受難の魔王 -転生しても忌子だった件-

たっさそ

第57話 赤竜戦士長 紅竜イズミ



              ★ イズミSIDE ★




「ジン! 朝です起きてください!」


『ん? ああ、イズミか。おはよう』




 聞いてください。
 わたしはなんと、ワニではなく、竜でした!
 初めて知った時はテンションがあがったよ!


 でも、わたしは親がいません。親となる竜は居なかったのです。やれやれ、人生ハードモードですよ。
 だから、ジンがわたしの世話を焼いてくれました。


 ジンはわたしのお父さんのような人で、わたしの最愛の人です。
 仕方ないじゃないですか。好きになってしまったんだからっ。




 7年ほど竜の姿で生活したせいか、もはや動物を生で食することに抵抗はありません。


 強請ねだって付きまとって、ようやくジンに『人化の術』を教えてもらい、人の姿で生活できるようになりました。中学生くらいの見た目で人型の成長が止まってしまいました。
 これから少しずつ成長していくのだと思います。


 人型になるときはある程度自分のイメージできる年代に変身することができましたが、現時点で一番行動しやすい体格というのが14歳くらいだったらしく、今はしぶしぶその体格に甘んじております。


 しかし、ジンは赤竜の族長です。
 普段から基本的には竜の姿で生活しています


 ただ、細かい鍛冶の仕事をするときは人型に戻ります


 人型のジンはかっこいいです。


 あ、そういえば、そんな大好きなジンの世話を焼きたくなってしまったわたしは、メイドの真似事を始めていました。
 ジンのすぐ近くで常に待機して、何かあったらわたしに頼ってもらえるように。
 メイド服を自作したこともありましたが、さすがに恥ずかしかったので着ていません。


 そんなわたしは常に人化していて、日本料理を作るようになりました。
 東外陸は気候がわりと日本に近いため、同じ食材や似た食材などが手に入りました。
 前世の頃から料理が趣味でしたので、それでちょちょいと料理を作っていたのですが


 あろうことか、人里で披露したら、それが東大陸で大ヒットしました。
 なんということでしょう。わたしは異世界に来てから食品革命を引き起こしてしまいました
 お箸で食べる文化もわたしが広めてしまいました。
 なんという文化的伝達力の速さでしょう。
 もはや光の速度で暴食伝染グラトニーパンデミックです。
 おいしい食べ物は世界を救う。いつしか日本料理は東大陸の郷土料理にまで昇華しました。




 わなわなと自分の才能に震えます。




 ですが、わたしもおいしいものを食べるのは好きなのであまり深く考えないことにします
 ジンもおいしいモノを食べられるようになってニコニコです。


『また作ってくれ』なんて言われた日には悶絶しすぎて爆発するかと思いました


 好きな人に頼ってもらえるのは気分がいいです。


 でも、そんな生活を続けていたせいか、普段から丁寧語をしゃべるようになってしまいました
 そんなんでも、わたしの思考はアホなままなんですけどね。
 人間の本質が変わることがないということかな。






                  ★




 さらに月日は流れました。
 人里に降りてはわたしのような転生者がいないかどうか聞いて回ります。


 居ませんでした。
 残念です。
 ケリー火山からそう遠くまではいけないことが辛いです。




 ずっとジンの近くにいたからでしょうか、赤竜戦士長を名乗るルビーという男の戦士長がいたのですが、ジンさんの息子であるらしいです。


 そうですよね、あんなにかっこいいならお嫁さんがいて当然ですよね。
 あれ? でも今まで生きてきてお嫁さんに出会ったことは無いですよ?


 聞けば、ルビーはゼニスという紫竜の族長さんとのお子さんらしいです。


 なるほどっ。つまりわたしとルビーさんは兄妹ということですね!
 え? ちがう? ジンに近寄るな? この色違いの癖に?


 カチンと来ました。たしかにわたしは他の赤竜とは色が違うなーとは思っていましたが、それがジンに近寄っちゃいけない理由にはならないでしょうに。




 言い返したらナマイキダーだとか言ってなんだかんだで決闘騒ぎになりました。
 なぜでしょう。


 赤竜戦士長ルビーvs赤竜序列最下位イズミです。


 色のことでいじめられる竜型が嫌いなので人間形態で戦士長と戦いました。
 ルビーは竜型だったのですが、ジンに打ってもらった『魔刀・紅煉』を用い、ジンに教わった『リョク流格闘武術』で戦士長に勝ちました


 わたしはもともとオタク系日本人なので、魔法にも興味があり、人里で魔導書を買いあさりました。
 そこで、わたしは水魔法に適性があることが判明しました。
 まずは【水球ウォーターボール】をぶつけまくりました。
 赤竜は火属性の竜です。水には弱いのです。


 ひるんだすきに、『リョク流格闘武術』の対巨体用の武術、合気柔術みたいな感じの技でぽいっと投げ飛ばして紅煉を突きつけたら『もうお前戦士長やれよ、俺は隠居する』とか言ってどこかに行ってしまいました。


 わーい、これで名実ともに戦士長。ジンの娘としてではなく、片腕として堂々と胸を張れます!




                    ★


 さらに月日が流れ、紅竜として産まれてから25年ほどが経ちました。
 未だにわたしの他の転生者には出会えません。
 いつの間にか前世の年を追い越しちゃいました。


 合計年齢的には45歳くらいでしょうか。この年齢だとおばさんですね。
 もはや前世の方が夢だったような気がします。
 久しぶりに優子に会いたいです。


 年は取りましたがまったく成長した気がしません。竜人としての見た目だって、何も考えずに変身したらいまだに20歳くらいですし、これ以上成長しそうにありません。


 深く考えてもしょうがないですね!


 あと、時々日本が恋しくなります。
 戻れないと早々に諦め、竜として暇を持て余したわたしは、寂しさを紛らわせるために前世からの趣味であったぬいぐるみ作成をしています。


 黄色い熊さんや黄色い靴で赤いズボンのネズミのぬいぐるみ。
 わたしの部屋は一気にメルヘンになりました。


 幸せです。ほうっとうっとりため息をつきます。
 いまのニマニマした顔をジンに見られたら引かれるでしょうか。
 赤竜の皆さんは『冷徹女』と呼んでいますが、本性はこんなもんです。でへへ


 そんなある日に、わたしはまた、一つの出会いがありました


 『魔王の子』と『神子』が現れました。


 おとぎ話だけの存在かと思っていましたが、なぜ本物が目の前に?


 しかも、どちらもかわいい顔立ちをしています!
 歓喜! 狂喜! なんなんでしょうこのかわいらしい生き物は! だ、抱きしめてもいいですか!?


 赤竜の里で暮らすことになった二人を、わたしは世話しました。


 一緒に現れたゼニスという紫竜の族長さんは、かわいくてびっくりしました。
 見た目が18歳くらいなんですよ? わたしよりも長生きしているのに、18歳くらいの見た目ってずるいです。
 ゼニスさんにとってはその体型が一番行動しやすい年齢だったということでしょう。


 とりあえず、わたしはジンのことが好きだとゼニスさんに打ち明けました。


『む? そうであれば交わればよかろう?』
『それができれば苦労しないです』
『あはは、イズミさんも乙女なんですねー』


 一緒に居たフィアルという女の子は年頃の女の子らしく、コイバナに興味津々でした。


 しかし、竜にとっては浮気も何もありはしないみたいです。
 NTR? なにそれおいしいのです。


 さすがに長生きしていると考え方が全く違いますね。


 戦士長ルビーを負かせてわたしが戦士長になったと言えば、顔をほころばせて『そうか、頑張ってジンを支えるのだぞ』と微笑んでくれました。


 あれれ? ルビー元戦士長はジンとの息子だよね? なんでそんなに淡泊なんですか?


『うむ。ルビーは戦士長になってから増長しておるようだからな。鼻っ柱をへし折ってくれたことを感謝しておる』


 大人だ。
 わたしより断然大人だ。


 ゼニスさんはわたしの尊敬すべき人物第2位にランクインしました。
 もちろん一位はジンです。


 魔王の子であるリオルはあの年にしては礼儀正しいし、ルスカちゃんはかわいい。


 わたしは衝動に任せて着ぐるみパジャマの作成に勤しみました。
 ルスカにはパンダの着ぐるみ、リスの着ぐるみなどを着てもらいました。
 写メ取りたいけど携帯がありません。


 『閉鎖都市ボルト』には射影機という幽霊が移りそうな名前の科学具テクノアイテムがあるらしいのですが、お値段が高いので買えません、残念です。




 リオル達が赤竜の里で暮らすようになって2か月。
 久しぶりに人里に降りることになりました。


 わたしはもう情報収集はあきらめ始めていました。


 なんせ竜の里からあまり出られませんし、戦士長という立場上赤竜の里を離れるわけにはいかないですからね
 もう元の世界に戻れるとは考えられないのです。


 そんなわたしの耳に、なぜかとんでもない言葉が飛び込んできました


『今は昔、竹取の翁といふものあり………』
『『『 けりー! 』』』




 リオルが竹取物語を暗唱していました
 あの子は何者なのでしょう?


 そういえば、リオルだけは赤竜の里についてからお箸で食べることを教える必要がありませんでした。
 まるで、最初から食べ方を知っているかのような。


………ふむ。


 鉱山に到着してから勢いに任せて首根っこ掴んで誘拐してみました。


 聞けば、やはりリオルも転生者であったらしいです。


 ほとんど忘れてしまった日本語でリオルに前世の事を聞いたらあら不思議、リオルも前世の記憶を持っているらしいのです。
 そう思うとなんだかとても懐かしくなりました。
 今まで必死でわたしと同じ転生者に出会えなかった寂しさが溢れてきました


 気が付けば、声が震え、自らの意思に反して涙が止まらなくなってしまいました。


 ああ、そうなのですか。


 わたしは、ずっと求めていたんですね。
 わたしは、ジンの背中を追うことだけを考えて、ずっと逃げていたんです。
 ずっと、一人で頑張っていたのです。


 わたしは、仲間を求めていたのだと、初めて気づきました。


 視野の狭いわたしは、色違いのわたしは、この生を受けてから友達なんていません。
 戦士長にまでなっても、他の赤竜からは尊敬なんてされません。
 群れでも今でさえ最後尾を歩くこのわたしには、戦士長なんて肩書きは似合わないです。


 対等な仲間を、ずっと求めていたのですね。


 わたしが震えていると、リオルはわたしの手を握ってくれました。
 小さな手です。
 その手が、対等だと、仲間だと、そう言っているように感じました。
 切なくうれしい感情が胸の奥からとめどなく溢れてきます。


 いつものようなかわいいものを愛でる抱擁ではなく、ただ純粋にぬくもりが欲しくて、リオルを抱きしめました。
 リオルは何も言わず、その小さな手をめいっぱい伸ばしてわたしの背中をさすってくれました


 優しい子です。
 なんでこんな優しい子が魔王の子なのでしょう。


―――守りたい!


 そんな感情がわたしの中で芽生えました。


 恋だとか愛だとか、そんなものではありません。
 この子はこの世界に転生してまだ5年。
 13歳というわたしよりも若い年齢で命を落とした子。
 この子は、何も知らないのです。


 何も知らないのに、生まれてすぐにその特異な髪のせいで両親からも見放され、逆に妬みの対象になってもおかしくないルスカにも優しく接し、気が狂ってもおかしくないはずなのに、わたしにすら、こんなにも優しく接してくれる。
 そんな甘く優しいリオルのことを、守ってあげたい。そう思ったのです。


 わたしよりも壮絶な人生を送っているであろうこの子のことを守ってあげたいと思うのは、自然のことだと思いました。


 この子だって深く深く傷ついているのです。


 一歩間違えば存在が消え入りそうなほど脆く儚げで。
 なのに、それをおくびにも出さず、わたしに優しく接してくれました。




 決めました。
 強くて優しい、そして甘くて脆いこの魔王を、わたしは絶対に守り抜きます!!











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