房ほどアホ毛が立っている。


 なんというか、族長の中で唯一丁寧語で話す人だね。


 見た目は16歳くらい。
 そして、名前だけじゃ判断づらいけれど、見た目でも性別を判断しづらい。


 一人称がボクだけど、果たして男なのだろうか。
 声も高いし、どちらかというと女の子?


 ど、どっち?


 と悩んでいると、空気が読めないことに定評がある黄竜族長ニルドが―――


「まぁまぁミラちゃん。俺様にとっちゃ目の保養ってことだし、落ち着こうZE☆
 ん? そういやぁミラちゃんはちょっと背伸びたか?」


「え? ああ、気づきましたか? ええ。ここ5年でなんと2㎜も伸びました。」


 そういって胸を張る藍竜族長のアドミラ。
 心なしか嬉しそうだ。


「ふーん。でもおっぱいの方は成長してないみたいだNA☆」


 ペタリとアドミラの胸に両手を当てた。
 お、おいおいおい!!


 ゾワワ! と擬音が突きそうなほど髪とアホ毛を逆立たせ、額に青筋を浮かべてニルドを睨みつけた


「【毒霧吐息インディゴブレス!!」」
「にんぎゃあああああああ!!!」


 調子に乗ってしまったニルドはアドミラの毒霧によってあえなくダウン。
 哀れ、ニルド。キミのことは忘れない。


「ふざけないでください! ボクは男です! あまりにも身に余るようでしたら、その股間のキタナイ物をボクがもぎり取って貴方を女にしてさしあげましょうか?」


 右手で何かをもぎり取る仕草をするアドミラに、僕のベイビーボーイはキュンキュンと縮み上がったよ。


 アドミラは超毒舌だ。さすが、毒を司る竜というだけのことはある。


 ニルドは毒霧をまともに浴びて神経がマヒしているのか、聞いていなかった。
 間抜けだ。




「男の娘のかほり………くんかくんか」




 そして、その隣でコートに顔を押し付けてにおいを嗅いでいるらしい青竜族長のサンディも大概だった。


「ふぅ………ボクをちゃんと男子として扱ってくれるのは貴女だけですよ、サンディさん。」


「え? ああ、うん。そうね。(字が違うけどね)」




 本当に、大概だった。


 族長たちは本当にどこかぶっ飛んだ性格をしていらっしゃるな。
 ゼニスは昔『族長はみな馬鹿だ。』と言っていたのを思い出す。
 うん、確かに濃いわ、これ。


「それで? なんで今回は遅刻せずにゼニスちゃんが参加しているのよぅ。」


 ひとしきり深呼吸を終えたのか、サンディは隣のゼニスに向き直る。


「む? ああ。私の場合はニルドは今日、紫竜の里まで迎えに来てくれたぞ。ジンと同じだ。今、私と行動を共にしているフィアルという人間族の女子おなごがいてな。フィアルの無属性魔法が記録した位置に瞬時に飛ぶことができる魔法だったのだ。それを活用させてもらった」


 族長たちが集まっている位置からフィアル先生を親指で指差したのは、紫色のドリルロールが特徴の紫竜しりゅう族長、ゼニスだ。
 見た目は18歳くらい。武器は斧槍ハルバード


 ゼニスは僕の村を滅ぼしたドラゴンの、族長をしていて、ひょんなことから一緒に紫竜の里で暮らして、5歳くらいまで育ててもらった。
 命の恩人であり、母親のような存在であり、返しきれない程の大恩のある女性ひと
 僕が心から尊敬している人の一人である。


「へぇ、時間にルーズなゼニスちゃんにはピッタリの相棒ねぇ」
「うむ。」
「き、恐縮です」




 ゼニスに指されて恐縮そうに目礼するのは、僕とルスカの魔法の先生。フィアル先生。
 エメラルドグリーンの髪をポニーテールにまとめている女の子だ。
 現在20歳くらい。


 そろそろ結婚しないと生き遅れになるらしい。貴族って大変だ。


 フィアル先生は魔法使いで、【最適化】という魔力の運用法を編み出した天才である。
 まだ門外不出。僕とルスカにしかその【最適化】の技法は教えていないっポイ。


 とはいっても、フィアル先生は人にものを教えるのが下手であり、なんで僕も【最適化】できるようになったのかよくわかっていない。
 やったらできた。ならいいじゃん。


 そして、フィアル先生の無属性魔法【門魔法】のゲートで記録した場所に飛ぶことができる。
 今回、リョクリュウ伯爵領に一瞬で来れたのはフィアル先生のおかげだ。
 つまり、いくら時間にルーズでも、さすがに一瞬で到着で来たら無問題モーマンタイということだね!






 戦士長たちは赤竜戦士長のイズミさんと紫竜戦士長のテディ以外はまったくわからないから割愛しよう。


 いつの間にか今日の料理を主導して作ったのがイズミさんだという話題になり、イズミさんの料理がおいしいと今度はイズミさんを族長たちでよいしょしたり。
 なんだかんだで族長たちは和気藹々と食事を続けていた




                ☆




 しばらく時間が経った頃だろうか


「ふぅ………。おじいちゃん。あたしはそろそろお部屋に戻るわ」
「うむ。では湯あみをしてから寝ていなさい。リオル達と遊んでおいてもよいぞ?」


「へ? シゲ爺、呼んだ? あ、ファンちゃ―――」


「っ! ………あ、うぅ、おやすみなさい!」


 幸せそうにから揚げを食べてお腹いっぱいになったであろうファンちゃん。
 大人の食事会に子供が居ても、空気になるだけだ。居づらくなるのは僕だって同じだ。


 そんなファンちゃんに声を掛けようとするとシゲ爺のセリフになぜか顔を真っ赤にして
 シゲ爺に就寝を告げ、逃げるように走り去ってしまった


 なんか呼ばれた気がしたからこっちに来たのに、なんか損した気分。
 しかし、あきらめないぞ。僕はやればできる男だ。
 絶対にファンちゃんと友達になってやるんだから!


「………。」


「ふむぅ………」


「ねぇ、シゲ爺。」


「なんじゃ?」


 シゲ爺は髭を撫でながら僕を見下ろした。


「僕ってファンちゃんに嫌われてる?」


 不安に駆られてシゲ爺に確認を取ってしまう。
 物陰から視殺せんばかりに睨みつけられ、近づいたら逃げられ
 僕はどうしたらいいのかわからなくなってきた。


 一番あの子のことに詳しいシゲ爺にそこんところの確認を行うと


「いいや? あの子は恥ずかしがっているだけじゃ。何度かお前たちに話しかけようとしておったのじゃが、結局なにも言えず、ずっとワシの背中から動かなかったぞい。友達になりたいと決意したばかりじゃというのにのぅ」


 という答えが返ってきてホッとする。
 あっちも友達になりたいと思ってくれていることが、無性にうれしくなった。


「あれ、話しかけようとはしていたのか。なんかずっと睨みつけられているのかと思っていたけど、話しかけるタイミングを計ってたのかな?」


「うむ。いつも恥ずかしがって空回りばかり。子供を紹介してみても、相手も幼いものだからのぅ。あの子の包帯を見て、馬鹿にしてしまうことが何度かあった。そうそう心の傷は癒えるものではないが、いつまでも一人では将来に不安が残るからのう。」


「そうだね。なんとしても、僕が友達になりたいな。」


 決意と同時にポツリと漏らすと、シゲ爺がこんな変わった提案をしてきた。


「のう、そのことなんじゃが、リオルから友達になるのではなく、ファンから友達にさそってもらえんかのう」


「………? んん?? どういうこと?」


 なにそれ、同じじゃないの?


「あの子は、人と話をするのを極端に恥ずかしがり、怖がり、恐れているのじゃ。
 そのためには『友達になってもらう』のではなく、『友達を作って』もらいたいんじゃ。
 自分できっかけはリオルが作っても構わん。ただ、“自分から誘う”ということをファンにやってもらいたいのじゃよ。」


「ああ、なるほど。でもそれは難しいよ?」
「わかっておる。今あの子に足りないのは自信だけじゃ。勇気づけてあげてくれ」


 シゲ爺は膝を折ってしゃがみ、僕の頭を撫でた




「………できるかどうかはわからないけどね。やってみるよ。ちょっと片づけたら僕もファンちゃんを追ってみるね」






 僕もお腹いっぱい。空っぽになったお皿や、まとめてもよさそうな細かい料理などを
大皿に移し替えて小さな皿を闇魔法で空中に浮かせる。
 一瞬だけ場が静かになる。


 ニルドがおおっ! と声を上げる。


 僕が闇魔法を使ったからだ。


 闇魔法は悪魔族、一部の魔族、そして魔王の子にしか使用することのできない魔法である。
 人間界で使用されることはほとんどない。


 そんな貴重な闇魔法をお皿の御片付けに使う。
 貴重だからどうした。便利だったら使ってなんぼ


「ほっほっほ。闇の魔法も、使い方次第じゃな。」
「利用されるのは嫌いだけど、役に立つなら使って損はないもんね。というか、僕の属性魔法は生活に密着している便利な代物ばっかりだ。」


 肩をすくめる。
 火を起こしたり、お鍋を作ったり、手を使わずに物を取れたり。
 一家に一台、キッチンに一人リオルロボが欲しいね。


 空っぽのお皿だけを厨房へと運んで、ルスカに声を掛ける
 これでメイドさんたちの片づけも幾分か楽になるだろう。


 闇魔法は重力の魔法と黒、精神汚染などがほとんどだ。
 でも重力の魔法ばかり使っているからなんかもう念動力テレキネシスって感じがするよ。
 魔法って言うか、超能力的だよね? 呼吸するように魔法を発動できるし。
 まぁ、なんだっていいや。便利だし。


「ルー、ファンちゃんとお話ししにいこ?」
「うん♪」


 僕たちは二人手を繋いで、ファンちゃんの後を追った。









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